537 / 1,060
第十一章 トラウマ
35話
しおりを挟む
お風呂から出て髪の毛を乾かすと、主寝室で治療が始まった。
「昇さん、ベッドが大きい……」
「翠葉ちゃんがちっさ過ぎるんだ」
笑われたけれど、昇さんが横になったところを考えると、確かに縦の長さはそんなに大きいといえるものではなかった。
でも、横幅は半端なく広い気がする。
私サイズなら四人くらい並んで眠れそう。
端から端まで何回転がったらたどり着くだろう?
あまりにも私の身体のサイズにはそぐわない。
「あとで蒼兄とお部屋変えてもらおうかな……?」
「あっちはキングサイズじゃないにしても、やっぱりクイーンかダブルだと思うぞ?」
どっちにしても大きいということ?
「ま、横になれ」
言われてベッドの端っこに横になる。
今、この部屋には昇さんと栞さんしかいない。
「記憶のことだが、何を思い出した?」
「前にここへ来たときのことを少し。でも、いつもと思い出し方が違ったから――」
だからびっくりしたのだ。
「記憶、戻りつつあるのか?」
驚いた顔をされる。
「全部じゃないです。まだ全然足りない……。会話の一フレーズや何かの一シーンとか……。パズルのピースみたいな感じで、前後関係がわからないようなものばかり」
「いつから?」
「記憶らしきものの夢なら、夏休み中に病院で何度か見ました。意識があって行動している中で思い出すようになったのは学校へ通い始めてからだと思います」
先生たちは記憶に関することを訊いてくることはなかったから、私もあまり話すことはなかった。それに、思い出すといっても説明ができるような思い出し方ではなかったのだ。
「翠葉ちゃんはもしかしたら記憶が戻るのかもしれないな」
「……思い出せない可能性もあるんですか?」
「あるよ。思い出せるか思い出せないか、それは医者にも患者にもわからない。でも、翠葉ちゃんの場合、少しずつでも思い出しているのなら、全部を思い出せる可能性は高い」
全部――
「焦らなくていいのよ?」
栞さんがベッドの脇にしゃがみこみ、私の目線と合わせてくれる。
私が不安がらないように。
「思い出そうと躍起になると海馬が壊れるってツカサに言われました。だから、必要以上には考えないようにしようと思います。でも、気になることは……秋斗さんやツカサ、周りの人に訊いてもいいでしょうか……?」
「それはかまわないけど、自分を追い込まないようにね?」
「はい……」
治療が終わってから七時までは四十五分あった。
私は夕飯まで少しの時間をそのベッドで休ませてもらった。
ディナーはドレスコードあり。
そんな場所へ行くのは久しぶりのことで、緊張しすぎてどうにかなってしまいそうだ。
蒼兄も唯兄もスーツを着ていてネクタイもしている。
私は紺のベルベッドのワンピース。ワンピース形はAライン。パフスリーブで肩から腕のあたりはふわっとしているけれど、手首のところできゅっと細くなっている。そして、襟周りと手首、スカートの裾にはデザイン生地が使われている。
髪の毛は栞さんがハーフアップにしてくれ、今はとても豪華な髪飾りがついている。
それはエメラルドとダイヤがちりばめられた髪飾り。
秋斗さんからいただいた誕生日プレゼントなのだとか。
私はどうしてこんな高価なものを受け取ってしまったのだろう……。
いくら考えても不思議でならない。
レストランへ行くと、
「いらっしゃいませ。すでに秋斗様がお待ちでいらっしゃいます」
と、木田さんが案内してくれる。
ほかのお客様もいる中、奥の仕切られたスペースへと案内された。
秋斗さんは私たちに気づくと席を立ち、
「体調は大丈夫?」
細身で背が高いのは知っているけれど、スーツを着ると印象が変わる。非のうちどころがないくらいに格好いい。
「翠葉ちゃん?」
「は、はいっ」
「……どうかした?」
顔を覗き込まれれば頬に熱を持つ。
そんな私を見て笑いながら、
「では、お姫様はこちらへどうぞ」
と、右手を取られた。
かぶる――何と?
どこかのホテル――それはいつ?
