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Secret 6
③
しおりを挟む「あ、そうそう、スマホといえば——諒志さんは水野局長から、お見合い相手のお嬢さんの写真をデータでもらったそうですが……」
——あぁ、家族で伊豆の温泉に行ったときに撮った、七海の髪が海風に煽られてばっさばさになってる写真ね。
「うちの妹の写真でしょ?」
わたしの目が自然と伏せがちになる。
「妹さんのその写真、諒志さんのスマホのロック画面になっていますよ」
——えっ?
「偶然見つけたので、ひょいとスマホを覗き込んだら、諒志さんにさっと隠されてしまいました。だけど、お顔はしっかり拝見したので、『笑顔のとても素敵な方ですね』って言ったら……」
すると、高木は肩を竦めた。
「『見るな、高木。見たら減る』って——射殺されそうなほど、すっごく怖い目で睨まれました」
——う、う……ウソでしょっ⁉︎
あ、あの「人造人間」の田中が……っ⁉︎
「それから、水野局長は……写真がご趣味なのは庁内でも有名ですが……あんなに子煩悩な方だとは思いませんでしたね」
高木が思い出したように、フフッと笑う。
「諒志さんは、USBで『七海メモリーズ』をもらったって言ってましたね」
——『七海メモリーズ』?
「なんでも、生まれたときから撮ってきた写真の中から厳選されたものを集めた『スペシャル版』だそうで、なんと一糸纏わぬ姿でお風呂に入ってる姿も収めているそうですよ」
——どええええええぇーーーっ!?
わたしは顎が外れるほど大口を開けて、高木を見た。
「……まぁ、赤ちゃんのときの沐浴らしいですけどね」
——それでも、ダメだろうよっ⁉︎ 茂彦、なんて命知らずなことするんだっ⁉︎
あの「ばっさばさ髪」写真ですら、じゅうぶん「犯行の動機」になるっていうのに、マジで七海にぶっ殺されたいのかっ⁉︎
それにしても……
田中だけでなく、あの「鬼の水野局長」からも、ここまでプラベ話を引き出すなんて……
わたしは目の前の高木をまじまじと見た。
「高木……恐ろしい子」
知らず識らずのうちに、口から漏れ出ていた。
——絶対に「敵」に回したくない子だ。
田中が自らの手許に引き込んだ理由が、身に沁みてわかった。
そして、高木は嫋やかな立ち姿で優美に微笑みながら、世にも恐ろしいとんでもないことを、さらりと言った。
「そうだ。七瀬さんのときもきっと、局長は『七瀬メモリーズ』をお作りになりますよね?」
——わたしは実の父親を、七海よりも先に、この手で闇に葬るかもしれない……
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「……だから、ほんっとなんですってばー!」
大きな声とともに、課のドアが大きく開いた。わたしと高木はそちらへ目を向ける。
「戸川、ほんっとに諒志のレアな姿が見られるんだろうな?」
そこにいたのは、本宮と戸川だった。
「ねぇっ、田中さんはまだ大笑いしてるっ⁉︎」
戸川が高木に尋ねた。彼らは出身大学も同じ同期だった。
高木は窓の方を指差した。田中のいる島の方だ。
彼はそこで全身を震わせ、今や息も絶え絶えになって、ヒィヒィ笑っていた。
なんだか、このまま笑い死にしてしまうんじゃないか、と思うほどの狂乱ぶりである。
課内のだれ一人として……たとえ課長ですら、彼には一歩も近づけなかった。マネキンチャレンジをひたすら「継続中」だ。
「……ま、マジかよっ。あれ、ほんっとにあの『田中』か⁉︎」
本宮は掠れた声でそうつぶやいたあと、絶句した。彼も田中とは知り合って十数年になるが、こんな姿を見たのは初めてのようだった。
戸川は「ほらねっ」とばかりに、満足げなドヤ顔をしていた。
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