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番外編
初めてのバレンタイン Side 唯 01話
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今日、御園生家に来て初めてのバレンタインを終えたわけだけど、色々と突っ込みどころ満載で泣けてくる。
何がって、リィが……。
たくさんの人に渡したがるんだろうな、とは思ってた。でも、まさか八十人近くの人に配り歩くとまでは予想だにしてなかったわけで――
「司っちなんかに情けはかけんっ!」と思っていた矢先に、思い切りフォローすることになるなんざ誰が予想できただろう。
今まで家の中でしかバレンタインというイベントをしたことがないってところがリィらしい。
まるで、園児のクリスマス。家族としかクリスマスパーティーしません、みたいな何か。
今どき、小学生だって好きな子同士でクリスマスを過ごしたりしてるっていうのに……。
さらにはクリスマスとバレンタインが同義になってる不思議パラダイス。
親しい人やお世話になった人みんなに配ってたらそりゃ膨大な数にもなるってもんだ。……って、誰か止めてあげてよっ!
バレンタインのなんたるかを俺に訊いてくれたら、リィが誤解しない説明をしてあげられたのに。
俺は俺でちょっと浮かれてた。家族枠でチョコもらえるかなとか浮かれてて、リィのバレンタイン取り組み規模を知って開いた口が塞がらなくなった。
あれはやっぱり毛糸を買いに行った時点で家族分のマフラーは却下させるべきだっただろうか。でも、あの場で言っても「年中行事だから嫌」と言われてしまったし……。
あんちゃんと碧さんから聞かされて知ってはいたけれど、リィって子は本当に言い出したら聞かない、意外と頑固ちゃんなのだ。
ま、なんつうか……手編みマフラーをもらえるのは嬉しいし、いつか司っちをいじる材料にもなるとか瞬時にはじき出しちゃったから好きにさせたけど、まさか自分のマフラーと司っちのマフラーが同じ毛糸で編まれることになろうとは……。
抵抗はあったけど、それすらからかいの材料になると思えば口を噤んでしまう、聡すぎる自分の脳をちょっぴり恨む。
そんなこんなで怒涛の如くプレゼントを配り歩くのに付き合い、マンションに帰宅すれば玄関に男物の見慣れない靴。
見た瞬間にわかったよね、秋斗さんだって。
帰ってきたらいの一番にリィに会いに来るだろうとは思ってた。で、実際会いに来てるわけで……。
うがい手洗いを済ませてリビングへ向かうと、家族と談笑している秋斗さんがいた。
「ただいまー」
話を断絶するかのごとく、帰宅の挨拶。
「なんで秋斗さんがいるんですか?」
単に「ただいま」を言いにきたのか、はたまたバレンタインのプレゼントをせがみに来たのか。
「もちろん、翠葉ちゃんにただいまを言うため。それとプレゼントを渡すためかな?」
「……もらうじゃなくて、渡す、ですか?」
「そう。お土産とプレゼント山積み」
見て、と言わんばかりにピアノの向こうを指差した。そこには、四角、丸、大小様々な箱が積まれていた。
「少しショップを見て回ってたら、翠葉ちゃんに似合いそうな帽子とかカーディガンとかワンピースとかたくさん売っててさ。サイズも園田さんに確認したから間違いないし」
「あーた、何しに海外行ったんですか……」
「仕事はちゃんとしてきたさ。空いた時間にショップを覗いて回っただけ」
それはつまり、覗いて回るたびに何かを購入していた、ということだろうか……。分量からするとそんな感じだ。
そこへリィがやってきた。
「ただいま」
秋斗さんが声をかけると、リィは秋斗さんを見たまま固まってしまう。
「あれ? フリーズ?」
秋斗さんが立ち上がりリィの前で手を振ると、ようやくリィが反応を見せた。
「あ、わ……おかえりなさいっ」
「うん、ただいま」
秋斗さんが殺人級スマイルを繰り出して答える。
「どうしても今日中に翠葉ちゃんに会いたくて、帰国して一番にここへ来たんだ」
「……おかえりなさい、おかえり、なさい――」
リィは大きな目からボロボロ、と涙を零した。まるで、久しぶりに恋人に再会した人みたいに。
「ただいま。ちゃんと、翠葉ちゃんのもとに帰ってきたでしょう?」
会話まで恋人たちの話すそれっぽい。
おいおい、司っちどうするよこれ……。
秋斗さんはリィの頭を撫でると、自然な動作で自分の腕にリィをおさめる。
そして三秒後、リィがわたわたし始めた。
どうするのかな、と思っていると、そこは無理に押しとどめるでもなくあっさりと解放。
極甘秋斗さんの再来を予感させる何か。
「お土産、たくさん買ってきたから」
「え……?」
「お土産」
「お土産、ですか?」
「うん」
リィを誘導するようにピアノの脇を見ると、
