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April
キスのその先 Side 翠葉 05話
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未知の感覚に呑み込まれてしまうそれがひどく怖かった。それは筋痛症の痛みに引きずり込まれる感覚とはまったく別のもので――
今もその感覚には戸惑いがあるけれど、痛かったわけではないし、どちらかというなら気持ちがよかったのではないかとさえ思う。
でも今は、身体にまったく力が入らないし、運動をしたあとのように息が切れていて少しつらい。
ツカサは私の隣に横たわると首の下に腕を通し、優しく抱きしめてくれた。
でも、至近距離でじっと見られていることが恥ずかしくて、
「恥ずかしいから見ないで……」
すぐ近くにあったツカサの胸に額を押しつける。と、ツカサは何を言うこともなく抱きしめてくれた。
数分して呼吸が整ってくると、
「翠、具合は……?」
うかがうように顔を見られる。
「大丈夫……」
「大丈夫禁止」
未だ力は入らない。けれども呼吸の苦しい感じは和らいだし、そのほかといえば――
「身体は重だるいけれど、具合が悪いわけじゃないよ」
「本当に?」
「本当に」
すると、ツカサは首下から腕を引き抜き身体を起こした。
「シャワー浴びてくる」
その言葉を聞いて、ほぼ反射的にツカサに手を伸ばした。
シャツの裾を掴んで引き止めたけれど、何をどう言えばいいものか……。
心行くまでキスをしたあと、ツカサはシャワーを浴びに行く。それは、興奮した己を鎮めに行くためであることは知っているけれど、内容はよく知らない。
「どうかした?」
振り返ったツカサにたずねられても続ける言葉が出てこない。
「あの……」
興奮しているものを鎮めるためにはどうするのだろう……。
それは気持ちがいいものか、それともまったくの別物なのか……。
シャツを掴んだまま考えていたら、
「悪い、あとにしてもらっていい?」
「あのっ――シャワーって……シャワーって……シャワーを浴びたら、ツカサは気持ちよくなれるのっ?」
目を見開かれ、自分が口走ったことが異様に恥ずかしく思えた。でも、ずっと気になっていたことでもあって――
「どうしたら……どうしたらツカサは気持ちよくなるの?」
ツカサはまじまじと私を見ては、困惑した表情を見せる。
呼吸まで止まってしまったのではないか――
そんな不安に声をかけると、ツカサはわずかに口を開き、息を吸い込んだように見えた。
「……シャワーを浴びて気持ちよくなるわけじゃない。さっきの翠と同じで、男性器を手で扱く。そしたら気持ちよくなる」
「さっき」という言葉だけでも身体が熱くなる。
初めてのことだしものすごく恥ずかしかった。今でも恥ずかしい。
でもあれは、「気持ちがよかった」のだと思う。だからもし、ツカサのことも気持ちよくする方法があるのなら、自分がしてあげたいと思う。させてほしいと思う。
そう思う気持ちとは裏腹に、声に出すのはものすごく勇気がいる。思わず躊躇ってしまう程度には。
……心の中で数を数え、十を数え終わったら言おう。
一、二、三、四、五、六、七、八……九……十――
ツカサの目を見つめ、
「それは私にもできること……?」
またしてもツカサは表情を固まらせた。
「ツカサ、教えて……?」
ツカサは困ったように口元を手で覆い、顔を背ける。
私に視線を戻すと、
「翠の手でも、できる」
「けど」という言葉が続きそうで、
「それなら、私に、やらせて……?」
まじまじと見られて少し困る。
こういうこと、女の子から言うものじゃないのかな……。
でも、申し訳ないくらい何もわからないのだ。
不安に思いながら、
「場所……バスルームのほうがいいの?」
「いや……部屋でも大丈夫だけど……」
ならばなぜ、いつもバスルームへ行くのだろう。
そんな疑問を抱いている私を、ツカサは未だに信じられないような面持ちで見下ろしている。
もしかして、とっても難しいことなのだろうか。
「翠」
「何……?」
「手でするって……つまり、これを手にすることになるんだけど……」
ツカサは自分の局部を指差した。
「……うん」
私はちらりと見て視線を落とす。
ぴったりとしたジーパンの一部が盛り上がっていて、ちょっときつそうに見えた。
もしかしたら、きつそうに見えるだけではなく、きついのだろうか……。
「……脱いでくれないと触れない」
小さな声で口にすると、ツカサがジーパンを脱ぎ始めた。
ツカサはジーパンをベッドの足元にかけると、私のすぐ近くに腰掛ける。そして、
「……この上から触れる?」
心配そうな声音でたずねられた。
再度視線をそちらへ向けると、トランクス越しに盛り上がっている部分は、ジーパンをはいていたときよりもひとまわり大きく見えた。
じっと見ていられなくて視線を逸らすと、ツカサのため息と共に、ポン、と頭に手が乗せられる。
「無理しなくていい。シャワー浴びてくる」
「ごめんっ……大丈夫だからっ」
ツカサの手を両手で掴むと、哀れみのような目を向けられた。
自分から言い出したことなのに、あまりにも情けなさ過ぎる。
勇気を振り絞り、右手を局部へ伸ばす。
布越しに触れたものは、以前模型で触ったもののように硬かった。
石のように硬質というわけではなく、筋肉のような硬さ。
先端にそっと触れ、付け根の方へ指を滑らす。
果たしてこれでいいのか……。
「これでいいの……? 気持ちいい……?」
ツカサの顔を覗き込むと、一瞬で唇を奪われた。
舌を差し込まれそうになって、それを拒絶する。と、
「なんで……」
「キスされたら集中できなくなる……」
ツカサは何か言いたそうだったけれど、私の気持ちを汲んでくれた。
「さするだけでいいの……?」
「……とりあえずは」
ツカサは目を閉じ感覚を研ぎ澄まそうとしているようだ。
何度も何度もさすっていると、しだいにトランクスの一部が濡れ始めた。
こういう現象は男女変わらないものなのかな……。
気持ちがいいと分泌物が出るものなの? それとも、性的興奮に組するもの?
