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15 Side 海斗 01話(挿絵あり)
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「生徒会男子、昇降機にスタンバイしてくださいっ!」
奈落に響き渡る声。
俺が最後でスタンバイがOKになるところだった。
でも、俺は昇降機に足をかけたまま首を捻っていた。
なんかやり忘れている気がする。
いや、言い忘れ、か……?
俺の脇で昇降機の操作をしている人間に待ったをかけ、俺は佐野を捜した。
「佐野っ」
奈落から地上へ伸びる階段を上がろうとしていた佐野を呼び止め、
「あのさ……」
その場の人間の視線を集める。
それもそのはず。ライブが始まる間際で昇降機を降り、佐野に駆け寄ったわけだから。
佐野は階段を数段上ったところにいて、俺よりも少し高い位置にいた。
いつもなら、俺が見下ろす身長差なわけだけど、今は少し見下ろされているくらいがいい。
「あいつだけは譲れないや。――俺、取りに行ってもいい?」
佐野は何も言わない。
ほんの一瞬眉をひそめたあと、薄く笑みを浮かべた。
「ほら、戻れよ。初っ端から時間押してどーすんの?」
佐野に背中を押されて昇降機へ戻った。
「海斗、OK?」
朝陽先輩に訊かれ、晴れやかに返事をするとそれが合図となり、昇降機が上昇を始める。
ステージ上ではギターの軽快なリフが走り出す。
俺と一緒の昇降機に乗っていたのは千里。
「何、やっと腹据えたの?」
「腹据えたっていうか、掻っ攫われるのはたまんないってのと、ちょっと色々反省」
「なるほどねぇ~。理美もがんばってるけど飛鳥もがんばってたよな」
千里だって理美の気持ちはわかっているんだ。
そのうえで馴れ合いをしている。
今までの俺とさして変わらない。
「千里もさ、いつまでも自分を見ててくれると思ったら大間違いだっていつか気づくよ」
「どうかなぁ~」
そんなふうに曖昧に流され、
「ま、がんばれよ」
と、言葉と同じくらいの軽さで背中を叩かれた。
歌い出し寸前にステージへ上がり、あとは練習してきたとおりにスクエアステージへと移動しながら歌う。
初っ端の曲は、嵐の「Oh Yeah!」。
選曲こそ、俺と佐野に一任されていたものの、それらをうまい具合に並べたのは佐野と優太先輩だった。
「まず、最初は盛り上げにゃいかんでしょ。……ってことで、優太先輩だったらどれを始めに持ってきますか?」
曲に関する話のときはふたりとも滅法楽しそうに話していた。
「佐野くんならどれだと思う?」
互いに訊きながら、「せーの!」でふたりが指を指したのがこの曲だった。
理由も同じ。
「「歌詞がオープニング向けっ!」」
なるほどね、と思った。
曲はアップテンポでその場の観客を引き込むのにもテンションを上げるのにももってこい。
で、実際目論見どおりになっている桜林館は球技大会のときとは別の熱気に包まれていた。
今のところ、女子のキャーキャーいう声の方が断然多い。
だが、男ども、安心しろ。すぐに生徒会女子が出てくる。
お目当ては茜先輩と翠葉だろうけれど、桃華ファンや嵐子先輩の隠れファンにも喜ばしい衣装っすよ。
一曲目が終われば、次は俺がメインに立って歌う「言葉より大切なもの」。
みんな悪いんだけど、お祭りに乗じてちょっと俺の私事に付き合ってよ。
でも、こういうのはトップバッターで派手にやらかす人間がいるほうが後続は楽だと思うんだよね。
祭りは祭りらしく、どこまでも祭りらしく行こうっ!