「お土産……ですか?」
「そうだなぁ……。お土産兼バレンタインのプレゼント?」
「え?」
「バレンタインは女の子からプレゼントするものじゃないんですか?」
せっかく俺が植え付けた知識を覆される予感。
「それは日本の、チョコレート会社の商売戦術」
「……海外は違うんですか?」
「そうだね。男女関係なく、より親しい人にプレゼントを渡す風習が色濃いかな? だから、翠葉ちゃんにプレゼント」
「私も秋斗さんにプレゼントがあって――」
「はいはいはいはいっ、いったんそこまでっ。みんな待ってるんだからご飯にするよっ」
「じゃ、先にご飯にしよう? 今日は俺もごちそうになることになってるから」
リィの背中に手を添え、夕飯の席に着く。
もおおおおっっっ、秋斗さんのカバったれっ! 俺の努力が水の泡じゃんかっ。
チョコレート会社の商売戦術とかどうでもいいからっ。
恨みつらみをこめた視線を向けると、なんともにこやかな笑顔を返された。
「そんなの怖くもなんともないよ」って言われた気分。
ふっ……でも、秋斗さんは敗北を味わうことになるからいいもんねっ。リィ、俺たちにはマフラーを編んでくれたんだからっ。
食後にお菓子とマフラーをプレゼントされ、その場でぐるぐると首に巻いた。優越感たっぷり、鼻高々と。
「いいなぁ……。唯、それ、高価買取するよ?」
言われると思った。
「ふっふっふ……億単位で積まれても売りませんよ?」
「じゃ、休暇とかどう?」
「――いやいやいやいや、渡しませんからっ」
一瞬秤にかけて真面目に考えた自分が愚かしい。
みんなが笑う中、リィが秋斗さんに訊く。
「秋斗さんもマフラーが欲しかったんですか?」
秋斗さんは魔法の笑みを繰り出し、
「そうだね。翠葉ちゃんが編んでくれたマフラーが欲しいかな?」
「バレンタイン過ぎちゃいますけど、編みましょうか……?」
ちょおっと待ったあああっっっ。
「リィ、安請け合いしちゃだめっ! この人図に乗ったら手に負えないから。それに、これ以上司っちの特別度合い下げないのっ」
「……秋斗さんに編むと下がるの?」
「……下がるのっ。四分の一から五分の一になるでしょっ!? 愛情配分度合いが下がるからだめっ」
それは自分にも言えることだった。
四分の一から五分の一とかお断わりっ。第一、このネタで司っちをからかえる権利が秋斗さんにも浮上しちゃうじゃんっ。そんなのだめっ。
「だめったらだめだからねっ」
そのあと、リィが何か口を開くたびに「だめ」を言い続けてバレンタインの団らんを終えた。
何がって、リィが……。
たくさんの人に渡したがるんだろうな、とは思ってた。でも、まさか八十人近くの人に配り歩くとまでは予想だにしてなかったわけで――
「司っちなんかに情けはかけんっ!」と思っていた矢先に、思い切りフォローすることになるなんざ誰が予想できただろう。
今まで家の中でしかバレンタインというイベントをしたことがないってところがリィらしい。
まるで、園児のクリスマス。家族としかクリスマスパーティーしません、みたいな何か。
今どき、小学生だって好きな子同士でクリスマスを過ごしたりしてるっていうのに……。
さらにはクリスマスとバレンタインが同義になってる不思議パラダイス。
親しい人やお世話になった人みんなに配ってたらそりゃ膨大な数にもなるってもんだ。……って、誰か止めてあげてよっ!
バレンタインのなんたるかを俺に訊いてくれたら、リィが誤解しない説明をしてあげられたのに。
俺は俺でちょっと浮かれてた。家族枠でチョコもらえるかなとか浮かれてて、リィのバレンタイン取り組み規模を知って開いた口が塞がらなくなった。
あれはやっぱり毛糸を買いに行った時点で家族分のマフラーは却下させるべきだっただろうか。でも、あの場で言っても「年中行事だから嫌」と言われてしまったし……。
あんちゃんと碧さんから聞かされて知ってはいたけれど、リィって子は本当に言い出したら聞かない、意外と頑固ちゃんなのだ。
ま、なんつうか……手編みマフラーをもらえるのは嬉しいし、いつか司っちをいじる材料にもなるとか瞬時にはじき出しちゃったから好きにさせたけど、まさか自分のマフラーと司っちのマフラーが同じ毛糸で編まれることになろうとは……。
抵抗はあったけど、それすらからかいの材料になると思えば口を噤んでしまう、聡すぎる自分の脳をちょっぴり恨む。
そんなこんなで怒涛の如くプレゼントを配り歩くのに付き合い、マンションに帰宅すれば玄関に男物の見慣れない靴。
見た瞬間にわかったよね、秋斗さんだって。
帰ってきたらいの一番にリィに会いに来るだろうとは思ってた。で、実際会いに来てるわけで……。
うがい手洗いを済ませてリビングへ向かうと、家族と談笑している秋斗さんがいた。
「ただいまー」
