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August
夏の思い出 Side 翠葉 17話
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寝室から出ると唯兄と蒼兄がリビングのソファで寛いでおり、秋斗さんと蔵元さんはリビング側のスツールに腰掛けていた。そのテーブル向こうには鈴子さんと辰治さんがいて、デザートとサラダの盛り付けを始めている。
額の冷却シートを剥がし慌ててキッチンへ向かおうとすると、ツカサの長い手に阻まれた。
「確認」
何かと思えばツカサの手が額へ伸びてくる。
「さっきよりは全然いいな」
ツカサは自身の手によって体温確認をしたのだ。
「もぅ……スマホで確認できるでしょう……?」
「数値がわかっていても、心配は心配だから」
自分の手で触れてようやく安心できたのか、今度はキッチンへ行くよう送り出された。
「ツカサの過保護も困ったもんだよねぇ」
そんなふうに話しかけてきたのは秋斗さんだった。すると、
「どの口が言う?」
「どの口が言うんですか……」
すかさずツカサと蔵元さんの突込みが入る。でも、秋斗さんはそんなのものともせず、
「翠葉ちゃんの手料理食べるの久しぶりだから、ものすっごく楽しみにしてたんだ」
にこにこと笑ったまま私へ話しかけてくる。
この打たれ強さというか、スルー力……? どうやったら培えるんだろう……。
そんなことを考えつつ、
「手料理とは言っても市販のルーを使っているので、そこまで期待されるとちょっと困っちゃいます……」
「いやっ! リィのカレーはおいしいよ! まず、入ってるものが普通じゃない!」
リビングで主張したのは唯兄だった。
「へ? 入ってるものが普通じゃないって?」
秋斗さんの問いかけに、唯兄はご満悦で答える。
「じゃがいもが入ってないんだ!」
「「「「じゃがいもが入ってない?」」」」
蒼兄と唯兄、ツカサ以外の声が重なる。
さらには四人の視線を一身に受け、「期待」が入り混じる視線に少し困ってしまう。
「えぇと、ハイ……じゃがいもは入っていません。……もしかして、じゃがいもがものすごく好きな方、いらっしゃいましたか?」
不安になってたずねてみたけれど、特段じゃがいもが好きという人がいるわけではなさそうだ。
そんなことにほっとしていると、
「質問ばかりしてるとご飯の用意が遅れるけど、いいの?」
ツカサの一言にみんな口を閉じ、一拍置いてから、
「そうよね……。邪魔しちゃ悪いわ」
雅さんは言いながら秋斗さんの右隣に座り、
「実際カレーを目にするまでのお楽しみというのもありますし……」
蔵元さんはもともと座っていた椅子の上で居住まいを正す。するとそれに習い、桃華さんも席に着いた。
テーブルに着いた四人はまるで親鳥を待つひな鳥のごとく、お鍋に視線を貼り付けている。
小さなガラスボウルによそわれたサラダがそれぞれの席にセッティングされると、
「翠葉お嬢様、ご飯はこちらに、デザートは冷蔵庫へ入れてございます。私どもは管理棟へ戻りますが、何かございましたらお呼びください。皆様が花火をされている間に片づけをいたしますので、その際にはご連絡いただけると幸いです」
「ありがとうございます」
辰治さんと鈴子さんは、「それでは失礼いたします」と一礼して星見荘をあとにした。
家庭用炊飯器より大き目の炊飯器を前に、私は困っていた。困った末に、
「ツカサ、ご飯の分量ってどのくらいだろう……?」
「人それぞれじゃない? 一般的な一人前をよそって、それ以上に食べたい人間はおかわりをすればいい」
「そっか……。じゃ、一人前……」
一人前……一人前……一人前――
家でカレーを食べるときは、それぞれが食べたい分量を自分でよそうため、一般的に言われる「一人前」がわかりかねた。
炊飯器を前に、蓋すら開けられずに呆然としていると、
「何固まってるの?」
ツカサにたずねられ、助けを乞うような目で見上げる羽目になる。
「あの、一人前ってどのくらい……?」
