上 下
86 / 375
第6章 フェーニル王国編

86話 見届けなければなりません

しおりを挟む
 しばらく唸っていたイヴァル王でしたが……

『今このフェーニルに来ているのは僕たちだけですから、この場にいる者であればすきな者をイヴァル王に選ばせてあげますよ?』

 と言う僕の言葉で結局賭けを承諾。
 やるなら早いほうがいいと言う事になり、今はお城にある騎士団の訓練場を見渡せる一室に移動したわけなのですが……

「お嬢様、我々は基本お嬢様のご意向に従います。
 ですが、今回のようなご自身を蔑ろにするような事はお控え下さい」

「うぅ、だって……」

「だって、じゃありません!」

 僕は今、部屋に備え付けられているソファーに座らされてお説教を受けています。
 何時もあんなに優しいコレールが怖いです。

「よろしいですね?」

「はい…ごめんなさい」

 コレールの有無を言わさぬ様子に素直に頷くしかありません。
 これからはコレールを怒らせないようにしましょう……できるだけ。

「まぁまぁ、お嬢も反省してるみてぇだし、もう良いじゃねぇか」

 リュグズール!貴女は女神ですかっ!?

「はぁ、わかりました。
 元を辿ればあの場で冷静さを欠いた我々の責任ですからね。
 ですが、これからはもっとご自身を大切にしてください」

「わかりました」

 今にして思えば、僕を守ってくれているコレール達からすれば確かに僕の行動は軽率でした……
 よかれと思ってやったのに、コレール達に迷惑をかけてしまいました。

「お、お嬢様、そんなに落ち込まないで下さい!」

「お嬢様、ほら尻尾ですよ?」

「ノア!シア!抜け駆けとは卑怯ですよ!」

 尻尾…!
 こ、この誘惑には抗えません、何せノアとシアの尻尾はもふもふであったかくて、最高の一言ですからね!!

 フラ~っと2人の尻尾に収まった僕を見てメルヴィーが絶望的な表情になってしまいました。
 でも、こればかりは仕方ありません。
 僕にはどうしても、この誘惑には抗えそうにありませんからね…

「ふふ、良かったですねルーミエルお嬢様」

 ノアとシアをもふってご満悦な僕にアヴァリスが優しい目で微笑みます。
 よかった、アヴァリスは怒ってないようです、安心しました。

「それにしてもお嬢が自分からあそこまで言うなんて珍しいよな。
 お嬢の目的は?」

「確かに気になるね。
 なんか悪巧みしてるって感じだったよ?」

「いいところをついてきますねリュグズールは、あとエンヴィー、悪巧みっていうのは余計です。
 う~ん、そうですね。まだ内緒です」

 この決闘が終わった後、全員が揃っている時に説明することにしましょう。
 これは断じて二回説明するのが面倒とか、今はもふってたいからではありません。

 それにしても、この場にオルグイユが居なくて命拾いしました。
 オルグイユがいれば、コレールと2人でもっと恐ろしい事に……


「どうやら始まるみたいですよ。
 お二人の決闘」

 オルグイユがここに居ない理由。
 それは選んでしまったから、あの時あの場にいた者の中で最も苛烈な吸血鬼の支配者を。

 アヴァリスの言葉で訓練場の方に視線を向けると、そこにいるのは2人の人物。

 方や白銀の鎧を身に纏いその腰には見事な鞘の上からでも業物とわかる長剣を携えた騎士。
 方や光り輝く黄金の髪に赤い瞳をした防具どころか武器さえ手にしていない美女。

 今からこの2人が決闘を行うと言うと、誰もが耳をそして自身の目を疑う事でしょう。

 ふと、少しだけ視線を上げると、僕たちとは反対側の部屋にるイヴァル王と目が合いました。
 彼の目にあるのは勝利を確信した色のみ。
 一切これから始まる決闘に緊張している様子がありません。

 まぁ、大方イヴァル王は、僕たちがお金にものをいわせて揃えた武具を使うと考えていたのでしょう。
 そうしたらオルグイユが武器も持たずに出てきたので、武具の用意が間に合わなかったとでも思っているのでしょうね。

 イヴァル王から視線を切り、後ろのみんなに振り返ります。
 イヴァル王がどう思っていようとも関係ありませんからね。
 僕達は僕達がしなければならない事をするとしましょう。

「では、気を張っていきましょう」

 僕の言葉にみんなが一斉に頷きます。
 いつもは寝ているフェルもいつになく真剣な顔で頷きましたから事の重大さがわかるでしょう。

 僕たちは皆んな訓練場に出てきたオルグイユの目を見て理解してしまいました。
 その目の奥に燃え盛る怒りの炎を。

 やる気を出してくれるのは良いのですが、あれは確実に事故に見せかけてヤル気です。
 それだけは何としても止めないと……

 そう、僕たちは最後までしっかりと見届けなければなりません。
 これから始まるであろう、決闘と言う名の血祭りを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

米国名門令嬢と当代66番目の勇者は異世界でキャンプカー生活をする!~錬金術スキルで異世界を平和へ導く~

だるま 
ファンタジー
ニューヨークの超お嬢様学校に通うマリは日本人とアメリカ人のハーフ。 うっとおしい婚約者との縁をきるため、アニオタ執事のセバスちゃんと異世界に渡ったら、キャンプカーマスタースキルと錬金術スキルをゲット!でもフライパンと銃器があったら上等! 勇者だぁ!? そんなん知るか! 追放だ! 小説家になろうでも連載中です~

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...