164 / 1,060
第五章 うつろう心
13話
しおりを挟む
午前四科目、午後一科目で全国模試は終わった。
昨夜教わったものばかりが出題され、一度も悩むことなく、迷うことなく答案用紙を埋めることができた。
英語においては今までで一番できがよく、満点を採れるかもしれないと思うほど。
司先輩とは昇降口で待ち合わせのため、海斗くんとふたり昇降口へ向かう。
私たちのほうが先に着き昇降口で待っていると、階段を下りてくる司先輩が見えた。
英語のテストのことをいち早く伝えたくて先輩に駆け寄る。
「翠葉っ、走るなってっ」
海斗くんの言葉を無視して司先輩のもとまで走った。
「先輩っ、言われたとおりに文法をメモしてから解き始めたら、一問も迷わずに解けました! 今回は満点採れるかもしれない! こんなこと初めてですっ!」
「…………」
司先輩が珍しくフリーズしていた。
一気に話し過ぎただろうか?
「……先輩?」
「……いや、なんでもない――っていうか、走るな」
「だって……早く伝えたかったから……」
「どっちにしろ一緒に帰るだろ」
呆れた顔で言われる。
しゅん、としていると、「よくやった」と頭をポンと軽く叩かれた。
それが嬉しくて、
「ありがとうございました」
答えると、またしても表情が固まる。
「……先輩はテストのできが悪かったんですか?」
心配になり尋ねてみると、
「余裕がなければ人の勉強まで見ない」
……ということは、テストのでき云々は関係ないらしい。
どこか違和感を覚えつつ、海斗くんと合流する。
「嬉しいからって走るなよ。俺の心臓に悪いだろ!?」
そこまで言われて、だから司先輩もフリーズしてたのか、と納得する。
これはひとまず謝らなくてはいけないだろうと思い、ふたりに頭を下げた。
三人横に並び、のんびりと歩きながらマンションへ向かう。
昇降口から学園入り口までが十分ほど、公道に出てから上り坂を一〇〇メートルちょっと。
私が一緒だと二十分近くかかる。
「なんかさ、普段こんなにゆっくり歩かないからわからなかったけど――」
海斗くんの言葉に耳を傾ける。けれども、その先を口にしたのは司先輩だった。
「ゆっくり歩くと風が吹いているのがわかるんだな」
「あっ、司もそう思った?」
私の右隣を歩く海斗くんがひょい、と顔を前に出して、私の左側を歩く司先輩の顔を覗き込む。
「……それが普通じゃないの?」
ふたりを見ると、返ってくる言葉は似たようなものだった。
「こんなのんびり歩かねーもん」
「こんなゆっくり歩かない」
前者が海斗くんで後者が司先輩。
「それ、もったいないですよ?」
私の言葉にふたりは「は?」といった顔をした。
「だって、ゆっくり歩けば道端のタンポポが咲いているのをじっくり見られるし、桜の季節には花吹雪の中にだっていられる。空を見上げて歩くと気持ちがいいし、キョロキョロしていると色んなものを見つけられる。少しずつ変わる季節も見逃さずにいられる」
海斗くんは、「タンポポに空ねぇ……」と下を向いては空を見る。
「朝は部活に行くので必死だから前方しか見る余裕ないし、帰りは夕飯に早くありつきたくて、やっぱり前方オンリー。脇見する時間すら惜しい!」
なんとも海斗くんらしい登下校に笑みが漏れる。
「先輩は?」
「……何かしら考えながら歩いてるから、視界に入っても入らなくても記憶には残らない。帰りはたいてい暗いから足元の雑草なんて観察するほどには見えないし、ここら辺は明るすぎて星空はまず臨めない」
ある意味とても司先輩らしいのだけど、どこか疲れたサラリーマンみたいな言い分だ。
「あー……でも、だからかな? 翠葉と話してるとすごく新鮮に感じるのは」
「え……?」
「きっとさ、一緒に歩いていても俺らとは目に入れてるものが違うんだと思う。だから、話をしてても新鮮に聞こえる」
