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Chapter 12

ヒミツの隠れ家に逃げます ②

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 将吾さんの今日の「所用」は、大学時代の友人たちとのゴルフコンペのあとに会合、だったはずだ。
 会合といっても、ぶっちゃけ呑み会なのだが……

 しかし、上場企業の御曹司はもちろん政界のプリンスである二世議員やら、とにかく人材の宝庫である大学時代の「ご学友」たちが集まるわけだから、どこでビジネスにつながるかしれやしない。

 だから、たとえ休日であろうと、婚約者がウェディングドレスを試着する日であろうと、やっぱり出席しておかなければいけないのだ。
 その辺のところは、父親から口を酸っぱくされて「教育」を施されてきた。

 ——だけど、考えてみたら、こんな極寒の二月にゴルフコンペはないよね?どれだけ、ゴルフバカだよ?

 お義父とうさまのホームの月例だって中止になったって言ってたし。(あたしは行かなくてもよくなって、ホッとしたけど……)

 わたしは母親に気取られないように、そっとため息をついた。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 母親の買い物が済んで、ラストオーダーぎりぎりの遅めのランチになった。

 デパートの中に入っているフレンチのカフェだが、イートパラダイスのフロアではなく、四階の婦人服のショップの奥にあった。母のようなマダムが好みそうな上品で落ち着いた雰囲気で、実際「女子会」で幾度となく訪れているらしい。

 父も母も、突然始まったわたしの将吾さんの実家での同居が気がかりだったらしく、母親はこまごましたことを、ここぞとばかりに訊いてきた。

 ——「あんなところ」を見なければ、もっと楽しく彼の実家での生活を話せたのに……

 親に心配かけたくなくて、取り繕ってばかりいたので、せっかくの「フランス国家最優秀料理人賞」とかいうシェフの、初プロデュースとかいうカフェなのに、舌鼓を「達人」のごとく連打できなかった。

 そんなわたしとは対照的に、将吾さんのおうちが型にとらわれない自由な家風だと知って安心した母親は、デザートとコーヒーまですっかり味わい尽くし、その後タクシーで帰って行った。


゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜


 ——さて、これからどうしましょう?

 とてもじゃないけど、将吾さんの家に戻る気はなれなかった。

   どんな事情があるにせよ、ウソをつかれたのは事実だし、家に戻ったら、二人の(たぶん)なに食わぬ顔と合わせることになる。

 ひさしぶりに、本屋へ行ってみることにした。

 もともとインドア派だし、幼稚園からエスカレーターに乗って女子大まで運ばれていたので受験勉強でしゃかりきになることはなかったから、学生の頃はよく本を読んでいた。 

 今ではすっかり電子書籍ばかりになっているけれど、スマホはもちろんタブレットくらいのディスプレイの大きさでも、ずーっと読んでると目の疲れが半端ない。

 ——そうだ、今日は紙の本を買おう。

 洋書コーナーに足を向けてみた。
 こんな気分のときは、がっつり集中しないと読めない英語の本の方がいいだろう。それに、ペーパーバックは軽いし。

 棚から一冊の本を引き抜いた。
 ジェーン・オー◯ティンの「Persuasion」だ。
 ——日本語では「説き伏せること」とか「説得」かな?

 確か、四十歳のはじめで病没した彼女の最期の作品で、前々から読みたいと思っていたものだ。
 生涯に数冊しか遺していない彼女の作品は、一つひとつの分量が結構ヘビーな「大作」なのだが、これは薄くて比較的楽に読めそうだ。

 どこかその辺のカフェに入って読もうかとも思ったが、せっかくなので、先刻さっきまでいたデパートまで戻ってさらに反対の方向になるけれど、お気に入りのブックカフェで、まったりと読もうと思った。


 地下一階にあるそのブックカフェは、ニューヨーク発祥のジャズクラブ・Blue N◯teの関連会社で、日本でライブハウスを持つブルー◯ートジャパンがプロデュースしたお店である。
 店内で読める蔵書が二千五百冊もあり、Wi-Fiも使えるので一人でまったりするのに最適な場所だ。

 先刻さっき、フレンチのランチを食べたばかりなので、自家製だというレモネードを頼む。

 わからない英単語を調べるためにスマホを傍らに置いて、いざペーパーバックのページをめくる。オー◯ティンの小説の冒頭にありがちな、だらだらとした場面描写が続く。

 主人公アンの父親と姉エリザベスの辟易するほどのナルシストぶりや妹メアリのワガママし放題に、アンが振り回されてきた背景が綴られている。(ちなみに美しくて心優しき母親はすでに病死)

 この辺りはまだ頭の中で英語を日本語変換して、わからない英単語もスマホで調べながら読んでいる。
 が、そのうちだんだん面倒になってきて、だいたいこんな感じの意味だろうな、と思う頃には英語がそのまま意識の中にすっと入ってきて違和感がなくなってくる。

 ネイティヴではないわたしは、外国映画のDVDを観てるときもこんなふうに、いつの間にか英語がダイレクトに入ってくるまでにタイムラグがある。

 ——うっ、よりによってこんな内容だったとは……

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