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Chapter 3
⑦
しおりを挟む「……で、新しい部署はどうなの?」
稍は麻琴にそう訊くと、プレモルを一口呑んで手羽先を頬張る。
麻琴はここぞとばかりに、今の「現状」を包み隠さず話した。
「ふうん……『課長』なのにサブリーダーって、やり辛そうだねぇ。しかも、商品企画の上林くんって、なんだか守永課長に『心酔』してるみたいだしね」
やっぱり稍は理解ってくれた。
——そうなのよねぇ。
その華やかな風貌から、麻琴ははっきり言って、今までに男子からはさんざんモテてきた。
(ただ、どうでもいい人からは好かれても、ガッツリ好きになった魚住や青山からは振り向いてもらえなかったのだが……)
そのために、学生時代は女子からはやっかまれてイヤな思いもしたものだが、男子からはイヤな目に遭ったことはない。
社会人になってからは、男女問わずうまくやってきたつもりだ。特に歳下の人たちからは相談を持ちかけられたりして、好かれている方だと思っていた。
前の部署で一緒だった、上林とは同期の山口だって、色恋抜きに懐いてくれていた。
——なのに、あんなに毛嫌いされるだなんて。しかも、彼の言うことが、いちいち的を射てるのよねぇ。「部下」との関係って、ほんと難しいわぁ……
(株)ステーショナリーネットには女性社員の割合が高く、そのため結婚や出産などにかかわらず長く働いてもらえるよう「嘱託社員」の制度がある。
稍もそれを利用しているのだが、彼女たちは定時で上がれるシフトになっている。
だが、「管理職」の女性社員となると、こんな新興の会社でもまだまだ少ない。麻琴だって先駆けの部類に入る。
頭をぶつけてみて初めて気づくという「ガラスの天井」ってヤツだ。
——やっぱり、男の人って、「女上司」の下ではイヤなのかしら?
「……それとさ、麻琴ちゃん、松波先生とはどうなってるの?」
稍が、おかわりのプレモルを持ってきた店員さんに、飲み干した空のジョッキを渡しながら訊く。
「あ、クォーターで超イケメンなお医者さんなんだってね?」
とうに風◯森を呑み終えて、今度は新潟の〆◯鶴の冷酒を呑んでいた美咲が、目をらんらんと輝かせている。お鍋も進むが酒も進む中での「恋バナ」だ。
「美咲さん、その医師、うちの会社の非常勤の産業医になったんですよ」
社員ではない美咲に稍が説明すると「おおぅ!」と歓声があがった。
半年ほど前、大阪に転勤が決まった山口 悠斗が、焦ってとんでもないことをした。
彼は稍に横恋慕していたのだが、青山が絡んだ彼女の弱みに付け込んで、ホテルの客室に連れ込もうとしたのだ。
その際に、間一髪のところで救い出したWhite Knightが松波だった。
青山とともにその客室に駆けつけた麻琴は、そこで彼と出逢った。
「それで、麻琴ちゃん、松波先生が赴任した初日に、医務室に連れ込まれたってほんと?」
——な、なんですってぇっ⁉︎ど、どうしてそれをっ⁉︎
稍と同じように、店員さんに空のジョッキを渡しておかわりのプレモルを受け取っていた麻琴は、危うく落っことしそうになる。
「翌日のお昼休憩のとき……確か、麻琴ちゃんは取引先への挨拶回りだったから、知らないだろうけど、社食ではそのウワサで持ちきりだったのよ。なんでも、偶然通りがかった人事の小林さんが目撃してたみたい。でも、それを聞いた女子社員たちはみんな、『渡辺さんが相手だったら、あたしたちの出る幕なんてないじゃんっ!』って号泣してたよ」
麻琴はしぶしぶながら、医務室でのことも「報告」する羽目となった。
「ええっ⁉︎ 松波先生、守永課長の前でそんなことしたのっ⁉︎」
稍がムンクの顔で叫んだ。
どうやら、そこまでは人事の小林 仁美に見られていなかったようで、麻琴はホッと胸を撫で下ろした。
だが、しかし……
「うーん……守永くん、かぁ……」
美咲があどけない童顔の眉間にシワを寄せて唸っている。とても彼女がこの中で一番歳上には見えないのだが、今はものすごく険しい表情になっていた。
——あ、美咲さんは知ってるわよね?
守永は美咲の夫の魚住とは同期入社で、大阪支社に配属されたのも同じだった。
当然のことながら、美咲と魚住の結婚パーティには守永も出席していた。
——当時の彼の妻、瑞季と一緒にね。
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