右手にしゃもじ、左手にプレートを持ってたずねると、その両方を取り上げられ、
「俺がやるから、翠はカレーをかけて」
「ごめん、ありがとう。でも私の分は――」
「翠の食べられる分量くらい把握してる。サラダとデザートもきちんと食べられるよう、考慮すればいいんだろ?」
「うん」
「じゃ、まずは年長者、蔵元さんの分から」
そう言って年功序列でライスが盛られたプレートを渡された。それにカレーをかけると、キッチン側に座っていた桃華さんがテーブルへの橋渡し役を買って出てくれる。
全員分のカレーがテーブルに並び、飲み物も一通り行き渡ると、食卓に着いたみんなが写る構図で写真を撮った。
その後、みんな揃っていただきます。
先ほどの四人がまじまじとカレーを観察するのに対し、蒼兄と唯兄、ツカサは普通にカレーを食べ始める。
「挽き肉カレーってこんな感じなんだ?」
「そうなの! お肉の甘みとかはしっかり出るのに、固形としてお肉が主張しないから私には食べやすくて」
「なるほどね……。それに、和風だしが染みた大根もおいしい」
右隣に座るツカサの言葉が嬉しくて返答しようとした瞬間、
「「ちょっとっっっ!」」
左隣に座る桃華さんと、正面に座る秋斗さんの声が割り込んだ。
「じゃがいものの代わりに何が入ってるのか考えてたのに、なんであんたがばらすのよっ」
「そーだそーだっ! 簾条さんが正しいっ!」
「……っていうか、普通に見ればわかるだろ?」
これは相手を煽ろうと思って口にした言葉ではない。これがツカサの平常運転なのだ。
でも、言われたふたりはバカにされたと受け取ってもおかしくはない言葉なわけで……。
「あぁ、わからなかったんだ? 観察力の欠片もないその目はいったいなんのためについているんだか」
そう、これこそがいやみであって、さっきのは思ったことをただ口にしただけ。
そして、ここまで言われて黙っている桃華さんでもない。脊髄反射で応戦する。
「そんなわけないでしょっ!? 見ればわかるわよっ! ただ、食べて確認するまで口にするのは控えようと思っていただけでっ――」
「それって、俺が食べた感想を口にしちゃいけない理由にはならないと思うし、もし仮に、先に簾条が感想を述べたとしても、俺は文句なんて言わないけど? どれだけ狭量なわけ?」
「っ――」
両隣で言い合いされるのはたまらない。
さらに畳み掛けようとしているツカサの左手を掴んで制し、
「ふたりともストップ……。このまま言い合いするならふたりのカレー、取り上げちゃうんだから……」
その言葉はてきめんで、ふたりは静かにカレーを食べ始めた。
年上陣は私たちのやり取りを見てクスクスと笑っている。そのうちのひとり、秋斗さんが、
「でもホント、このカレーおいしいよ! 俺、挽き肉のカレーって初めてだけど、こんなにおいしいんだね? あ、もちろん大根もおいしいよ!」
と感想を聞かせてくれた。
「えぇ、本当に。私も挽き肉のカレーは初めていただきます」
雅さんは上品に口元を押さえながら話す。すると蔵元さんが、
「うちの実家は挽き肉カレーがスタンダードでしたね。しかもこのカレーと同じ豚挽き肉。脂の甘みがいい感じに調和するんですよね。……しかし、大根を入れるとはどういう発想で……? お母様の作るカレーがじゃがいもではなく大根だったのですか?」
「いえ、母が作るカレーはごく一般的なじゃがいものカレーです」
「ならどうして?」
「じゃがいもが入ってるカレーが嫌いというわけではないのですが、じゃがいもが入っているカレーはすぐお腹がいっぱいになってしまうので、食べるのがちょっと苦手だったんです。それなら、じゃがいもの代わりになるお野菜はないかな、って考えるようになって、考え始めた翌日の夕飯がおでんで、そこからヒントを得て大根を入れてみることにしたんです」
少し恥ずかしく思いながら答えると、
「さすがは俺の妹っ! 着眼点が普通じゃないっしょ!」
胸を張って自慢する唯兄に、
「なんで唯が自慢するんだよ」
唯兄の向かいに座る蒼兄が突っ込む。すると、自然と食卓に笑いが生まれた。
