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第十三章 紅葉祭
04話
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一〇〇メートルほど坂を下ると、「藤宮学園高等部門入口」とかかれたプレートが設置された壁面が見えてくる。
その先、学園の敷地入ってすぐのところに普段はないものがたくさん設置されていた。
簡易タイプの大きなテントが設営され、電源供給に使われるのか、それっぽいワゴン車やトラックが私道の脇に停められていた。
この学園の紅葉祭は一日目と二日目で来場するお客様の客層が異なる。
一日目は学園内の生徒であり、その家族や親族、そしてOB。何かしら学園と関わりのある人間しか入場できないのが一日目。
二日目は私たちが一般客と呼ぶ人たち。いわゆる、外部のお客様が来場する。
あらかじめ、藤宮の生徒にはひとりにつき五枚のチケットが配られており、そのチケットを持っていないと入場ができない仕組みなのだ。
入場制限があるだけに、紅葉祭の入場チケットは巷でプラチナチケットと呼ばれているらしい。
けれど、チケットを不正に譲渡売買されるのは困るので、どの生徒が誰に渡したのかまできちんとわかるように学園側で管理把握されている。
身元確認等の作業は私道入り口にあるテントで行われ、その作業に私たち生徒は携わらない。
なんのためのチェックかというなら、生徒たちを守るためのものなので、そこに詰めるのは学園警備を任されている藤宮警備なのだ。
生徒が学園側に提出したチケット取得者名簿を藤宮警備が預かり、それを特殊端末を用いてシステムに反映させる。
チケットのバーコードリーダーから得た情報と身分証明書の内容を照らし合わせ、事前情報と一致していなければ関門を通過できない仕組み。
次に待ち受けているのは手荷物検査。
空港に設置されているようなゲートをくぐるタイプのものと、かばんなどを機械に通すもののふたつが用意されており、ライターや刃物、危険物が持ち込まれていないかのチェックを受ける。
そのふたつが済むと発信機のついた簡易ブレスレットが配布され、警備員の手により来場者の手首に装着される。
これらをクリアしないことには学園敷地内へ入ることを許されない。
当然のことながら、これらの関門があることは学園サイトとチケットの両方に記載されている。
その末尾には、「チケットでのご来場者様につきましては、正規ルート以外から入手されたもの、もしくは譲渡されたものの場合、ご入場いただくことができません」とまでしっかり明記されているのだ。
車での来場客はあらかじめ申請が必要となり、別ルートからの入場となる。その際には身分証明書、手荷物検査のほか、車両チェックも必要となり、かなりの手間と時間がかかるという。
これらのチェックは紅葉祭に関わらず、外部の人が学園内に入る際には必ず行われるチェックではあるけれど、二年に一度の紅葉祭のときには、人員を増強して対応にあたるという。
昨日、唯兄が秋斗さんのところへお仕事で行っていたのは、今日の警備に関するものだったのだろうか。それとも、秋斗さんが学園警備にかかりきりになる分、普段のお仕事の割り振りに変更があったのかな。
実際、この警備体制を目の当たりにするまでは思いつきもしなかった。
今日って……もしかしてもしかしなくても、秋斗さんはとても忙しい日なのではないだろうか――
物々しい警備体制を横目に私道を進むと、高等部門内で忙しく動く人たちが見えてくる。
ここでは実行委員が校内マップや展示物紹介が記された冊子を配る準備をしていた。
テントが両脇に分かれているのは二日目を考慮してのことだろう。
一日目は来場客の大半が身内なので、左右どちらのテントで受け取っても冊子の中身に変わりはない。
二日目の来場者は入学希望者かチケットを持ったお客様。入学希望者は今年の九月までにパンフレットを取り寄せた人に限られる。
校門の右側は入場チケットを持った来場客用で、左は入学希望者用。
渡すパンフレットに差があるため、このように分けてある。
入学希望者側にはパンプキンスープの無料配布チケットが特典としてついている。パンプキンスープの無料配布チケットは一日目にも配られるけれど、冊子二十冊につき一枚、という確率。
冊子を配る際、実行委員はブレスレットの着用を目視で確認することになっている。
ブレスレットについている発信機の主な用途はふたつ。
ひとつは紅葉祭終了後、校内で迷子になっている来場者や居残っている来場者がいないかの確認を取るため。もうひとつは、人の流動を掴むために使われる。
一ヶ所に人が集まりすぎたときには混乱や事故を未然に防ぐため、拡散を促す誘導の放送が流れるのだ。
入場者はブレスレットを身につけ、ようやく校内を自由に行き来できるようになる。それは一日目も二日目も変わらないし、私たち在校生や教職員も同様。
在校生や職員たちはこのブレスレットの代わりになるものを常に携帯しなくてはいけない。それが学生証であり、職員証となる。
校内各所にゲートが設けられており、そこを通過するのに学生証が必要となるのだ。
とくに何をする必要はなく、学生証を所持してさえいればアラートが鳴ることはない。
ゲート脇には警備員が立つため、アラートが鳴ったときの対応を生徒に求められることもない。
普段は特教棟の教室に入るときのみに使う学生証だけど、外部の人間が校内へ入るときにはセキュリティ対策の一環として扱われる。
セキュリティ以外だと、人の流動を掴むためにしか使われない。
いつだったか、紅葉祭に関するセキュリティの話を聞いたとき、「そこまでするのね?」と呆気に取られていたら、「動向調査、市場調査をしつつマーケティングを行う。そこまでが紅葉祭の課題」とツカサが言っていた。
動向調査? 市場調査? マーケティング……?
