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01 Side 楓 01話
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今日の仕事が夜勤の俺は、朝起きてすぐ実家へ連絡を入れた。
「母さん? 今日、ちょっと実家に顔出すよ」
『あら、本当? 何時ごろ?』
「今日夜勤だから昼前には行く」
『じゃ、お昼は一緒に食べられる? 今日は湊も帰ってくるって昨日のうちに連絡があったのよ』
「あ、そうなの? じゃ、お昼一緒に食べるとして、何か買っていくものある? あれば買っていくよ」
『ありがとう。でも、大丈夫よ』
「じゃ、遅くても十一時には行くから」
『気をつけてね』
そんな会話をして切った。
司も今日には実家へ帰るだろう。
時間が合えばまた会えるかな。
ここ数日、今まで見たこともない司を見ることができた。
からかいたい気持ちは確かにあるけど、それ以上になんだか嬉しい。
感慨深いというかなんというか……。
人に関心を示さなかった司が、この春から少しずつ変わり始め、さらなる変化を遂げようとしている。
そんな過程を目の当たりにして、興味を持たないわけも嬉しくないわけもなかった。
それはきっと、姉さんも両親も同じだろう。
俺はコンシェルジュからクリーニングを受け取り部屋の掃除を済ませると、早々にマンションを出ることにした。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
実家敷地内に入ると母さんが庭に水を撒いていた。
そのすぐ側、ウッドデッキのガーデンセットには父さんの姿がある。
「あれ? なんで父さんがいるの?」
母さんに尋ねると、嬉しそうににこりと笑う。
「明日から学会でしょう? 一週間アメリカへ行くからって今日はお休みされているの」
「ふーん……」
相変わらず父さんは母さんに甘い。
いや、この家の人間は誰もが母さんに甘いというか、頭が上がらないというか……。
ま、うちにとっての母さんは、何がどうというわけではないけれど、周りを動かす中心人物であることに変わりはない。
「でも、お休みされていても結局はお仕事をしていらっしゃるのよね」
母さんはクスリと笑って父さんを見やる。
コーヒーカップを手にした父さんは、ガーデンテーブルでノートパソコンに向かい、カタカタと入力作業をしていた。
そして、水を撒き終わった母さんが屋内へ入れば父さんも移動する。
学会で海外へ行くからその前に一日休むというのは、身体を休めるためではなく、母さんと一緒に過ごしたいだけだと思うのは俺の気のせいではないと思う。
父さんと母さんは決して会話が多いほうではないけれど、だからといって殺伐とした空気なわけでもなく、なんともいえない穏やかな空気をかもし出す。
父さんがカップをテーブルに置くと母さんが動いた。
「おかわりなさいますか?」
「すみません、いただけますか?」
「はい」
そんな両親の会話に、「あぁ、実家だな」と思う。
ふたりの時間を邪魔するのは気が引けて、俺は二階へ撤収した。
明日から父さんは学会――
でも、司がこっちに帰ってくるなら問題ないか。
そんなことを考えつつ、実家に置いたままだったアルバムを手に取る。
高校生の司を見ているからか、なんとなく過去の自分を振り返ってみようかな、という気になった。
「秋斗も俺も蒼樹くんも、若かったなぁ……」
何も変わらない気もするけれど、やっぱりどことなく幼く見えるから不思議だ。
懐かしいアルバムをめくっていると、姉さんから電話が入った。
着信名、「麗しきお姉様」。
俺の携帯は姉さんにいじられてからというもの、姉さんからの連絡が入ると必ずそう表示される。
「はい」
『ちょっと、出るの遅いわよ。麗しい姉からの電話にはとっとと出なさいよねっ!?』
「スミマセン……。で、何?」
『今日実家へ行くつもりだったんだけど、ちょっと行けそうにないからあんた私の代わりに行ってくれないかしら?』
「や、もう実家にいるんだけど」
『あら、良かった。お昼一緒に食べる予定だったんだけど、その一食無駄にしないで済みそうね』
「いや、俺も朝一で連絡入れてたから、母さんは四人で食べられるものだと思ってるけど?」
『しくじった……。司にも連絡入れるようかしら。とりあえず、私が行けないことは楓から伝えてもらえる?』
「家に電話すればいいのに」
『……月曜日だっていうのにお父様が病院にいないのよ。明日から学会みたいだからそれを考慮するに、お父様、家にいるんじゃない? そこへ電話をかけられるほど図太くないわ』
父さんの出勤状態を知ってるってことは、姉さん病院にいるのか……?
