12 / 67
Secret 2
⑤
しおりを挟む「ところで、おとうさん……田中が『オンナの整理が完全に終え』たって、なんでわかるの?田中が自分で言ったの?」
あぁ、それはな…と父が遠い目になる。
「田中からは聞いてない。そもそも、おれは『身辺整理しろ』とも言ってない。おれが七海との見合い話を持ちかけたあと、ヤツはものすごい勢いで『整理』し始めたらしい。それでおれは、どうやら田中は七海と本気で見合いしたいんだな、と思って見守ることにした。それでも、なかなか言うことを聞かないオンナがいたらしく、結局は半年も待たされる羽目になったがな」
——どうして、おとうさんがそこまで田中のことを知ってるの?
「田中のことはなんでも高木に聞いている。現に、つい先刻まで聞いていた。ヤツのことに関しては高木が一番よく知ってるし、頼りになるからな。高木は公私ともに田中の『秘書』だ。仕事だけでなく、私生活もしっかりと把握している」
——えっ?
「高木って……田中の補佐役の子よね?」
田中は庁内のBBQやボーリング大会などのイベントや同期会なんかには参加するけれども、私生活には絶対に立ち入らせない分厚い「壁」があった。
それでなくとも、人造人間の風貌なのだ。近寄りたくてもなかなか近寄れない。
世間話をするみたいに、自分の見合い話を戸川にする本宮とは違う。
「そんなに……親しいんだ?」
わたしの声が掠れた。
つい今しがた、入り口ですれ違った凛として美しい面立ちと洗練された優雅な所作が心に浮かんだ。まさに、高木は「秘書」だった。
——それって……田中のプラベも把握するくらい、彼から信頼されているってこと?
「……七瀬」
父が穏やかな目でわたしを見ている。
「リーダー研修のメンバーから外して、悪かったな」
わたしは首を左右に振った。
「田中と本宮が選ばれたのは妥当だと思ってるから……もう、大丈夫よ」
——もしかして、思いっきり凹んでいたのはバレてたのかな?
「田中は上も認める逸材だから、大事に育てるように言われておれに任されている」
父よりも「上」ということは——金融庁の事務方トップ……もしかしてさらに「上」の、内閣府——つまり、内閣官房筋かもしれない。
「本宮は見合いをして『順調』らしいから、いつまでここにいるかわからんが……もし『転職』して政治家にでもなったら、『古巣』に恩返しをしてもらわんとな。そのための布石だ。
それに、残るにせよ、出ていくにせよ、ヤツもいずれ人の上に立つ人間であることは間違いない。だから、リーダー研修を受けて人脈を広げることは、決して無駄にはならないさ」
あの要塞みたいな鉄壁の防御力の田中の「行状」まで知ってる父ならば、オープンテラスでお茶を飲んでいるような本宮のことなんて、筒抜けもいいところなのだろう。
「……おかあさんにそっくりの七海のことは皆目わからんが、おれにそっくりなおまえのことはわかっているつもりだぞ」
——はい?
「ふらふらして……自分を『安売り』するな」
1
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
真実(まこと)の愛
佐倉 蘭
現代文学
渡辺 麻琴 33歳、独身。
167cmの長身でメリハリボディの華やかな美人の上に料理上手な麻琴は(株)ステーショナリーネットでプロダクトデザイナーを担当するバリキャリ。
この度、生活雑貨部門のロハスライフに新設されたMD課のチームリーダーに抜擢される。
……なのに。
どうでもいい男からは好かれるが、がっつり好きになった男からは絶対に振り向いてもらえない。
実は……超残念なオンナ。
※「あなたの運命の人に逢わせてあげます」「昼下がりの情事(よしなしごと)」「偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎」「お見合いだけど恋することからはじめよう」「きみは運命の人」のネタバレを含みます。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる