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葉野りるは

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April

街中デート Side 翠葉 08話

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 お店の入り口でツカサと合流したものの、なんだか気まずい……。
「おりものシート」なるものを発見できたことはとても喜ばしいのだけど、何もツカサと一緒のときじゃなくてもよかったと思う。
 それを言うなら、今日は素通りして、後日ひとりで来ればよかったのではないか、とも思うわけで……。
 若干後悔をしながらも、「おりものシート」と今後のことを想像し始めていた。
 ツカサと会うときにおりものシートを当てていたら、安心は安心だろう。でも、その場の雰囲気でエッチすることになったらどうしたらいいのか……。
 いくら気を許している相手とはいえ、ショーツにおりものシートがついているのを見られるのには抵抗がある。
 あ、でも……エッチする前にはシャワーを浴びさせてもらえる約束を取り付けたわけだから、その際に剥がせばいいのだろうか。
 進展した関係に、悩みは尽きない。
 こんな悩み、男性側にはないんだろうな、と思えば、それだけでもちょっと理不尽な気がしてきてしまう。
 悶々としていると、
「やっぱり後悔してたりする?」
 不意にツカサの声が聞こえてきて、一瞬何を言われているのかよくわからなかった。
 でも、「後悔」という言葉に昨日のことを言われているのだとすぐに気づく。
「えっ!? どうして? なんで? 後悔はしてないって話したでしょう?」
「さっき、もう恥ずかしい思いはしたくないって言った」
 さっき――あ……。
「それはワンピースを汚して恥ずかしい思いはいたくないっていう意味で――」
「なら、そんなの買わなくてもほかに対策はできるだろ?」
 えぇと、それはどういう意味だろう……。
「翠の身体がそういう反応をしたなら、すればいいだけのことじゃない?」
 あ、そいう意味……。
「で、でもっ、毎回ってわけにはいかないでしょうっ!?」
「なんで? うちで会ってるときならいつであっても問題ないと思うけど」
 真顔で言われるからたまらない。
「でも、毎回はちょっと――」
「……痛かったから、本当はもうしたくない?」
 その言葉に、ツカサが何を気にしているのかがわかる。
 昨日感じた痛みや恥ずかしさ、それらが原因で、もう私がエッチに応じなくなることを不安に思っているのだ。
 確かにもうやめたいと何度も思うくらいには痛かったし恥ずかしかった。でも、だからと言って、もう二度としたくないとかそんなことは考えてない。
 昨日だってそう伝えたし、「幸せ」ってちゃんと口にしたのに……。
 けどこれは、司がきちんと理解してくれるまで何度でも言葉にして伝えないと伝わらないこと――
「ツカサ、誤解……そんなこと、思ってない」
 しっかりと否定したい。でも、恥ずかしさから、声はずいぶんと小さなものになってしまった。
 それこそ、駅前の雑踏にかき消されてしまうほどの声音。
 それでも、私の口元を見ていたツカサは一言も漏らさず読み取ってくれていた。
「ならいいけど……」
 誤解が解けたことにほっとしていると、
「俺は毎日でもいいけど?」
 追加された一言に唖然とする。
 あれを毎日っ!?
 それはちょっと私には刺激が強すぎる……。
 男性側はそんなことないのかな……。
 さすがに訊くに訊けず、私は黙り込む。
 何よりも、
「ツカサ……ここ、外……こういうお話はおうちでしよう? 私、恥ずかしくて死んじゃいそう……」
 その言葉に、ツカサは了承の意味をこめたのか、つないでいた私の右手にほんの少し力をこめられた。

 駅ビルのメガネ屋さんに戻ってメガネを受け取ると、駅ビルの地下にある食料品売り場へ向かった。
 一番最初に野菜売り場でキャベツと山芋、長ネギをゲットする。その後、お好み焼き用のソースと鰹節、青海苔、桜海老、揚げ玉、紅しょうがをカゴに追加すると、粉もの売り場でお好み焼き粉手に取る。
 カゴに入れようとしたら、ツカサが袋を手に取った。
 どうやら作り方を読んでいるようだ。
 そんなツカサの手を引いて茶葉売り場へ来ると、ごく一般的に売られているミントティーをカゴに追加する。
「あとは、卵とお肉とイカ素麺!」
 口にして歩き出そうとしたとき、ツカサから手を引っ張られた。
「翠、この粉の中に山芋も入っているらしい。山芋は不要って書いてある」
「それでもっ! 山芋は入れたほうが断然おいしいのよ!」
「そうなの?」
「そうなのっ!」
 鮮魚コーナーへ行ってふと思う。
 いつも入れるのはイカ素麺だけど、お好み焼きを作る日はツカサの誕生日。加えて、ツカサはシーフードが大好きだ。
「ね、ツカサ。うちではいつもイカ素麺を入れるのだけど、ツカサのお誕生日だからシーフードミックスにする?」
「そんなこともできるの?」
「できると思う。ただ、解凍したシーフードミックスを入れたら水分がどう影響するか――」
 粉で調整はできる気はするけれど……。
「それなら、今回はイカ素麺で。追々シーフードミックスでも作れるか試してみよう」
「うん!」
 その後、豚肉と卵をカゴに追加してレジへ向かうと、ツカサがバッグからお財布を取り出そうとしているところだった。
「ちょっと待ってっ! これ、私からの誕生日プレゼントなのだから、私が払うに決まっているでしょう?」
「……じゃ、ごちそうさま」
「それは食べたあとに言ってね?」
 そう言うと、ツカサはレジの先へと逃れた。

 駅ビルを出ると、人の行き交いが先ほどよりも多くなっていた。
 時計を見ればすでに五時を回っている。
 始発駅だからバスは待たずとも来るだろう。でも、この時間帯だと道が少し混んでいるかもしれない。
 六時までに帰宅できるだろうか……。
 そんなことを考えていると、ツカサに手を引かれた。
「え? ツカサ、バス停はこっち……」
「一般車レーンに俺の警護班を待たせてある」
「そうなの……?」
「翠が会計している間に連絡を入れた。この時間だと、バスは一、二本待たないと座れない。それに、結構な荷物だろ?」
 そう言われてみれば……。
 私の手にはボディーソープなどが入った手提げ袋と、ツカサの誕生日プレゼントに買ったメガネ。それから、ドラッグストアで買ったあれこれが入ったビニール袋。そしてツカサの手には、今買ったばかりの食材にメガネ。それから、栞さんの誕生日プレゼントとバスローブが入った手提げ袋。
 ふたりとも片手で持つのがやっとの荷物を手にしていた。
「本当だ……」
 思わず笑みが零れる。
「じゃ、今日は警護班の人に甘えちゃおう」
 そう言うと、
「あの人たちも近接警護のほうが護りやすいはずだから、大歓迎だと思う」
「そうなのね」
 そんな話をしながらバスターミナルの一画、一般車レーンへと向かうと、白い車の前に高遠さんが出て待っていてくれた。
「お帰りなさいませ。たくさんお買い物なさいましたね」
 朗らかに声をかけられ、持ってきた荷物すべてを引き受けトランクへ積んでくれる。
 私たちが車に乗り込むと、
「まださほど渋滞しておりませんので、三十分過ぎにはマンションに着くでしょう」
 そう言うと、乗り心地のいい車はゆっくりと発進し、テールランプの赤い光が溢れる街を走り始めた。

「翠、マンションに着いた」
「ん……」
「起きて。起きなかったら横抱きでゲストルームに帰還することになるけど?」
 ……横抱きで、ゲストルームに、帰還……? え……? 横抱き?
 はっとして目を開ける。と、呆れ顔のツカサが視界に入り、クスクスと笑う高遠さんの声が耳に届いた。
「よくお休みでしたね」
「きゃっ、ごめんなさいっ」
 場所も考えずにうっかり立ち上がろうとして、車の天井に頭をぶつける。と、
「問題ないから、とりあえず落ち着け……」
「あっ、はい……」
「俺の誕生日プレゼントのメガネもうちに置いておいていいんだろ?」
「え? あ、うん……」
 でも、なんでそんなことを訊かれるのか――
 疑問に思っていると、
「高遠さん、荷物は全部うちへ運んでください」
「かしこまりました」
「え? 自分たちで運べばいいんじゃないの?」
「翠はまっすぐゲストルームへ帰るべき」
「……どうして?」
「手が熱い」
「手……?」
「スマホ出して」
 言われてスマホを取り出すと、ディスプレイには微熱を知らせる数字が並んでいた。
「あ……」
「なんのためのバングルなんだか……。自分の発熱くらい気づけるようになれ」
「ごめんなさい……」
「別に謝る必要はないけど、明日になっても熱が下らないようなら、一日ゆっくり休養をとること」
「はい……。じゃ、明日はどちらにしても一度連絡入れるね?」
「そうして」
 その後、私はきっちりとゲストルームの前まで送り届けられ、そこでツカサと別れた。
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