――わからない。
「……ん、翠葉ちゃん」
「え? あ――」
少し強めに握られた手に気づくと、みんなの視線が自分に集っていた。
「ごめんなさい、なんでもないです……」
「翠葉ちゃん、ここのシェフの料理もとても美味しいのよ? 美味しいものをいただきましょう?」
ピンクベージュのシックなドレスを着た栞さんに言われる。
首には二連のパールネックレス。オフホワイトの、柔らかな光を発するようなパールは栞さんにとてもよく似合っていた。
秋斗さんにエスコートされて席に着くと、目の前には蒼兄、左隣には栞さん。右隣には唯兄。
栞さんの正面には昇さんが座り、唯兄の正面には秋斗さんが座った。
料理はどれも美味しかったと思う。でも、あまり記憶にはない。
ツカサにも栞さんにも考えすぎないように、と言われたけれど、それは存外難しかった。
考えないようにすればするほど、意識はそこへ集中してしまうのだ。
全部食べることはできたけれど、食べることには集中できなかった。
その場の会話も、受け答えも覚えていない。
上の空とはこういうことをいうのだろう。
作り手の人に対してものすごく申し訳ない時間を過ごしてしまった。
「ごちそうさま」よりも、「ごめんなさい」――
「蒼兄、このあと、少しだけステラハウスへ行ってもいい?」
「え?」
「星空が見たいの」
蒼兄は顔を引きつらせて秋斗さんの方を向いた。
「秋斗先輩、信じてますからねっ?」
「右に同じくっ」
唯兄と蒼兄が秋斗さんにじりじりと近づく。
「わかってるってば……」
秋斗さんは苦笑して答えた。
「でも、翠葉、一度部屋に戻って着替えてからにしな。その格好で森を歩くのは寒いよ」
「うん。一度お部屋に戻って着替える。そしたらいい?」
「いいよ。戻ってくるときは電話かけな。迎えに行くから」
「ありがとう」
「じゃ、俺はここで待ってるね」
秋斗さんは噴水広場の脇にあるガーデンテーブルの椅子に座った。
「……寒くないですか?」
「大丈夫だよ。……男のほうが筋肉ついてるから寒さには強いんだ」
あ――
「……翠葉ちゃん?」
「あ……えと、あの、あとでたくさん訊きたいことが……」
「うん、いいよ。話をしよう」
「リィ、先に着替え。療養に来て風邪ひいて帰ったら相馬先生に何言われるかわかったもんじゃない。湊さんだって怖いんだからさ」
「それはそうね……」
栞さんがクスリと笑った傍らで、昇さんが口を開く。
「そんな暁には、怒られるのは間違いなく俺だ」
すると、昇さんのジャケットを肩からかけてくれた。
部屋で着替えをしたときに、髪の毛も解いた。
森で髪飾りを落とすのが怖くて。
いただいた陶器の入れ物にそれを戻し、結ったあとがついてしまった髪の毛をひとつに束ね、左サイドで緩く一本の三つ編みにした。
ゴムにはツカサからもらったとんぼ玉が通してある。
気づけばとんぼ玉は私のお守りみたいな存在になっていた。
このとんぼ玉に触れて一から十までのカウントを思い出すと、気持ちを落ち着かせることができる。
「じゃ、行ってくるね」
部屋を出て秋斗さんの待つ噴水広場まで歩きながら考える。
足がかりが少しずつ増えているのは、秋斗さんが以前私に言ったことのある言葉を使ってくれているから……?