「なるほどね。俺も帰ってきたら父さんが庭でパソコン開いてるから何事かと思ったよ」
『どうしてお庭でパソコン?』
「母さんが水撒きしてたからだと思う。母さんが家に入ったらリビングに移動した」
『あぁ、やっぱり……』
「そんなわけで俺は二階に退避中」
『ご愁傷様』
その言葉、あまり嬉しくないかなぁ……。
「それにしても、姉さんが母さんとの約束を反故にするなんて珍しい。今、病院? なんかあったの?」
『翠葉がインフルエンザで入院したのよ』
「え、インフルエンザで入院っ!? 熱、そんなに高いの?」
インフルエンザで入院というのはかなり重症ということだ。
でも、姉さんに限って予防接種を怠っているわけがない。
『あの子、ずっと微熱が続いていたから予防接種を受けられなかったの。紅葉祭が終わったら……って思ってたんだけど、ウイルスに先越されたわ。今朝の時点で四十度三分。今――あら、四十一度超えたわ』
四十度越えの四十一度じゃ重症だ……。
単なる風邪とはわけが違うし、体力のある人間が出す四十一度と体力のない人間が四十一度出すのでは雲泥の差。
どうやら、あまりの熱の高さに驚いた姉は朝一番でゲストルームへ下りたらしい。
診察をしたところ、インフルエンザの症状と合致するため病院へ搬送。
そして、検査結果は疑うまでもなく陽性だった、という話。
「四十一度かぁ……。翠葉ちゃん、それじゃつらいだろうな。発症してからどのくらい経ってたの?」
『昨日一昨日のデータを見ても、ここが発症って確証を持てるタイミングがないのよね……。何せ、ずっと微熱がある状態で疲労の度合いで上下してるんだから』
「そうなんだよね。あの子常に微熱っ子だからどの時点からの発熱が発症になるのかわかりかねるんだよね」
『薬が飲めるならゲストルームに帰してもよかったんだけど、水分を摂らせてもすぐに戻すわ声をかけても目の焦点あってないわ、肺炎に移行する可能性その他を考えたらマンションには帰せなかったわ』
あぁ、いつものことだね。
彼女は風邪をひくと必ず胃腸に症状が表れる。
そうなってしまうと、経口摂取を一切受け入れなくなることから点滴や注射での処置しかできなくなるのだ。
姉さんの言うとおり、肺炎やほかの病気が併発しないといいんだけど……。
「薬、すぐに効くといいけど……」
『ウイルスが十分に増殖した状態だからどうかしらね? 少し時間がかかるかも』
そのとき、つ、とドアが開き司が入ってきた。
「あ、司」
『帰ってきたの?』
「うん、今帰ってきたみたい」
『あれも疲れてるんでしょうね。八時に私が家を出るときにはまだ寝てたのよ。ま、とにかくそんなわけで翠葉の検査結果が出揃うまでは病院にいる。お母様にはごめんなさいって伝えておいて』
「わかった。母さんには俺から言っておく。じゃ、姉さんもうつらないように気をつけて」
通話を切ると、
「兄さん、翠が何……?」
今の会話を聞かれてしまったのだろう。
俺たち医者には「守秘義務」という大義名分があるわけだけど、それをこの場で振りかざすのは司にとって残酷すぎる気がした。
「昨夜から三十八度台の熱があったんだけど、夜に何度か戻して朝には四十度越え。姉さんが朝一でゲストルームに下りて診察。インフルエンザの可能性があったからすぐに病院へ搬送された。検査の結果、ばっちり陽性。薬を飲ませても戻しちゃって水分も摂れないからそのまま入院。今四十一度突破したみたい」
今得た情報を簡潔に伝えると、司はこんなことを言いだした。
「兄さん――悪いんだけど、俺にリレンザ処方してくれない?」
「……司くん、それはつまりどういう意味かな?」
司は予防接種を受けている。
さらにはこの年にしては珍しすぎるくらいに自己管理能力が高い。
それがどうして……?
