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43 Side 秋斗 01話
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結婚式の朝、式に着るスーツとは別のスーツを着て部屋を出る。
「秋兄、どこ行くの? レストランこっち」
海斗と楓が不思議そうな顔をして俺たちを見ていた。
「いや、こっちでいいんだ。俺と司、翠葉ちゃんを迎えに行くから」
「ようやく始動?」
楓に声をかけられる。
「どうかな?」
曖昧に返事をして、隣のゲストルームへ向かった。
回廊で翠葉ちゃんが出てくるのを待っていると、五分と経たずに蒼樹たちが出てきた。
「あれ? 秋斗先輩……」
「おはよう」
「はっは~ん。リィのお出迎えってやつですね? ちょうどいい感じですよ」
唯は意味深なことを口にしては、ゲストルームのドアに視線をやる。
俺と司は碧さんと挨拶を交わし、最後のふたり、零樹さんと翠葉ちゃんが出てくるのを待った。
現れた彼女は零樹さんに片手を預け、ひどく歩きづらそうに足元ばかりを見ている。
なるほど……。唯の言った「ちょうどいい感じ」とはこのことか。
彼女は珍しくヒールの高い靴をはいていた。
「おはよう」
声をかけると、びっくり眼がこちらを向いた。零樹さんに預けている手ではないほう、右手には携帯が握りしめられている。
「今日は持ってるんだ」
携帯を指して司が言う。
それ、朝の挨拶とは言わないんじゃないか?
思いつつも、司にしては珍しくも満面の笑みを貼り付けていたから、俺も同様の笑みを作って見せた。
「すてきな王子様がお迎えに来てくれたわね」
碧さんが言いながら俺たちの前へ出て、翠葉ちゃんをガイドしていた零樹さんの手を取り上げた。
「その靴、まだ慣れないんでしょう? ふたりにエスコートしてもらうといいわ」
「えっ!?」
「だって、零は私のナイトだもの」
碧さんはクスリと笑って俺たちの脇を通り抜ける。今度は零樹さんも伴って。
異論を唱えたのはただひとり。
「えっ、ちょっ、碧さんっ!? 俺、せっかく蒼樹と唯にジャンケン勝って翠葉のエスコート権獲得したのに!?」
「あら、私が相手じゃ不服なの?」
「やっ、そういう意味じゃなくてですねっ!?」
「父さん、うるさい」
「零樹さん、相変わらずリィ大好きだね~」
それらの会話は歩きながら行われ、声はしだいに遠ざかっていく。
「待って」と顔に書いてあるものの、翠葉ちゃんは何も口にしなかった。
ただ、俺と司の顔を見ては下を向く始末。
「翠葉ちゃん、早く行かないと朝食に遅れるよ?」
「慣れないってヒールの高さ? 必要ならどうぞ」
俺と司は示し合わせたように、彼女の前へ手を出した。
彼女はふたつの手を見て困惑する。そんなことは想定済み。そして、どちらの手も取らないであろうことも想定内。
でさも、そこで引く人間たちでもないってこと、そろそろ気づこうか?
翠葉ちゃんからピリピリとした空気が伝わってきたから、少し場を和ませることにした。
「司、俺たち『付き合ってください』って手ぇ出して、思い切り断わられてる状況に見えない?」
「あぁ……。でも、話の内容は全然違うから」
「だから光景が似てるって話」
「……錯覚起こして疑似体験してる気分になるからその手の発言禁止」
「了解」
司にことごとくあしらわれるのは日常茶飯事。翠葉ちゃんもそろそろ慣れてみない?