ふと、そんなことを思う。
「さっきのワンピースもかわいかったけど、そのワンピースもかわいいね」
話しかけられて、噴水広場にたどり着いていたことに気づく。
「歩きながら考えごとは危ないよ?」
席を立った秋斗さんはクスクスと笑っていた。
その背後、ガーデンテーブルにはティーカップが置かれていて少しほっとする。
やっぱり、ここは人を待つのには寒すぎる。
「木田さんがハーブティーを持ってきてくれたんだ。だから、寒くはなかったよ。さ、行こうか」
手を差し出され、その手をじっと見てから手を乗せた。
「どうかした?」
「いえ……ただ、何か思い出せそうな気がするから――ひとつひとつが見過ごせなくて……」
「とりあえず、今からは足元だけに注意を払ってね?」
「はい」
昼間はなかったソーラーライトがそこかしこに置かれていた。
さすがに森の中にキャンドルは置けないのだろう。
それらはフットライトのようにぼんやりと足元だけを照らしてくれる。
そのほかは、秋斗さんが片手に懐中電灯を持っていた。
お昼のときよりも若干強めに握られているのは、あまりにも私の足元が覚束ないせいだろう。
夜道を歩くのには慣れていないし、こんな山中を歩くのにも慣れていはいない。
途中までは石畳が敷かれているけれど、森に入ってからは木の根を傷めないためか、雑草の処理がしてある程度で、そこかしこに木の根が盛り上がっている。
「きゃっ――」
木の根に躓き、ポスン、と秋斗さんに抱きとめられた。
「危機一髪……」
言いながら秋斗さんはくつくつと笑う。
「すみません……ちゃんと足元見て歩いてるんですけど……」
「もう少しゆっくり歩こうか」
秋斗さんは少しペースを落としてくれた。
別にそれまでがとても速かったわけではない。どちらかというなら、ゆっくり歩いてくれていたと思う。それでも私が躓いてしまっただけで……。
森を抜けると、ステラハウスの中からホテルの従業員が出てきた。
「ごゆっくりお過ごしください」
とその人は腰を折り、音を立てないようにドアを閉めた。
室内には三つのストーブがついていて、キャンドルもオイルランプもすべてが灯っていた。
「うわぁ…………」
「人工の明かりじゃないのがいいよね?」
「はい、すごく優しい光――」
「ま、あたたかくなるのに時間はかかるし、火を使う以上、無人っていうわけにはいかないけど、この光の演出は好きかな」
「私もです……」
「じゃ、俺は向こうで着替えてくるね」
「はい」
「昇さん、ベッドが大きい……」
「翠葉ちゃんがちっさ過ぎるんだ」
笑われたけれど、昇さんが横になったところを考えると、確かに縦の長さはそんなに大きいといえるものではなかった。
でも、横幅は半端なく広い気がする。
私サイズなら四人くらい並んで眠れそう。
端から端まで何回転がったらたどり着くだろう?
あまりにも私の身体のサイズにはそぐわない。
「あとで蒼兄とお部屋変えてもらおうかな……?」
「あっちはキングサイズじゃないにしても、やっぱりクイーンかダブルだと思うぞ?」
どっちにしても大きいということ?
「ま、横になれ」
言われてベッドの端っこに横になる。
今、この部屋には昇さんと栞さんしかいない。
「記憶のことだが、何を思い出した?」
「前にここへ来たときのことを少し。でも、いつもと思い出し方が違ったから――」
だからびっくりしたのだ。
「記憶、戻りつつあるのか?」
驚いた顔をされる。
「全部じゃないです。まだ全然足りない……。会話の一フレーズや何かの一シーンとか……。パズルのピースみたいな感じで、前後関係がわからないようなものばかり」
「いつから?」
「記憶らしきものの夢なら、夏休み中に病院で何度か見ました。意識があって行動している中で思い出すようになったのは学校へ通い始めてからだと思います」
先生たちは記憶に関することを訊いてくることはなかったから、私もあまり話すことはなかった。それに、思い出すといっても説明ができるような思い出し方ではなかったのだ。
「翠葉ちゃんはもしかしたら記憶が戻るのかもしれないな」
「……思い出せない可能性もあるんですか?」
「あるよ。思い出せるか思い出せないか、それは医者にも患者にもわからない。でも、翠葉ちゃんの場合、少しずつでも思い出しているのなら、全部を思い出せる可能性は高い」
全部――
「焦らなくていいのよ?」
栞さんがベッドの脇にしゃがみこみ、私の目線と合わせてくれる。
私が不安がらないように。
「思い出そうと躍起になると海馬が壊れるってツカサに言われました。だから、必要以上には考えないようにしようと思います。でも、気になることは……秋斗さんやツカサ、周りの人に訊いてもいいでしょうか……?」
「それはかまわないけど、自分を追い込まないようにね?」
「はい……」
治療が終わってから七時までは四十五分あった。
私は夕飯まで少しの時間をそのベッドで休ませてもらった。
ディナーはドレスコードあり。
そんな場所へ行くのは久しぶりのことで、緊張しすぎてどうにかなってしまいそうだ。
蒼兄も唯兄もスーツを着ていてネクタイもしている。
私は紺のベルベッドのワンピース。ワンピース形はAライン。パフスリーブで肩から腕のあたりはふわっとしているけれど、手首のところできゅっと細くなっている。そして、襟周りと手首、スカートの裾にはデザイン生地が使われている。
髪の毛は栞さんがハーフアップにしてくれ、今はとても豪華な髪飾りがついている。
それはエメラルドとダイヤがちりばめられた髪飾り。
秋斗さんからいただいた誕生日プレゼントなのだとか。
私はどうしてこんな高価なものを受け取ってしまったのだろう……。
いくら考えても不思議でならない。
レストランへ行くと、
「いらっしゃいませ。すでに秋斗様がお待ちでいらっしゃいます」
と、木田さんが案内してくれる。
ほかのお客様もいる中、奥の仕切られたスペースへと案内された。
秋斗さんは私たちに気づくと席を立ち、
「体調は大丈夫?」
細身で背が高いのは知っているけれど、スーツを着ると印象が変わる。非のうちどころがないくらいに格好いい。
「翠葉ちゃん?」
「は、はいっ」
「……どうかした?」
顔を覗き込まれれば頬に熱を持つ。
そんな私を見て笑いながら、
「では、お姫様はこちらへどうぞ」
と、右手を取られた。
かぶる――何と?
