カラダから、はじまる。

佐倉 蘭

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【Extra Secret】あなたは知らない

Confidential 4 ①

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「——ようやく、『整理』がついたか」

   水野局長がほーっと深い息を吐き出した。

「えぇ、約半年かかりましたけどね」  

   やっと、田中がセフレにしていたオンナたちと完全に切れたのだ。
   季節は、秋が過ぎ、すでに冬になっていた。

   田中の用事も兼ねて事務局長室に来た高木は、早速「報告」していた。『水野局長からなにを訊かれても、余計なことを言うなよ?』と田中からは口止めされていたが、しがない一般職ノンキャリの高木としては、より役職が上の「局長」に従うのみだ。

「いよいよ、下の娘七海と見合いさせられるな」


——好きな「男」を「妹」にかっ攫われて……あのひとは、どう思うかな?


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   田中はこの半年の間、ものすごい勢いで血も涙もなくセフレたちを断ち切っていった。

『くそっ、こんなに邪険にしまくってるってのに、なんでまだまとわりついてくるオンナがいるんだっ⁉︎』

   にもかかわらず、なかなか目処めどがつかなくて、毎日イライラしていた。
   課内にだれかいるときは、いつもどおりの「人造人間サイボーグ」でいるが、高木と二人きりになると、途端にその口からはグチが漏れた。

   しかし、高木は『たいへんですね。まだまだかかりそうですか?』と口ではねぎらいつつも、今まで己の性欲の赴くままにオンナを貪ってきた報いだな、と心では思っていた。

『……ふん、そんなこと言いながらも、どうせ腹の中では「自業自得だな」とでも思ってるんだろ?』

   田中が不貞腐ふてくされた顔で、じとり、と見てきた。カンのいい彼には、高木の心のうちがバレているようだ。

   挫折知らずの超エリートにとって、こんなに思いどおりにならなかったことなんて、今までなかったに違いない。ゆえに「耐性」を身につけることなくここに至った。

   イライラが頂点を極めた田中は、まるで子どものように拗ねていた。相手をさせられる高木にとっては、超めんどくさい以外の何物でもない。

『そうですね、思っていますよ』

   だから、こういうときこそ、きっぱりと言ってやらねばならない。

『諒志さん、オンナを喰い散らかすのは、学生のときまでです。社会人にもなって、まだ同じようなことをしているのは、盛りのついたサルから「進化」していない証拠ですね』

   高木は落ち着いた声で田中を諭した。

——なんだか「育て直し」しているみたいだな?

   一人っ子で兄弟はいないが、もし「弟」がいればこういう感じなんだろうか、と思う。

『じゃあ、高木はちゃんと学生のときに「卒業」したのかよ?』

『もちろんです』

   高木は即答した。自らも「通ってきた道」であることにおいては間違いない。

『就活をきっかけにして『整理』しました。当時はまだ「家業」を継ぐつもりではいましたけど、それでも「将来」がかかってないわけではありませんから、どのもそんな無茶なことは言いませんでしたよ。それに、同学年なら「お互いさま」ですしね』

   不意に、高木は田中の手元をひょいと覗き込んだ。彼にしてはめずらしく、デスクでスマホを見ていたからだ。

『……ところで、なに見てるんです?』

   すると、田中がさっとスマホを隠した。

『見るな、高木。見たら減る』
   射殺されそうなほど怖い目で睨まれた。

『もしかして……お見合い相手の、水野局長の下のお嬢さんですか?』

   一瞬だったのにもかかわらず、高木はしっかりと見ていた。ディスプレイには、海風になぶられて髪がばっさばさになった、あの写真があった。

『笑顔のとても素敵な方ですね』
   そう言って、高木は微笑んだ。

『初めて見せてもらった彼女の写真なんだ。後日、局長からUSBでもらった『七海メモリーズ』の中でも、やっぱり『最高傑作』だった』

   田中は、とても庁内社内人造人間サイボーグと呼ばれているとは思えない、少しはにかんだ顔をしていた。

『生まれたときから撮ってきた写真の中から厳選されたものを集めた『スペシャル版』だからな。一糸纏わぬ姿で、風呂に入ってる姿も収めているんだ。……まぁ、赤ちゃんのときの沐浴だけどな』


——諒志さんには、こんな面もあるというのを、あのひとは知っているのだろうか?

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