1,046 / 1,060
番外編
初めてのバレンタイン Side 蒼樹 01話
しおりを挟む
「ねぇ、あんちゃん」
「ん?」
「バレンタインって毎年どんな感じ?」
訊かれて少し考えた。
「それ、俺が、っていうんじゃないよな?」
「もちろん。あんちゃんがバレンタインをどう過ごしてるのなんてどうでもいいし。リィが、だよ」
「だよな」
あまりにも想像どおりの答えに俺は笑う。
「翠葉なら、毎年お菓子を作ってくれるよ」
「マジっ!? 俺的注目はそこっ! 今年は司っちって本命がいるわけじゃん? どうかな? 家族枠でちゃんともらえるかな?」
それは考えていなかった……というよりは、もらえるつもりでいたからとてつもない衝撃を食らったところ。
「あ、あんちゃんその顔はもらえるって自負してたでしょ?」
「かなりね……。コレ、もらえなかったら結構ショックかもしれない」
何せ、翠葉が幼稚園に上がってからずっと何かしらもらってきたんだ。
それこそ、最初は折り紙で作ったチューリップやコップだったわけだけど、小学校に上がったら溶かして固めるだけのチョコレートになって、小学二年生のときにはコーンフレークにチョコをまぶして固めたもの。三年生のときにはココアのトリュフ。四年生のときにはココアとホワイトチョコのトリュフ。五年生のときに初めてフロランタンを焼いてくれた。六年生のときはガトーショコラに挑戦してくれた。中学に入るとお菓子のほかに手編みのマフラーが付随した。去年はからし色のマフラーとベイクドチーズだったわけだけど、今年は――
考えてみたら編み物をする時間はなかったはずだし、授業に遅れないようにと日々追われるように勉強をしている。今は学期末の進級テストに狙いを定めて猛勉強中といったところだろう。
編み物以前にお菓子を作る余裕があるのかすら怪しい。もっというなら、作れたところでたくさんは作れないんじゃないのか?
「カットされるのって家族からかなぁ……」
「そこだよね、そこそこ。リィならお世話になってる人みんなに配って回りたいと思うはずなんだけど、作る時間や体力的にどうなのかな、って。中途半端に配るくらいなら本命にしかあげないとか、割とザックリ分けそうな気がしてさ」
ふとカレンダーに目をやると、
「唯、大丈夫だ。いや、大丈夫だと思いたい。前日の十三日は日曜日だ」
幸か不幸か、前日が休みならそれ相応の数が作れるんじゃ……。
「でも、司っちとデートだったらどうする?」
「デートっ!?」
「ちょっとちょっと……たかだかデートで何うろたえてんのさ」
唯に呆れられようと、俺の中では驚愕の事態。
おかしいな……。秋斗先輩とも何度かデートしてるんだけど……。
おかしいおかしいおかしい……。
「相変わらずシスコン抜けないね? ま、俺もだけどさ」
あれはつい先日のこと――
学校へ向かって歩く道すがら、翠葉が口にした言葉たち。
学校が楽しいと、桜を見るのが楽しみだと、そう言って口元を綻ばせた。
空を見て、「来年もこの桜の花を見れるのだ」と言う翠葉を見て、激しく心を揺さぶられた。
なんてことのない言葉なのに、ひどく悲しくて、それと同じくらいに嬉しくて、涙が滲み出るのを回避することはできなかった。
嬉しくて切なくて、胸に針がチクッと刺さるような痛みを覚えた。
翠葉が兄離れしなくちゃいけないのも、家族離れしなくちゃいけないのもわかっていて、もちろん俺が翠葉から離れなくちゃいけないことも理解していて――けれど、いざ翠葉が自分で歩き始めた姿を見たとき、確かに切ない思いに痛みが生じた。
「俺、大丈夫かな?」