「……そんなに見ているものって違うのかな?」
「まぁね。言われるまで足元にタンポポがあるなんてて気づかない程度には」
海斗くんは、「ははっ」と笑った。
「でも、それなら森林浴をお勧めする」
「森林浴?」
「うん、私の趣味」
「くはっ、翠葉っぽいけど、でも森林浴って何すんの?」
「え? ただ緑がいっぱいのところで寝転がって空を見たり写真を撮ったり。それだけだよ?」
「それ、楽しい?」
「うん、私は好き」
海斗くんと話をしていると、司先輩がため息をひとつついた。
「その趣味、あまりメジャーじゃないと思う」
「そうかな……?」
首を傾げていると、
「でも、翠葉はそのままでいてよ。で、目にしたもの感じたものを教えて」
海斗くんがそう言うと、マンションの入り口に着いた。
十階でエレベーターを降りると、各々のドアポーチへと入っていく。
海斗くんと司先輩は気づいていないのかもしれない。でもね、三人並んで同じ形状のドアポーチを開けるってそうそうないことだと思うの。
ある意味、とても奇妙で面白い。そういうのにも気づかないのかな? ……もったいない。
玄関を開けると、栞さんに出迎えられた。
「今日はどうだった?」
「答案用紙が帰ってくるのが楽しみです」
「あらあら、昨夜遅くまでがんばった甲斐があったわね」
「はい」
「お茶を淹れるから、手洗いうがいを済ませて着替えてらっしゃい」
言われたとおりに洗面所で手洗いうがいを済ませ、客間でルームウェアに着替えた。
リビングへとつながるドアを開けると、ローズヒップティーの甘酸っぱい香りが漂う。
「痛みはどう?」
うかがうように訊かれ、
「今は六時間おきに鎮痛剤を服用しています。薬が切れるタイミングですぐに次を飲むので、なんとか……」
「……投薬量マックスまで使っているのね」
栞さんは思案顔でため息をついた。
「明日は学校から湊と病院へ行くことになってるわ」
「わかりました」
明日は心電図に血液検査、尿検査と運動負荷テスト、起立性低血圧の状態を調べるODテスト、と一通り検査をすることになっている。
明日の夜から延期させていた投薬が開始される。身動きが、取れなくなる。
……やっぱり、六日までは飲み始めたくない――
これは学校の都合ではなく、完全な私のわがままだ。
わかっているのに、どうして諦められないんだろう……。
つらくなるのはほかでもない自分だ。そして、周りに心配や迷惑をかければ、それらはすべて自分へと返ってくる。
わかっているのに諦められない。
甘酸っぱいお茶を飲んでいると、
「翠葉ちゃん、プレゼントしたランジェリー試着した?」
栞さんが嬉しそうに訊いてくる。
その笑顔がまるで向日葵のように見えた。
ううん、向日葵というよりはメランポジウムかな。かわいい小さな菊科の花の花言葉は、元気――
「まだです。あのあと一時前まで勉強をしていたので、試着はせずに寝てしまいました」
「試着してみて? サイズが合わなければ交換してもらえるから。もっとも、陽子に限ってそんなことはないと思うけど」
「わかりました。試着してきます」
席を立ち客間に戻る。
いただいた大きな手提げ袋のまま部屋に置いてあったそれを開ける。
ランジェリーにしては包みが大きいな、と思いながら中を開けると――
「嘘……」
柔らかい包みの中には七つのショーツとブラが入っていたのだ。
しかも結構有名どころのブランド。それなりに高いのではないだろうか……。
両親に加え秋斗さん、静さんの金銭感覚にもまったくついていかれないけれど、もしかしたら栞さんと湊先生もそこに属すのかもしれない。
でも、どれもかわいい……。
お花模様の刺繍が施されており、白、黒、ベージュ以外の四色はすべてパステルカラーでピンク、黄色、ブルー、ラベンダー。
同じデザインを色違い――ということは、ひとつを試着すればいいことになる。
