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August
夏の思い出 Side 司 05話
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出来上がった曲をもう一度弾くと、翠は口元を押さえ、眠たそうに欠伸を噛み殺す。
間違いなく、昼食の消化に血液を持っていかれて、脳に血が足りていないのだろう。
「少し、寝てもいい……?」
「寝るなら星見荘に――」
翠はそこまで戻る気力もないようで、「ううん」と首を横に振る。
「ここ、とっても気持ちがいいから、ここで休みたいなぁって……」
翠はハープを脇に置き、その場にコロンと転がった。
ラグの上とはいえ、さすがにクッションも何も敷かずに寝かせるのはどうなのか。
「それなら……」
俺は手近にあったクッションをいくつか連結させ、翠をその上に寝かせた。
ついでに、入り口脇に置いてあったカゴからタオルケットを持ってくる。
「ちょうどいい気候だとは思うけど、一応掛けて寝て。風邪でもひかれたらたまらないから」
「ん……」
横になった翠は、次の瞬間には寝落ちていた。
「相変わらず無防備すぎ……」
少し憎らしくて額に軽くデコピンをしてみたが、翠は右手で額を押さえたものの、そのまま眠り始めてしまった。
食後に昼寝が必要とか幼稚園児か、とは思う。けど、翠の体質を考えれば仕方のないことで……。
「願わくば、俺と一緒のときだけにしてほしいものだけど……」
絶対に音大ヤローの前ではその無防備っぷりを披露するなよ、と思いつつ、俺は先日のように翠の寝顔をスケッチし始めた。
助手席に座っていただけとはいえ、車の移動に疲れたのか、いつもより過分に食べた昼食の消化に体力を根こそぎ持っていかれているのか、納涼床に来るまでの一時間で疲れ果てたのか、翠はなかなか目を覚まさなかった。
幸い、帰宅時間を気にする必要はないし、今休んでもらえれば夜はそれなりに無理が利くんじゃないかという下心もあり、俺は翠を起こさずにいた。
しかし、夕方になって空がピンクに染まり始めればそうも言ってはいられない。
これで起こさなかったら、後々翠に責められることになるだろう。
仕方なく、翠の肩を優しく叩き声をかける。
「翠、マジックアワー」
数回声をかけないと起きないかと思いきや、翠は文字に書いたようにパチリと目を開けた。
「マジックアワーっ!?」
あまりの覚醒ぶりに驚いたが、その起き方は褒められたものではない。
反射的に身体を起こした翠の額を小突き、再度クッションへ押し倒す。
翠はその状態で空を見て、
「空が、ピンク色……」
空を映す翠の目が、淡いピンク色に色づいていた。それはまるでガラス玉のように美しい。
その瞳を見ながら、
「今日はオレンジじゃなくてピンクだな」
翠はゆっくりと身体を起こし、そこから見える光景を見渡し見入っていた。
そのくらい、あたりがピンク色に呑まれ、幻想的な光景を作り出していたのだ。
「写真は? 撮らなくていいの?」
「撮るっ!」
翠はすぐにカメラのセッティングを始める。
三脚を立て、カメラの設定を済ませると、何枚もの写真を撮る。そして、
「ツカサ、そこに立ってもらえる?」
翠が指定したのは納涼床の奥の手すり脇。
一応言われた場所に立ってはみるが、
「そっちから撮ったら逆光じゃないの?」
「ピンポン!」
翠は得意げに、「陰影写真を撮ろうと思って」とにこりと笑って口にした。
「陰影?」
「うん。ピンク色の背景に、ツカサのシルエットが際立つ写真!」
「ふーん……」
人のシルエット写真を撮るのがどうしてそんなに嬉しそうなのかは理解できないけど、それで翠が喜ぶならまあいいか……。
翠はというと、シャッターを切ったあとプレビュー画面で撮った画像を確認しているようだが、それほどまでに満足のいく作品になったのか、口元が締まりなく緩んでいく。
なんとなしにそれがどんな写真なのか想像して、
「どうせなら、ふたりのシルエット写真も残しておけば?」
俺の提案に翠は頷き、持ってきたバッグの中からリモコンを持って俺のもとへとやってくる。
翠が手に持つリモコンを指差し、
「それ、押したらすぐにシャッター落ちるの?」
「うん、そうだけど……?」
「貸して」
奪うようにリモコンを手にすると、俺は空いているほうの手で翠の腰を引き寄せ、その流れでキスをした。もちろんリモコン操作も忘れずに。
翠はびっくりした顔で口を両手で押さえている。
でも、もうキスはしたあとだし、写真にも収めたし、色々と遅いと思う。
あまりにも目を白黒とさせているから、
「なんて顔」
「だってっ!」
翠は噛み付く勢いで声をあげる。
そんな翠を放置し、
「うまく撮れてるといいけど……」
撮った写真を確認しにカメラへ向かうと、翠もおとなしくついてきた。
ふたりしてプレビュー画面を確認すると、そこには思い描いていたキスシルエットが写っていた。
もう一枚を見ると、翠が口元を押さえている写真もしっかりと撮れている。
それらはまるで、ピンクの紙を切り絵にしたような写真だった。
満足した俺はリモコンを翠へ返し、
「それ、あとでデータ送って」
……データが送られてきたらどうしようか。
アナログ写真にもしたいところだけれど、スマホのホーム画面に設定するのもありだろうか……。でも、キスシルエットよりは、今設定してある翠の笑顔のほうが確実に癒される。それなら、自宅で使っているパソコンの壁紙とか……?
用途についてあれこれ検討しているのに、肝心の翠からは返答が得られない。
「いわば俺のプロデュースで撮った写真なんだから、もらえないわけないよな?」
笑顔でゴリ押しをすると、「ハイ」ととても機械的な返答を得られた。
何がどうして返答に時間がかかったのかと疑問に思っていると、離れたところから少し高めの女子の声と落ち着いた穏やかな声が聞こえてくる。
それに気づいた翠が、
「桃華さんと蒼兄……?」
まだ姿が見えないうちから人物を言い当てる。
ふたりが姿を現すと、
「わー……納涼床って結構本格的なものだったんだ?」
御園生さんはサンダルを脱いでラグへ上がり、納涼床のつくりを吟味し始めた。
「ここから見える景色は絶景ねっ!? 翠葉、写真撮った?」
「う、うん」
「じゃ、後日データちょうだいね!」
簾条も続いてラグへ上がり、御園生さんの隣に並んでピンク色に染まる川を眺める。
翠はそんなふたりを写真に収めると、カメラを隠すように片付け始めた。
「桃華さんたちはお散歩?」
「翠葉たちを呼びに来たの。そろそろお夕飯の準備が整うそうよ」
「もしかして、わざわざ教えに来てくれたの?」
簾条はにこりと笑って肯定する。
「本当は電話でもメールでもよかったのだけど、窓から見えた空があまりにもきれいなピンク色で、蒼樹さんとお散歩がてらに出てきたの」
「そうだったのね」
「だから、そろそろ戻りましょう?」
「うん」
簾条も御園生さんも見慣れているというのに、ふたりがセットなのは見慣れてなくて、やっぱりどこか奇妙なものを見ている気分になる。
関わるまい、と俺がスケッチブックを片付け始めると、翠もハープをケースへしまい始めた。すると今度は車の音が聞こえてくる。
軽トラということは、稲荷さんがラグを回収しに来たのだろう。
予想は当たり、トラックから降りた稲荷さんに声をかけられた。
