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第10章 アレサレム戦争編

147話 十剣 VS 勇者 〝邂逅〟

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 4倍もの圧倒的とも言える数の差を誇っておきながら、王国軍が帝国軍に押されているその姿は、目していたが形容し難い感情を抱く光景と言える。

 王国兵と帝国兵の実力、連携の差は確かにある。
 しかし、それだけでは決して説明のつかない現実でもあった。
 そんな理解し難い状況の原因を最も正確に実感しているのは、最前線で帝国兵と対峙する王国兵達に他ならない。

「くそっ、どうなってやがるっ!?」

 そして、その奇異な現象は、若き将軍によって限界を超えて高まった王国軍の士気を徐々に削ぎ、恐怖が蓄積されて行く。
 そして……

「こ、この化け物共めぇっ!!」

 1人の若い兵士、今回が初陣だろうと思われる青年の叫び声によって、王国軍の膨れ上がった恐怖の感情がついに……爆発した。

 4倍の兵数差を誇る王国軍が帝国軍に押し返された理由。
 それは、攻撃が通じない事。

 個々の実力差はあろうとも所詮は多勢に無勢、多人数に周囲を囲まれてトドメを刺される事だろう。
 しかし、何故かそのトドメが届かない。

 比喩でもなんでもなく、致命傷に至るであろう一撃は突如として現れる結界に弾かれるのだ。
 王国兵の不幸はそれだけに止まらない。

 致命傷に至らない攻撃でも、ダメージを蓄積させれば帝国兵を無力化する事は可能だ。
 しかし、それすらも僅かな時間と共に回復されてしまう。

 どれだけ攻撃しても倒れる事なく立ち上がってくる。
 まさしくゾンビパニックと言える状況に、4倍もの数で波状攻撃を仕掛けた王国軍は敗北を喫した。

 攻撃の壁。
 その一部が崩れてしまえば、個々の力、軍隊の連携そして異常な回復力を備える帝国軍に抗う術もなく、一気に王国軍は瓦解した。

 情勢は変わった。
 その事はこの場にいた誰もが理解した、だからこそ彼らが動く。
 今やアレサレム王国のシンボルであり、最高戦力となった勇者達が。

「ここからは、俺たちが戦わせてもらうとしよう」

 最前線のど真ん中。
 何処からとも無くそんな声が聞こえた瞬間、王国軍の眼前に迫った帝国の兵士たちが地面に倒れ伏す。

 乱戦の渦中に突如として姿を現したのは、17人の勇者達。
 そして、その先頭に立つのはこの状況を作り出している勇者達のリーダー、稲垣 涼太。

「ゆ、勇者様達だ!」

「これで我らに敗北は無いぞっ!!」

 戦場に姿を見せた勇者達に。
 そして地に這いつくばる帝国兵の姿に、絶望に染まっていた王国兵達の顔に笑顔が浮かぶ。

「王国軍の皆さんは一度、砦まで撤退して体勢を整えて下さい。
 殿は俺達が務めます」

「で、ですが、それでは皆様が……」

 稲垣の出した指示に、偶然近くにいた第二軍団の指揮官が問い返す。

「心配はいりません。
 私達は大丈夫です」

「そうです。
 帝国の十剣は2人で1万の軍勢を相手取ったんです、我々も負けていられませんしね」

 そんな指揮官に雛森 茜と鈴木 賢弥の2人は余裕のある笑みを見せる。
 いや、2人だけで無く。
 この場にいる勇者17人、全員が余裕を含んだ笑顔を浮かべる。

「それに、十剣はもう既に限界でしょう。
 いくら帝国軍と言えど一兵卒程度、私達の敵ではありません」

「まっ、そう言う訳だから。
 気にせずに撤退してくれて良いよ?」

 双葉姉妹のその言葉は勇者達全員の考えでもあった。
 十剣と言う自分達と同等かそれ以上の脅威を欠いた、今の帝国軍など自分達の敵では無いと。

「ははは……皆んなに全部言われちゃったね。
 けどまぁ、十剣を欠いた帝国軍に遅れを取るつもりは……」

「それは心外だね」

 他の者達に言いたい事を言われてしまい苦笑いを浮かべる稲垣の言葉を、1人の男の声が遮った。
 勇者達17人全員が、弾かれたように背後を振り向くと、そこには……

「帝国軍が何を欠いたと?」

 ニッコリと微笑みを浮かべる金髪碧目の青年が、4人の人物と共に立っていた。

「あ、貴方は……?」

 そう聞いておいて、稲垣は自身の表情が引きつっている事を自覚する。
 青年と共に立つ2人は、先ほど王国兵1万を葬り去った赤髪の男と薄い青髪の美女に他ならない。
 それが意味する事はただ一つ、即ち……

「おっと、これは失礼。
 これでも結構顔が知れている方でしてね、自惚れていたようです。
 初めまして、私の名はユリウス。
 皇帝陛下より帝国十剣、一ノ剣が剣聖の称号を授かっている者です」
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