話を断絶するかのごとく、帰宅の挨拶。
「なんで秋斗さんがいるんですか?」
単に「ただいま」を言いにきたのか、はたまたバレンタインのプレゼントをせがみに来たのか。
「もちろん、翠葉ちゃんにただいまを言うため。それとプレゼントを渡すためかな?」
「……もらうじゃなくて、渡す、ですか?」
「そう。お土産とプレゼント山積み」
見て、と言わんばかりにピアノの向こうを指差した。そこには、四角、丸、大小様々な箱が積まれていた。
「少しショップを見て回ってたら、翠葉ちゃんに似合いそうな帽子とかカーディガンとかワンピースとかたくさん売っててさ。サイズも園田さんに確認したから間違いないし」
「あーた、何しに海外行ったんですか……」
「仕事はちゃんとしてきたさ。空いた時間にショップを覗いて回っただけ」
それはつまり、覗いて回るたびに何かを購入していた、ということだろうか……。分量からするとそんな感じだ。
そこへリィがやってきた。
「ただいま」
秋斗さんが声をかけると、リィは秋斗さんを見たまま固まってしまう。
「あれ? フリーズ?」
秋斗さんが立ち上がりリィの前で手を振ると、ようやくリィが反応を見せた。
「あ、わ……おかえりなさいっ」
「うん、ただいま」
秋斗さんが殺人級スマイルを繰り出して答える。
「どうしても今日中に翠葉ちゃんに会いたくて、帰国して一番にここへ来たんだ」
「……おかえりなさい、おかえり、なさい――」
リィは大きな目からボロボロ、と涙を零した。まるで、久しぶりに恋人に再会した人みたいに。
「ただいま。ちゃんと、翠葉ちゃんのもとに帰ってきたでしょう?」
会話まで恋人たちの話すそれっぽい。
おいおい、司っちどうするよこれ……。
秋斗さんはリィの頭を撫でると、自然な動作で自分の腕にリィをおさめる。
そして三秒後、リィがわたわたし始めた。
どうするのかな、と思っていると、そこは無理に押しとどめるでもなくあっさりと解放。
極甘秋斗さんの再来を予感させる何か。
「お土産、たくさん買ってきたから」
「え……?」
「お土産」
「お土産、ですか?」
「うん」
リィを誘導するようにピアノの脇を見ると、
「お土産……ですか?」
「そうだなぁ……。お土産兼バレンタインのプレゼント?」
「え?」
「バレンタインは女の子からプレゼントするものじゃないんですか?」
せっかく俺が植え付けた知識を覆される予感。
「それは日本の、チョコレート会社の商売戦術」
「……海外は違うんですか?」
「そうだね。男女関係なく、より親しい人にプレゼントを渡す風習が色濃いかな? だから、翠葉ちゃんにプレゼント」
「私も秋斗さんにプレゼントがあって――」
「はいはいはいはいっ、いったんそこまでっ。みんな待ってるんだからご飯にするよっ」
「じゃ、先にご飯にしよう? 今日は俺もごちそうになることになってるから」
リィの背中に手を添え、夕飯の席に着く。
もおおおおっっっ、秋斗さんのカバったれっ! 俺の努力が水の泡じゃんかっ。
チョコレート会社の商売戦術とかどうでもいいからっ。
恨みつらみをこめた視線を向けると、なんともにこやかな笑顔を返された。
「そんなの怖くもなんともないよ」って言われた気分。
ふっ……でも、秋斗さんは敗北を味わうことになるからいいもんねっ。リィ、俺たちにはマフラーを編んでくれたんだからっ。
食後にお菓子とマフラーをプレゼントされ、その場でぐるぐると首に巻いた。優越感たっぷり、鼻高々と。
「いいなぁ……。唯、それ、高価買取するよ?」
言われると思った。
「ふっふっふ……億単位で積まれても売りませんよ?」
「じゃ、休暇とかどう?」
「――いやいやいやいや、渡しませんからっ」
一瞬秤にかけて真面目に考えた自分が愚かしい。
みんなが笑う中、リィが秋斗さんに訊く。
「秋斗さんもマフラーが欲しかったんですか?」
秋斗さんは魔法の笑みを繰り出し、
「そうだね。翠葉ちゃんが編んでくれたマフラーが欲しいかな?」
「バレンタイン過ぎちゃいますけど、編みましょうか……?」
ちょおっと待ったあああっっっ。
「リィ、安請け合いしちゃだめっ! この人図に乗ったら手に負えないから。それに、これ以上司っちの特別度合い下げないのっ」
「……秋斗さんに編むと下がるの?」
「……下がるのっ。四分の一から五分の一になるでしょっ!? 愛情配分度合いが下がるからだめっ」
それは自分にも言えることだった。
四分の一から五分の一とかお断わりっ。第一、このネタで司っちをからかえる権利が秋斗さんにも浮上しちゃうじゃんっ。そんなのだめっ。
「だめったらだめだからねっ」
そのあと、リィが何か口を開くたびに「だめ」を言い続けてバレンタインの団らんを終えた。
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