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11~12 Side 司 04話
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緩やかに発進した車は二十分ほど走ると幸倉インターから高速に乗った。
「緑山の別荘にはしばらく行かれてないのでは?」
「行かなくなって七年です」
「そんなところへなぜ……」
「確証はありません」
「ま、行くあてができただけでも儲けもんです」
秋兄のことを気にしつつ、もうひとつ――ゼロ課のことが気になっていた。
「司様、ゼロ課についてはいかほどの知識がおありでしょう?」
「さっき静さんに聞かされた程度で、ほとんど知りません。会長職を統べる人間の特別部隊だということくらい」
「ほほぉ、そうですか。それでは少々補足しましょうか」
補足……?
「我々はもともと藤宮グループに籍を置いている者もあれば、ボス直々にヘッドハンティングされた者もおります。現在ゼロ課は六人で稼動しておりますが、会長によりけりで人数は変わってきます。そして、ワタクシたちのボス、即ち、静様が退任されるときにはワタクシたちも解雇されますが、藤宮グループのどこかしらで表向きの仕事に就きます。そして、次期会長のゼロ課の人たちの監視下に置かれることになります」
そんなにペラペラと喋っていいことなのだろうか。
「司様はゼロ課の存在をご存知ですからね。どこまで知ろうとさほど問題はありませんよ」
男は一二〇キロをキープして走行を続けた。
「一本電話を入れても?」
「ご自宅ですか?」
「はい」
「そちら方面にもボスから連絡がいっているはずです。今、司様から連絡するほうが面倒なことになりかねないのでお控えください」
そのあとは何を喋ることなく、三時間ほど車に乗っていた。
「緑山に秋斗様がいらしたらどうなさるおつもりで?」
「……一、二発殴らないことには気が済まない」
「ふふふ、青春ですねぇ」
ニヘラ、と笑う男をひと睨みすると、
「嘘ですよぉ~……。ただ、ワタクシ、暴力だけは受け付けませんでして、車にて待機させていただきますね。それから、救急箱のご用意をしておきます」
静さんがどうしてこの男をスカウトしたのかが疑問でならない。何か光るものがあるとは到底思えなかった。しかし、選ばれるだけの何かがあることは間違いないのだろう。
車が停車し、脱水症状であることも考えスポーツ飲料と軽食を入れたビニール袋と共に車を降りた。
管理人がいる棟の呼び鈴を鳴らすと、管理人はすぐに出てきた。
「司坊ちゃんまでっ!?」
その言葉で秋兄がここにいる確証を得た。
「秋兄は別荘ですか?」
「え、えぇ……夕方にふらっといらっしゃいまして、掃除も何もしていなかったのですが、そのままでいいとおっしゃって……。以来こもりっきりです」
「……一応、合鍵をお借りできますか?」
「えぇえぇ、かまいませんよ」
家の奥から鍵束を持ってくると、そのうちのひとつを渡された。
「何かございましたら内線でお呼びください。
管理人に深々と頭を下げられ管理棟を離れた。
そこから二〇〇メートルほど歩いた場所にある建物に足を向ける。
「何も変わってないな……」
ただ、真新しいハンモックが木と木の間に吊るしてあった。
その中に秋兄の姿はない。しかし、別荘にはひとつの明かりも灯ってはいない。
暗がりの中歩を進め、預かってきた鍵で開錠する。
このあたりは雪が降ると一階からの出入りができなくなるため、玄関は二階部分に作られていた。
中はホコリっぽくはあるものの、積もるようなホコリがあるわけではない。
家具には白いシーツがかけられたままで、窓も閉まったまま。
俺は入り口脇にあるスイッチで電気を点けると一番近くにある窓を開けた。
二階のリビングダイニングには秋兄の姿はない。
「一階か……?」
