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変身ヒーローと無双チート救世主

終わらない世界と、望まれる結末

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 高らかに笑う光晴の声に目覚めさせられた。
 さっき、俺の拳が光晴の心臓を貫いたにも関わらず、ダメージをまったく与えられなかったが、俺も同じだった。
 ネムスギアは機能を停止させられていて、右胸には刀が突き刺さっているのに痛み一つ感じない。
 そりゃ、自分の書いた作品の中にいるんだから、当たり前だ。
 痛みを感じないと書けばまったくその通りになる。
 この世界が平和になってもその先がないのは当たり前だった。
 この物語を書いた人間は――いや、この世界の命にとっては神と同じなんだろうけど、光晴にはこの世界の続きを書くことはできなかった。
 あるいは、生きていたとしても続きを書くつもりはなかったんだろう。
 世界の理を知った者たちは、その事に気づいていたんだろうか。
 未来は気付いていたみたいだ。
 心の中を読むことが出来るのだから、ある意味当然。
 彰は、俺の心を視ることができたみたいだから、だいたいわかっていたんだろう。
「ハル様! おめでとうございます! これで世界は平和になったんですね!」
 例の女たちが光晴を囲んでいるのがわかる。
「ああ、そうだな」
「それじゃ、約束です。この中の誰と結ばれるんですか?」
「……今回は、マイかなぁ」
「やったぁ! に――」
「ちょっと待て! そのセリフは禁則事項だ!」
 俺は体から刀を引き抜いて立ち上がった。
 光晴が眉間にしわを寄せる。
 さすがに困惑しているようだった。
「ば、馬鹿な。どうしてお前は立ち上がれるんだ?」
「その前に、一つ言っておきたいことがある」
 改めて光晴を囲む女たちを見る。
 どこかで見覚えがあるとは思っていたが、やっとわかった。
 漫画やアニメやゲームのヒロインばかりだった。
 誰がどの作品のキャラクターなのかはっきりさせることも可能だけどそれは野暮だろう。
 まあ、何となく察して欲しい。
「自分の作品に他の作品のキャラクターを登場させるのは、アウトだろう。せめて名前くらいは変えろって」
「お前、何を言ってるんだ……?」
 惚けているわけではなさそう。
 もしかして、光晴は自分で自分のことをよくわかっていないのか?
 ネムスのことを覚えているのに、異世界転生した記憶も、この世界において無敵なことも自覚しているのに、都合の悪いことだけは記憶していないらしい。
 謝りもせずに逃げ出しただけのことはある。
 救われないわけだ。
 光晴も、この世界も。
「なぜ、お前は生きているんだ?」
 イラついたように光晴が言った。
「お前が死なない理由と同じだよ」
「まさか、お前も神のギフトを?」
「ああ、そう言う“設定”だったっけな。その恩恵を理解しているのに、世界の理についてはよくわかっていないのか」
「世界の理だと? わけのわからないことをごちゃごちゃと」
「お前が何をして、どうしてここにいるのか。本当にわかっていないなら教えてやるよ」
「黙れ! お前は俺の敵だ! 理由はわからないが俺の心がそう言っている!」
 光晴がそう叫びながら向かってきた。
 ネムスギアのシステムを通したこの世界における光晴の能力も見える。
 目にも留まらぬ速さで俺に近づき、刀を奪って斬りつけてきた。
 ――が、刀の刃を右手で掴む。
 俺の手から血が流れることもない。
「!?」
 光晴はその光景を目の当たりにして動揺しているのが見て取れた。
 すぐに刀から手を離してバックステップで距離を取る。
 逃げる才能だけはあるらしい。
 あのまま俺を攻撃していたら、有無を言わさず終わらせていた。
「お前たち! ネムスを殺せ!」
 光晴が取り巻きの女たちに命令する。
 彼女たちは一斉に俺に攻撃してきた。
 各々必殺技を放つ。
 耳を塞いで目を閉じる。
 さすがに、技の名前やら形状やらを描写したくない。
 どれも禁則事項だ。
 避けていないが、当たった衝撃もない。
