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Chapter 1
突然の辞令で彼の会社へ出向します ③
しおりを挟む副社長の首の後ろに手を回していた大橋さんが、わたしの方を見て、ふふっと妖艶に笑った。
副社長はつかんでいた彼女の腕を離して、
「……始業時間だ。持ち場に戻ってくれ」
と、低い声で言った。
「どうしてわたしが制服で、あの人がスーツなんですか?」
大橋さんが拗ねたように抗議した。さすがにもう、副社長からは手を放してはいるが。
彼女の言う「制服」というのは秘書室長から割り振られた仕事をする「グループ秘書」のことで、「スーツ」というのは重役付きの「プロフェッショナルな秘書」のことだ。
大橋さんは、今の雑用係ではなく、副社長の個人付きの秘書になりたいのだ。
「もう一度言う。始業時間は過ぎてるんだ。持ち場に戻りたまえ」
副社長は冷たく言い放った。
——おおっ!『たまえ』なんてドラマや小説やマンガの中で使う言葉だと思っていたよ。日常生活で使ってるの、初めて見たわ。
大橋さんは、一瞬、ふてくされた顔になった。
……が、次の瞬間ハッとして我に返り、副社長に向けて極上の笑顔を見せた。
そして、副社長室から出て行く際、わたしとすれ違いざまに「調子に乗らないでよ」と息だけで言った。
それでも、ちゃんとわたしになにを言ったかわかるから、たいしたもんだ。
——その能力を仕事で活かせたらいいんだけれども。
「……副社長、本日のスケジュールを申し上げます」
何事もなかったかのように、島村さんがタブレットにあるデータを読み上げようとした。
さすが秘書の鑑!……と、感心してる場合じゃない。
「あの……」
わたしが声を発した。しばらく黙ってたので、声がひっくり返りそうになる。
「わたし……グループ秘書でも構いませんよ?もともと『あさひ』では秘書課付きだったんです。専属でお仕えする秘書の経験はありませんので、グループ秘書の方が会社にとってもお役に立てると思うのですが……」
実は昨日、出入りのデパート松波屋の外商さんに頼んで、一週間分のスーツをコーディネイトしてもらって購入したばかりだったが仕方ない。
すると、副社長がはぁーっと、盛大なため息を吐いた。島村さんも眉間にシワを寄せて、怖いくらい堅い表情をしている。
「あ、あの……」
わたしの声を振り切るように、
「島村、しばらく外してくれないか」
副社長が言った。
「はい、承知しました」
そう言って、島村さんはすぐさま副社長室を出て行った。
わたしと副社長だけが、その部屋に残された。
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