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Chapter 2
⑦
しおりを挟む「麻琴さん、誤解しないでくれよ。大事な妹を差し出すんだよ?相手の男をちゃんと見込んだ上で言ってるんだ」
麻琴の「気配」をなんとなく察したのか、松波があわてて言う。
「『御曹司』と言ってもね、彼はその卓越したアイディアと実行力から、『業界の風雲児』って言われてるそうだ。だから、それを活かした経営手腕で、僕なんかよりもずっと、これからの会社を盛り上げてくれると信じている。従業員の生活がかかっているんだ。しっかりと経営能力のある有能な者が上に立つべきなんだよ。まぁ……いつまでも同族企業でいるのもどうかと思わないでもないけどね」
そして——
「でもね、そんなことよりも……」
先刻、麻琴から押し戻されたピンキーリングのケースを、松波はもう一度、彼女の前にすーっと出す。
「やっぱりこれを受け取ってくれないかな?もし、気に入ってつかってくれるのであれば、だけど」
ロイヤルブルーのベルベットで覆われたケースの中で鎮座するそのリングは、Jubileeのものだ。
このJubileeという日本生まれのブランドは「普段使いできる上質なジュエリー」をコンセプトにしている。
通勤から休日のお出かけまで気軽に使える優れモノでありながら、ちょっと気の張ったフレンチレストランやお寿司屋さんにも堂々とつけていける品質の高さで、最近人気のブランドだ。それでいて、海外のブランドよりもリーズナブルなのだ。
また、テレビのニュース番組に出演する女性キャスターたちにも貸し出されているため、知的で洗練された雰囲気もある。
目の前に差し出された指輪はフォークリングで、その片側には麻琴の誕生石のオパールが、反対側にはダイヤモンドが煌めいていた。
——うわぁ、すっごくステキなデザイン♡
また、麻琴は身長があるためか手が大きかった。細長く見えても指はそれなりの太さになる。実は小指といえども九号ほどあるのだ。
彼女のコンプレックスの一つだった。せめて、少しでもキレイに見えるように、ネイルやハンドケアは欠かせない。
だけど、センターが空いていて、指の先から通さなくても指の根元にかぱっとはめ込むフォークリングであれば、サイズを気にせず楽しむことができる。
——どうしよう。このリング、めちゃくちゃ、ほしいんだけど……だからといって、もらうわけにはいかない……
「あ、あのっ、松波先生っ。こ、このリング、わたしに売ってくださいっ!」
どうしても諦められない麻琴は思わず申し出た。
「……へっ?」
パリコレにも出られそうな超絶イケメンが、なんともマヌケな顔になった。
「おいくらでしょうか?お支払いしますから、譲ってもらえませんか?」
麻琴は頭を下げて必死でお願いした。
「……麻琴さん、なかなか斬新な『ご提案』だけど、それ……本気で言ってる?」
松波の声に、今までに聞いたことがないほど、剣呑な響きがこもっていた。
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