上 下
12 / 128
Chapter 2

イケメン秘書と婚約指輪を選びます ③

しおりを挟む
 
「お待たせしました」
 そう言って、店員さんはベルベット地の縦長のリングホルダーをテーブルの上に置いた。
「こちらがエンゲージリングでございます」

 ——なんだか、どれもゴージャスな四本だ。やっぱり、わたしの見た目からそう思うんだろうけど……

 すると、島村さんがタブレットを持ち上げ、写真を撮った。

 ——あ、「証拠写真」ね。ちゃんとお店に行って指輪を選びましたよ、っていう。


 一番左側の指輪が「アバ・ロンド」。
   メレダイヤがぐるりと一周した円の内側に大きな一粒ダイヤがあり、浮き出るように輝いている。アームにもメレダイヤがある。

 その隣が「アバ・ポワール」。
   アバ・ロンドが円だったのに対して、こちらはティアドロップの形にメレダイヤがはめ込まれている。内側の一粒ダイヤの形も定番のラウンドブリリアントカットではなく、ティアドロップのようなペアシェイプカットだ。アームにもメレダイヤがある。

 さらに、その隣が「ピヴォワンヌ」。
   芍薬シャクヤクの花をモチーフにした指輪だそうだが、花びらを思わせるリボンで結んだような優美なカーブに、メレダイヤをしっかりと沿わせて埋め込ませている。中央の一粒ダイヤと相まって、指輪全体がきらきらと輝いている。しかも、アームにもメレダイヤがある。

 そして、一番右側が「エターナル・グレース」。
   モナコの公妃でハリウッド女優だった故グレース・ケリーをイメージした指輪だそうだ。二重になったメレダイヤのアームの中央に、マーキスカットというラグビーボールのような楕円形の一粒ダイヤが輝く。さらにその一粒ダイヤの周囲にもメレダイヤが取り巻いているという、なんともゴージャスでマダムな指輪である。


 わたしは、これらの指輪を一つ一つ左手薬指につけていったのだが、島村さんはその度ごとに、タブレットで写真を撮ってくれて、その後画面に向かってせわしくタップし始める。

 きっと、あの副社長のことだから、Web会議で少しでも気になったことは、島村さんに確認しないと気が済まないに違いない。
 本当に、島村さんには申し訳なかった。

「……どれも素晴らしすぎるリングなので、本当にわたしなんかに似合うんでしょうか?もっと、小ぶりな方が……」

 ため息とともにわたしが言うと、
「そんなことありませんよ。どれも朝比奈さまのイメージにぴったりなものばかりでございます。日本の方でこのようなデザインのものをこなせる方はそうそういらっしゃらないんですよ。ご自分の方からは客観的に見られませんから、どうぞこちらの鏡に映してお確かめください」

 店員さんが卓上の鏡にわたしの手元が映るようにしてくれた。

 わたしがどうにも迷ってしまうのが、どういうわけか値札が取られていて、いくらするのかわからないっていうことだ。

 ——どうせ恋も愛もない政略結婚だから、相手にはそんなに負担をかけたくないんだけどな。

「将吾さまは『パーティの際に使えないケチなものを買って、また違う指輪を購入しなければならない羽目には陥りたくない』『安物買いの銭失いになるくらいなら、末永く使えるゴージャスなものを今買え』とおっしゃっています」

 島村さんがタブレットの指を止めずに言った。

「しかし、『それなりの年齢になればまた違った魅力のものが必要になるのは当然だから、今一番似合うと思うものを、今しかつけられないと思うものを選ぶように』とのことです」

 さすが、百戦錬磨の恋愛の猛者もさだけある。今まで数多く、女性にプレゼントしてきた経験値の高さをまざまざと見せつけられる。

 ——わたしみたいな経験値の低い者が、どんな迷い方をするのかなんてあらかじめ、まるっとお見通しってわけね。

「まぁ、素敵!そして、的確なアドバイスです。……朝比奈さま、富多さまから愛されてますね」
 店員さんがうっとりして言った。

 ——どこがっ!?

と、思わず叫びそうになったが「富多」と「朝比奈」を背負った女がそんなことはできない。
 わたしはモナリザのようなアルカイックスマイルをたたえて、なんとか抑えた。

「……富多さまのお考えですと、こちらになるんでしょうか?」
 そう言って店員さんは「ピヴォワンヌ」を指し示した。芍薬シャクヤクの花がモチーフのリングだ。

 ——いやいやいや。今ごろ、副社長は口角泡飛ばして、支社のアメリカ人たちと議論の真っ最中だと思うんですけどね。

「はい、それです」
 島村さんがあっさり言った。

 ——えっ、もう決まっちゃったの!?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

副社長と出張旅行~好きな人にマーキングされた日~【R18】

日下奈緒
恋愛
福住里佳子は、大手企業の副社長の秘書をしている。 いつも紳士の副社長・新田疾風(ハヤテ)の元、好きな気持ちを育てる里佳子だが。 ある日、出張旅行の同行を求められ、ドキドキ。

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】

臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!? ※毎日更新予定です ※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください ※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています

処理中です...