試着してみるとびっくりするくらいぴったりだった。
苦しくないしカップに胸がきれいにおさまる。カップ自体が浮くこともない。
付け心地がいいことに驚いた。さらにはサイズを見てびっくりする。
アンダーが六十二でカップがF。
今まで一番小さいサイズだと六十五しか見かけたことがなくて、仕方なくそれを買っていた。けれども、カップはDだと小さくて、Eだと少し浮く感じ。ものによってはパッドを入れないと調節ができなかったのだ。
「これ、特注だったりしないよね……?」
そのブラをつけたまま、ぴったりとしたTシャツを着てみる。ボトムにはデニムのロングスカート。
これならどんなボディラインになるのかを見てもらえる。
リビングに行き栞さんに声をかける。と、
「ぴったり?」
「はい! こんなに体型にぴったり合うブラは初めてで……。アンダー六十五の下ってあったんですね?」
「ふふふ、陽子の伝手ならではよ。そこのブランド、アンダーとトップを指定してブラを作ってもらえるの」
ウィンクをされて、プル、と身震いする。
「それ、特注って言いませんか……?」
「ん? そうとも言うわね? でも、下着は素肌につけるものだし、身体のコンディションにも密に関わるからサイズ選びは重要よ? きちんとローテーションしてその都度手洗いすれば長く使えるし」
あ……だから七つだったのかな?
「私も湊もいつもここでしか買わないの。それにしても……翠葉ちゃんったら羨ましいわ」
「え?」
「細いのに胸はちゃんとあるだなんて……」
「……あの、こういうときはなんて受け答えしたらいいんですか?」
もじもじしながら尋ねると、クスリと笑われてしまう。
「なんにでもきちんと答えようとするあたりが翠葉ちゃんらしいけれど、そういうときは適当に流しても問題ないわ」
流すってどうすればいいのかな。
考えていると、
「私、このあとお買い物に幸倉ショッピングモールへ行こうと思っているのだけど、翠葉ちゃんはお勉強?」
「いえ、明日の課題テストはいつもの勉強で間に合っているので、とくにまとまった時間を割かなくても大丈夫なんです」
「じゃ、一緒に行く?」
「……いいんですか?」
「いいわよ。もしなんだったら、私が買い物している間ひとりで行動していてもいいし」
「っ……本当にっ!?」
「えぇ」
そんな会話の流れで、蒼兄と携帯を買いにきたショッピングモールへ出かけた。
そこはちょうど学校と自宅の真ん中あたりにある。
「あ……私、警護対象者……?」
駐車場に着き、車から出る直前に気づいた。
「大丈夫。ここの警備は藤宮警備が入っているの。さっき秋斗くんに電話をかけたから、こちらには気づかれないように、すでに警護班が動いているはずよ」
もう少し考えてから行動するべきだった……。
私の突発的な行動で予期せず動かなくてはいけなくなってしまった人たちに謝罪をしたい気分。
でも、すでにショッピングモールに着いてしまっている。
「翠葉ちゃん、気にしないの」
「でも……」
「大丈夫だから」
栞さんは私の手を引き歩きだした。
昨夜教わったものばかりが出題され、一度も悩むことなく、迷うことなく答案用紙を埋めることができた。
英語においては今までで一番できがよく、満点を採れるかもしれないと思うほど。
司先輩とは昇降口で待ち合わせのため、海斗くんとふたり昇降口へ向かう。
私たちのほうが先に着き昇降口で待っていると、階段を下りてくる司先輩が見えた。
英語のテストのことをいち早く伝えたくて先輩に駆け寄る。
「翠葉っ、走るなってっ」
海斗くんの言葉を無視して司先輩のもとまで走った。
「先輩っ、言われたとおりに文法をメモしてから解き始めたら、一問も迷わずに解けました! 今回は満点採れるかもしれない! こんなこと初めてですっ!」
「…………」
司先輩が珍しくフリーズしていた。
一気に話し過ぎただろうか?
