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Chapter 7
私のお部屋に引っ張り込まれてます ①
しおりを挟むやっと母屋から脱出できた。
「将吾さん、今日はお疲れさまでした。お酒呑んでるし、もう帰るよね。タクシー呼ぼうか?」
たぶん今日は、呑まされる想定で来たのだろう。
将吾さんは今朝、マセラティのグランカブリオを自分で運転してやってきた。もちろん、トランスミッションはマニュアルだ。
オープンカーだが、さすがにこの季節に屋根を開け放つのは自殺行為と見えて、しっかり閉じられていた。
濡れたように艶やかな漆黒のボディに、ひときわ冴える真紅のシート、そしてホイールのピカピカ輝く銀色が、車のことなんてよくわからないわたしでも、ほぉーっと唸るほどカッコいい。
だが、このTOMITAの次代を担う「御曹司」は、マイカーですら「実験車」と称して他社の車に乗っている。
将吾さんがうちの前で降りると、助手席に乗っていた島村さんが運転席に移って帰っていった。
ほんと、こんなお正月の休日までご苦労さまだ。
「なに言ってるんだ。これからおまえの部屋に行くのに」
——はぁ!?
「おまえだっておれんちに来たときに、おれの部屋に入ったじゃないか」
将吾さんは、さも当然のことのように言う。
「あれは、あなたが勝手にわたしを連れ込んだんでしょっ!」
「じゃあ、今度はおまえに連れ込まれてやる」
——なにを言ってるんだ、この人は。
「おまえ、ばあちゃんから『あーちゃん』って呼ばれてんだな」
将吾さんが、突然、話題を変えてきた。
「……おれも、そう呼ぼうかな?」
——はぁ!? どうしちゃったの?まさか、おじいさまに勧められたお酒で酔っちゃったの?
「手始めに、おまえの弟の前で呼んでみようか?」
将吾さんが悪ガキの目でくすくす笑いながら、わたしを見た。話題を変えたわけではなかった。
わたしへの「脅し」だった。
「……ぜっ、絶対に、やめてっ!」
わたしは声をあらん限りに叫んだ。
——冗談じゃないっ!
恋人や婚約者からそんなふうに呼ばれてるのを聞かれて、世界中で……いや宇宙中で、一番こっ恥ずかしいのは、ともに育った兄弟姉妹じゃないかっ⁉︎
「じゃあ、行こう。……おまえの部屋へ」
゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜
離れにある両親と弟と住む家は、母屋の日本家屋に比べるとずっと庶民的でホッとする。
住宅メーカーのCMの中で、宝塚出身の女優さんが帰宅してゆったりくつろいでいる家くらいの広さだ。あのCMを観たとき、うちに似てるなと思ったものだ。
一面の大きな窓から庭に面したテラスを望める、吹き抜けのリビングに裕太がいた。
ソファに座って、将吾さんの手土産のテリーヌ・オ・ショコラを食べていた。
わたしは、将吾さんが「余計なこと」を言わないように、さっさとリビングの奥にある螺旋階段の方へ促した。
将吾さんが裕太を見て社会人らしく目礼をすると、裕太は学生らしいふにゃっとした頭の下げ方をした。
裕太は相変わらず、なにか腑に落ちないとでもいうような目をしていた。
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