穏やかな気持ちで彼女を見つめていると、司がザックリ切り込んだ。
「会って早々、なんで謝られたのかが理解できないんだけど」
極上の笑顔で言うから性質が悪い。間違いなく俺よりも性質が悪い。
けれど、俺はそれに便乗する。
「俺も知りたいな」
すると彼女は、
「……昨日のメール、色々と言葉足らずで……」
と、視線を宙に彷徨わせた。
「その『色々』……。翠さえ良ければ今受け付けるけど?」
彼女は実に様々な理由をあげたわけだけど、最後のほうは言葉尻が小さくなった。そして、俺たちをうかがい見るようにちらりと視線をよこす。おっかなびっくり、といった感じで。
「携帯を持っていなかったことと返信が遅かったことの謝罪は受ける。けど、中庭に来れなかったのは父さんの判断だから翠のせいじゃない」
涼さんにしてやられたことを思い出したのか、司の笑顔はどこへやら……。途端に面白くないという表情になる。
素直だな……。
「確かに。涼さんに却下されたものは俺と司ふたり揃っても覆せないから気にしないで? さ、早く行こう」
俺たちは再度手を差し伸べた。けれど、
「ひとりで歩けるのでっ……大丈夫、です」
彼女は真一文字に口を引き結んだ。
「ま、無理強いするものでもないしね。とりあえずレストランへ向かおうか」
俺の言葉を合図に、司と同時に手を引っ込める。そして、一歩踏み出そうとした次の瞬間、彼女の身体が不安定に揺れ、条件反射で手が出た。
自分の動体視力と反射神経に感謝。
この腕がなかったら彼女は絨毯の上に転がっていたことだろう。それで大きなケガをすることはないにしても、打ち身のひとつやふたつは免れなかったはずだ。
「やっぱりガイドはあったほうが良さそうだけど?」
「す、みません……」
「いいえ。ただ、この手は解放してあげられないけどね? 俺で良ければ歩くコツを教えるよ?」
にこりと笑って営業トーク。
「行きは秋兄に譲る」
「わかった。じゃ、帰りは司で」
「え? あのっ……」
「異論反論は受け付けないから」
司の一言に釘を刺され、彼女は再度口を噤む。
そして、司はレストランへ向かって歩き始めた。
翠葉ちゃんはその後ろ姿をじっと見つめている。
どうしてかな……。君はこんなにも素直で、こんなにも司を想っているのにね。
その気持ちにブレーキなんてかけなくていいのに。もっと、心を自由にしてあげていいんだよ。
しだいに泣きそうな顔になるから、意識をこっちに戻してもらうことにした。
今日はこれだけじゃないから……。まだ、一日は始まったばかりなんだ。
「さて、そろそろ意識をこっちに戻してもらえる?」
顔を覗き込むと、彼女ははっとした顔をした。そんな彼女を回廊の中央へ誘導する。
「まずはガラスに映る自分の姿を見て? あ、正面じゃなくて身体の側面が見えるように立とうか」
ガラスに映る彼女を彼女本人に意識してもらう。そこにはいつもの彼女とは違う姿勢が映っていた。
「ヒールのせいだね。いつもは姿勢がいいのに今は少し猫背で膝が出てる。まずはそれから直そう」
グレーのワンピースに身を包んだ彼女の背に手を当てると、手から逃れようとするかのように背筋が伸び、膝も同様に伸ばされた。
「そう。静止時、体重は爪先でもかかとでもなく土踏まずのあたりにかける感じ。お腹に力入れて背は反らせない」
言われたことを実践するのって意外と難しいと思うんだけど、彼女は実に優秀で、ひとつひとつを着実に正していく。
背に浮かび上がる肩甲骨が、今にも羽が生えてくるんじゃないかってくらいにきれいに見えて、少し見惚れた。
「足を踏み出したらその足に重心を移す。上体は動かさない。膝下だけで歩こうとしない。脚の付け根から踏み出すように」