「ねえねえ花火は? 花火はいつする? 今日やるんでしょ? 俺、ちゃんと陽だまり荘から花火持ってきたよっ?」
ウキウキした調子で新たなる話題を持ち出したのは唯兄。
秋斗さんや蔵元さん、蒼兄は少し呆れた感じで聞いているのに対し、雅さんと桃華さんは俄然やる気だった。
「ご飯食べてすぐだと翠葉がデザートを食べられないから、これを食べたらやるというのはどうでしょう?」
「桃華っちに賛成っ!」
「そうね……。でも翠葉さん、食休みはしなくても大丈夫?」
「はい。もともとデザートが食べられる分量しかよそっていないので、問題ないです」
「じゃ、デザートまで食べてからでも大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です」
「いいねっ! じゃ、デザート食べたあと、水辺でやろうっ!」
話がまとまると、
「翠葉ちゃん、おかわりちょうだい!」
正面に座る秋斗さんにプレートを差し出される。
それはもう、小学生がお母さんに「おかわりっ!」というような要領で。
あまりにも屈託のないそれに、私はクスリと笑みを零し、
「はい。どのくらい食べますか?」
「半人前くらいかな」
「了解です」
そう言って席を立とうとした瞬間、私の右隣に座っていたツカサが席を立ち、
「翠は食べてていい。俺がやる」
「でも――」
「半人前がどのくらいかわかるの?」
さっきツカサがよそっていた分量の半分くらい、という目安はついていたけれど、ツカサは自分でやるつもり満々で、秋斗さんのプレートとは別に、自分のプレートも手に持っていた。つまり――
「俺も追加で食べようと思ってたところだから」
「……じゃ、お願いしちゃおうかな」
そんな会話をしていると、秋斗さんが子どものように文句を言い出す。
「翠葉ちゃんによそってもらいたかったのにー。なんで司なんだよー」
「何か問題でも? 俺で不満なら自分でよそえ。翠はまだ食事中だ」
「ちぇー……。ケチらずカレーたっぷりかけろよな」
ツカサは無言で背を向ける。
「ちょっ、司くんっ!? いい子のお返事は?」
ツカサは肩越しに振り返ると、
「そんなものを俺に望むな」
秋斗さんの懇願の目を一言で一刀両断にし、黙々とライスをよそい始めた。
額の冷却シートを剥がし慌ててキッチンへ向かおうとすると、ツカサの長い手に阻まれた。
「確認」
何かと思えばツカサの手が額へ伸びてくる。
「さっきよりは全然いいな」
ツカサは自身の手によって体温確認をしたのだ。
「もぅ……スマホで確認できるでしょう……?」
「数値がわかっていても、心配は心配だから」
自分の手で触れてようやく安心できたのか、今度はキッチンへ行くよう送り出された。
「ツカサの過保護も困ったもんだよねぇ」
そんなふうに話しかけてきたのは秋斗さんだった。すると、
「どの口が言う?」
「どの口が言うんですか……」
すかさずツカサと蔵元さんの突込みが入る。でも、秋斗さんはそんなのものともせず、
「翠葉ちゃんの手料理食べるの久しぶりだから、ものすっごく楽しみにしてたんだ」
にこにこと笑ったまま私へ話しかけてくる。
この打たれ強さというか、スルー力……? どうやったら培えるんだろう……。
そんなことを考えつつ、
「手料理とは言っても市販のルーを使っているので、そこまで期待されるとちょっと困っちゃいます……」
「いやっ! リィのカレーはおいしいよ! まず、入ってるものが普通じゃない!」
リビングで主張したのは唯兄だった。
「へ? 入ってるものが普通じゃないって?」
秋斗さんの問いかけに、唯兄はご満悦で答える。
「じゃがいもが入ってないんだ!」
「「「「じゃがいもが入ってない?」」」」
蒼兄と唯兄、ツカサ以外の声が重なる。
さらには四人の視線を一身に受け、「期待」が入り混じる視線に少し困ってしまう。
「えぇと、ハイ……じゃがいもは入っていません。……もしかして、じゃがいもがものすごく好きな方、いらっしゃいましたか?」
不安になってたずねてみたけれど、特段じゃがいもが好きという人がいるわけではなさそうだ。