不意に出た言葉。それに唯が即答した。
「だめっしょ? だめだめっしょ? ま、それがあんちゃんだからそれでいいんじゃん? 俺は今までと変わらず司っちの邪魔するし」
「おぃ……」
「だってさぁ、リィだよ? 俺たちの妹だよ? もったいないって。俺、今から結構な自信があるんだけど。リィをお嫁にくださいって男が来たら、超ハードル高い難題叩きつけてやろうと心に決めてんの」
「なんだよそれ」
まるで父さんみたいなこと言って。……とは思いつつも、自分だって怪しいことこのうえない。
「いいじゃん。もう誰が迎えに来るのかわかってるようなもんだし。司っちになんてただじゃやらないよ。ま、付き合うくらいは認めてあげる。ここに至るまで、常に損な役回り買って出てたからね。そのくらいは譲歩します。でも、結婚は別だから」
妙にキリッとした顔で言うもんだから、思わず吹き出した。
「それ、すごい婿いびりだけど――悪い、俺も唯に一票。っていうか、俺は余裕そうに取り繕ってるから、唯ががんばって挑戦状叩きつけてよ。よろしく」
兄ふたりが反対したら翠葉は悲しむだろう。それに、兄ふたりが婿いびりしてるなんて体裁も悪い。だから、そんな役は唯に任せよう。
「あんちゃんそういうところうまいよね?」
「どうかな? いいじゃん、適任がいるならその人に任せる方向で。どんなことも適材適所だよ」
言うと、唯もにっと笑う。
「まぁね。俺もその言葉は好きかな」
翠葉は俺たちがこんな話をしてるとも知らずにバスタイムを堪能している。
翠葉、今年おまえはどんなバレンタインを過ごす?
とても楽しみでどこか切ない。
妹に好きな人ができて付き合うことになる――
とても自然な流れなのに、胸がチクリと痛む。
そうだ、この傷は桃華に癒してもらおう。
「ん?」
「バレンタインって毎年どんな感じ?」
訊かれて少し考えた。
「それ、俺が、っていうんじゃないよな?」
「もちろん。あんちゃんがバレンタインをどう過ごしてるのなんてどうでもいいし。リィが、だよ」
「だよな」
あまりにも想像どおりの答えに俺は笑う。
「翠葉なら、毎年お菓子を作ってくれるよ」
「マジっ!? 俺的注目はそこっ! 今年は司っちって本命がいるわけじゃん? どうかな? 家族枠でちゃんともらえるかな?」
それは考えていなかった……というよりは、もらえるつもりでいたからとてつもない衝撃を食らったところ。
「あ、あんちゃんその顔はもらえるって自負してたでしょ?」
「かなりね……。コレ、もらえなかったら結構ショックかもしれない」
何せ、翠葉が幼稚園に上がってからずっと何かしらもらってきたんだ。
それこそ、最初は折り紙で作ったチューリップやコップだったわけだけど、小学校に上がったら溶かして固めるだけのチョコレートになって、小学二年生のときにはコーンフレークにチョコをまぶして固めたもの。三年生のときにはココアのトリュフ。四年生のときにはココアとホワイトチョコのトリュフ。五年生のときに初めてフロランタンを焼いてくれた。六年生のときはガトーショコラに挑戦してくれた。中学に入るとお菓子のほかに手編みのマフラーが付随した。去年はからし色のマフラーとベイクドチーズだったわけだけど、今年は――
考えてみたら編み物をする時間はなかったはずだし、授業に遅れないようにと日々追われるように勉強をしている。今は学期末の進級テストに狙いを定めて猛勉強中といったところだろう。
編み物以前にお菓子を作る余裕があるのかすら怪しい。もっというなら、作れたところでたくさんは作れないんじゃないのか?
