大江戸シンデレラ

佐倉 蘭

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八段目

岳父の場〈伍〉

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゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


「……とまぁ、こういうこった」

   多聞は流石さすがにおいそれと明かせぬ「御前様」のくだりは伏せていたものの、兵馬に「想い人」がいたことは美鶴に正直に話した。

「おめぇさんには酷な話だがよ。隠しておくよりゃ、知っておいた方がいいと思ってな」

   多聞の話をじっと黙って聞いていた美鶴は、
「舅上様、わたくしのような者にさようにまでお気遣いたまわり、誠にありがたきことにてござりまする」
   深々と平伏した。

「……返す返すも兵馬の野郎にゃあ、もったいねえくれぇの嫁御だってんのによ」

   一体いってぇだれに似たんだか、とぼやいて、はぁーっと多聞がため息を吐く。

「そいでもって、その『相手』だがよ」

   美鶴はおもてを上げる。

「おめぇさんも、よっく知ってるおなご・・・のはずさ」

——わたくしも、知っているとは……

久喜萬字屋くきまんじやで、振袖新造ふりしんやってたっうおなごだ。南町奉行所うちの息のかかった岡っ引きや下っ引きに調べさせたところによると……」

——も、もしかして……

「あいつら、しょっちゅう人目を忍んでは、吉原のはじにある御堂で逢引してやがったらしい」

   苦虫を噛み潰しっぱなしの多聞の顔に、さらに呆れ果てた色が混ざった。

「だが、つい先達せんだって、廻船問屋の淡路屋がせがれの嫁に、ってんで、あっさりと身請みうけされちまいやがったけどな」

——あぁ、やはり……

「見世にいた頃とは違って、今では『おゆ』って真名まなで呼ばれているらしいがな」


——「玉ノ緒」であったか。

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