どこかのホテル――それはいつ?
――わからない。
「……ん、翠葉ちゃん」
「え? あ――」
少し強めに握られた手に気づくと、みんなの視線が自分に集っていた。
「ごめんなさい、なんでもないです……」
「翠葉ちゃん、ここのシェフの料理もとても美味しいのよ? 美味しいものをいただきましょう?」
ピンクベージュのシックなドレスを着た栞さんに言われる。
首には二連のパールネックレス。オフホワイトの、柔らかな光を発するようなパールは栞さんにとてもよく似合っていた。
秋斗さんにエスコートされて席に着くと、目の前には蒼兄、左隣には栞さん。右隣には唯兄。
栞さんの正面には昇さんが座り、唯兄の正面には秋斗さんが座った。
料理はどれも美味しかったと思う。でも、あまり記憶にはない。
ツカサにも栞さんにも考えすぎないように、と言われたけれど、それは存外難しかった。
考えないようにすればするほど、意識はそこへ集中してしまうのだ。
全部食べることはできたけれど、食べることには集中できなかった。
その場の会話も、受け答えも覚えていない。
上の空とはこういうことをいうのだろう。
作り手の人に対してものすごく申し訳ない時間を過ごしてしまった。
「ごちそうさま」よりも、「ごめんなさい」――
「蒼兄、このあと、少しだけステラハウスへ行ってもいい?」
「え?」
「星空が見たいの」
蒼兄は顔を引きつらせて秋斗さんの方を向いた。
「秋斗先輩、信じてますからねっ?」
「右に同じくっ」
唯兄と蒼兄が秋斗さんにじりじりと近づく。
「わかってるってば……」
秋斗さんは苦笑して答えた。
「でも、翠葉、一度部屋に戻って着替えてからにしな。その格好で森を歩くのは寒いよ」
「うん。一度お部屋に戻って着替える。そしたらいい?」
「いいよ。戻ってくるときは電話かけな。迎えに行くから」
「ありがとう」
「じゃ、俺はここで待ってるね」
秋斗さんは噴水広場の脇にあるガーデンテーブルの椅子に座った。
「……寒くないですか?」
「大丈夫だよ。……男のほうが筋肉ついてるから寒さには強いんだ」
あ――
「……翠葉ちゃん?」
「あ……えと、あの、あとでたくさん訊きたいことが……」
「うん、いいよ。話をしよう」
「リィ、先に着替え。療養に来て風邪ひいて帰ったら相馬先生に何言われるかわかったもんじゃない。湊さんだって怖いんだからさ」
「それはそうね……」
栞さんがクスリと笑った傍らで、昇さんが口を開く。
「そんな暁には、怒られるのは間違いなく俺だ」
すると、昇さんのジャケットを肩からかけてくれた。
部屋で着替えをしたときに、髪の毛も解いた。
森で髪飾りを落とすのが怖くて。
いただいた陶器の入れ物にそれを戻し、結ったあとがついてしまった髪の毛をひとつに束ね、左サイドで緩く一本の三つ編みにした。
ゴムにはツカサからもらったとんぼ玉が通してある。
気づけばとんぼ玉は私のお守りみたいな存在になっていた。
このとんぼ玉に触れて一から十までのカウントを思い出すと、気持ちを落ち着かせることができる。
「じゃ、行ってくるね」
部屋を出て秋斗さんの待つ噴水広場まで歩きながら考える。
足がかりが少しずつ増えているのは、秋斗さんが以前私に言ったことのある言葉を使ってくれているから……?