「カットされるのって家族からかなぁ……」
「そこだよね、そこそこ。リィならお世話になってる人みんなに配って回りたいと思うはずなんだけど、作る時間や体力的にどうなのかな、って。中途半端に配るくらいなら本命にしかあげないとか、割とザックリ分けそうな気がしてさ」
ふとカレンダーに目をやると、
「唯、大丈夫だ。いや、大丈夫だと思いたい。前日の十三日は日曜日だ」
幸か不幸か、前日が休みならそれ相応の数が作れるんじゃ……。
「でも、司っちとデートだったらどうする?」
「デートっ!?」
「ちょっとちょっと……たかだかデートで何うろたえてんのさ」
唯に呆れられようと、俺の中では驚愕の事態。
おかしいな……。秋斗先輩とも何度かデートしてるんだけど……。
おかしいおかしいおかしい……。
「相変わらずシスコン抜けないね? ま、俺もだけどさ」
あれはつい先日のこと――
学校へ向かって歩く道すがら、翠葉が口にした言葉たち。
学校が楽しいと、桜を見るのが楽しみだと、そう言って口元を綻ばせた。
空を見て、「来年もこの桜の花を見れるのだ」と言う翠葉を見て、激しく心を揺さぶられた。
なんてことのない言葉なのに、ひどく悲しくて、それと同じくらいに嬉しくて、涙が滲み出るのを回避することはできなかった。
嬉しくて切なくて、胸に針がチクッと刺さるような痛みを覚えた。
翠葉が兄離れしなくちゃいけないのも、家族離れしなくちゃいけないのもわかっていて、もちろん俺が翠葉から離れなくちゃいけないことも理解していて――けれど、いざ翠葉が自分で歩き始めた姿を見たとき、確かに切ない思いに痛みが生じた。
「俺、大丈夫かな?」
不意に出た言葉。それに唯が即答した。
「だめっしょ? だめだめっしょ? ま、それがあんちゃんだからそれでいいんじゃん? 俺は今までと変わらず司っちの邪魔するし」
「おぃ……」
「だってさぁ、リィだよ? 俺たちの妹だよ? もったいないって。俺、今から結構な自信があるんだけど。リィをお嫁にくださいって男が来たら、超ハードル高い難題叩きつけてやろうと心に決めてんの」
「なんだよそれ」
まるで父さんみたいなこと言って。……とは思いつつも、自分だって怪しいことこのうえない。
「いいじゃん。もう誰が迎えに来るのかわかってるようなもんだし。司っちになんてただじゃやらないよ。ま、付き合うくらいは認めてあげる。ここに至るまで、常に損な役回り買って出てたからね。そのくらいは譲歩します。でも、結婚は別だから」
妙にキリッとした顔で言うもんだから、思わず吹き出した。
「それ、すごい婿いびりだけど――悪い、俺も唯に一票。っていうか、俺は余裕そうに取り繕ってるから、唯ががんばって挑戦状叩きつけてよ。よろしく」
兄ふたりが反対したら翠葉は悲しむだろう。それに、兄ふたりが婿いびりしてるなんて体裁も悪い。だから、そんな役は唯に任せよう。
「あんちゃんそういうところうまいよね?」
「どうかな? いいじゃん、適任がいるならその人に任せる方向で。どんなことも適材適所だよ」
言うと、唯もにっと笑う。
「まぁね。俺もその言葉は好きかな」
翠葉は俺たちがこんな話をしてるとも知らずにバスタイムを堪能している。
翠葉、今年おまえはどんなバレンタインを過ごす?
とても楽しみでどこか切ない。
妹に好きな人ができて付き合うことになる――
とても自然な流れなのに、胸がチクリと痛む。
そうだ、この傷は桃華に癒してもらおう。
1
お気に入りに追加
358
あなたにおすすめの小説
天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。
山法師
青春
四月も半ばの日の放課後のこと。
高校二年になったばかりの本田稔(ほんだみのる)は、幼馴染である中野晶(なかのあきら)を、空き教室に呼び出した。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
男子高校生の休み時間
こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
窓を開くと
とさか
青春
17才の車椅子少女ー
『生と死の狭間で、彼女は何を思うのか。』
人間1度は訪れる道。
海辺の家から、
今の想いを手紙に書きます。
※小説家になろう、カクヨムと同時投稿しています。
☆イラスト(大空めとろ様)
○ブログ→ https://ozorametoronoblog.com/
○YouTube→ https://www.youtube.com/channel/UC6-9Cjmsy3wv04Iha0VkSWg
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる