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Side View Story 08
27~28 Side 司 02話
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四限が終わり二階へ下りると、数人が教室から出てきた。が、その中に翠の姿はない。
教室内を見ると、クラスの人間の大半が翠の周りに集っていた。きっと、何かしら訊かれているのだろう。
その様子を教室のドア口で静観していると、俺に気づいた翠が名前を口にした。すると、周りの人間もこちらを振り返り、「お開き」を悟ったらしい。
翠には簾条が付き添い廊下へ出てきた。俺は、翠が自分で押していた点滴スタンドを取り上げ、さらには翠の腕を掴む。と、ほどなくして手に少しの体重が加わった。つまり、素直に支えられる、という意味だろう。
「……待っていてくれたんですか?」
翠は不思議そうな顔で訊いてくるが、それ以外に何かあるのならぜひ教えてほしい。
「姉さんからの厳命」
一言だけ口にすると、翠はあっさりと納得したようだった。
さっきよりも時間をかけて階段を下りる翠を見ていると、
「あのね、私、まだテストの結果を知らないのだけど、ふたりは知っていたりするかな」
よほど気にしているのか、表情が少し引きつっている。
「あ、まだテストが返ってきてないのね? でも、大丈夫よ。上位二十位内にはしっかり入っていたから」
「本当っ!?」
翠は驚いた拍子に立ち止まった。
「総合得点一二四八点、学年で九位」
俺の言葉に、今度は俺の顔を見上げてくる。目を丸く大きく開いて。
その表情を早くも改め、
「テスト、今日返されるんだろうなぁ……。やだな」
「翠葉……つくづく素で嫌みな子ね。私なんて普通に出席して授業に出ていて十位なんだけど……」
それは簾条の頭の問題であって翠のせいではないと思う。
「足引っ張ってるのは古典や世界史だろ。数学と化学が満点って話は先生から聞いてる。因みに、うちの学校は期末考査で満点を取ると、その科目だけは夏休みの宿題が免除される」
翠が知らないであろう情報をくれてやる。と、
「先輩、首席であることはお察しいたしますが、もしかして……総合得点は――」
「赤丸よ……」
俺が答える前に、簾条が一トーン落とした声音で答えていた。
「……司先輩が雲の上の人に思える」
俺からしてみたら、翠のほうが雲の上の住人に思える。何を考えているのかさっぱり掴めない。
そんなことを考えつつ、「それなりに努力はしてるから」と答えた。
「本当に嫌みなやつ……」
簾条の言葉に、そっくりそのまま返したくなる。
簾条の企みには、毎回よくやる、と感心させられる。しかし、それを悟られるのは癪で、
「本当に嫌みなやつは、努力してないって答えると思うけど?」
そんな話をしていると保健室に着いた。
保健室には翠の母親がいた。
以前、一度会ったことはあるが、とくに何かを話したという記憶はない。
性格は翠とは似ていなさそうだが、顔のつくりや体型が翠と酷似していた。
その人は、「大丈夫だった?」と翠に声をかけ、娘の状態にほっとするとこちらを向いた。
「翠葉の母です。翠葉にいつも良くしてくれてありがとう」
骨格が似ていると、こんなにも声が似るものか、と思う。そんなことは身内で嫌というほどには知っているけれど、改めて実感させられた。
ただ、翠の声よりは若干低く、落ち着いた感じの声。
「簾条桃華です。翠葉とはクラスが同じで席が前後なんです」
「あら、あなたが桃華ちゃんなのね。翠葉からよく話を聞いているわ。いつもありがとう」
簾条に先を越されて、自分が出遅れた気がした。
「先日はどうも……」
以前会っていることから自己紹介をする必要はとくにない。だとしたら、それ以上何を口にすればいいものか……。
クラスが違うというよりは学年自体が違う。接点といえば生徒会くらいなもの。
