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Chapter 6

同僚から政略結婚を相談されてます ②

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「と…とにかく、お昼食べましょうよ」

 わたしはいつものように隅っこにある簡素なソファを拝借し、ローテーブルに置いたランチバッグから、細長のランチボックスとサー◯スのスープジャーとマイボトルを取り出した。

「……朝比奈さん、もしかして自分でつくるの?」
 向かいのソファに腰を下ろした大橋さんが、驚いた顔で訊く。

 一応、うちにもハウスキーパーはいるが、お掃除専門で料理は母親かわたしが担っている。

「そうですよ。朝比奈さんはいつもお手製のお弁当ですよ」
 わたしの隣に座った水野さんは、ローテーブルに置いたマイバッグから、出勤前に買った美味おいしいと評判のお店のサンドウィッチとマイボトルを取り出した。

「大橋さん、ぶっちゃけて言いますけど、うちの両親は政略結婚ですが、今でも円満にやってるのは母親の手料理のおかげだと思ってます」

 わたしの言葉に、大橋さんが目を見張る。

「うちの母親は『家族を料理で手懐けておけば、大抵のことは丸く収まる』って言います」

「わ…わたしも料理は習ったわよ。フレンチとかイタリアンとか」

 大橋さんならそういうお料理教室に行ってそう。
 ——でもね。

「大橋さん、それ、ちゃんと再現できます?」

 大橋さんが、うっ、と詰まる。
 ——ほら、やっぱり。

「フレンチは特にフォン・ド・ボーを取ったり、下拵したごしらえが大変だったりして実用性に欠けるんですよ。それに、大橋さんが狙ってるような男性だったら、そういう料理はレストランお店で食べさせてくれます。それよりも、たとえ市販の顆粒だしを使ったとしても、簡単に手早くつくれる素朴な家庭料理がいいんですよ。そういうのは、レストランでは食べられませんからね。しかも、飽きがこないですしね」

「……ですよねぇ。あたしも今のうちにちゃんとおかあさんにお料理を習っておこうかなぁ」
 水野さんがため息まじりでつぶやく。

「実は、あたし……お見合いの話が来ていて」

「ええぇっ!? あなたまで、わたしを裏切る気?」
 大橋さんがムンクのように叫んだ。

 ——わたしがいつ、大橋さんを裏切りましたっけ?

「やっぱり、お見合い結婚の『先輩』の朝比奈さんに相談したいなぁ。……聞いてくれます?」
 水野さんはわたしの方を向いて言ったのに、
「なになになに?早く言いなさいよっ」
 大橋さんが身を乗り出す。めんどくさい人だ。

 彼女の前には◯ーソンで買ったと思われる「たまごとコロッケ」のランチパックとマチカフェのコーヒーがある。

 ——えっ、いつも数千円のランチを食してる彼女の今日の昼ごはんがこれ?

 わたしの目線に気がついたのか、
「来月のカードの引き落としが大変なのよ。ボーナス一括払いがあるの」
 大橋さんは顔をしかめた。

 でも、早速倹約に励んでいるのだから、なかなかいい傾向と対策だ。

「大橋さん、まずマイボトル買いましょうね。コーヒーとかペットボトルとか毎日買ってるでしょ?」
 わたしが今朝、家で淹れてきたお茶はジャスミンティーだ。

 マイボトルはいろいろ使ってみたけど、保温性が高くて分解して洗いやすい、そして部品の別売りがあるってことで、サー◯スを使っている。
 水野さんもそうだ。わたしがス◯バとのコラボの春限定「SAK◯RAシリーズ」のもので、水野さんはアフ◯ヌーンティーとのコラボ商品だ。
 ちなみに、わたしも水野さんもコンビニで買うペットボトルと同じサイズの五〇〇ミリリットルである。

「アマ◯ンでも◯ハコでもステーショナリーネットでもいいから、気に入ったデザインがあればポチッとしてください」
 話を戻したい水野さんが早口で言う。

「……で、聞いてください。うちの父親、金融庁のキャリア官僚なんですけど……」


 水野さんのお見合い相手になりそうな人は、おとうさんの部下のT大卒の金融庁のキャリア官僚らしい。

「……そんな頭のいい人と話が合うかなぁ。あたし、大学は指定校推薦だったんで、小論と面接だけで早々と合格もらって、勉強なんて実質中学入試のとき以来してないんです。うちの姉がキャリア官僚で、その人とは同期っていうから、姉と結婚した方が話が合うんじゃないか、って思うんですけどねぇ」

 堅実でいいお嫁さんになりそうなT女子大卒の水野さんであるが、不安そうだ。

「でも、七海、相手は官僚よっ。超優良物件じゃないっ!」
 大橋さんが身悶えながら、叫んだ。

 ——な、七海?

 水野さんが固まった。

「彩乃だって、そう思うでしょ?」

 ——あ、彩乃?

 わたしも固まった。

 大橋さん、わたしたち、いつからそんな距離感になりましたっけ?

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