「……気持ちいい?」
ツカサは閉じていた目を開き、
「気持ちいいよ。……直に触ってもらってもいい?」
私はコクリと頷いた。
トランクスから姿を現したそれは、私が触れたことのある模型と感触こそ同じなものの、色はまったく違った。
私が触れたことのあるものは乳白色をしていたのに対し、目の前にあるそれは充血した目の粘膜のように赤く、青い血管がそこかしこに走っている。
なんていうか、とても生々しい。
目を逸らせずにいると、ツカサはベッドヘッドの引き出しから何かを取り出した。
ツカサが用意したものはコンドームだった。
それを器用に身に着けると、ツカサに手を掴まれ局部へとあてがわれる。
さっきと同じようにさすればいいのだろうか。
不安に思っていると、ツカサは色々なことを教えてくれた。
どのくらいの強さで握ればいいのか、どこに触れたら、どんなふうに触れたら気持ちがいいのか、扱き方までひとつひとつ丁寧に。
言われたとおりに扱き始めると、ツカサの呼吸がしだいにつらそうな息遣いへと変わっていき、それからしばらくすると触れていたものがビクビクと大きく震えた。
まるで痙攣しているようなそれに、びっくりして手を引っ込める。
「これで、よかった……?」
不安に思いながらたずねると、少し荒っぽく口付けられた。
その唇はとても熱く、力強さを感じるキス。
「気持ちよかった。ありがとう」
その言葉にほっとする。
よかった……。お返し、することができた――
今もその感覚には戸惑いがあるけれど、痛かったわけではないし、どちらかというなら気持ちがよかったのではないかとさえ思う。
でも今は、身体にまったく力が入らないし、運動をしたあとのように息が切れていて少しつらい。
ツカサは私の隣に横たわると首の下に腕を通し、優しく抱きしめてくれた。
でも、至近距離でじっと見られていることが恥ずかしくて、
「恥ずかしいから見ないで……」
すぐ近くにあったツカサの胸に額を押しつける。と、ツカサは何を言うこともなく抱きしめてくれた。
数分して呼吸が整ってくると、
「翠、具合は……?」
うかがうように顔を見られる。
「大丈夫……」
「大丈夫禁止」
未だ力は入らない。けれども呼吸の苦しい感じは和らいだし、そのほかといえば――
「身体は重だるいけれど、具合が悪いわけじゃないよ」
「本当に?」
「本当に」
すると、ツカサは首下から腕を引き抜き身体を起こした。
「シャワー浴びてくる」
その言葉を聞いて、ほぼ反射的にツカサに手を伸ばした。
シャツの裾を掴んで引き止めたけれど、何をどう言えばいいものか……。
心行くまでキスをしたあと、ツカサはシャワーを浴びに行く。それは、興奮した己を鎮めに行くためであることは知っているけれど、内容はよく知らない。
「どうかした?」
振り返ったツカサにたずねられても続ける言葉が出てこない。
「あの……」
興奮しているものを鎮めるためにはどうするのだろう……。
それは気持ちがいいものか、それともまったくの別物なのか……。
シャツを掴んだまま考えていたら、
「悪い、あとにしてもらっていい?」
「あのっ――シャワーって……シャワーって……シャワーを浴びたら、ツカサは気持ちよくなれるのっ?」
目を見開かれ、自分が口走ったことが異様に恥ずかしく思えた。でも、ずっと気になっていたことでもあって――
「どうしたら……どうしたらツカサは気持ちよくなるの?」
ツカサはまじまじと私を見ては、困惑した表情を見せる。
呼吸まで止まってしまったのではないか――
そんな不安に声をかけると、ツカサはわずかに口を開き、息を吸い込んだように見えた。
「……シャワーを浴びて気持ちよくなるわけじゃない。さっきの翠と同じで、男性器を手で扱く。そしたら気持ちよくなる」
「さっき」という言葉だけでも身体が熱くなる。
初めてのことだしものすごく恥ずかしかった。今でも恥ずかしい。
でもあれは、「気持ちがよかった」のだと思う。だからもし、ツカサのことも気持ちよくする方法があるのなら、自分がしてあげたいと思う。させてほしいと思う。
そう思う気持ちとは裏腹に、声に出すのはものすごく勇気がいる。思わず躊躇ってしまう程度には。
……心の中で数を数え、十を数え終わったら言おう。
一、二、三、四、五、六、七、八……九……十――
ツカサの目を見つめ、
「それは私にもできること……?」
またしてもツカサは表情を固まらせた。
