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April
街中デート Side 司 06話
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男の嫉妬はちっとも格好よくないのに、翠の嫉妬はかわいく見えるとか、どれだけずるいんだ……。
そんなことを思いながらソファに座っていると、翠がリーフレットを持ってやってきた。
「何?」
「あのね、メガネのケースを選べるみたい。どれがいい?」
リーフレットには男が好みそうなダークトーンのケースが四種類、女が好みそうな色味のものが四種類、ユニセックスで選べそうなものが二種類あった。
ダークトーンのものをふたつ選ぶと、
「じゃ、伝えてくる!」
翠はワンピースの裾を翻してレジへ戻る。
翠が動くたびにふわふわと揺れる長い髪がかわいくて、あとで触りたい、などと思う。でも、触ったら触ったでその先を望みそうな自分がいて、今日は触れるまいと思うわけで……。
そんなことを悶々と考える俺のもとに、会計が終わった翠はまっすぐ戻ってきた。
「二十分くらいかかるみたい。店内にいるか、このソファに座っていてくださいって」
俺は少し悩んで、店内を見て待つことにした。
俺とは別行動で、翠も店内のメガネをあれこれ見て回っている。けれど、最後に戻ってくるのはスクエアフレームの売り場。
茶色い鼈甲柄を手に取った翠は緊張した面持ちで、それを装着した。
鏡の前に立つ翠の背後に立ち、
「何、メガネに興味持った?」
鏡に映りこんだ俺に驚いた翠は慌ててメガネを外し、ディスプレイラックへ戻してしまう。
「ちょっと気になっただけ……」
そう言った翠は、耳まで真っ赤になっていた。
なんとなく気持ちはわかる。
身につけ慣れていないものを身につけたとき、人に見られることがひどく恥ずかしく思えることがある。翠も、今はそんな気持ちなのだろう。さらには、そそくさと売り場を離れようとするから、
「こっち」
翠の手を掴んで対角線上にある売り場まで連れて行く。
「翠がかけるならオーバルだと思う」
翠が俺のメガネを選んでいるとき、俺も翠に似合いそうなメガネを探していた。
翠はスクエアよりは断然オーバル。ウェリントンやボストンでも似合うだろうけれど、オーバルのほうがより柔らかな印象になる気がする。
オーバルはオーバルでもテンプル近くがつり上がったものではなく、きれいに均衡のとれた楕円を描くタイプのもの。
「この形なら柔らかい印象で翠に似合うと思う」
「……そうかな?」
「かけてみれば?」
というより、かけているところを見てみたい……。
期待をこめて見守っていると、翠はゆっくりとした動作で、メガネを顔に近づけた。
メガネをかけた翠を見て、やっぱり茶色よりは赤だな、と思う。
「ほら、やっぱりこっちのほうが似合う」
「本当……?」
「似合わないものを似合うって言えるほど世辞はうまくない。……さっきは茶色を見てたみたいだけど、赤のほうが翠の肌に映えると思う」
「そうかな……?」
翠は茶色いフレームのメガネを見てから鏡に映る自分をもう一度確認する。
「翠もドライブ用にブルーライトカットメガネかければ? ドライブに出かけたり、海に行くと日光がつらいって言ってただろ?」
「うん……」
「プレゼントしようか?」
「えっ!? いいっ! 買うなら自分で買うっ」
「少し早いけど、誕生日プレゼントにどう?」
「え……でも、絵をおねだりしているし……」
「それ自体はさして金かかってないし」
「でも、ツカサの貴重な時間や技術をもらってる」
謙虚すぎるのは問題だな……。なんていうか、少しは俺にプレゼントされるのに慣れてくれればいいのに。
「……やっぱり、プレゼントさせて」
「いいよ、自分で買うっ!」
説き伏せるのが面倒で、メガネを取り上げレジへ向かう。と、レンズ交換の作業をしていた店員が、
「どうかなさいましたか?」
「このメガネ、UVカット仕様のブルーライトカットレンズに変えてください」
「かしこまりました。メガネケースはどちらになさいますか?」
「翠」
早く選べと目で伝えると、翠は唇を戦慄かせながらリーフレットに目を走らせ始めた。そして数秒で、
「じゃ、このリバティプリントの小花柄の……」
「かしこまりました。こちら、プレゼント用でよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「お会計は八千六百四十円になります」
俺が財布を取り出そうとすると、翠の手がそれを阻む。
「私が払うっ!」
「すーい……」
いい加減に観念しろ、と上から視線で抑え付けると、
「でも……」
了承しない翠は放置して、とっとと支払いを済ませることにした。
「では、あと二十分ほどお待ちいただけますでしょうか?」
「それ、あとで取りにくることは可能ですか?」
「かしこまりました。では、お名前とご連絡のつくお電話番号をこちらへご記入ください」
「はい」
名前と携帯番号の記入を済ませると、スタッフはもう一枚用紙を用意し始めていた。
「ふたりで来るので自分の連絡先のみでも?」
制するように声をかけると、
「かまいません。それではお待ちしております」
俺たちは店員に見送られてショップをあとにした。
エスカレーターへ向かいながら、
「そろそろ俺にプレゼントされるの慣れたら?」
それが難しいのか、翠は「ううう」と唸って見せた。
いつまでもこの話を引っ張るのもあれだし、
「翠のシャンプーとか売ってるのはどこ?」
「いつもは美容院で買うのだけど、今日はウィステリアデパートに入ってるバスグッズ屋さんへ行こうと思って」
それは幸い。
俺たちは一階まで下りると、隣に立つウィステリアデパートへ向かった。
一階のコンシェルジュカウンターの前を通ったとき、見知った顔がこちらを向いた。案内に出てこようとしたのを視線で制し、翠の案内で店内を進むと、翠は迷いなくエスカレーターで三階まで上がり、バスグッズショップを目指した。
ショップ入り口のラックにかけられていたショッピングバッグを手に取ると、翠は慣れた足取りで近くのディスプレイラックへ向かう。俺はそんな翠を確認しながら、別のものを探していた。
ルームウェアらしきものが置いてある一角へ行くと、目当てのものも近くの棚に陳列されていた。
見本品としてハンガーにかけられているものの手触りを確認し、Sサイズを選んで手に取ると、翠のもとまで戻る。
背後からゆっくり近づくと、翠の頭が右に傾いた。
「どうかした?」
翠は少し驚いた感じでこちらを向く。
「頭、右に傾いてるけど?」
「……えぇと、洗顔フォームと化粧水も必要かなって考えて、でもそうすると、ドラッグストアへも行かなくちゃいけなくて……」
なんだ、そんなこと。
「なら、あとで駅前のドラッグストアへ行けばいい」
「付き合ってくれるの?」
「今日は翠の買い物に付き合うつもりで来てるから問題ない」
「ありがとう……」
翠はほわっとした感じの柔らかい笑顔を見せた。そして、俺の手に持っているものを目にして、
「バスローブ……?」
「翠の風呂上り用」
「えっ!?」
翠は一歩後ずさるほどに驚いて見せた。
どうしてそこまで驚く……? そもそも――
「シャワー浴びたあと、どうするつもりだったの? まさか、また洋服着て出てくるつもりだった?」
「えぇと……」
その様子から、何も考えてなかったんだろうな、と思う。
「服なんか着られたら、また脱がすのに時間かかりそうだし」
本音を零すと、翠は真っ赤になって俯いた。
「翠がバスタオル一枚で出てきてくれるなら買わないけど」
追い討ちをかけるように詰め寄ると、
「……ごめんなさい、バスローブがあったほうが嬉しいです……」
翠は蚊が鳴くような声で了承した。
「それとこっち」
翠の手を掴んでショップの一角、まるで食べ物か何かのようにラッピングされている入浴剤のコーナーへ連れて行く。
「翠もこういうの好き?」
「うん、好き。大好き!」
さすが、趣味がバスタイムというだけのことはあるか……。
ま、趣味が入浴でない人間だとしても、女子はたいていこういうものが好きなのかもしれない。
そんなことを考えながら売り場を見渡し、棚の上段に置かれた詰め合わせのセットに手を伸ばす。と、
「えっ!? 入浴剤まで買うのっ!?」
「来月栞さんの誕生日だろ? あの人、舌が肥えてるから食べ物をプレゼントするのはちょっと難しい。それなら、こういうのでもいいのかと思って」
翠は納得したらしく、
「それなら、私にも半分出させて? ふたりからのプレゼントにしよう?」
「了解」
俺たちはそれぞれのものを持ってレジへ向かった。
そんなことを思いながらソファに座っていると、翠がリーフレットを持ってやってきた。
「何?」
「あのね、メガネのケースを選べるみたい。どれがいい?」
リーフレットには男が好みそうなダークトーンのケースが四種類、女が好みそうな色味のものが四種類、ユニセックスで選べそうなものが二種類あった。
ダークトーンのものをふたつ選ぶと、
「じゃ、伝えてくる!」
翠はワンピースの裾を翻してレジへ戻る。
翠が動くたびにふわふわと揺れる長い髪がかわいくて、あとで触りたい、などと思う。でも、触ったら触ったでその先を望みそうな自分がいて、今日は触れるまいと思うわけで……。
そんなことを悶々と考える俺のもとに、会計が終わった翠はまっすぐ戻ってきた。
「二十分くらいかかるみたい。店内にいるか、このソファに座っていてくださいって」
俺は少し悩んで、店内を見て待つことにした。
俺とは別行動で、翠も店内のメガネをあれこれ見て回っている。けれど、最後に戻ってくるのはスクエアフレームの売り場。
茶色い鼈甲柄を手に取った翠は緊張した面持ちで、それを装着した。
鏡の前に立つ翠の背後に立ち、
「何、メガネに興味持った?」
鏡に映りこんだ俺に驚いた翠は慌ててメガネを外し、ディスプレイラックへ戻してしまう。
「ちょっと気になっただけ……」
そう言った翠は、耳まで真っ赤になっていた。
なんとなく気持ちはわかる。
身につけ慣れていないものを身につけたとき、人に見られることがひどく恥ずかしく思えることがある。翠も、今はそんな気持ちなのだろう。さらには、そそくさと売り場を離れようとするから、
「こっち」
翠の手を掴んで対角線上にある売り場まで連れて行く。
「翠がかけるならオーバルだと思う」
翠が俺のメガネを選んでいるとき、俺も翠に似合いそうなメガネを探していた。
翠はスクエアよりは断然オーバル。ウェリントンやボストンでも似合うだろうけれど、オーバルのほうがより柔らかな印象になる気がする。
オーバルはオーバルでもテンプル近くがつり上がったものではなく、きれいに均衡のとれた楕円を描くタイプのもの。
「この形なら柔らかい印象で翠に似合うと思う」
「……そうかな?」
「かけてみれば?」
というより、かけているところを見てみたい……。
期待をこめて見守っていると、翠はゆっくりとした動作で、メガネを顔に近づけた。
メガネをかけた翠を見て、やっぱり茶色よりは赤だな、と思う。
「ほら、やっぱりこっちのほうが似合う」
「本当……?」
「似合わないものを似合うって言えるほど世辞はうまくない。……さっきは茶色を見てたみたいだけど、赤のほうが翠の肌に映えると思う」
「そうかな……?」
翠は茶色いフレームのメガネを見てから鏡に映る自分をもう一度確認する。
「翠もドライブ用にブルーライトカットメガネかければ? ドライブに出かけたり、海に行くと日光がつらいって言ってただろ?」
「うん……」
「プレゼントしようか?」
「えっ!? いいっ! 買うなら自分で買うっ」
「少し早いけど、誕生日プレゼントにどう?」
「え……でも、絵をおねだりしているし……」
「それ自体はさして金かかってないし」
「でも、ツカサの貴重な時間や技術をもらってる」
謙虚すぎるのは問題だな……。なんていうか、少しは俺にプレゼントされるのに慣れてくれればいいのに。
「……やっぱり、プレゼントさせて」
「いいよ、自分で買うっ!」
説き伏せるのが面倒で、メガネを取り上げレジへ向かう。と、レンズ交換の作業をしていた店員が、
「どうかなさいましたか?」
「このメガネ、UVカット仕様のブルーライトカットレンズに変えてください」
「かしこまりました。メガネケースはどちらになさいますか?」
「翠」
早く選べと目で伝えると、翠は唇を戦慄かせながらリーフレットに目を走らせ始めた。そして数秒で、
「じゃ、このリバティプリントの小花柄の……」
「かしこまりました。こちら、プレゼント用でよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「お会計は八千六百四十円になります」