いつだったか、蒼樹が言ってたっけ……。おじいさんが作ってくれた竹馬に一発で乗れた、と。ほか、一輪車に十分とかからず乗れるようになったとも聞いている。
なるほど、これは確かに飲み込みが早い。
「踵から着地して重心移動をスムーズにね」
「はい」
素直な返事が耳に心地よく響いた。
「うん、いいね。歩幅が広がった。残るは視線かな? 不安だからといって視線を足元に落とさないように。ここはホテルの中だから足元に障害物はないよ」
「でも……」
「騙されたと思って十メートルくらい先。回廊のカーブのあたりを見て歩いてごらん」
ほら、と促すと、彼女は少しずつ視線を上げた。
その様は、顎を少し引いた状態でとても美しく見える佇まい。
数歩歩くと、歩幅が広がり進むペースが上がる。
「どう? 騙された気分は」
笑いながら訊ねてみると、
「あの……すみませんでした」
「ん?」
「……騙されてませんでした」
かわいらしい謝罪に破顔する。
「それは何より。でも、短時間で習得できたのは翠葉ちゃんのバランス感覚がいいからだよ」
「え……?」
「かなり前に蒼樹が言ってた。すごくバランス感覚がいいって」
彼女は急に不安そうな顔になる。
大丈夫、変な話じゃないから。
「おじいさんが作ってくれた竹馬。一発で歩けたんだって?」
彼女は口をヘの字に歪め、
「蒼兄のカバ……」
と小さく零した。
そんな君もかわいいね。
レストランには俺たちを除く人間が揃っており、皆が朝食を食べ始めていた。
しかし、いない人間もいる。
……まずこのタイミングでは現れないだろうな。
すでに到着しているはずのじーさんがいなかった。そして、紫さんも。
きっとふたりは式までゲストルームに待機しているのだろう。
隣を歩く彼女は、きらきらと目を輝かせてひとつのテーブルの真ん中に視線を固定していた。
どのテーブルの上にもケーキスタンドが置かれており、そこに青い花と赤い実、アイビーなどが飾られている。
「翠葉ちゃんたちのテーブルにも同じものがあるよ」
「あ、わ……すみません」
彼女は慌てて口もとを押さえたけれど、
「どうして謝るの? 足を止めていたわけでもないのに」
「え……?」
じっと物を見つめていたにも関わらず、彼女はしっかりと歩いていた。
俺の手をガイドに――意識せず身を委ねてもらえた気がして、そんなことがひどく嬉しく思えた。
「俺はこのままでもいいんだけどね」
少しの本音を漏らせば、
「すみません……もう、ひとりで歩けます」
遠慮気味に拒絶されてしまう。でも――
「あと少し……。テーブルまではこのままで」
君が司を選ぶまでは、このままで――
「秋兄、どこ行くの? レストランこっち」
海斗と楓が不思議そうな顔をして俺たちを見ていた。
「いや、こっちでいいんだ。俺と司、翠葉ちゃんを迎えに行くから」
「ようやく始動?」
楓に声をかけられる。
「どうかな?」
曖昧に返事をして、隣のゲストルームへ向かった。
回廊で翠葉ちゃんが出てくるのを待っていると、五分と経たずに蒼樹たちが出てきた。
「あれ? 秋斗先輩……」
「おはよう」
「はっは~ん。リィのお出迎えってやつですね? ちょうどいい感じですよ」
唯は意味深なことを口にしては、ゲストルームのドアに視線をやる。
俺と司は碧さんと挨拶を交わし、最後のふたり、零樹さんと翠葉ちゃんが出てくるのを待った。
現れた彼女は零樹さんに片手を預け、ひどく歩きづらそうに足元ばかりを見ている。
なるほど……。唯の言った「ちょうどいい感じ」とはこのことか。
彼女は珍しくヒールの高い靴をはいていた。
「おはよう」
声をかけると、びっくり眼がこちらを向いた。零樹さんに預けている手ではないほう、右手には携帯が握りしめられている。
「今日は持ってるんだ」
携帯を指して司が言う。
それ、朝の挨拶とは言わないんじゃないか?
