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Secret 2
③
しおりを挟むその日、わたしは父のいる事務局長室へと向かっていた。
何の案件なのかは知る由もないが、ここのところの父はすこぶる忙しく、まるで若手職員のように庁舎に詰めているため、ほとんど家に帰れていない。だから、母から頼まれて着替えなどを持ってきたのだ。
いつものように開け放たれている局長室に入ろうとしたら、人が出てきた。
田中の下で働くノンキャリの高木だった。主に父の仕事を回される彼に頼まれて、届け物でも持ってきたのであろう。
わたしの顔を見て会釈したので、目礼して返す。
すれ違いざま、白檀だろうか、ウッディー系の芳しい香りがふわりとした。
——確か、高木 真澄って言ったかな?
話した記憶はほとんどないが、その名のとおり背筋がまっすぐ伸びて、顔だけでなく所作までもが美しい子だった。
あの田中が、補佐役としてぜひほしいと、父に談判してまで配属してもらったと聞いている。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
局長室に入ると、父しかいなかった。
「……着替え、持ってきました」
わたしは接客用の黒革のソファの上に、母から持たされた紙袋を置いた。
「あぁ、悪いな、七瀬」
「水野局長」は「父親の顔」で言った。
「もう歳なんだから、若い頃の調子でいつまでも無理しないでよ?おかあさんも心配してるよ?」
だから、わたしも「娘の顔」になる。
「わかってるさ、今の仕事はもうじき目処が立つ。おかあさんにも、そう言っておいてくれ。……あ、これ頼む」
父が洗濯物の入った紙袋を差し出す。
「それからな、おまえも庁内のウワサでなんとなく知っていたかもしれんが……」
わたしはその紙袋を受け取りながら、父を見た。
「七海を、田中と見合いさせようと思う」
——やっぱり、お見合いするんだ。
突然、全身がカッと熱くなって、どっ、どっ、どっ…と心臓を叩く鼓動なのか、それとも全身を駆け巡る血流なのか、あの音が聞こえてきた。
「えっ……あのウワサ……本当だったの?」
「田中には、夏ぐらいに『打診』して受けてもらっていたんだがな」
なのに、そんな「異変」は表情にはまったく出ていないのであろう。なにも気づかない父が言葉を続ける。
「田中の方もようやく目処がついたみたいだから、日取りを決めることにした。もっとも、向こうは夏頃から親と日取りの話はしていたみたいだけどな。リーダー研修などに託けて、おれがいったん止めていた」
「えぇっ、おとうさん、止めてたの?かれこれ半年にもなるじゃない……どうして?」
わたしは怪訝な顔になる。
「おまえ、ヤツのことは学生時代から知ってるのなら……わかるだろ?」
父が苦虫を噛み潰した顔で唸る。
「田中が『オンナの整理』を完全に終えるのを待っていたら、半年経った。……『身辺整理』のできていないようなヤツに、大事な娘をやれるか」
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