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Chapter 2
イケメン秘書と婚約指輪を選びます ③
しおりを挟む「お待たせしました」
そう言って、店員さんはベルベット地の縦長のリングホルダーをテーブルの上に置いた。
「こちらがエンゲージリングでございます」
——なんだか、どれもゴージャスな四本だ。やっぱり、わたしの見た目からそう思うんだろうけど……
すると、島村さんがタブレットを持ち上げ、写真を撮った。
——あ、「証拠写真」ね。ちゃんとお店に行って指輪を選びましたよ、っていう。
一番左側の指輪が「アバ・ロンド」。
メレダイヤがぐるりと一周した円の内側に大きな一粒ダイヤがあり、浮き出るように輝いている。アームにもメレダイヤがある。
その隣が「アバ・ポワール」。
アバ・ロンドが円だったのに対して、こちらはティアドロップの形にメレダイヤがはめ込まれている。内側の一粒ダイヤの形も定番のラウンドブリリアントカットではなく、ティアドロップのようなペアシェイプカットだ。アームにもメレダイヤがある。
さらに、その隣が「ピヴォワンヌ」。
芍薬の花をモチーフにした指輪だそうだが、花びらを思わせるリボンで結んだような優美なカーブに、メレダイヤをしっかりと沿わせて埋め込ませている。中央の一粒ダイヤと相まって、指輪全体がきらきらと輝いている。しかも、アームにもメレダイヤがある。
そして、一番右側が「エターナル・グレース」。
モナコの公妃でハリウッド女優だった故グレース・ケリーをイメージした指輪だそうだ。二重になったメレダイヤのアームの中央に、マーキスカットというラグビーボールのような楕円形の一粒ダイヤが輝く。さらにその一粒ダイヤの周囲にもメレダイヤが取り巻いているという、なんともゴージャスでマダムな指輪である。
わたしは、これらの指輪を一つ一つ左手薬指につけていったのだが、島村さんはその度ごとに、タブレットで写真を撮ってくれて、その後画面に向かって忙しくタップし始める。
きっと、あの副社長のことだから、Web会議で少しでも気になったことは、島村さんに確認しないと気が済まないに違いない。
本当に、島村さんには申し訳なかった。
「……どれも素晴らしすぎるリングなので、本当にわたしなんかに似合うんでしょうか?もっと、小ぶりな方が……」
ため息とともにわたしが言うと、
「そんなことありませんよ。どれも朝比奈さまのイメージにぴったりなものばかりでございます。日本の方でこのようなデザインのものをこなせる方はそうそういらっしゃらないんですよ。ご自分の方からは客観的に見られませんから、どうぞこちらの鏡に映してお確かめください」
店員さんが卓上の鏡にわたしの手元が映るようにしてくれた。
わたしがどうにも迷ってしまうのが、どういうわけか値札が取られていて、いくらするのかわからないっていうことだ。
——どうせ恋も愛もない政略結婚だから、相手にはそんなに負担をかけたくないんだけどな。
「将吾さまは『パーティの際に使えないケチなものを買って、また違う指輪を購入しなければならない羽目には陥りたくない』『安物買いの銭失いになるくらいなら、末永く使えるゴージャスなものを今買え』とおっしゃっています」
島村さんがタブレットの指を止めずに言った。
「しかし、『それなりの年齢になればまた違った魅力のものが必要になるのは当然だから、今一番似合うと思うものを、今しかつけられないと思うものを選ぶように』とのことです」
さすが、百戦錬磨の恋愛の猛者だけある。今まで数多く、女性にプレゼントしてきた経験値の高さをまざまざと見せつけられる。
——わたしみたいな経験値の低い者が、どんな迷い方をするのかなんてあらかじめ、まるっとお見通しってわけね。
「まぁ、素敵!そして、的確なアドバイスです。……朝比奈さま、富多さまから愛されてますね」
店員さんがうっとりして言った。
——どこがっ!?
と、思わず叫びそうになったが「富多」と「朝比奈」を背負った女がそんなことはできない。
わたしはモナリザのようなアルカイックスマイルを湛えて、なんとか抑えた。
「……富多さまのお考えですと、こちらになるんでしょうか?」
そう言って店員さんは「ピヴォワンヌ」を指し示した。芍薬の花がモチーフのリングだ。
——いやいやいや。今ごろ、副社長は口角泡飛ばして、支社のアメリカ人たちと議論の真っ最中だと思うんですけどね。
「はい、それです」
島村さんがあっさり言った。
——えっ、もう決まっちゃったの!?
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