それからの日々

佐倉 蘭

文字の大きさ
上 下
10 / 10
それからの日々

⑥〈完〉

しおりを挟む

   朝からみどりは2LDKの部屋の中を、落ち着きなく動き回っていた。時折、立ち止まっては、大きくふぅーっと息を吸って、はぁーっと吐いている。

「……落ち着け、みどり」
   洋史が口の端を上げて苦笑する。

「智史くん、もうそろそろ来るねんやろ?……お昼ごはん、食べるかな?」

   リビングとダイニングの掃除をし終えたみどりが、掃除機を片付けながら尋ねる。
   約束の時間は午前十時だった。

「さぁ……どうやろか?」

「もし、食べてくれるんやったら……なにがええかな?あんまし気張ったら却って気ぃ遣うやろうから、簡単なものでも用意しよか?」

   とはいえ、まさか昔のようにハンバーグとケチャップライスを食べてもらうわけにはいかないが。

   そのとき、ピンポーンという軽やかな音が、リビングに響いた。


「智史くん、いらっしゃい。こないだ突然、連絡くれはったからびっくりしたけど、今日はよう来てくれはって。……こんなに背ぇも伸びて、すっかり立派な大人にならはったなぁ」

   みどりは智史を見上げて目を細めた。最後に見たのは、彼が小学生の頃なのだ。

   今の彼は——まさに「あの頃の洋史」だった。

「……あら、彼女連れて来たん?それとも、奥さん?」

   智史の隣には、彼に手をつながれて立つ女性がいた。自分の背より五センチほど高い彼女を、みどりは満面の笑みで見た。

   しかし、次の瞬間——その表情が、がらりと変わった。

「……まさか……やや?……稍なん?なんで……今日来るのは、智史くんだけとちゃうの?」

   そう言ったきり、みどりは絶句した。

   みどりがわが子の姿を直接見たのも、娘がまだ小学生のときだった。

「どうした、みどり……」
   奥から、洋史が出てきた。

   やはり、メタルフレームの眼鏡をかけた彼とリムレスのそれをかけた智史とは、「親子」以外の何者でもないほど、よく似ていた。

「……まさか……稍ちゃんか?……二人で来たんか?」

   彼もそう言ったきり、絶句している。
   どうやら、みどりの娘が来ることは知らされていなかったようだ。


「……二人とも……とにかく、中に入って……」

   みどりは、彼らをリビングへといざなった。











「それからの日々」〈 完 〉
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
※【関連作品】
「偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎」
「きみは運命の人」
「契約結婚はつたない恋の約束⁉︎」
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

えむ3
2022.11.12 えむ3
ネタバレ含む
佐倉 蘭
2022.11.14 佐倉 蘭

えむ3さま
こちらもお読みくださりありがとうございます(^人^)
寸止め、すいません…笑笑

解除

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

カラダから、はじまる。

佐倉 蘭
現代文学
世の中には、どんなに願っても、どんなに努力しても、絶対に実らない恋がある…… そんなこと、能天気にしあわせに浸っている、あの二人には、一生、わからないだろう…… わたしがこの世で唯一愛した男は——妹の夫になる。 ※「あなたの運命の人に逢わせてあげます」「常務の愛娘の『田中さん』を探せ!」「もう一度、愛してくれないか」「政略結婚はせつない恋の予感⁉︎」「お見合いだけど、恋することからはじめよう」のネタバレを含みます。

バカンス、Nのこと

犬束
現代文学
私のために用意された別荘で過ごした一夏の思い出。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。