俺たちの歌う曲はほとんどがカラオケだ。
最初の一曲と最後の曲だけが文化部との協演で、それ以外は放送委員が操作して曲が流れ出す。
ステージからミキシングルームの小窓を見上げる。
あそこに飛鳥がいる――
『ね、ちょっとプライベート私信いいかなっ?』
マイクを通し、観覧席に声をかける。
キャーキャーうるさくて、いいのか悪いのかの許可なんてあってないようなもの。
そんな中、
『飛鳥っ』
放送室の小窓に飛鳥のびっくりした顔が覗く。
でも、もっとびっくりしてほしい。もっと俺を見てほしい。
もっと、もっと――想いは貪欲だ。
『あのさ、まだ気持ち変わってない? 飛鳥の気持ちはどこにある?』
飛鳥は途端に身を引く。
そりゃそうか……。
ま、こんな全校生徒の前でマイク通して言われたらびっくりするわな。
……けど、勝算がなかったらこんな舞台で言ったりしない。
紅葉祭の準備をしている間中、ずっと飛鳥のことを考えていた。ずっと見てた。
なかなか行動に移せなかった理由も粗方わかった。
翠葉の警護がきっかけで、全部納得できた。
そして、腹も据えたよ。
俺は全部を自分で守れるほど強くはないけど、飛鳥のことは絶対に守るから――
『俺、飛鳥が好きなんだ。ずっと俺だけを見ていてほしいんだよね』
飛鳥は放送委員長の神谷先輩に背中を押され、小窓ギリギリの場所に立たされる。
(海斗×飛鳥 イラスト:涼倉かのこ様)
あー……パニック起こしてら。
『飛鳥、返事。声を出せとは言わない。YESなら首を縦に振ってよ。NOなら横に振って。……先に言っておくけど、もし首を縦に振ったなら、一生放さないよ?』
笑みを添えれば顔を赤く染めて俯いてしまう。
それは肯定の意味の「YES」ではなく、ただ単に俯いただけ。
普段の飛鳥ではあまり見られない仕草。
でも、俯いたところで翠葉のように顔を隠す髪はない。
答えをくれるまでの時間はどのくらいだったかな。
きっと、そんなに長い時間ではなかっただろう。
けど、俺にはものすごく長い時間に思えた。
飛鳥は右手で目をこすると、キッ、とこちらを向き、頭の上に両手で大きなマルを作った。
カメラに映った飛鳥がスクリーンに映し出される。
目が涙目。でも、その目はひどく挑戦的で、そんな表情すら愛おしい。
目の前にいたら抱きしめるのに。
次にマイクを手に取ると、
『海斗のバカっっっ』
飛鳥の通る声が桜林館に響く。
「くっ、さすが飛鳥だ」
思わず笑みが漏れる。
『ってことで悪いー! 全校生徒男子諸君、立花飛鳥は俺のだから手ぇ出さないように!』
牽制だって忘れない。
みんな、祭りだよ? 祭り。
色々楽しもうよ。「祭り」って雰囲気に流されちゃおうよ。
キャーキャー騒ぐ声のほか、ところどころからピュー、と口笛の音までしてくる。
俺はそれらを冷やかしとは取らない。
どこまでもご都合主義なんだ。
全部まとめて「おめでとう!」と解釈させてもらう。
『普段言えないこと、みんなもあるよね? でも、今日と明日は紅葉祭だからさ、俺に便乗して告白祭りしてみたら? 何か変わるかもしれないよ!』
そこでタイミングを計り、演奏スタートの合図に右手を上げる。
「言葉より大切なもの」――確かにそれはある。
でも、言葉にすることも大切なんだ。
俺みたいに待たせ続けて、それでも待っていてくれる人は稀だ。
後悔しないために、好きなら好きって言えばいい。
言ったあと、うまくいってもいかなくても、その後の関係なんて気まずさも含めて自分の努力しだいでどうにでもなる。
司、おまえも言ってみたら? 案外うまくいくかもよ?
ま、俺は翠葉の味方だけど。
人によりけり、関係によりけり、色々とあると思う。
一ステップ上がった関係になるのも、玉砕してそこで諦めちゃうのも、諦めずにがんばるのも。
そのどれもが自分しだいだ。
きっと、世の中には意味もなく悪いことは存在しない。
悪いことがあったとしても、何かしら意味がある。
俺はそう信じている――
奈落に響き渡る声。
俺が最後でスタンバイがOKになるところだった。
でも、俺は昇降機に足をかけたまま首を捻っていた。
なんかやり忘れている気がする。
いや、言い忘れ、か……?
俺の脇で昇降機の操作をしている人間に待ったをかけ、俺は佐野を捜した。
「佐野っ」
奈落から地上へ伸びる階段を上がろうとしていた佐野を呼び止め、
「あのさ……」
その場の人間の視線を集める。
それもそのはず。ライブが始まる間際で昇降機を降り、佐野に駆け寄ったわけだから。
佐野は階段を数段上ったところにいて、俺よりも少し高い位置にいた。
いつもなら、俺が見下ろす身長差なわけだけど、今は少し見下ろされているくらいがいい。
「あいつだけは譲れないや。――俺、取りに行ってもいい?」
佐野は何も言わない。
ほんの一瞬眉をひそめたあと、薄く笑みを浮かべた。
「ほら、戻れよ。初っ端から時間押してどーすんの?」
佐野に背中を押されて昇降機へ戻った。
「海斗、OK?」
朝陽先輩に訊かれ、晴れやかに返事をするとそれが合図となり、昇降機が上昇を始める。
ステージ上ではギターの軽快なリフが走り出す。
俺と一緒の昇降機に乗っていたのは千里。
「何、やっと腹据えたの?」
「腹据えたっていうか、掻っ攫われるのはたまんないってのと、ちょっと色々反省」
「なるほどねぇ~。理美もがんばってるけど飛鳥もがんばってたよな」
千里だって理美の気持ちはわかっているんだ。
そのうえで馴れ合いをしている。
今までの俺とさして変わらない。
「千里もさ、いつまでも自分を見ててくれると思ったら大間違いだっていつか気づくよ」
「どうかなぁ~」
そんなふうに曖昧に流され、
「ま、がんばれよ」
と、言葉と同じくらいの軽さで背中を叩かれた。
歌い出し寸前にステージへ上がり、あとは練習してきたとおりにスクエアステージへと移動しながら歌う。
初っ端の曲は、嵐の「Oh Yeah!」。
選曲こそ、俺と佐野に一任されていたものの、それらをうまい具合に並べたのは佐野と優太先輩だった。
「まず、最初は盛り上げにゃいかんでしょ。……ってことで、優太先輩だったらどれを始めに持ってきますか?」
曲に関する話のときはふたりとも滅法楽しそうに話していた。
「佐野くんならどれだと思う?」
互いに訊きながら、「せーの!」でふたりが指を指したのがこの曲だった。
理由も同じ。
「「歌詞がオープニング向けっ!」」
なるほどね、と思った。
曲はアップテンポでその場の観客を引き込むのにもテンションを上げるのにももってこい。
で、実際目論見どおりになっている桜林館は球技大会のときとは別の熱気に包まれていた。
今のところ、女子のキャーキャーいう声の方が断然多い。
だが、男ども、安心しろ。すぐに生徒会女子が出てくる。
お目当ては茜先輩と翠葉だろうけれど、桃華ファンや嵐子先輩の隠れファンにも喜ばしい衣装っすよ。
一曲目が終われば、次は俺がメインに立って歌う「言葉より大切なもの」。
みんな悪いんだけど、お祭りに乗じてちょっと俺の私事に付き合ってよ。
でも、こういうのはトップバッターで派手にやらかす人間がいるほうが後続は楽だと思うんだよね。
祭りは祭りらしく、どこまでも祭りらしく行こうっ!
俺たちの歌う曲はほとんどがカラオケだ。
最初の一曲と最後の曲だけが文化部との協演で、それ以外は放送委員が操作して曲が流れ出す。
ステージからミキシングルームの小窓を見上げる。
あそこに飛鳥がいる――
『ね、ちょっとプライベート私信いいかなっ?』
マイクを通し、観覧席に声をかける。
キャーキャーうるさくて、いいのか悪いのかの許可なんてあってないようなもの。
そんな中、
『飛鳥っ』
放送室の小窓に飛鳥のびっくりした顔が覗く。
でも、もっとびっくりしてほしい。もっと俺を見てほしい。
もっと、もっと――想いは貪欲だ。
『あのさ、まだ気持ち変わってない? 飛鳥の気持ちはどこにある?』
飛鳥は途端に身を引く。
そりゃそうか……。
ま、こんな全校生徒の前でマイク通して言われたらびっくりするわな。
……けど、勝算がなかったらこんな舞台で言ったりしない。
紅葉祭の準備をしている間中、ずっと飛鳥のことを考えていた。ずっと見てた。
なかなか行動に移せなかった理由も粗方わかった。
翠葉の警護がきっかけで、全部納得できた。
そして、腹も据えたよ。
俺は全部を自分で守れるほど強くはないけど、飛鳥のことは絶対に守るから――
『俺、飛鳥が好きなんだ。ずっと俺だけを見ていてほしいんだよね』
飛鳥は放送委員長の神谷先輩に背中を押され、小窓ギリギリの場所に立たされる。
(海斗×飛鳥 イラスト:涼倉かのこ様)
あー……パニック起こしてら。
『飛鳥、返事。声を出せとは言わない。YESなら首を縦に振ってよ。NOなら横に振って。……先に言っておくけど、もし首を縦に振ったなら、一生放さないよ?』
笑みを添えれば顔を赤く染めて俯いてしまう。
それは肯定の意味の「YES」ではなく、ただ単に俯いただけ。
普段の飛鳥ではあまり見られない仕草。
でも、俯いたところで翠葉のように顔を隠す髪はない。
答えをくれるまでの時間はどのくらいだったかな。
きっと、そんなに長い時間ではなかっただろう。
けど、俺にはものすごく長い時間に思えた。
飛鳥は右手で目をこすると、キッ、とこちらを向き、頭の上に両手で大きなマルを作った。
カメラに映った飛鳥がスクリーンに映し出される。
目が涙目。でも、その目はひどく挑戦的で、そんな表情すら愛おしい。
目の前にいたら抱きしめるのに。
次にマイクを手に取ると、
『海斗のバカっっっ』
飛鳥の通る声が桜林館に響く。
「くっ、さすが飛鳥だ」
思わず笑みが漏れる。
『ってことで悪いー! 全校生徒男子諸君、立花飛鳥は俺のだから手ぇ出さないように!』
牽制だって忘れない。
みんな、祭りだよ? 祭り。
色々楽しもうよ。「祭り」って雰囲気に流されちゃおうよ。
キャーキャー騒ぐ声のほか、ところどころからピュー、と口笛の音までしてくる。
俺はそれらを冷やかしとは取らない。
どこまでもご都合主義なんだ。
全部まとめて「おめでとう!」と解釈させてもらう。
『普段言えないこと、みんなもあるよね? でも、今日と明日は紅葉祭だからさ、俺に便乗して告白祭りしてみたら? 何か変わるかもしれないよ!』
そこでタイミングを計り、演奏スタートの合図に右手を上げる。
「言葉より大切なもの」――確かにそれはある。
でも、言葉にすることも大切なんだ。
俺みたいに待たせ続けて、それでも待っていてくれる人は稀だ。
後悔しないために、好きなら好きって言えばいい。
言ったあと、うまくいってもいかなくても、その後の関係なんて気まずさも含めて自分の努力しだいでどうにでもなる。
司、おまえも言ってみたら? 案外うまくいくかもよ?
ま、俺は翠葉の味方だけど。
人によりけり、関係によりけり、色々とあると思う。
一ステップ上がった関係になるのも、玉砕してそこで諦めちゃうのも、諦めずにがんばるのも。
そのどれもが自分しだいだ。
きっと、世の中には意味もなく悪いことは存在しない。
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俺はそう信じている――
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