改めて自分と翠の関係を考えてしまう。
「こちらこそ。司くんのことも翠葉から話を聞いてるの。いつも助けてくれる人って……。本当にお世話になっているみたいでありがとう。きっとこれからも手のかかるクラスメイトで後輩だと思うの。でも、翠葉のことお願いできるかしら……」
入学してからずっと御園生さんに送迎させているくらいだ。両親は相当心配しているのだろう。
「もちろんです。助けになれるのならいくらでも」
簾条の言葉に考える。
俺はなんと答えたらいいのか……。
これ以上簾条に遅れを取るのが嫌で、適当に口を開いた。
「医療従事者を志すものとして、放っておける対象ではないので」
ほかに、なんて言えばいいのか思いつかなかった。
そこに翠のクラスの担任が入ってきて、俺と簾条は保健室を出た。
廊下に出ると、簾条から棘だらけの視線を投げられる。
「ちょっと……あの子、絶対に勘違いしたわよっ!? あんた、実はものすごくバカなんじゃないのっ!?」
わかってる……。
翠のあの顔、間違いなく勘違いした顔だ。勘違いというよりは、俺の言葉がまずかった。
簾条の言葉に言い返すこともできずにいると、携帯が着信を知らせる。
それはすぐに途絶え、メールであることが推測できるわけだけど、……ものすごく見たくない。
渋々メールを表示させれば、
件名 :ばーか
本文 :
件名のみで本文なし。姉さんからのメールだった。
すぐに削除しようと思い、押し留まる。
次に会って誤解を解くまでは削除するのはやめよう――
まるで戒めのように苦々しい思いでメールを閉じた。
……でも、次に会うっていつになる?
翠はもう学校に出てこない。そのまま夏休みに入る。
俺が自宅まで行くのか? 何をしに……? 誤解を解くためだけに……?
……どうしてだかものすごく抵抗がある。まるで、誤解を解くことが告白のような気がして……。
でも、翠のことだ。「好き」という言葉を出さない限り、俺が翠を好きなことには気づかないだろう。
いつ簾条と別れたのかは不明。自分の教室に戻れば、俺はまだ腹痛の病人扱いだった。
あっちもこっちも、いつ弁解したらいいものか――
教室内を見ると、クラスの人間の大半が翠の周りに集っていた。きっと、何かしら訊かれているのだろう。
その様子を教室のドア口で静観していると、俺に気づいた翠が名前を口にした。すると、周りの人間もこちらを振り返り、「お開き」を悟ったらしい。
翠には簾条が付き添い廊下へ出てきた。俺は、翠が自分で押していた点滴スタンドを取り上げ、さらには翠の腕を掴む。と、ほどなくして手に少しの体重が加わった。つまり、素直に支えられる、という意味だろう。
「……待っていてくれたんですか?」
翠は不思議そうな顔で訊いてくるが、それ以外に何かあるのならぜひ教えてほしい。
「姉さんからの厳命」
一言だけ口にすると、翠はあっさりと納得したようだった。
さっきよりも時間をかけて階段を下りる翠を見ていると、
「あのね、私、まだテストの結果を知らないのだけど、ふたりは知っていたりするかな」
よほど気にしているのか、表情が少し引きつっている。
「あ、まだテストが返ってきてないのね? でも、大丈夫よ。上位二十位内にはしっかり入っていたから」
「本当っ!?」
翠は驚いた拍子に立ち止まった。
「総合得点一二四八点、学年で九位」
俺の言葉に、今度は俺の顔を見上げてくる。目を丸く大きく開いて。
その表情を早くも改め、
「テスト、今日返されるんだろうなぁ……。やだな」
「翠葉……つくづく素で嫌みな子ね。私なんて普通に出席して授業に出ていて十位なんだけど……」
それは簾条の頭の問題であって翠のせいではないと思う。
「足引っ張ってるのは古典や世界史だろ。数学と化学が満点って話は先生から聞いてる。因みに、うちの学校は期末考査で満点を取ると、その科目だけは夏休みの宿題が免除される」
翠が知らないであろう情報をくれてやる。と、
「先輩、首席であることはお察しいたしますが、もしかして……総合得点は――」