階段を下りると、ひとつの部屋のドアがほんの少し開いていた。
静かにドアを開けると、秋兄が何もかけずに横になっていた。
俺に気づき目を合わせたものの空ろそのもの。
「……何やってんだよ」
「……司……なわけないよな……?」
何、寝ぼけたことをっ――
「ひとりで逃げるなんて卑怯だろっ!?」
俺だって……俺だって逃げられるものなら逃げたかった。
「司はいいよな……」
秋兄はふらりと起き上がりベッドに座る。
「何がいいって……?」
「おまえはまだ望みがあるもんな。……俺はさ……」
「っ……ふざけたこと言ってるなっっっ」
秋兄に近づき、二度、思い切り殴った。
「……言っておくけど、俺、人を殴ったの初めてだから。打ち所悪くても知らないよ」
「……口の中切った……」
「そんなの――秋兄がこんなことになってるのもっ、全部自業自得だろっっっ!?」
「……確かにな」
どこか鼻で笑うような言い方だった。
「姿消して人に心配かけて迷惑かけて、子どもみたいな真似をするなっ」
何も答えない秋兄にビニール袋を押し付け、
「俺が戻ってくる前に食べ始めていなかったら今度は蹴飛ばすよ」
言い残して支倉さんが待つ車へ戻った。
「いらしたようですね?」
男は満足そうな顔をしていた。
「静さんへの連絡をお願いできますか? それから――」
「これでしょうか?」
支倉の膝の上には救急箱が乗っていた。
「……助かります。このあとですが、明日一日はまだここにいることになりそうです。明後日の朝、迎えに来てもらえますか?」
「すぐにお帰りにはならないんで?」
「……気持ちの整理が必要でしょうから」
俺が秋兄だったら――
そんな仮説で物事を考えられるほど簡単なことではなかった。けれど、時間が要すことくらいはわかる。
「司様、年齢を詐称していたり――」
「しません」
「さようですか……。世の中にはこんなにしっかりした十七歳がおられるものなのですねぇ。いえ、感心しきり。では、ボスにはワタクシから連絡を入れておきます。それから、明後日朝七時にお迎えにあがります」
支倉と名乗る男は、来た道を戻っていった。
「緑山の別荘にはしばらく行かれてないのでは?」
「行かなくなって七年です」
「そんなところへなぜ……」
「確証はありません」
「ま、行くあてができただけでも儲けもんです」
秋兄のことを気にしつつ、もうひとつ――ゼロ課のことが気になっていた。
「司様、ゼロ課についてはいかほどの知識がおありでしょう?」
「さっき静さんに聞かされた程度で、ほとんど知りません。会長職を統べる人間の特別部隊だということくらい」
「ほほぉ、そうですか。それでは少々補足しましょうか」
補足……?
「我々はもともと藤宮グループに籍を置いている者もあれば、ボス直々にヘッドハンティングされた者もおります。現在ゼロ課は六人で稼動しておりますが、会長によりけりで人数は変わってきます。そして、ワタクシたちのボス、即ち、静様が退任されるときにはワタクシたちも解雇されますが、藤宮グループのどこかしらで表向きの仕事に就きます。そして、次期会長のゼロ課の人たちの監視下に置かれることになります」
そんなにペラペラと喋っていいことなのだろうか。
「司様はゼロ課の存在をご存知ですからね。どこまで知ろうとさほど問題はありませんよ」
男は一二〇キロをキープして走行を続けた。
「一本電話を入れても?」
「ご自宅ですか?」
「はい」
「そちら方面にもボスから連絡がいっているはずです。今、司様から連絡するほうが面倒なことになりかねないのでお控えください」
そのあとは何を喋ることなく、三時間ほど車に乗っていた。
「緑山に秋斗様がいらしたらどうなさるおつもりで?」
「……一、二発殴らないことには気が済まない」
「ふふふ、青春ですねぇ」
ニヘラ、と笑う男をひと睨みすると、
「嘘ですよぉ~……。ただ、ワタクシ、暴力だけは受け付けませんでして、車にて待機させていただきますね。それから、救急箱のご用意をしておきます」
