きみは運命の人

佐倉 蘭

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しあわせな朝【Bonus Track】

♡×4

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——あぁ、胎教に良くない。

   稍がそんなふうに思っていると、
「なぁ、おまえ……気ぃついとったか?」
   不意に智史から尋ねられる。

「なにをなん?」
   稍は犬のような目で、彼を見上げた。

——おまえ、かわいすぎるやろ?

   そう思った智史は、稍のぷるっとしたくちびるに、ちゅっ、とキスを落とした。


「『八木 稍』も『青山 稍』も『や』が三つあるのは同じやのに……」

   なぜか、智史が仕事中のような神経質な面持おももちになる。

「やぎやや」と「あおやまやや」

——あ、本当ほんまや。


「なんで——『やぎやや』だけが、へんてこりんやねん?」


——そんなん、知るかっ⁉︎ それに人の名前を『へんてこりん』って言うなっ‼︎

   稍は脱力した。智史の腕の中で、ぐったりとなる。

「……稍?」
と問われても、なにも答えられない。

「大丈夫か?おまえ、なんか身体からだ冷えてないか?……あっためたるわ」

——ここは雪山か⁉︎

   実際には空調がばっちり効いていて、稍はむしろ暑いくらいだった。

   だが、智史は稍の醸し出す「空気」を読むことなど一切なく、稍に覆い被さってきた。

「……ちょ、ちょっと……智くん……赤ちゃんに……気ぃつけてや?」

   これだけは言っておかなくてはと、稍は今際いまわのきわの「遭難者」のように気力を振り絞る。

「わかっとるわ。……そしたら、もうそろそろ、おまえが『上』に乗る方がええんかな?それとも『対面』か?お腹を圧迫しにくい『側面』って手もあるな」

   智史は「遭難者」を自ら担いで下山すべきか、それともすぐにヘリ要請すべきかを思案する「救助隊員」のように、神妙な顔つきになっていた。


——そういう・・・・意味で「気をつけろ」とは、いっさい言うてへん。

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