ふと、そんなことを思う。
「さっきのワンピースもかわいかったけど、そのワンピースもかわいいね」
話しかけられて、噴水広場にたどり着いていたことに気づく。
「歩きながら考えごとは危ないよ?」
席を立った秋斗さんはクスクスと笑っていた。
その背後、ガーデンテーブルにはティーカップが置かれていて少しほっとする。
やっぱり、ここは人を待つのには寒すぎる。
「木田さんがハーブティーを持ってきてくれたんだ。だから、寒くはなかったよ。さ、行こうか」
手を差し出され、その手をじっと見てから手を乗せた。
「どうかした?」
「いえ……ただ、何か思い出せそうな気がするから――ひとつひとつが見過ごせなくて……」
「とりあえず、今からは足元だけに注意を払ってね?」
「はい」
昼間はなかったソーラーライトがそこかしこに置かれていた。
さすがに森の中にキャンドルは置けないのだろう。
それらはフットライトのようにぼんやりと足元だけを照らしてくれる。
そのほかは、秋斗さんが片手に懐中電灯を持っていた。
お昼のときよりも若干強めに握られているのは、あまりにも私の足元が覚束ないせいだろう。
夜道を歩くのには慣れていないし、こんな山中を歩くのにも慣れていはいない。
途中までは石畳が敷かれているけれど、森に入ってからは木の根を傷めないためか、雑草の処理がしてある程度で、そこかしこに木の根が盛り上がっている。
「きゃっ――」
木の根に躓き、ポスン、と秋斗さんに抱きとめられた。
「危機一髪……」
言いながら秋斗さんはくつくつと笑う。
「すみません……ちゃんと足元見て歩いてるんですけど……」
「もう少しゆっくり歩こうか」
秋斗さんは少しペースを落としてくれた。
別にそれまでがとても速かったわけではない。どちらかというなら、ゆっくり歩いてくれていたと思う。それでも私が躓いてしまっただけで……。
森を抜けると、ステラハウスの中からホテルの従業員が出てきた。
「ごゆっくりお過ごしください」
とその人は腰を折り、音を立てないようにドアを閉めた。
室内には三つのストーブがついていて、キャンドルもオイルランプもすべてが灯っていた。
「うわぁ…………」
「人工の明かりじゃないのがいいよね?」
「はい、すごく優しい光――」
「ま、あたたかくなるのに時間はかかるし、火を使う以上、無人っていうわけにはいかないけど、この光の演出は好きかな」
「私もです……」
「じゃ、俺は向こうで着替えてくるね」
「はい」
2
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル
諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします!
6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします!
間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。
グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。
グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。
書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。
一例 チーム『スペクター』
↓
チーム『マサムネ』
※イラスト頂きました。夕凪様より。
http://15452.mitemin.net/i192768/
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~
ゆるり
ファンタジー
☆第17回ファンタジー小説大賞で【癒し系ほっこり賞】を受賞しました!☆
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。
最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。
この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう!
……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは?
***
ゲーム生活をのんびり楽しむ話。
バトルもありますが、基本はスローライフ。
主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。
カクヨム様にて先行公開しております。
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
足りない言葉、あふれる想い〜地味子とエリート営業マンの恋愛リポグラム〜
石河 翠
現代文学
同じ会社に勤める地味子とエリート営業マン。
接点のないはずの二人が、ある出来事をきっかけに一気に近づいて……。両片思いのじれじれ恋物語。
もちろんハッピーエンドです。
リポグラムと呼ばれる特定の文字を入れない手法を用いた、いわゆる文字遊びの作品です。
タイトルのカギカッコ部分が、使用不可の文字です。濁音、半濁音がある場合には、それも使用不可です。
(例;「『とな』ー切れ」の場合には、「と」「ど」「な」が使用不可)
すべての漢字にルビを振っております。本当に特定の文字が使われていないか、探してみてください。
「『あい』を失った女」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/802162130)内に掲載していた、「『とな』ー切れ」「『めも』を捨てる」「『らり』ーの終わり」に加え、新たに三話を書き下ろし、一つの作品として投稿し直しました。文字遊びがお好きな方、「『あい』を失った女」もぜひどうぞ。
※こちらは、小説家になろうにも投稿しております。
※扉絵は管澤捻様に描いて頂きました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる