カラダから、はじまる。

佐倉 蘭

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Secret 5

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「おれはよくわからないけど、『生花いけばな』ってのは、お上品に花をけるだけじゃなくて、展覧会で展示する『作品』なんかには、花材に木そのものをダイナミックに使ったりすることもあるらしいから、そういうのを切ったり曲げたりするのは思いのほか力が要るらしくて、男の方が有利なんだってよ」

「あら、お嬢サマには兄弟がいたの?」

——一人っ子だとばかり思っていたわ……

「いや、兄弟じゃなくて従兄弟いとこらしいよ。なんでも、今の家元の妹が若かりしときに、先代の家元の一番弟子と恋仲になって、逆鱗に触れて破門されたから、駆け落ち同然で結婚したあと、生まれた息子らしいんだけどさ」

「あら、なんで反対されたの?」

——わたしには、なかなか悪くない組み合わせのように思えるんだけど?

「家元の妹には婚約者がいて、相手は政治家の息子で、典型的な政略結婚だったそうだ。それから、当時今の家元と先代の家元の一番弟子とはライバル関係にあって、次期家元の座を争っていたらしいしな。
   結局は——先代の息子である今の家元がその座に就いたわけだけど」

「うわー、なんか昼ドラみたいな話ねぇ。家元制度の『利権』も絡んでそうだしね」

——確か、そういう「お稽古ごと」って、お弟子さんや生徒からのお月謝とかお免状代とかが、最終的には家元に一元化されるシステムになってるんだよね?

「じゃあ、どうしてその従兄弟が『御曹司』になれたの?両親は流派から破門されたんでしょ?」

「息子が生まれて、先代の家元の態度がコロっと変わったんだとよ。破門したのを反故にして、今度は半ば無理矢理連れ戻したそうだ。もともと、家元の妹の方も華道のセンスのある人だったらしいから、一番弟子との間に生まれたその子どもが『サラブレッド』に見えたんだろう。
   それに、息子を家元にして政略結婚させたまではよかったが、その妻が娘を連れて別居しちまったからな。先代にしてみれば、孫娘に仕込みたくてもできないこともあって、余計に『孫息子』に期待したんだろ?……というわけで、その子は先代の『最後の弟子』として、徹底的に仕込まれたっていうわけさ」

「なんとも、果てしなく身勝手な話ねぇ……」
   わたしは鰻重を食べる手を止めて、眉根をぐーっと寄せた。

「でも、だったらどうして、お嬢サマが『次期家元』になるわけ?まさか……今の家元が自分の娘に跡を継がせたくなって、先代が仕込んだその『御曹司』を追い出しちゃったとか?」

   すると、本宮は軽く首を左右に振った。

「先代の家元が亡くなったあと、引き継いで御曹司を仕込んだのは、今の家元らしいよ。だが、彼が大学を卒業して『社会勉強』のために就職したら、『外の空気』が良くなっちまったのか、すべての権利を放棄して出て行ってしまったそうだ」

「……そうなんだ。もしかしたら彼は、御曹司でいるのが、ずーっとイヤだったのかもね?それで、お嬢サマに御鉢が回ってきたわけね」
   わたしはそうつぶやくと、ぬるくなってしまったおみそ汁をすすった。

   彼女に「やる気」が見られない理由がわかった。

——結局のところ、大人たちの勝手な都合で、人生を理不尽なまでに振り回されるのは「子どもたち」なのよねぇ……


「それで……本宮としては、そういうお嬢サマに情が移っちゃったわけだ」

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