「ツカサ、教えて……?」
ツカサは困ったように口元を手で覆い、顔を背ける。
私に視線を戻すと、
「翠の手でも、できる」
「けど」という言葉が続きそうで、
「それなら、私に、やらせて……?」
まじまじと見られて少し困る。
こういうこと、女の子から言うものじゃないのかな……。
でも、申し訳ないくらい何もわからないのだ。
不安に思いながら、
「場所……バスルームのほうがいいの?」
「いや……部屋でも大丈夫だけど……」
ならばなぜ、いつもバスルームへ行くのだろう。
そんな疑問を抱いている私を、ツカサは未だに信じられないような面持ちで見下ろしている。
もしかして、とっても難しいことなのだろうか。
「翠」
「何……?」
「手でするって……つまり、これを手にすることになるんだけど……」
ツカサは自分の局部を指差した。
「……うん」
私はちらりと見て視線を落とす。
ぴったりとしたジーパンの一部が盛り上がっていて、ちょっときつそうに見えた。
もしかしたら、きつそうに見えるだけではなく、きついのだろうか……。
「……脱いでくれないと触れない」
小さな声で口にすると、ツカサがジーパンを脱ぎ始めた。
ツカサはジーパンをベッドの足元にかけると、私のすぐ近くに腰掛ける。そして、
「……この上から触れる?」
心配そうな声音でたずねられた。
再度視線をそちらへ向けると、トランクス越しに盛り上がっている部分は、ジーパンをはいていたときよりもひとまわり大きく見えた。
じっと見ていられなくて視線を逸らすと、ツカサのため息と共に、ポン、と頭に手が乗せられる。
「無理しなくていい。シャワー浴びてくる」
「ごめんっ……大丈夫だからっ」
ツカサの手を両手で掴むと、哀れみのような目を向けられた。
自分から言い出したことなのに、あまりにも情けなさ過ぎる。
勇気を振り絞り、右手を局部へ伸ばす。
布越しに触れたものは、以前模型で触ったもののように硬かった。
石のように硬質というわけではなく、筋肉のような硬さ。
先端にそっと触れ、付け根の方へ指を滑らす。
果たしてこれでいいのか……。
「これでいいの……? 気持ちいい……?」
ツカサの顔を覗き込むと、一瞬で唇を奪われた。
舌を差し込まれそうになって、それを拒絶する。と、
「なんで……」
「キスされたら集中できなくなる……」
ツカサは何か言いたそうだったけれど、私の気持ちを汲んでくれた。
「さするだけでいいの……?」
「……とりあえずは」
ツカサは目を閉じ感覚を研ぎ澄まそうとしているようだ。
何度も何度もさすっていると、しだいにトランクスの一部が濡れ始めた。
こういう現象は男女変わらないものなのかな……。
気持ちがいいと分泌物が出るものなの? それとも、性的興奮に組するもの?
「……気持ちいい?」
ツカサは閉じていた目を開き、
「気持ちいいよ。……直に触ってもらってもいい?」
私はコクリと頷いた。
トランクスから姿を現したそれは、私が触れたことのある模型と感触こそ同じなものの、色はまったく違った。
私が触れたことのあるものは乳白色をしていたのに対し、目の前にあるそれは充血した目の粘膜のように赤く、青い血管がそこかしこに走っている。
なんていうか、とても生々しい。
目を逸らせずにいると、ツカサはベッドヘッドの引き出しから何かを取り出した。
ツカサが用意したものはコンドームだった。
それを器用に身に着けると、ツカサに手を掴まれ局部へとあてがわれる。
さっきと同じようにさすればいいのだろうか。
不安に思っていると、ツカサは色々なことを教えてくれた。
どのくらいの強さで握ればいいのか、どこに触れたら、どんなふうに触れたら気持ちがいいのか、扱き方までひとつひとつ丁寧に。
言われたとおりに扱き始めると、ツカサの呼吸がしだいにつらそうな息遣いへと変わっていき、それからしばらくすると触れていたものがビクビクと大きく震えた。
まるで痙攣しているようなそれに、びっくりして手を引っ込める。
「これで、よかった……?」
不安に思いながらたずねると、少し荒っぽく口付けられた。
その唇はとても熱く、力強さを感じるキス。
「気持ちよかった。ありがとう」
その言葉にほっとする。
よかった……。お返し、することができた――
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