司ほど体力があって予防を怠らない人間が感染するとしたら……?
一緒に行動する時間が多かったから、というだけではリレンザ処方には至らない気がする。
空気感染、飛沫感染くらいではそんなことは言わないだろう。
飛沫感染以上、それが意味するところは――
「キス、したとか……?」
どんなキスをしたのかはともかくとして、違うのなら司は否定するだろう。
けれども、司は何も言わない。
「黙るは肯定ね」
とりあえず、直接接触感染が濃厚ってことか。
それならリレンザの処方依頼も頷ける。
「まさか、告白した日にキスまでしてたとは。兄さんは嬉しい限りだよ」
笑みが漏れてしまうのは仕方ないと思う。
好きな子ができて、さらにはキスしたとか。
この司が、ね。
司は決まり悪そうな顔をして、「お願い」を口にした。
マンションに二、三日泊めてほしいと。
何がどうしてそうなのか、考えなくても手に取るようにわかるからおかしい。
「くっ……まぁね、姉さんのとこじゃどうしたっていじられるだろうし、ここで発症しようものならそれこそ洒落にならない。父さんの不機嫌マックスで病院各所に被害者続出。そんな事態は避けるが一番」
どこまでとばっちりがいくかわかったものじゃないから、それは避けるが賢明。
こいつはそんなところまで理解している。
「いいよ。空いてる部屋好きに使って。あとで一緒に病院へ行って検査だけは済ませよう。薬はそのときに用意する」
ま、なんというか……。
俺が司の検査をしてさらには薬を処方したともなれば、父さんにも姉さんにもすぐにばれると思うんだけど……。
でも、一対処として取らないよりは取ったほうがいい行動。
気づけば司の背後に父さんが立っていた。
俺の視線に気づいた司が振り返ると、
「司、おまえはミイラになるのか?」
あぁ、本当に……。
うちはこういう家族っていうか、こういう親子なんだよね――
「母さん? 今日、ちょっと実家に顔出すよ」
『あら、本当? 何時ごろ?』
「今日夜勤だから昼前には行く」
『じゃ、お昼は一緒に食べられる? 今日は湊も帰ってくるって昨日のうちに連絡があったのよ』
「あ、そうなの? じゃ、お昼一緒に食べるとして、何か買っていくものある? あれば買っていくよ」
『ありがとう。でも、大丈夫よ』
「じゃ、遅くても十一時には行くから」
『気をつけてね』
そんな会話をして切った。
司も今日には実家へ帰るだろう。
時間が合えばまた会えるかな。
ここ数日、今まで見たこともない司を見ることができた。
からかいたい気持ちは確かにあるけど、それ以上になんだか嬉しい。
感慨深いというかなんというか……。
人に関心を示さなかった司が、この春から少しずつ変わり始め、さらなる変化を遂げようとしている。
そんな過程を目の当たりにして、興味を持たないわけも嬉しくないわけもなかった。
それはきっと、姉さんも両親も同じだろう。
俺はコンシェルジュからクリーニングを受け取り部屋の掃除を済ませると、早々にマンションを出ることにした。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
実家敷地内に入ると母さんが庭に水を撒いていた。
そのすぐ側、ウッドデッキのガーデンセットには父さんの姿がある。
「あれ? なんで父さんがいるの?」
母さんに尋ねると、嬉しそうににこりと笑う。
「明日から学会でしょう? 一週間アメリカへ行くからって今日はお休みされているの」
「ふーん……」
相変わらず父さんは母さんに甘い。
いや、この家の人間は誰もが母さんに甘いというか、頭が上がらないというか……。
ま、うちにとっての母さんは、何がどうというわけではないけれど、周りを動かす中心人物であることに変わりはない。
「でも、お休みされていても結局はお仕事をしていらっしゃるのよね」
母さんはクスリと笑って父さんを見やる。
コーヒーカップを手にした父さんは、ガーデンテーブルでノートパソコンに向かい、カタカタと入力作業をしていた。