「赤丸よ……」
俺が答える前に、簾条が一トーン落とした声音で答えていた。
「……司先輩が雲の上の人に思える」
俺からしてみたら、翠のほうが雲の上の住人に思える。何を考えているのかさっぱり掴めない。
そんなことを考えつつ、「それなりに努力はしてるから」と答えた。
「本当に嫌みなやつ……」
簾条の言葉に、そっくりそのまま返したくなる。
簾条の企みには、毎回よくやる、と感心させられる。しかし、それを悟られるのは癪で、
「本当に嫌みなやつは、努力してないって答えると思うけど?」
そんな話をしていると保健室に着いた。
保健室には翠の母親がいた。
以前、一度会ったことはあるが、とくに何かを話したという記憶はない。
性格は翠とは似ていなさそうだが、顔のつくりや体型が翠と酷似していた。
その人は、「大丈夫だった?」と翠に声をかけ、娘の状態にほっとするとこちらを向いた。
「翠葉の母です。翠葉にいつも良くしてくれてありがとう」
骨格が似ていると、こんなにも声が似るものか、と思う。そんなことは身内で嫌というほどには知っているけれど、改めて実感させられた。
ただ、翠の声よりは若干低く、落ち着いた感じの声。
「簾条桃華です。翠葉とはクラスが同じで席が前後なんです」
「あら、あなたが桃華ちゃんなのね。翠葉からよく話を聞いているわ。いつもありがとう」
簾条に先を越されて、自分が出遅れた気がした。
「先日はどうも……」
以前会っていることから自己紹介をする必要はとくにない。だとしたら、それ以上何を口にすればいいものか……。
クラスが違うというよりは学年自体が違う。接点といえば生徒会くらいなもの。
改めて自分と翠の関係を考えてしまう。
「こちらこそ。司くんのことも翠葉から話を聞いてるの。いつも助けてくれる人って……。本当にお世話になっているみたいでありがとう。きっとこれからも手のかかるクラスメイトで後輩だと思うの。でも、翠葉のことお願いできるかしら……」
入学してからずっと御園生さんに送迎させているくらいだ。両親は相当心配しているのだろう。
「もちろんです。助けになれるのならいくらでも」
簾条の言葉に考える。
俺はなんと答えたらいいのか……。
これ以上簾条に遅れを取るのが嫌で、適当に口を開いた。
「医療従事者を志すものとして、放っておける対象ではないので」
ほかに、なんて言えばいいのか思いつかなかった。
そこに翠のクラスの担任が入ってきて、俺と簾条は保健室を出た。
廊下に出ると、簾条から棘だらけの視線を投げられる。
「ちょっと……あの子、絶対に勘違いしたわよっ!? あんた、実はものすごくバカなんじゃないのっ!?」
わかってる……。
翠のあの顔、間違いなく勘違いした顔だ。勘違いというよりは、俺の言葉がまずかった。
簾条の言葉に言い返すこともできずにいると、携帯が着信を知らせる。
それはすぐに途絶え、メールであることが推測できるわけだけど、……ものすごく見たくない。
渋々メールを表示させれば、
件名 :ばーか
本文 :
件名のみで本文なし。姉さんからのメールだった。
すぐに削除しようと思い、押し留まる。
次に会って誤解を解くまでは削除するのはやめよう――
まるで戒めのように苦々しい思いでメールを閉じた。
……でも、次に会うっていつになる?
翠はもう学校に出てこない。そのまま夏休みに入る。
俺が自宅まで行くのか? 何をしに……? 誤解を解くためだけに……?
……どうしてだかものすごく抵抗がある。まるで、誤解を解くことが告白のような気がして……。
でも、翠のことだ。「好き」という言葉を出さない限り、俺が翠を好きなことには気づかないだろう。
いつ簾条と別れたのかは不明。自分の教室に戻れば、俺はまだ腹痛の病人扱いだった。
あっちもこっちも、いつ弁解したらいいものか――
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