「……先輩?」
「……いや、なんでもない――っていうか、走るな」
「だって……早く伝えたかったから……」
「どっちにしろ一緒に帰るだろ」
呆れた顔で言われる。
しゅん、としていると、「よくやった」と頭をポンと軽く叩かれた。
それが嬉しくて、
「ありがとうございました」
答えると、またしても表情が固まる。
「……先輩はテストのできが悪かったんですか?」
心配になり尋ねてみると、
「余裕がなければ人の勉強まで見ない」
……ということは、テストのでき云々は関係ないらしい。
どこか違和感を覚えつつ、海斗くんと合流する。
「嬉しいからって走るなよ。俺の心臓に悪いだろ!?」
そこまで言われて、だから司先輩もフリーズしてたのか、と納得する。
これはひとまず謝らなくてはいけないだろうと思い、ふたりに頭を下げた。
三人横に並び、のんびりと歩きながらマンションへ向かう。
昇降口から学園入り口までが十分ほど、公道に出てから上り坂を一〇〇メートルちょっと。
私が一緒だと二十分近くかかる。
「なんかさ、普段こんなにゆっくり歩かないからわからなかったけど――」
海斗くんの言葉に耳を傾ける。けれども、その先を口にしたのは司先輩だった。
「ゆっくり歩くと風が吹いているのがわかるんだな」
「あっ、司もそう思った?」
私の右隣を歩く海斗くんがひょい、と顔を前に出して、私の左側を歩く司先輩の顔を覗き込む。
「……それが普通じゃないの?」
ふたりを見ると、返ってくる言葉は似たようなものだった。
「こんなのんびり歩かねーもん」
「こんなゆっくり歩かない」
前者が海斗くんで後者が司先輩。
「それ、もったいないですよ?」
私の言葉にふたりは「は?」といった顔をした。
「だって、ゆっくり歩けば道端のタンポポが咲いているのをじっくり見られるし、桜の季節には花吹雪の中にだっていられる。空を見上げて歩くと気持ちがいいし、キョロキョロしていると色んなものを見つけられる。少しずつ変わる季節も見逃さずにいられる」
海斗くんは、「タンポポに空ねぇ……」と下を向いては空を見る。
「朝は部活に行くので必死だから前方しか見る余裕ないし、帰りは夕飯に早くありつきたくて、やっぱり前方オンリー。脇見する時間すら惜しい!」
なんとも海斗くんらしい登下校に笑みが漏れる。
「先輩は?」
「……何かしら考えながら歩いてるから、視界に入っても入らなくても記憶には残らない。帰りはたいてい暗いから足元の雑草なんて観察するほどには見えないし、ここら辺は明るすぎて星空はまず臨めない」
ある意味とても司先輩らしいのだけど、どこか疲れたサラリーマンみたいな言い分だ。
「あー……でも、だからかな? 翠葉と話してるとすごく新鮮に感じるのは」
「え……?」
「きっとさ、一緒に歩いていても俺らとは目に入れてるものが違うんだと思う。だから、話をしてても新鮮に聞こえる」
「……そんなに見ているものって違うのかな?」
「まぁね。言われるまで足元にタンポポがあるなんてて気づかない程度には」
海斗くんは、「ははっ」と笑った。
「でも、それなら森林浴をお勧めする」
「森林浴?」
「うん、私の趣味」
「くはっ、翠葉っぽいけど、でも森林浴って何すんの?」
「え? ただ緑がいっぱいのところで寝転がって空を見たり写真を撮ったり。それだけだよ?」
「それ、楽しい?」
「うん、私は好き」
海斗くんと話をしていると、司先輩がため息をひとつついた。
「その趣味、あまりメジャーじゃないと思う」
「そうかな……?」
首を傾げていると、
「でも、翠葉はそのままでいてよ。で、目にしたもの感じたものを教えて」
海斗くんがそう言うと、マンションの入り口に着いた。
十階でエレベーターを降りると、各々のドアポーチへと入っていく。
海斗くんと司先輩は気づいていないのかもしれない。でもね、三人並んで同じ形状のドアポーチを開けるってそうそうないことだと思うの。
ある意味、とても奇妙で面白い。そういうのにも気づかないのかな? ……もったいない。
玄関を開けると、栞さんに出迎えられた。