思いつつも、司にしては珍しくも満面の笑みを貼り付けていたから、俺も同様の笑みを作って見せた。
「すてきな王子様がお迎えに来てくれたわね」
碧さんが言いながら俺たちの前へ出て、翠葉ちゃんをガイドしていた零樹さんの手を取り上げた。
「その靴、まだ慣れないんでしょう? ふたりにエスコートしてもらうといいわ」
「えっ!?」
「だって、零は私のナイトだもの」
碧さんはクスリと笑って俺たちの脇を通り抜ける。今度は零樹さんも伴って。
異論を唱えたのはただひとり。
「えっ、ちょっ、碧さんっ!? 俺、せっかく蒼樹と唯にジャンケン勝って翠葉のエスコート権獲得したのに!?」
「あら、私が相手じゃ不服なの?」
「やっ、そういう意味じゃなくてですねっ!?」
「父さん、うるさい」
「零樹さん、相変わらずリィ大好きだね~」
それらの会話は歩きながら行われ、声はしだいに遠ざかっていく。
「待って」と顔に書いてあるものの、翠葉ちゃんは何も口にしなかった。
ただ、俺と司の顔を見ては下を向く始末。
「翠葉ちゃん、早く行かないと朝食に遅れるよ?」
「慣れないってヒールの高さ? 必要ならどうぞ」
俺と司は示し合わせたように、彼女の前へ手を出した。
彼女はふたつの手を見て困惑する。そんなことは想定済み。そして、どちらの手も取らないであろうことも想定内。
でさも、そこで引く人間たちでもないってこと、そろそろ気づこうか?
翠葉ちゃんからピリピリとした空気が伝わってきたから、少し場を和ませることにした。
「司、俺たち『付き合ってください』って手ぇ出して、思い切り断わられてる状況に見えない?」
「あぁ……。でも、話の内容は全然違うから」
「だから光景が似てるって話」
「……錯覚起こして疑似体験してる気分になるからその手の発言禁止」
「了解」
司にことごとくあしらわれるのは日常茶飯事。翠葉ちゃんもそろそろ慣れてみない?
穏やかな気持ちで彼女を見つめていると、司がザックリ切り込んだ。
「会って早々、なんで謝られたのかが理解できないんだけど」
極上の笑顔で言うから性質が悪い。間違いなく俺よりも性質が悪い。
けれど、俺はそれに便乗する。
「俺も知りたいな」
すると彼女は、
「……昨日のメール、色々と言葉足らずで……」
と、視線を宙に彷徨わせた。
「その『色々』……。翠さえ良ければ今受け付けるけど?」
彼女は実に様々な理由をあげたわけだけど、最後のほうは言葉尻が小さくなった。そして、俺たちをうかがい見るようにちらりと視線をよこす。おっかなびっくり、といった感じで。
「携帯を持っていなかったことと返信が遅かったことの謝罪は受ける。けど、中庭に来れなかったのは父さんの判断だから翠のせいじゃない」
涼さんにしてやられたことを思い出したのか、司の笑顔はどこへやら……。途端に面白くないという表情になる。
素直だな……。
「確かに。涼さんに却下されたものは俺と司ふたり揃っても覆せないから気にしないで? さ、早く行こう」
俺たちは再度手を差し伸べた。けれど、
「ひとりで歩けるのでっ……大丈夫、です」
彼女は真一文字に口を引き結んだ。
「ま、無理強いするものでもないしね。とりあえずレストランへ向かおうか」
俺の言葉を合図に、司と同時に手を引っ込める。そして、一歩踏み出そうとした次の瞬間、彼女の身体が不安定に揺れ、条件反射で手が出た。
自分の動体視力と反射神経に感謝。
この腕がなかったら彼女は絨毯の上に転がっていたことだろう。それで大きなケガをすることはないにしても、打ち身のひとつやふたつは免れなかったはずだ。
「やっぱりガイドはあったほうが良さそうだけど?」
「す、みません……」
「いいえ。ただ、この手は解放してあげられないけどね? 俺で良ければ歩くコツを教えるよ?」
にこりと笑って営業トーク。
「行きは秋兄に譲る」
「わかった。じゃ、帰りは司で」
「え? あのっ……」
「異論反論は受け付けないから」
司の一言に釘を刺され、彼女は再度口を噤む。
そして、司はレストランへ向かって歩き始めた。
翠葉ちゃんはその後ろ姿をじっと見つめている。
どうしてかな……。君はこんなにも素直で、こんなにも司を想っているのにね。
その気持ちにブレーキなんてかけなくていいのに。もっと、心を自由にしてあげていいんだよ。
しだいに泣きそうな顔になるから、意識をこっちに戻してもらうことにした。
今日はこれだけじゃないから……。まだ、一日は始まったばかりなんだ。
「さて、そろそろ意識をこっちに戻してもらえる?」
顔を覗き込むと、彼女ははっとした顔をした。そんな彼女を回廊の中央へ誘導する。
「まずはガラスに映る自分の姿を見て? あ、正面じゃなくて身体の側面が見えるように立とうか」
ガラスに映る彼女を彼女本人に意識してもらう。そこにはいつもの彼女とは違う姿勢が映っていた。
「ヒールのせいだね。いつもは姿勢がいいのに今は少し猫背で膝が出てる。まずはそれから直そう」
グレーのワンピースに身を包んだ彼女の背に手を当てると、手から逃れようとするかのように背筋が伸び、膝も同様に伸ばされた。
「そう。静止時、体重は爪先でもかかとでもなく土踏まずのあたりにかける感じ。お腹に力入れて背は反らせない」
言われたことを実践するのって意外と難しいと思うんだけど、彼女は実に優秀で、ひとつひとつを着実に正していく。
背に浮かび上がる肩甲骨が、今にも羽が生えてくるんじゃないかってくらいにきれいに見えて、少し見惚れた。
「足を踏み出したらその足に重心を移す。上体は動かさない。膝下だけで歩こうとしない。脚の付け根から踏み出すように」
いつだったか、蒼樹が言ってたっけ……。おじいさんが作ってくれた竹馬に一発で乗れた、と。ほか、一輪車に十分とかからず乗れるようになったとも聞いている。
なるほど、これは確かに飲み込みが早い。
「踵から着地して重心移動をスムーズにね」
「はい」
素直な返事が耳に心地よく響いた。
「うん、いいね。歩幅が広がった。残るは視線かな? 不安だからといって視線を足元に落とさないように。ここはホテルの中だから足元に障害物はないよ」
「でも……」
「騙されたと思って十メートルくらい先。回廊のカーブのあたりを見て歩いてごらん」
ほら、と促すと、彼女は少しずつ視線を上げた。
その様は、顎を少し引いた状態でとても美しく見える佇まい。
数歩歩くと、歩幅が広がり進むペースが上がる。
「どう? 騙された気分は」
笑いながら訊ねてみると、
「あの……すみませんでした」
「ん?」
「……騙されてませんでした」
かわいらしい謝罪に破顔する。
「それは何より。でも、短時間で習得できたのは翠葉ちゃんのバランス感覚がいいからだよ」
「え……?」
「かなり前に蒼樹が言ってた。すごくバランス感覚がいいって」
彼女は急に不安そうな顔になる。
大丈夫、変な話じゃないから。
「おじいさんが作ってくれた竹馬。一発で歩けたんだって?」
彼女は口をヘの字に歪め、
「蒼兄のカバ……」
と小さく零した。
そんな君もかわいいね。
レストランには俺たちを除く人間が揃っており、皆が朝食を食べ始めていた。
しかし、いない人間もいる。
……まずこのタイミングでは現れないだろうな。
すでに到着しているはずのじーさんがいなかった。そして、紫さんも。
きっとふたりは式までゲストルームに待機しているのだろう。
隣を歩く彼女は、きらきらと目を輝かせてひとつのテーブルの真ん中に視線を固定していた。
どのテーブルの上にもケーキスタンドが置かれており、そこに青い花と赤い実、アイビーなどが飾られている。
「翠葉ちゃんたちのテーブルにも同じものがあるよ」
「あ、わ……すみません」
彼女は慌てて口もとを押さえたけれど、
「どうして謝るの? 足を止めていたわけでもないのに」
「え……?」
じっと物を見つめていたにも関わらず、彼女はしっかりと歩いていた。
俺の手をガイドに――意識せず身を委ねてもらえた気がして、そんなことがひどく嬉しく思えた。
「俺はこのままでもいいんだけどね」
少しの本音を漏らせば、
「すみません……もう、ひとりで歩けます」
遠慮気味に拒絶されてしまう。でも――
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