そんなことにほっとしていると、
「質問ばかりしてるとご飯の用意が遅れるけど、いいの?」
ツカサの一言にみんな口を閉じ、一拍置いてから、
「そうよね……。邪魔しちゃ悪いわ」
雅さんは言いながら秋斗さんの右隣に座り、
「実際カレーを目にするまでのお楽しみというのもありますし……」
蔵元さんはもともと座っていた椅子の上で居住まいを正す。するとそれに習い、桃華さんも席に着いた。
テーブルに着いた四人はまるで親鳥を待つひな鳥のごとく、お鍋に視線を貼り付けている。
小さなガラスボウルによそわれたサラダがそれぞれの席にセッティングされると、
「翠葉お嬢様、ご飯はこちらに、デザートは冷蔵庫へ入れてございます。私どもは管理棟へ戻りますが、何かございましたらお呼びください。皆様が花火をされている間に片づけをいたしますので、その際にはご連絡いただけると幸いです」
「ありがとうございます」
辰治さんと鈴子さんは、「それでは失礼いたします」と一礼して星見荘をあとにした。
家庭用炊飯器より大き目の炊飯器を前に、私は困っていた。困った末に、
「ツカサ、ご飯の分量ってどのくらいだろう……?」
「人それぞれじゃない? 一般的な一人前をよそって、それ以上に食べたい人間はおかわりをすればいい」
「そっか……。じゃ、一人前……」
一人前……一人前……一人前――
家でカレーを食べるときは、それぞれが食べたい分量を自分でよそうため、一般的に言われる「一人前」がわかりかねた。
炊飯器を前に、蓋すら開けられずに呆然としていると、
「何固まってるの?」
ツカサにたずねられ、助けを乞うような目で見上げる羽目になる。
「あの、一人前ってどのくらい……?」
右手にしゃもじ、左手にプレートを持ってたずねると、その両方を取り上げられ、
「俺がやるから、翠はカレーをかけて」
「ごめん、ありがとう。でも私の分は――」
「翠の食べられる分量くらい把握してる。サラダとデザートもきちんと食べられるよう、考慮すればいいんだろ?」
「うん」
「じゃ、まずは年長者、蔵元さんの分から」
そう言って年功序列でライスが盛られたプレートを渡された。それにカレーをかけると、キッチン側に座っていた桃華さんがテーブルへの橋渡し役を買って出てくれる。
全員分のカレーがテーブルに並び、飲み物も一通り行き渡ると、食卓に着いたみんなが写る構図で写真を撮った。
その後、みんな揃っていただきます。
先ほどの四人がまじまじとカレーを観察するのに対し、蒼兄と唯兄、ツカサは普通にカレーを食べ始める。
「挽き肉カレーってこんな感じなんだ?」
「そうなの! お肉の甘みとかはしっかり出るのに、固形としてお肉が主張しないから私には食べやすくて」
「なるほどね……。それに、和風だしが染みた大根もおいしい」
右隣に座るツカサの言葉が嬉しくて返答しようとした瞬間、
「「ちょっとっっっ!」」
左隣に座る桃華さんと、正面に座る秋斗さんの声が割り込んだ。
「じゃがいものの代わりに何が入ってるのか考えてたのに、なんであんたがばらすのよっ」
「そーだそーだっ! 簾条さんが正しいっ!」
「……っていうか、普通に見ればわかるだろ?」
これは相手を煽ろうと思って口にした言葉ではない。これがツカサの平常運転なのだ。
でも、言われたふたりはバカにされたと受け取ってもおかしくはない言葉なわけで……。
「あぁ、わからなかったんだ? 観察力の欠片もないその目はいったいなんのためについているんだか」
そう、これこそがいやみであって、さっきのは思ったことをただ口にしただけ。
そして、ここまで言われて黙っている桃華さんでもない。脊髄反射で応戦する。
「そんなわけないでしょっ!? 見ればわかるわよっ! ただ、食べて確認するまで口にするのは控えようと思っていただけでっ――」
「それって、俺が食べた感想を口にしちゃいけない理由にはならないと思うし、もし仮に、先に簾条が感想を述べたとしても、俺は文句なんて言わないけど? どれだけ狭量なわけ?」
「っ――」
両隣で言い合いされるのはたまらない。