「今日はどうだった?」
「答案用紙が帰ってくるのが楽しみです」
「あらあら、昨夜遅くまでがんばった甲斐があったわね」
「はい」
「お茶を淹れるから、手洗いうがいを済ませて着替えてらっしゃい」
言われたとおりに洗面所で手洗いうがいを済ませ、客間でルームウェアに着替えた。
リビングへとつながるドアを開けると、ローズヒップティーの甘酸っぱい香りが漂う。
「痛みはどう?」
うかがうように訊かれ、
「今は六時間おきに鎮痛剤を服用しています。薬が切れるタイミングですぐに次を飲むので、なんとか……」
「……投薬量マックスまで使っているのね」
栞さんは思案顔でため息をついた。
「明日は学校から湊と病院へ行くことになってるわ」
「わかりました」
明日は心電図に血液検査、尿検査と運動負荷テスト、起立性低血圧の状態を調べるODテスト、と一通り検査をすることになっている。
明日の夜から延期させていた投薬が開始される。身動きが、取れなくなる。
……やっぱり、六日までは飲み始めたくない――
これは学校の都合ではなく、完全な私のわがままだ。
わかっているのに、どうして諦められないんだろう……。
つらくなるのはほかでもない自分だ。そして、周りに心配や迷惑をかければ、それらはすべて自分へと返ってくる。
わかっているのに諦められない。
甘酸っぱいお茶を飲んでいると、
「翠葉ちゃん、プレゼントしたランジェリー試着した?」
栞さんが嬉しそうに訊いてくる。
その笑顔がまるで向日葵のように見えた。
ううん、向日葵というよりはメランポジウムかな。かわいい小さな菊科の花の花言葉は、元気――
「まだです。あのあと一時前まで勉強をしていたので、試着はせずに寝てしまいました」
「試着してみて? サイズが合わなければ交換してもらえるから。もっとも、陽子に限ってそんなことはないと思うけど」
「わかりました。試着してきます」
席を立ち客間に戻る。
いただいた大きな手提げ袋のまま部屋に置いてあったそれを開ける。
ランジェリーにしては包みが大きいな、と思いながら中を開けると――
「嘘……」
柔らかい包みの中には七つのショーツとブラが入っていたのだ。
しかも結構有名どころのブランド。それなりに高いのではないだろうか……。
両親に加え秋斗さん、静さんの金銭感覚にもまったくついていかれないけれど、もしかしたら栞さんと湊先生もそこに属すのかもしれない。
でも、どれもかわいい……。
お花模様の刺繍が施されており、白、黒、ベージュ以外の四色はすべてパステルカラーでピンク、黄色、ブルー、ラベンダー。
同じデザインを色違い――ということは、ひとつを試着すればいいことになる。
試着してみるとびっくりするくらいぴったりだった。
苦しくないしカップに胸がきれいにおさまる。カップ自体が浮くこともない。
付け心地がいいことに驚いた。さらにはサイズを見てびっくりする。
アンダーが六十二でカップがF。
今まで一番小さいサイズだと六十五しか見かけたことがなくて、仕方なくそれを買っていた。けれども、カップはDだと小さくて、Eだと少し浮く感じ。ものによってはパッドを入れないと調節ができなかったのだ。
「これ、特注だったりしないよね……?」
そのブラをつけたまま、ぴったりとしたTシャツを着てみる。ボトムにはデニムのロングスカート。
これならどんなボディラインになるのかを見てもらえる。
リビングに行き栞さんに声をかける。と、
「ぴったり?」
「はい! こんなに体型にぴったり合うブラは初めてで……。アンダー六十五の下ってあったんですね?」
「ふふふ、陽子の伝手ならではよ。そこのブランド、アンダーとトップを指定してブラを作ってもらえるの」
ウィンクをされて、プル、と身震いする。
「それ、特注って言いませんか……?」
「ん? そうとも言うわね? でも、下着は素肌につけるものだし、身体のコンディションにも密に関わるからサイズ選びは重要よ? きちんとローテーションしてその都度手洗いすれば長く使えるし」
あ……だから七つだったのかな?
