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الفصل ٥「初対面のproposal !?」
③
しおりを挟む「ど、ど、どこが……?」
どこの世界に「第一夫人」を飛び越えて「第三夫人」にするのが「優しい」と思える国があるのか?
——いや、この国……というか、ムスリム社会がそうなの?
「ムスリムの妻、一番目はfamilyです。子どものとき、父親がcousinに決める、とても多いです」
日本でも昔の旧家にあった、いわゆる「許嫁」ということだろう。
「二番目はこれから仲良くしたいclanです。昔戦いのあと、敵のclanの娘はsacrificeでした」
——ひいぃっ!『sacrifice』って……生贄じゃんっ!
つまり、家同士の仲直りのための「政略結婚」に差し出される生贄ってことだ。
「なので、自分で妻を決めるは三番目と四番目です。同じムスリムは良いですが、違うでも一番目と二番目でないなら……」
「異民族な上に異教徒な女は、相手の父親から『第一夫人』や『第二夫人』としては認めてもらえないけど、三番目以降なら認めてもらいやすいというわけね」
ムフィードさんは大きく肯いた。
彼が言いたかったミスター・マーリクが「優しい」っていうのは、あたしが「第三夫人」であれば、わざわざイスラム教に改宗しなくてもいい上にマーリク氏の父親から認められやすくなる、ということなんだろう。
特に、彼らにとっての「父親」というのは、ものすごーく厄介そうな存在だ。
だが、しかし……である。
日本社会で「一夫多妻」なんて、そもそも人権侵害どころか憲法違反の民法違反だ。
もし、社内で上司が部下に話を持ちかけたのが発覚すれば(その場合は「妻」ではなく「愛人」だろうけど)パワハラ案件としてコンプライアンス室へ直送である。
——「取引相手」からこんな理不尽な話を持ちかけられてると知ったら、きっと会社は守ってくれるだろうな。
だけど……その結果、あたしはきっと「日本に戻される」に違いない。
そして、帰国すれば人事部からは「海外赴任の早々に取引相手と問題を起こした」と見做され、あたしにはもう二度と海外で仕事するチャンスが与えられなくなるだろう。
もしかしたら、東京本社にもいられなくなり、地方に飛ばされるかもしれない……
それが、日本の「会社社会」だ。
あたしの眉間にぐーっとシワが寄った。
——どうしよう……
何年も赴任するつもりでアブダビに来たにもかかわらず、こんなにも早く帰ってしまわなくてはならないかもしれなくなるだなんて……
「マミコさん」
マーリク氏に先ほどの会話を通訳し終えたムフィードさんが、いつの間にか心配そうな目であたしを見ていた。
「条件、言ってください。あなたがいいと思う条件で……」
ムフィードさんはきっぱりと告げた。
「これから、ミスター・マーリクと『契約』しましょう」
「だったら……」
そのとき、不意に閃いた。
「この結婚を——『秘密結婚』にしてください」
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