光のもとで1

葉野りるは

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01~02 Side 秋斗 02話

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 あのまま抱きしめていたらそれ以上のことをしてしまいそうで、自制心を働かせリビングへ戻った。
 男の本能に対する理性ってものが、彼女には対しては効きそうにない。
 今までは誘ってきた女に応じるくらいなものだったのにな。
 意外だったのは、身体の細さの割に胸が豊かなこと。抱きしめて実感……。
 しかも、後ろから抱きしめると身長的都合から胸元が丸見えで嬉しい反面少し困った。
 邪なことを考えながらキッチンにいる彼女をカウンター越しに見ると、傍目にわかるほど不安そうな顔をしていた。
 お湯が沸いたことを知らせる音に、「きゃぁっ」と飛び上がり左手を胸に添えほど。
 タイミングを見計らい、カウンター越しにトレイを受け取りに行くと、
「ありがとうございます」
 受け答えはしっかりしているのに、やはりどこか不安げだ。
 トレイをダイニングテーブルに置き、彼女を振り返る。と、しだいに眉尻が下がっていく。
 ……抱きしめてキスをされたら嬉しくないか? それとも、それとはまったく別の何か?
 彼女が考えるとしたら――
 すぐに彼女のいるキッチンへ引き返し、カウンター越しに俺を探している彼女の左腕を掴み引き寄せた。
 突然の出来事にバランスを崩した彼女が自分の胸に収まる。
「どうしてそんなに不安そうなの?」
「え……?」
「なんかずっと不安そうな顔してるでしょ?」
 彼女はすぐに自分の頬を両手で押さえた。
 俺が彼女だったとして、思うことはこれしかないだろう。
「気になるのは年の差? それとも俺の女性遍歴?」
「どうしてっ!?」
「どうしてって……ねぇ。俺が翠葉ちゃんだったら何を考えるかなって思っただけだよ」
 そのまま彼女の手を引いてリビングに戻り、ラグの上に座らせる。
 自分はダイニングテーブルに置いたトレイを取りに行ってから彼女の隣に腰を下ろした。
「年の差は俺も気になるよ。でも、こればかりは仕方ない……。たまたま好きになった子が九つ下だった。でも、あと三年も経てばおかしなことじゃなくなる。気になるのはきっと高校生の間だけだよ」
 言いながら、ラグの上に無造作に置かれていた彼女の右手を取る。
「俺の女性遍歴は――あまり言いたくないかな」
 思い出すように天井を見上げれば、照明と一体型のシーリングファンが目に入る。くるくると回るそれが、回想に拍車をかけた。
 手当たりしだいというか、なんというか……。
 見目良くて性格もそこそこ。そして結婚話を持ち出しそうにない人間。
 たとえば仕事に没頭していて時々性欲を満たしたくなるような女や、後腐れなく別れられるような女としか付き合ってこなかった。
 俺の素性を話さず実名も名乗らず、教えているのは携帯の番号とアドレスのみ。
 それ以上の情報を求めることなく、互いが性欲の履け口として関係するのみ。
 こんな話、どう話したところで繕えるものではない。
「正直ね、あまりいい付き合い方をしてきてるとは言えないんだ」
 自分でもわかる自嘲まじりの声。そんな俺に気づいたのか、彼女は慌てて口にする。
「あのっ……言いたくないことは話してもらわなくて大丈夫です。そもそも……秋斗さんが気づかなければ自分からは訊けないことだったし……」
 と。
 ――話したら引かれるかもしれない。
 実際、彼女はそういった免疫や知識は少ないだろう。けど、ほかから知られるよりは自分から話したほうがいいはずだ。
「……いいや。やっぱり知ってて? ほかから知れるのは嫌だからね」
 彼女に気づかれないように深く息を吸い込んだ。
「決まった相手じゃなくて、不特定多数の人と付き合ってきた。誰が相手でもよかった――そう言ったら引く?」
 彼女の表情が歪んだ。
 やっぱ引くよな……。普通に考えれば当然のことだ。
「でも、今は……これからは翠葉ちゃんだけだから。それだけは信じてほしい」
 この言葉に嘘はない。だから、君の目を見て言える。
 視線が合うと、彼女の目が揺らいだ。そして、少し視線を落とし、
「あのっ……なんて答えたらいいのかわからなくて。……でも、引くとか、そういうのではなくて……」
 なんとか言葉を紡ぎ出す。
 拒否反応がなかったことにほっとした。加えて、こちらを気遣う言葉に優しい子なのだと再度実感する。
「ごめん。答えに困るようなこと言って……。それでも一生懸命答えようとしてくれてありがとう」
 心からの感謝を――
「……そんな翠葉ちゃんが好きだよ」
 控え目に笑いかけると、少し表情が和らいだ。
「急に抱きしめたりキスはすると思う。でも、それ以上はしないから。翠葉ちゃんの気持ちの準備ができるまで、無理やりエロいことはしません」
「っ……!?」
 絶句の彼女を引き寄せ抱きしめる。
 本気半分、冗談半分。でも、君が嫌がるようなことは絶対にしないから。それだけはここで誓うよ。
「だから――気持ちの準備ができたら言って? そしたら、すぐに婚約しよう」
 年の差があっても婚約者ならばその手の行為も咎められることはない。俺はそんなことまで考えるくらいに彼女を欲していた。
 返事を聞く前に玄関からドアの開く音――
 きっと栞ちゃんだろう。正直、このタイミングで来てくれて助かった。
「セーフ……。栞ちゃんが来なかったら理性吹っ飛びそうだった」
 少し茶化して口にしたつもりだけれど、彼女の顔は真顔だった。ポカンとしているわけでもなければ、凝視してくるわけでもない。ただ、俺の顔をじっと見つめている。
 ねぇ、翠葉ちゃん。俺が本気だって、少しはわかってくれたかな。
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