「私も湊もいつもここでしか買わないの。それにしても……翠葉ちゃんったら羨ましいわ」
「え?」
「細いのに胸はちゃんとあるだなんて……」
「……あの、こういうときはなんて受け答えしたらいいんですか?」
もじもじしながら尋ねると、クスリと笑われてしまう。
「なんにでもきちんと答えようとするあたりが翠葉ちゃんらしいけれど、そういうときは適当に流しても問題ないわ」
流すってどうすればいいのかな。
考えていると、
「私、このあとお買い物に幸倉ショッピングモールへ行こうと思っているのだけど、翠葉ちゃんはお勉強?」
「いえ、明日の課題テストはいつもの勉強で間に合っているので、とくにまとまった時間を割かなくても大丈夫なんです」
「じゃ、一緒に行く?」
「……いいんですか?」
「いいわよ。もしなんだったら、私が買い物している間ひとりで行動していてもいいし」
「っ……本当にっ!?」
「えぇ」
そんな会話の流れで、蒼兄と携帯を買いにきたショッピングモールへ出かけた。
そこはちょうど学校と自宅の真ん中あたりにある。
「あ……私、警護対象者……?」
駐車場に着き、車から出る直前に気づいた。
「大丈夫。ここの警備は藤宮警備が入っているの。さっき秋斗くんに電話をかけたから、こちらには気づかれないように、すでに警護班が動いているはずよ」
もう少し考えてから行動するべきだった……。
私の突発的な行動で予期せず動かなくてはいけなくなってしまった人たちに謝罪をしたい気分。
でも、すでにショッピングモールに着いてしまっている。
「翠葉ちゃん、気にしないの」
「でも……」
「大丈夫だから」
栞さんは私の手を引き歩きだした。
2
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
足りない言葉、あふれる想い〜地味子とエリート営業マンの恋愛リポグラム〜
石河 翠
現代文学
同じ会社に勤める地味子とエリート営業マン。
接点のないはずの二人が、ある出来事をきっかけに一気に近づいて……。両片思いのじれじれ恋物語。
もちろんハッピーエンドです。
リポグラムと呼ばれる特定の文字を入れない手法を用いた、いわゆる文字遊びの作品です。
タイトルのカギカッコ部分が、使用不可の文字です。濁音、半濁音がある場合には、それも使用不可です。
(例;「『とな』ー切れ」の場合には、「と」「ど」「な」が使用不可)
すべての漢字にルビを振っております。本当に特定の文字が使われていないか、探してみてください。
「『あい』を失った女」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/802162130)内に掲載していた、「『とな』ー切れ」「『めも』を捨てる」「『らり』ーの終わり」に加え、新たに三話を書き下ろし、一つの作品として投稿し直しました。文字遊びがお好きな方、「『あい』を失った女」もぜひどうぞ。
※こちらは、小説家になろうにも投稿しております。
※扉絵は管澤捻様に描いて頂きました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル
諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします!
6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします!
間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。
グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。
グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。
書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。
一例 チーム『スペクター』
↓
チーム『マサムネ』
※イラスト頂きました。夕凪様より。
http://15452.mitemin.net/i192768/
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる