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Secret 5
⑤
しおりを挟む「ほら、奢ってやるから……なんでも好きなのを食え」
本宮は腕を組んで堂々と言い放った。
「……って、ここ◯牛じゃないのよっ⁉︎」
わたしはガラス張りになった店内を見て叫んだ。
「仕方ないだろ?こんな時間なんだから。それに、おれは手早く食って戻りたいんだ」
確かに、ランチタイムを過ぎてしまったこんな中途半端な時間帯では、そうかもしれないが……
戸川たちと一緒のときは、もっとそれなりのお店だったのにっ!そもそも、金融庁の入った霞ヶ関コ◯ンゲートから、一歩も出てないじゃんよ⁉︎
——こいつ、やっぱりわたしのことを「女」だとは微塵も思ってないなぁ?
「ほら、店に入るぜ。そっちだって早く戻らないと、マジで今夜も帰れなくなるぞ」
本宮に促されて、渋々ではあるがドアの向こう側へ足を踏み入れる。
そして、カウンターの空いている席に並んで座ると、
「鰻重みそ汁セットの三枚盛で」
と、わたしはオーダーした。
ここでは高額のメニューかもしれないが、それでも二千円でお釣りがくる。彼の収入からすれば安いものだ(と思う)。
「……遠慮のカケラもねえヤツだな」
本宮は、げっ、という顔をしながら、牛すき鍋膳を大盛でオーダーした。
お互い食べられるときにしっかり摂っておかなければならない身の上だ。今夜はいつ食べられるかわからない。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
わたしの前に鰻重の三枚盛が置かれる。途端に、甘辛い香ばしい匂いが辺りに漂った。
心の中で舌舐めずりして山椒を振りかけていたら、「鰻重、美味そうだな」と本宮が恨めしそうに見てきた。
——同じものを頼めばよかったのに。
わたしはため息を一つ吐いてから、仕方なく店員さんからお皿をもらって、一盛分を分けてやる。
本宮は「おっ、サンキュ。でも、くれるんだったら、牛すき鍋を並盛にすればよかったな」とごちた。「じゃあ、鰻重返して」と言うと、「イヤだ」と速攻で断られた。
すると、「おれの牛すき鍋も分けてやるよ」と本宮が言ってきた。しかし、すでに箸をつけたあとだったので、わたしは「イヤよ」と速攻で断った。
結局、本宮はがんばって全部食べるようだ。どうやら、彼の中には「もったいないおばけ」が存在するらしい。
「もう二十代のようにはいかないんだからさ。……無理しちゃダメよ?」
わたしはそんな本宮を見て、半ば呆れた口調で言った。
「夏にしたっていうお見合いだって、その後おつき合いを続けてるんでしょ?……そろそろ、式の日取りとか決める時期なんじゃないの?」
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