静さんがどうしてこの男をスカウトしたのかが疑問でならない。何か光るものがあるとは到底思えなかった。しかし、選ばれるだけの何かがあることは間違いないのだろう。
車が停車し、脱水症状であることも考えスポーツ飲料と軽食を入れたビニール袋と共に車を降りた。
管理人がいる棟の呼び鈴を鳴らすと、管理人はすぐに出てきた。
「司坊ちゃんまでっ!?」
その言葉で秋兄がここにいる確証を得た。
「秋兄は別荘ですか?」
「え、えぇ……夕方にふらっといらっしゃいまして、掃除も何もしていなかったのですが、そのままでいいとおっしゃって……。以来こもりっきりです」
「……一応、合鍵をお借りできますか?」
「えぇえぇ、かまいませんよ」
家の奥から鍵束を持ってくると、そのうちのひとつを渡された。
「何かございましたら内線でお呼びください。
管理人に深々と頭を下げられ管理棟を離れた。
そこから二〇〇メートルほど歩いた場所にある建物に足を向ける。
「何も変わってないな……」
ただ、真新しいハンモックが木と木の間に吊るしてあった。
その中に秋兄の姿はない。しかし、別荘にはひとつの明かりも灯ってはいない。
暗がりの中歩を進め、預かってきた鍵で開錠する。
このあたりは雪が降ると一階からの出入りができなくなるため、玄関は二階部分に作られていた。
中はホコリっぽくはあるものの、積もるようなホコリがあるわけではない。
家具には白いシーツがかけられたままで、窓も閉まったまま。
俺は入り口脇にあるスイッチで電気を点けると一番近くにある窓を開けた。
二階のリビングダイニングには秋兄の姿はない。
「一階か……?」
階段を下りると、ひとつの部屋のドアがほんの少し開いていた。
静かにドアを開けると、秋兄が何もかけずに横になっていた。
俺に気づき目を合わせたものの空ろそのもの。
「……何やってんだよ」
「……司……なわけないよな……?」
何、寝ぼけたことをっ――
「ひとりで逃げるなんて卑怯だろっ!?」
俺だって……俺だって逃げられるものなら逃げたかった。
「司はいいよな……」
秋兄はふらりと起き上がりベッドに座る。
「何がいいって……?」
「おまえはまだ望みがあるもんな。……俺はさ……」
「っ……ふざけたこと言ってるなっっっ」
秋兄に近づき、二度、思い切り殴った。
「……言っておくけど、俺、人を殴ったの初めてだから。打ち所悪くても知らないよ」
「……口の中切った……」
「そんなの――秋兄がこんなことになってるのもっ、全部自業自得だろっっっ!?」
「……確かにな」
どこか鼻で笑うような言い方だった。
「姿消して人に心配かけて迷惑かけて、子どもみたいな真似をするなっ」
何も答えない秋兄にビニール袋を押し付け、
「俺が戻ってくる前に食べ始めていなかったら今度は蹴飛ばすよ」
言い残して支倉さんが待つ車へ戻った。
「いらしたようですね?」
男は満足そうな顔をしていた。
「静さんへの連絡をお願いできますか? それから――」
「これでしょうか?」
支倉の膝の上には救急箱が乗っていた。
「……助かります。このあとですが、明日一日はまだここにいることになりそうです。明後日の朝、迎えに来てもらえますか?」
「すぐにお帰りにはならないんで?」
「……気持ちの整理が必要でしょうから」
俺が秋兄だったら――
そんな仮説で物事を考えられるほど簡単なことではなかった。けれど、時間が要すことくらいはわかる。
「司様、年齢を詐称していたり――」
「しません」
「さようですか……。世の中にはこんなにしっかりした十七歳がおられるものなのですねぇ。いえ、感心しきり。では、ボスにはワタクシから連絡を入れておきます。それから、明後日朝七時にお迎えにあがります」
支倉と名乗る男は、来た道を戻っていった。
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