頭にクエスチョンマークばかりが浮かぶ私を笑いつつ、朝陽先輩がもう少し砕けた説明をしてくれた。
「ただ、お客さんが来てくれるのを待っているだけじゃだめなんだ。お客さんが校内に入ってきました。そこからどうやって自分たちのクラスへ誘導できるでしょうか――そこが勝負どころ」
この紅葉祭は球技大会のように勝敗がある。そのひとつは総来場者数。
これは部やクラスの出し物に来場していただけたら自動的に加点される仕組み。
もうひとつは来場客による投票ポイント。
入場した時点からお客様は三つのポイントを持っていて、それらは三種類に分けられる。
ひとつは部活、ひとつはクラスの出し物や展示物、最後は一個人。
このときのクラスや部活の得票ポイントが勝敗の分かれ目になり、もうひとつの個人に、というのはMVP扱いになる。
MVPになった人は五〇〇ポイントというボーナスポイントを獲得し、自分が応援する団体にポイントを加点することができる。
加点先は団体が有する総来場者数か出し物へ加点される。
総来場者数部門で上位を目指すか、ポイントが少ないほうに加点し、総合得点の順位を底上げするか――
文化祭とはいえ、芸術を楽しむものだけのものではなく、球技大会とは少し違った勝敗が存在するのだ。
この投票は完全な匿名で行われ、校内二十四箇所に設置されている端末から投票することができるほか、自分の携帯からバーコードリーダーを用いて投票することもできる。
それらの経過は、生徒が閲覧することのできる学園サイト内にてリアルタイムで見ることができる。
二日目の投票終了後は、一般向けに公開されている学園サイトにも反映される。
これらの仕組みを聞けば、来場者の呼び込みに熱が入るというのも頷ける。
とにかく、この学校の生徒はイベントが大好きで、学校はそれを奨励しているのだ。
この学校のことは色々詳しくなったつもり。
それでも、きっと知らないことはまだたくさんあって、それを目の当たりにするたびに私は驚くのだろう。
いつか蒼兄が笑って言ったのを思い出す。
「その都度驚いたらいいよ」と。
きっと、蒼兄も高校に通っていたときは今の私と同じようにことあるごとに驚いたのかもしれない。
その先、学園の敷地入ってすぐのところに普段はないものがたくさん設置されていた。
簡易タイプの大きなテントが設営され、電源供給に使われるのか、それっぽいワゴン車やトラックが私道の脇に停められていた。
この学園の紅葉祭は一日目と二日目で来場するお客様の客層が異なる。
一日目は学園内の生徒であり、その家族や親族、そしてOB。何かしら学園と関わりのある人間しか入場できないのが一日目。
二日目は私たちが一般客と呼ぶ人たち。いわゆる、外部のお客様が来場する。
あらかじめ、藤宮の生徒にはひとりにつき五枚のチケットが配られており、そのチケットを持っていないと入場ができない仕組みなのだ。
入場制限があるだけに、紅葉祭の入場チケットは巷でプラチナチケットと呼ばれているらしい。
けれど、チケットを不正に譲渡売買されるのは困るので、どの生徒が誰に渡したのかまできちんとわかるように学園側で管理把握されている。
身元確認等の作業は私道入り口にあるテントで行われ、その作業に私たち生徒は携わらない。
なんのためのチェックかというなら、生徒たちを守るためのものなので、そこに詰めるのは学園警備を任されている藤宮警備なのだ。
生徒が学園側に提出したチケット取得者名簿を藤宮警備が預かり、それを特殊端末を用いてシステムに反映させる。
チケットのバーコードリーダーから得た情報と身分証明書の内容を照らし合わせ、事前情報と一致していなければ関門を通過できない仕組み。
次に待ち受けているのは手荷物検査。
空港に設置されているようなゲートをくぐるタイプのものと、かばんなどを機械に通すもののふたつが用意されており、ライターや刃物、危険物が持ち込まれていないかのチェックを受ける。
そのふたつが済むと発信機のついた簡易ブレスレットが配布され、警備員の手により来場者の手首に装着される。
これらをクリアしないことには学園敷地内へ入ることを許されない。
当然のことながら、これらの関門があることは学園サイトとチケットの両方に記載されている。
その末尾には、「チケットでのご来場者様につきましては、正規ルート以外から入手されたもの、もしくは譲渡されたものの場合、ご入場いただくことができません」とまでしっかり明記されているのだ。
車での来場客はあらかじめ申請が必要となり、別ルートからの入場となる。その際には身分証明書、手荷物検査のほか、車両チェックも必要となり、かなりの手間と時間がかかるという。
これらのチェックは紅葉祭に関わらず、外部の人が学園内に入る際には必ず行われるチェックではあるけれど、二年に一度の紅葉祭のときには、人員を増強して対応にあたるという。
昨日、唯兄が秋斗さんのところへお仕事で行っていたのは、今日の警備に関するものだったのだろうか。それとも、秋斗さんが学園警備にかかりきりになる分、普段のお仕事の割り振りに変更があったのかな。
実際、この警備体制を目の当たりにするまでは思いつきもしなかった。
今日って……もしかしてもしかしなくても、秋斗さんはとても忙しい日なのではないだろうか――
物々しい警備体制を横目に私道を進むと、高等部門内で忙しく動く人たちが見えてくる。
ここでは実行委員が校内マップや展示物紹介が記された冊子を配る準備をしていた。
テントが両脇に分かれているのは二日目を考慮してのことだろう。
一日目は来場客の大半が身内なので、左右どちらのテントで受け取っても冊子の中身に変わりはない。
二日目の来場者は入学希望者かチケットを持ったお客様。入学希望者は今年の九月までにパンフレットを取り寄せた人に限られる。
校門の右側は入場チケットを持った来場客用で、左は入学希望者用。
渡すパンフレットに差があるため、このように分けてある。
入学希望者側にはパンプキンスープの無料配布チケットが特典としてついている。パンプキンスープの無料配布チケットは一日目にも配られるけれど、冊子二十冊につき一枚、という確率。
冊子を配る際、実行委員はブレスレットの着用を目視で確認することになっている。
ブレスレットについている発信機の主な用途はふたつ。
ひとつは紅葉祭終了後、校内で迷子になっている来場者や居残っている来場者がいないかの確認を取るため。もうひとつは、人の流動を掴むために使われる。
一ヶ所に人が集まりすぎたときには混乱や事故を未然に防ぐため、拡散を促す誘導の放送が流れるのだ。
入場者はブレスレットを身につけ、ようやく校内を自由に行き来できるようになる。それは一日目も二日目も変わらないし、私たち在校生や教職員も同様。
在校生や職員たちはこのブレスレットの代わりになるものを常に携帯しなくてはいけない。それが学生証であり、職員証となる。
校内各所にゲートが設けられており、そこを通過するのに学生証が必要となるのだ。
とくに何をする必要はなく、学生証を所持してさえいればアラートが鳴ることはない。
ゲート脇には警備員が立つため、アラートが鳴ったときの対応を生徒に求められることもない。
普段は特教棟の教室に入るときのみに使う学生証だけど、外部の人間が校内へ入るときにはセキュリティ対策の一環として扱われる。
セキュリティ以外だと、人の流動を掴むためにしか使われない。
いつだったか、紅葉祭に関するセキュリティの話を聞いたとき、「そこまでするのね?」と呆気に取られていたら、「動向調査、市場調査をしつつマーケティングを行う。そこまでが紅葉祭の課題」とツカサが言っていた。
動向調査? 市場調査? マーケティング……?
頭にクエスチョンマークばかりが浮かぶ私を笑いつつ、朝陽先輩がもう少し砕けた説明をしてくれた。
「ただ、お客さんが来てくれるのを待っているだけじゃだめなんだ。お客さんが校内に入ってきました。そこからどうやって自分たちのクラスへ誘導できるでしょうか――そこが勝負どころ」
この紅葉祭は球技大会のように勝敗がある。そのひとつは総来場者数。
これは部やクラスの出し物に来場していただけたら自動的に加点される仕組み。
もうひとつは来場客による投票ポイント。
入場した時点からお客様は三つのポイントを持っていて、それらは三種類に分けられる。
ひとつは部活、ひとつはクラスの出し物や展示物、最後は一個人。
このときのクラスや部活の得票ポイントが勝敗の分かれ目になり、もうひとつの個人に、というのはMVP扱いになる。
MVPになった人は五〇〇ポイントというボーナスポイントを獲得し、自分が応援する団体にポイントを加点することができる。
加点先は団体が有する総来場者数か出し物へ加点される。
総来場者数部門で上位を目指すか、ポイントが少ないほうに加点し、総合得点の順位を底上げするか――
文化祭とはいえ、芸術を楽しむものだけのものではなく、球技大会とは少し違った勝敗が存在するのだ。
この投票は完全な匿名で行われ、校内二十四箇所に設置されている端末から投票することができるほか、自分の携帯からバーコードリーダーを用いて投票することもできる。
それらの経過は、生徒が閲覧することのできる学園サイト内にてリアルタイムで見ることができる。
二日目の投票終了後は、一般向けに公開されている学園サイトにも反映される。
これらの仕組みを聞けば、来場者の呼び込みに熱が入るというのも頷ける。
とにかく、この学校の生徒はイベントが大好きで、学校はそれを奨励しているのだ。
この学校のことは色々詳しくなったつもり。
それでも、きっと知らないことはまだたくさんあって、それを目の当たりにするたびに私は驚くのだろう。
いつか蒼兄が笑って言ったのを思い出す。
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きっと、蒼兄も高校に通っていたときは今の私と同じようにことあるごとに驚いたのかもしれない。
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