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Prologue
②
しおりを挟む麻琴は、身長一六七センチのメリハリボディに美しい顔立ちで、街を歩くと女優やモデルと見紛う華やかさである。実際、十代の頃は芸能関係の事務所からしつこくスカウトされていた。
当然、学生時代には周囲の男たちから「高嶺のお姫さま」として崇め奉られてきた。
麻琴は新卒で入社した直後、大阪支社の配属となった。そのとき、教育係についたのが魚住だった。
初めて、自分から向かっていった恋だった。
見返りがないかもしれないのに、バレンタインの本命チョコもクリスマスプレゼントも誕生日プレゼントもあげた。
そして、勇気を振り絞って「お礼をください」と催促し、何度かデートもしてもらった。
魚住は、麻琴が生まれて初めて、自分から「好きです」と告げた相手だった。
だけど、結局、彼からは「ありがとう」以上の言葉をもらうことができなかった。
それどころか、いきなり現れた女に、あっという間にかっ攫われてしまった。
しかも、突然再会したという魚住の小学校の同級生だったその相手は、当時人妻だった。
その後、魚住は相手の夫に直談判して離婚させ、自分の妻にした。
今ではかわいい三歳の男の子にも恵まれている。
麻琴は——「完敗」した。
「『強力な補佐』っていうのはどなたなんです?」
畑違いの自分を拾ってくれるだけあって、フォロー体制を整えてくれているのだな、と麻琴はありがたく思った。
「ロハスのMD課の新課長が、君のチームのサブリーダーを兼任してくれるそうだ」
麻琴は目を見開く。
「課長なのに……『サブ』ですか?」
「君も知ってるヤツさ。おれの同期なんだ」
——魚住さんと同期というと……
「えっ、人事部の中山課長もロハスへ異動するんですか?」
すると、魚住部長は渋い顔になった。
「なんで、人事の中山がロハスのMD課に異動するんだ?」
——ということは、もしかして……
「……守永だよ」
——やっぱり……
麻琴の顔がみるみる曇っていく。
「おい、そんな顔するな。そもそも、君のロハス行きだって、守永が引っ張ってくれたから実現したんだぜ?」
——えっ、守永さんが?
「渡辺、おれだって大阪支社にいたんだから、君が思うところがあるのはわかるが『仕事』なんだからな。『私情』は挟むなよ?」
「……わかってます」
麻琴は一応、肯いておいた。
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