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Chapter 5
①
しおりを挟む麻琴はますます仕事に精を出すようになった。
——それでなくても、昇進したばかりだもの。もっともっと、仕事に集中しなくちゃ。
MD課のデスクにいる今も、クロッキーブックに思い浮かんだアイディアをスケッチしている。
「……麻琴さん、それ、額縁ですか?」
紗英が後ろから覗き込んで訊いてきた。
「ええ、そうよ」
麻琴は顔を上げずに答える。クロッキーブックには、いくつものフレームのデッサンが描かれていた。
「いかにも『北欧風』な、シンプルだけどオシャレなデザインですよねー。ステキ!」
そんな紗英の賛辞にもかかわらず、麻琴は顔を顰める。
「ありがと。……だけど、こういうのはすでにイ◯アで売ってるからねぇ」
先日、上林から指摘されたのはもっともなことで、どうせ手に入れるなら「本場」のものがいいに決まっている。
「でも、『本場のもの』ってデカいんですよー。狭い部屋にそういうの一つ飾ると、存在感がハンパないんですよねぇ。そこだけ『浮いちゃう』っていうか……やっぱ、海外の広ーいお部屋仕様なんですねぇ」
紗英がうんざりした顔で続ける。
「それに、向こうのものって、いざ壁に飾ろうって思っても、まどろっこしくて手っ取り早く設置できないじゃないですかぁー。工夫が足りなくて使い勝手が悪いっていうか……そもそも、壁に穴を開けるのが前提だし。どんなにオシャレでかわいくても、賃貸じゃアウトですよぉー」
「……ちょっと、紗英ちゃん、ストップ」
突然、クロッキーブックから顔を上げた麻琴が、宙を見たまま遮る。
「はい?」
紗英がきょとんとした顔になる。
——なるほどね。
麻琴の口角が上がった。
「紗英ちゃん、招集かけて。守永さんが外回りから帰ってきたら、上林くんもミーティングルームに集合よ」
——突破口が、見えてきたわ。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
守永が外回りから帰ってきたのを見計らって、麻琴のチームのメンバーがミーティングルームに集結した。
「……とりあえず、まだラフ画なんだけど」
麻琴はそう言いながら、フレームをスケッチしたクロッキーブックを見せた。
「家でいるときに寛げる空間づくりの手助けになるのはもちろんだけど、外から帰ったときにお気に入りの絵や写真を見てホッとできたらな、と思って」
「フレームのデザインは北欧風ですね。……でも、こういうのって、もうイ◯アでは定番商品じゃないっすか?」
早速、上林が苦い顔をする。
「でも、イケアに限らず海外のものはデカくて使い勝手が悪いし、穴を開けないと設置できないって、麻琴さんと話してたんですよ」
紗英が「援護射撃」してくれる。
「そうなのよ。だからね、日本の住宅事情に合わせた規格のフレームをつくってみたいの。マンションやアパートに多い間取りの一角を想定して、飾ったときにバランスの良いサイズになるようにしたいのよ。そして、強度を配慮しながらも、だれもが簡単に取り付けられるように極力簡素化したいわ。もちろん、退去時にトラブルになるような壁を傷つけることなくね」
なかなか難しい使命だが、だからこそプロダクトデザインをする者にとっては腕が鳴る。
「ほかには?まだ、なにか考えてるんだろ?」
腕を組んでクロッキーブックを覗き込む守永が尋ねる。
「はい、そうですね。昨今の自然環境問題にも考慮して、材質は木枠なら間伐材をつかった集積材にすることや、プラスチック枠ならペットポトルなどをリサイクルしたプラ材にすることを考えてます。ロハスライフの『LOHAS』って『Lifestyles Of Health And Sustainability』のことですもんね。ブランドコンセプトは商品を通してしっかりと主張していきたいです」
「だったら……商品の売り上げの一部を自然環境を守る非営利組織などに寄付するとかして、そういう方面に意識のある人がもっと手に取りやすいようにするっていうのはどうですか?」
上林が麻琴のプランに「色付け」するようなアイディアを出してきた。
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