さらに畳み掛けようとしているツカサの左手を掴んで制し、
「ふたりともストップ……。このまま言い合いするならふたりのカレー、取り上げちゃうんだから……」
その言葉はてきめんで、ふたりは静かにカレーを食べ始めた。
年上陣は私たちのやり取りを見てクスクスと笑っている。そのうちのひとり、秋斗さんが、
「でもホント、このカレーおいしいよ! 俺、挽き肉のカレーって初めてだけど、こんなにおいしいんだね? あ、もちろん大根もおいしいよ!」
と感想を聞かせてくれた。
「えぇ、本当に。私も挽き肉のカレーは初めていただきます」
雅さんは上品に口元を押さえながら話す。すると蔵元さんが、
「うちの実家は挽き肉カレーがスタンダードでしたね。しかもこのカレーと同じ豚挽き肉。脂の甘みがいい感じに調和するんですよね。……しかし、大根を入れるとはどういう発想で……? お母様の作るカレーがじゃがいもではなく大根だったのですか?」
「いえ、母が作るカレーはごく一般的なじゃがいものカレーです」
「ならどうして?」
「じゃがいもが入ってるカレーが嫌いというわけではないのですが、じゃがいもが入っているカレーはすぐお腹がいっぱいになってしまうので、食べるのがちょっと苦手だったんです。それなら、じゃがいもの代わりになるお野菜はないかな、って考えるようになって、考え始めた翌日の夕飯がおでんで、そこからヒントを得て大根を入れてみることにしたんです」
少し恥ずかしく思いながら答えると、
「さすがは俺の妹っ! 着眼点が普通じゃないっしょ!」
胸を張って自慢する唯兄に、
「なんで唯が自慢するんだよ」
唯兄の向かいに座る蒼兄が突っ込む。すると、自然と食卓に笑いが生まれた。
「ねえねえ花火は? 花火はいつする? 今日やるんでしょ? 俺、ちゃんと陽だまり荘から花火持ってきたよっ?」
ウキウキした調子で新たなる話題を持ち出したのは唯兄。
秋斗さんや蔵元さん、蒼兄は少し呆れた感じで聞いているのに対し、雅さんと桃華さんは俄然やる気だった。
「ご飯食べてすぐだと翠葉がデザートを食べられないから、これを食べたらやるというのはどうでしょう?」
「桃華っちに賛成っ!」
「そうね……。でも翠葉さん、食休みはしなくても大丈夫?」
「はい。もともとデザートが食べられる分量しかよそっていないので、問題ないです」
「じゃ、デザートまで食べてからでも大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です」
「いいねっ! じゃ、デザート食べたあと、水辺でやろうっ!」
話がまとまると、
「翠葉ちゃん、おかわりちょうだい!」
正面に座る秋斗さんにプレートを差し出される。
それはもう、小学生がお母さんに「おかわりっ!」というような要領で。
あまりにも屈託のないそれに、私はクスリと笑みを零し、
「はい。どのくらい食べますか?」
「半人前くらいかな」
「了解です」
そう言って席を立とうとした瞬間、私の右隣に座っていたツカサが席を立ち、
「翠は食べてていい。俺がやる」
「でも――」
「半人前がどのくらいかわかるの?」
さっきツカサがよそっていた分量の半分くらい、という目安はついていたけれど、ツカサは自分でやるつもり満々で、秋斗さんのプレートとは別に、自分のプレートも手に持っていた。つまり――
「俺も追加で食べようと思ってたところだから」
「……じゃ、お願いしちゃおうかな」
そんな会話をしていると、秋斗さんが子どものように文句を言い出す。
「翠葉ちゃんによそってもらいたかったのにー。なんで司なんだよー」
「何か問題でも? 俺で不満なら自分でよそえ。翠はまだ食事中だ」
「ちぇー……。ケチらずカレーたっぷりかけろよな」
ツカサは無言で背を向ける。
「ちょっ、司くんっ!? いい子のお返事は?」
ツカサは肩越しに振り返ると、
「そんなものを俺に望むな」
秋斗さんの懇願の目を一言で一刀両断にし、黙々とライスをよそい始めた。
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