俺が財布を取り出そうとすると、翠の手がそれを阻む。
「私が払うっ!」
「すーい……」
いい加減に観念しろ、と上から視線で抑え付けると、
「でも……」
了承しない翠は放置して、とっとと支払いを済ませることにした。
「では、あと二十分ほどお待ちいただけますでしょうか?」
「それ、あとで取りにくることは可能ですか?」
「かしこまりました。では、お名前とご連絡のつくお電話番号をこちらへご記入ください」
「はい」
名前と携帯番号の記入を済ませると、スタッフはもう一枚用紙を用意し始めていた。
「ふたりで来るので自分の連絡先のみでも?」
制するように声をかけると、
「かまいません。それではお待ちしております」
俺たちは店員に見送られてショップをあとにした。
エスカレーターへ向かいながら、
「そろそろ俺にプレゼントされるの慣れたら?」
それが難しいのか、翠は「ううう」と唸って見せた。
いつまでもこの話を引っ張るのもあれだし、
「翠のシャンプーとか売ってるのはどこ?」
「いつもは美容院で買うのだけど、今日はウィステリアデパートに入ってるバスグッズ屋さんへ行こうと思って」
それは幸い。
俺たちは一階まで下りると、隣に立つウィステリアデパートへ向かった。
一階のコンシェルジュカウンターの前を通ったとき、見知った顔がこちらを向いた。案内に出てこようとしたのを視線で制し、翠の案内で店内を進むと、翠は迷いなくエスカレーターで三階まで上がり、バスグッズショップを目指した。
ショップ入り口のラックにかけられていたショッピングバッグを手に取ると、翠は慣れた足取りで近くのディスプレイラックへ向かう。俺はそんな翠を確認しながら、別のものを探していた。
ルームウェアらしきものが置いてある一角へ行くと、目当てのものも近くの棚に陳列されていた。
見本品としてハンガーにかけられているものの手触りを確認し、Sサイズを選んで手に取ると、翠のもとまで戻る。
背後からゆっくり近づくと、翠の頭が右に傾いた。
「どうかした?」
翠は少し驚いた感じでこちらを向く。
「頭、右に傾いてるけど?」
「……えぇと、洗顔フォームと化粧水も必要かなって考えて、でもそうすると、ドラッグストアへも行かなくちゃいけなくて……」
なんだ、そんなこと。
「なら、あとで駅前のドラッグストアへ行けばいい」
「付き合ってくれるの?」
「今日は翠の買い物に付き合うつもりで来てるから問題ない」
「ありがとう……」
翠はほわっとした感じの柔らかい笑顔を見せた。そして、俺の手に持っているものを目にして、
「バスローブ……?」
「翠の風呂上り用」
「えっ!?」
翠は一歩後ずさるほどに驚いて見せた。
どうしてそこまで驚く……? そもそも――
「シャワー浴びたあと、どうするつもりだったの? まさか、また洋服着て出てくるつもりだった?」
「えぇと……」
その様子から、何も考えてなかったんだろうな、と思う。
「服なんか着られたら、また脱がすのに時間かかりそうだし」
本音を零すと、翠は真っ赤になって俯いた。
「翠がバスタオル一枚で出てきてくれるなら買わないけど」
追い討ちをかけるように詰め寄ると、
「……ごめんなさい、バスローブがあったほうが嬉しいです……」
翠は蚊が鳴くような声で了承した。
「それとこっち」
翠の手を掴んでショップの一角、まるで食べ物か何かのようにラッピングされている入浴剤のコーナーへ連れて行く。
「翠もこういうの好き?」
「うん、好き。大好き!」
さすが、趣味がバスタイムというだけのことはあるか……。
ま、趣味が入浴でない人間だとしても、女子はたいていこういうものが好きなのかもしれない。
そんなことを考えながら売り場を見渡し、棚の上段に置かれた詰め合わせのセットに手を伸ばす。と、
「えっ!? 入浴剤まで買うのっ!?」
「来月栞さんの誕生日だろ? あの人、舌が肥えてるから食べ物をプレゼントするのはちょっと難しい。それなら、こういうのでもいいのかと思って」
翠は納得したらしく、
「それなら、私にも半分出させて? ふたりからのプレゼントにしよう?」
「了解」
俺たちはそれぞれのものを持ってレジへ向かった。
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