「司様、翠葉お嬢様、お荷物は私の軽トラックで運びますので、そのままで大丈夫ですよ」
「わ、いいんですか?」
「もちろんです」
しかし稲荷さんの背後から警護班が現れ、
「お嬢様のハープはこちらでお預かりいたします。星見荘へお運びいたしますのでご安心ください」
それなら――
「武明さん、これもお願いします」
俺は翠のカメラ道具一式を指し示す。
「承ります」
そう言うと、武明さんはサクサクと荷物を持って引き上げていった。
「どうしてカメラも……? あのくらいなら私が持って戻っても――」
そんなの信じられるか……。
思わず出たのはため息だった。
「あれがきれいこれがきれい、ってあちこちで道草してたら夕飯が冷める。今回はきっちり片道十五分で戻るよ」
翠はちょっとむっとした顔をしたが、静かに従った。そして、警護班が立ち去った方を見て、
「武明さん、ずっと近くにいたのかな……」
不安そうな様子に俺が返答しようとすると、御園生さんが先に口を開いた。
「いや、俺たちが別荘出るときに一緒に出てきた感じだったよ」
「そうなの……?」
「えぇ、そうだったと思うわ。でも、どうして?」
「え? あ……えと、タイミングよく現れたから、実はずっと近くにいたのかなって……」
翠が何を危惧しているのかはすぐにわかった。
キスシーンを見られていたら、とかそんなところだろう。
「翠」
「ん……?」
「安心していい。俺たちが緑山に滞在するとき、山の入り口すべてに藤宮警備が見張りに立つし、山を囲うフェンスには高圧電流が通っているうえ、山の周囲を警邏している人間もいる」
つまり、
「外からの進入がないとわかっている場所で、プライバシーを侵す近接警護になることはめったにない」
翠はおもむろにほっとして見せた。それに目ざとく気づいたのは簾条。
「翠葉と藤宮司はふたりきりがいいみたいですよ? もう伝えることは伝えましたし、私たちも戻りましょう」
そう言うと、簾条は御園生さんの手を引いてスタスタと来た道を戻っていった。
翠はどうしようもなく恥ずかしくなったのか、頭を抱えてその場に蹲る。
なんていうか、墓穴掘りすぎだし……。
「翠、そこ邪魔」
「えっ!?」
「稲荷さんがラグ片付けるから」
そんなふうに声をかけ、俺は翠の手を取って納涼床をあとにした。
間違いなく、昼食の消化に血液を持っていかれて、脳に血が足りていないのだろう。
「少し、寝てもいい……?」
「寝るなら星見荘に――」
翠はそこまで戻る気力もないようで、「ううん」と首を横に振る。
「ここ、とっても気持ちがいいから、ここで休みたいなぁって……」
翠はハープを脇に置き、その場にコロンと転がった。
ラグの上とはいえ、さすがにクッションも何も敷かずに寝かせるのはどうなのか。
「それなら……」
俺は手近にあったクッションをいくつか連結させ、翠をその上に寝かせた。
ついでに、入り口脇に置いてあったカゴからタオルケットを持ってくる。
「ちょうどいい気候だとは思うけど、一応掛けて寝て。風邪でもひかれたらたまらないから」
「ん……」
横になった翠は、次の瞬間には寝落ちていた。
「相変わらず無防備すぎ……」
少し憎らしくて額に軽くデコピンをしてみたが、翠は右手で額を押さえたものの、そのまま眠り始めてしまった。
食後に昼寝が必要とか幼稚園児か、とは思う。けど、翠の体質を考えれば仕方のないことで……。
「願わくば、俺と一緒のときだけにしてほしいものだけど……」
絶対に音大ヤローの前ではその無防備っぷりを披露するなよ、と思いつつ、俺は先日のように翠の寝顔をスケッチし始めた。
助手席に座っていただけとはいえ、車の移動に疲れたのか、いつもより過分に食べた昼食の消化に体力を根こそぎ持っていかれているのか、納涼床に来るまでの一時間で疲れ果てたのか、翠はなかなか目を覚まさなかった。
幸い、帰宅時間を気にする必要はないし、今休んでもらえれば夜はそれなりに無理が利くんじゃないかという下心もあり、俺は翠を起こさずにいた。
しかし、夕方になって空がピンクに染まり始めればそうも言ってはいられない。
これで起こさなかったら、後々翠に責められることになるだろう。
仕方なく、翠の肩を優しく叩き声をかける。
「翠、マジックアワー」
数回声をかけないと起きないかと思いきや、翠は文字に書いたようにパチリと目を開けた。
「マジックアワーっ!?」
あまりの覚醒ぶりに驚いたが、その起き方は褒められたものではない。
反射的に身体を起こした翠の額を小突き、再度クッションへ押し倒す。
翠はその状態で空を見て、
「空が、ピンク色……」
空を映す翠の目が、淡いピンク色に色づいていた。それはまるでガラス玉のように美しい。
その瞳を見ながら、
「今日はオレンジじゃなくてピンクだな」
翠はゆっくりと身体を起こし、そこから見える光景を見渡し見入っていた。
そのくらい、あたりがピンク色に呑まれ、幻想的な光景を作り出していたのだ。
「写真は? 撮らなくていいの?」
「撮るっ!」
翠はすぐにカメラのセッティングを始める。
三脚を立て、カメラの設定を済ませると、何枚もの写真を撮る。そして、
「ツカサ、そこに立ってもらえる?」
翠が指定したのは納涼床の奥の手すり脇。
一応言われた場所に立ってはみるが、
「そっちから撮ったら逆光じゃないの?」
「ピンポン!」
翠は得意げに、「陰影写真を撮ろうと思って」とにこりと笑って口にした。
「陰影?」
「うん。ピンク色の背景に、ツカサのシルエットが際立つ写真!」
「ふーん……」
人のシルエット写真を撮るのがどうしてそんなに嬉しそうなのかは理解できないけど、それで翠が喜ぶならまあいいか……。
翠はというと、シャッターを切ったあとプレビュー画面で撮った画像を確認しているようだが、それほどまでに満足のいく作品になったのか、口元が締まりなく緩んでいく。
なんとなしにそれがどんな写真なのか想像して、
「どうせなら、ふたりのシルエット写真も残しておけば?」
俺の提案に翠は頷き、持ってきたバッグの中からリモコンを持って俺のもとへとやってくる。
翠が手に持つリモコンを指差し、
「それ、押したらすぐにシャッター落ちるの?」
「うん、そうだけど……?」
「貸して」
奪うようにリモコンを手にすると、俺は空いているほうの手で翠の腰を引き寄せ、その流れでキスをした。もちろんリモコン操作も忘れずに。
翠はびっくりした顔で口を両手で押さえている。
でも、もうキスはしたあとだし、写真にも収めたし、色々と遅いと思う。
あまりにも目を白黒とさせているから、
「なんて顔」
「だってっ!」
翠は噛み付く勢いで声をあげる。
そんな翠を放置し、
「うまく撮れてるといいけど……」
撮った写真を確認しにカメラへ向かうと、翠もおとなしくついてきた。
ふたりしてプレビュー画面を確認すると、そこには思い描いていたキスシルエットが写っていた。
もう一枚を見ると、翠が口元を押さえている写真もしっかりと撮れている。
それらはまるで、ピンクの紙を切り絵にしたような写真だった。
満足した俺はリモコンを翠へ返し、
「それ、あとでデータ送って」
……データが送られてきたらどうしようか。
アナログ写真にもしたいところだけれど、スマホのホーム画面に設定するのもありだろうか……。でも、キスシルエットよりは、今設定してある翠の笑顔のほうが確実に癒される。それなら、自宅で使っているパソコンの壁紙とか……?
用途についてあれこれ検討しているのに、肝心の翠からは返答が得られない。
「いわば俺のプロデュースで撮った写真なんだから、もらえないわけないよな?」
笑顔でゴリ押しをすると、「ハイ」ととても機械的な返答を得られた。
何がどうして返答に時間がかかったのかと疑問に思っていると、離れたところから少し高めの女子の声と落ち着いた穏やかな声が聞こえてくる。
それに気づいた翠が、
「桃華さんと蒼兄……?」
まだ姿が見えないうちから人物を言い当てる。
ふたりが姿を現すと、
「わー……納涼床って結構本格的なものだったんだ?」
御園生さんはサンダルを脱いでラグへ上がり、納涼床のつくりを吟味し始めた。
「ここから見える景色は絶景ねっ!? 翠葉、写真撮った?」
「う、うん」
「じゃ、後日データちょうだいね!」
簾条も続いてラグへ上がり、御園生さんの隣に並んでピンク色に染まる川を眺める。
翠はそんなふたりを写真に収めると、カメラを隠すように片付け始めた。
「桃華さんたちはお散歩?」
「翠葉たちを呼びに来たの。そろそろお夕飯の準備が整うそうよ」
「もしかして、わざわざ教えに来てくれたの?」
簾条はにこりと笑って肯定する。
「本当は電話でもメールでもよかったのだけど、窓から見えた空があまりにもきれいなピンク色で、蒼樹さんとお散歩がてらに出てきたの」
「そうだったのね」
「だから、そろそろ戻りましょう?」
「うん」
簾条も御園生さんも見慣れているというのに、ふたりがセットなのは見慣れてなくて、やっぱりどこか奇妙なものを見ている気分になる。
関わるまい、と俺がスケッチブックを片付け始めると、翠もハープをケースへしまい始めた。すると今度は車の音が聞こえてくる。
軽トラということは、稲荷さんがラグを回収しに来たのだろう。
予想は当たり、トラックから降りた稲荷さんに声をかけられた。
「司様、翠葉お嬢様、お荷物は私の軽トラックで運びますので、そのままで大丈夫ですよ」
「わ、いいんですか?」
「もちろんです」
しかし稲荷さんの背後から警護班が現れ、
「お嬢様のハープはこちらでお預かりいたします。星見荘へお運びいたしますのでご安心ください」
それなら――
「武明さん、これもお願いします」
俺は翠のカメラ道具一式を指し示す。
「承ります」
そう言うと、武明さんはサクサクと荷物を持って引き上げていった。
「どうしてカメラも……? あのくらいなら私が持って戻っても――」
そんなの信じられるか……。
思わず出たのはため息だった。
「あれがきれいこれがきれい、ってあちこちで道草してたら夕飯が冷める。今回はきっちり片道十五分で戻るよ」
翠はちょっとむっとした顔をしたが、静かに従った。そして、警護班が立ち去った方を見て、
「武明さん、ずっと近くにいたのかな……」
不安そうな様子に俺が返答しようとすると、御園生さんが先に口を開いた。
「いや、俺たちが別荘出るときに一緒に出てきた感じだったよ」
「そうなの……?」
「えぇ、そうだったと思うわ。でも、どうして?」
「え? あ……えと、タイミングよく現れたから、実はずっと近くにいたのかなって……」
翠が何を危惧しているのかはすぐにわかった。
キスシーンを見られていたら、とかそんなところだろう。
「翠」
「ん……?」
「安心していい。俺たちが緑山に滞在するとき、山の入り口すべてに藤宮警備が見張りに立つし、山を囲うフェンスには高圧電流が通っているうえ、山の周囲を警邏している人間もいる」
つまり、
「外からの進入がないとわかっている場所で、プライバシーを侵す近接警護になることはめったにない」
翠はおもむろにほっとして見せた。それに目ざとく気づいたのは簾条。
「翠葉と藤宮司はふたりきりがいいみたいですよ? もう伝えることは伝えましたし、私たちも戻りましょう」
そう言うと、簾条は御園生さんの手を引いてスタスタと来た道を戻っていった。
翠はどうしようもなく恥ずかしくなったのか、頭を抱えてその場に蹲る。
なんていうか、墓穴掘りすぎだし……。
「翠、そこ邪魔」
「えっ!?」
「稲荷さんがラグ片付けるから」
そんなふうに声をかけ、俺は翠の手を取って納涼床をあとにした。
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