そして、水を撒き終わった母さんが屋内へ入れば父さんも移動する。
学会で海外へ行くからその前に一日休むというのは、身体を休めるためではなく、母さんと一緒に過ごしたいだけだと思うのは俺の気のせいではないと思う。
父さんと母さんは決して会話が多いほうではないけれど、だからといって殺伐とした空気なわけでもなく、なんともいえない穏やかな空気をかもし出す。
父さんがカップをテーブルに置くと母さんが動いた。
「おかわりなさいますか?」
「すみません、いただけますか?」
「はい」
そんな両親の会話に、「あぁ、実家だな」と思う。
ふたりの時間を邪魔するのは気が引けて、俺は二階へ撤収した。
明日から父さんは学会――
でも、司がこっちに帰ってくるなら問題ないか。
そんなことを考えつつ、実家に置いたままだったアルバムを手に取る。
高校生の司を見ているからか、なんとなく過去の自分を振り返ってみようかな、という気になった。
「秋斗も俺も蒼樹くんも、若かったなぁ……」
何も変わらない気もするけれど、やっぱりどことなく幼く見えるから不思議だ。
懐かしいアルバムをめくっていると、姉さんから電話が入った。
着信名、「麗しきお姉様」。
俺の携帯は姉さんにいじられてからというもの、姉さんからの連絡が入ると必ずそう表示される。
「はい」
『ちょっと、出るの遅いわよ。麗しい姉からの電話にはとっとと出なさいよねっ!?』
「スミマセン……。で、何?」
『今日実家へ行くつもりだったんだけど、ちょっと行けそうにないからあんた私の代わりに行ってくれないかしら?』
「や、もう実家にいるんだけど」
『あら、良かった。お昼一緒に食べる予定だったんだけど、その一食無駄にしないで済みそうね』
「いや、俺も朝一で連絡入れてたから、母さんは四人で食べられるものだと思ってるけど?」
『しくじった……。司にも連絡入れるようかしら。とりあえず、私が行けないことは楓から伝えてもらえる?』
「家に電話すればいいのに」
『……月曜日だっていうのにお父様が病院にいないのよ。明日から学会みたいだからそれを考慮するに、お父様、家にいるんじゃない? そこへ電話をかけられるほど図太くないわ』
父さんの出勤状態を知ってるってことは、姉さん病院にいるのか……?
「なるほどね。俺も帰ってきたら父さんが庭でパソコン開いてるから何事かと思ったよ」
『どうしてお庭でパソコン?』
「母さんが水撒きしてたからだと思う。母さんが家に入ったらリビングに移動した」
『あぁ、やっぱり……』
「そんなわけで俺は二階に退避中」
『ご愁傷様』
その言葉、あまり嬉しくないかなぁ……。
「それにしても、姉さんが母さんとの約束を反故にするなんて珍しい。今、病院? なんかあったの?」
『翠葉がインフルエンザで入院したのよ』
「え、インフルエンザで入院っ!? 熱、そんなに高いの?」
インフルエンザで入院というのはかなり重症ということだ。
でも、姉さんに限って予防接種を怠っているわけがない。
『あの子、ずっと微熱が続いていたから予防接種を受けられなかったの。紅葉祭が終わったら……って思ってたんだけど、ウイルスに先越されたわ。今朝の時点で四十度三分。今――あら、四十一度超えたわ』
四十度越えの四十一度じゃ重症だ……。
単なる風邪とはわけが違うし、体力のある人間が出す四十一度と体力のない人間が四十一度出すのでは雲泥の差。
どうやら、あまりの熱の高さに驚いた姉は朝一番でゲストルームへ下りたらしい。
診察をしたところ、インフルエンザの症状と合致するため病院へ搬送。
そして、検査結果は疑うまでもなく陽性だった、という話。
「四十一度かぁ……。翠葉ちゃん、それじゃつらいだろうな。発症してからどのくらい経ってたの?」
『昨日一昨日のデータを見ても、ここが発症って確証を持てるタイミングがないのよね……。何せ、ずっと微熱がある状態で疲労の度合いで上下してるんだから』
「そうなんだよね。あの子常に微熱っ子だからどの時点からの発熱が発症になるのかわかりかねるんだよね」
『薬が飲めるならゲストルームに帰してもよかったんだけど、水分を摂らせてもすぐに戻すわ声をかけても目の焦点あってないわ、肺炎に移行する可能性その他を考えたらマンションには帰せなかったわ』
あぁ、いつものことだね。
彼女は風邪をひくと必ず胃腸に症状が表れる。
そうなってしまうと、経口摂取を一切受け入れなくなることから点滴や注射での処置しかできなくなるのだ。
姉さんの言うとおり、肺炎やほかの病気が併発しないといいんだけど……。
「薬、すぐに効くといいけど……」
『ウイルスが十分に増殖した状態だからどうかしらね? 少し時間がかかるかも』
そのとき、つ、とドアが開き司が入ってきた。
「あ、司」
『帰ってきたの?』
「うん、今帰ってきたみたい」
『あれも疲れてるんでしょうね。八時に私が家を出るときにはまだ寝てたのよ。ま、とにかくそんなわけで翠葉の検査結果が出揃うまでは病院にいる。お母様にはごめんなさいって伝えておいて』
「わかった。母さんには俺から言っておく。じゃ、姉さんもうつらないように気をつけて」
通話を切ると、
「兄さん、翠が何……?」
今の会話を聞かれてしまったのだろう。
俺たち医者には「守秘義務」という大義名分があるわけだけど、それをこの場で振りかざすのは司にとって残酷すぎる気がした。
「昨夜から三十八度台の熱があったんだけど、夜に何度か戻して朝には四十度越え。姉さんが朝一でゲストルームに下りて診察。インフルエンザの可能性があったからすぐに病院へ搬送された。検査の結果、ばっちり陽性。薬を飲ませても戻しちゃって水分も摂れないからそのまま入院。今四十一度突破したみたい」
今得た情報を簡潔に伝えると、司はこんなことを言いだした。
「兄さん――悪いんだけど、俺にリレンザ処方してくれない?」
「……司くん、それはつまりどういう意味かな?」
司は予防接種を受けている。
さらにはこの年にしては珍しすぎるくらいに自己管理能力が高い。
それがどうして……?
司ほど体力があって予防を怠らない人間が感染するとしたら……?
一緒に行動する時間が多かったから、というだけではリレンザ処方には至らない気がする。
空気感染、飛沫感染くらいではそんなことは言わないだろう。
飛沫感染以上、それが意味するところは――
「キス、したとか……?」
どんなキスをしたのかはともかくとして、違うのなら司は否定するだろう。
けれども、司は何も言わない。
「黙るは肯定ね」
とりあえず、直接接触感染が濃厚ってことか。
それならリレンザの処方依頼も頷ける。
「まさか、告白した日にキスまでしてたとは。兄さんは嬉しい限りだよ」
笑みが漏れてしまうのは仕方ないと思う。
好きな子ができて、さらにはキスしたとか。
この司が、ね。
司は決まり悪そうな顔をして、「お願い」を口にした。
マンションに二、三日泊めてほしいと。
何がどうしてそうなのか、考えなくても手に取るようにわかるからおかしい。
「くっ……まぁね、姉さんのとこじゃどうしたっていじられるだろうし、ここで発症しようものならそれこそ洒落にならない。父さんの不機嫌マックスで病院各所に被害者続出。そんな事態は避けるが一番」
どこまでとばっちりがいくかわかったものじゃないから、それは避けるが賢明。
こいつはそんなところまで理解している。
「いいよ。空いてる部屋好きに使って。あとで一緒に病院へ行って検査だけは済ませよう。薬はそのときに用意する」
ま、なんというか……。
俺が司の検査をしてさらには薬を処方したともなれば、父さんにも姉さんにもすぐにばれると思うんだけど……。
でも、一対処として取らないよりは取ったほうがいい行動。
気づけば司の背後に父さんが立っていた。
俺の視線に気づいた司が振り返ると、
「司、おまえはミイラになるのか?」
あぁ、本当に……。
うちはこういう家族っていうか、こういう親子なんだよね――
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