 少し間を開けてから目を開くと、取り巻きの女たちも光晴と同じような表情をさせていた。
「そ、そんな……私たちの技が……」
 彼女たちを殺すのは簡単だ。
 だが、それはしたくなかった。
 俺にとっても、好きな作品のヒロインたちだ。
 仮初めの存在でしかないとは言え、光晴の玩具として存在する彼女たちを俺がここで手にかけるのはさすがに心が痛む。
 光晴から解放して速やかに退場してもらうべきだろう。
「なあ、光晴。この世界は魔王がお前に倒されたら終わるんだよな」
「ああ、そうだ」
「――なぜだ?」
「なぜ?」
「そう。魔王が滅び、人類は平和を取り戻した。それで、めでたしめでたしじゃないのか? まあ、好評だった物語には続きがつきものだから“パート2”が始まるならまだいいさ。どうして、そこで世界が終わり、物語が繰り返される?」
「うるさい! 黙れ! それはこの世界の神様が決めたことだ!」
「その神様ってのは、お前のことだろ」
 光晴は目を見開いたまま言葉を失っていた。
 それは俺の言っていたことが真実だと認めるようなものだし、それを光晴自身が認識していることの現れでもあった。
 追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「ま、お前が本当はただの高校生で、盗作しか出来ないってこともわかってるんだけど」
「止めろ! お、お前は“武装セイバーネムス”じゃないのか?」
「外見はな。だが、その前にもう一つ気付くべきことがあるんじゃないのか?」
「気付くべきこと?」
「救世主によって全ての魔王が倒されたのに、世界が終わらないじゃないか」
 光晴は辺りを見渡すが、何も変化は起こらない。
 起こるはずがない。
 この世界の神様はもう一人ではないから。
「この物語がまた始まりへ戻ることはない。お前がエンディングを書かないなら、俺が書くだけだ」
「ま、まさか……そんなことが……」
「その前に、お前に殺された命を復活させないとな。お前の自己満足に付き合わされて死んだんじゃ、あまりに可哀想すぎる」
 命を蘇らせる魔法は存在しない。
 だが、俺が失われた命の復活を思い描くだけで蘇る。
 ヨミやアスルや、俺が関わってきた全てのこの世界の命が体と共に俺の背後に現れる。
 残念ながら、俺の知らない命を復活するのは難しかった。
 一応、この世界の基礎を作ったのは光晴だからな。
 俺が新たに増やすことも出来るだろうが、それは死んだ命を復活させるのとはまた意味が変わってしまう。
 取り敢えず、主要的な登場人物を蘇らせれば、物語としては成り立つだろう。
「アキラ!」
 ヨミが抱きついてきた。
 胸の感触が体に伝わってきて、思わず前屈みになってしまいそう。
 感動の再会のはずが、ちょっとギャグっぽくなってしまうのは、俺のノリのせいかな。
「兄ちゃん……ありがとう……」
 しみじみとアスルが言う。
 目尻に浮かんだ涙の意味は、俺にもよくわからない。
 ヨミの肩を掴んで、体から少し離しながらアスルに頷き返した。
 今にして思えば……ヨミやアスルはたぶん、俺が救った時から光晴のキャラクターという存在の枠を外れたんだろう。
 だから、魔王としての役割を放棄しているにもかかわらず、天使による粛清を受けなかった。
 光晴による物語の改編によって心が奪われても、二人の心が失われなかったのはきっと、俺のキャラクターになっていたからだ。
 もっとも、俺自身がその事を自覚していなかったから二人が体を取り戻すのに時間がかかってしまったが。
「……なぜだ? なぜ、俺がここにいる」
 自分の体を確かめながらそう言ったのは、ヴィルギールだった。
「この世界の行く末は、この世界の者たちに決めてもらおうと思ってな。人間と戦争を続けるのか、あるいは和解するのか。それも含めてあんたたちに決めてもらいたい」
「お前は……異世界の……」
「俺や光晴がこの世界のキャラクターとして活躍して運命を決めるのは、フェアじゃないと思うんだ。だから、俺たちがこの世界から去った後で自分たちの世界の運命を決めてくれ。どんな結末を迎えようと、俺はそれを書き記す。それが俺の想像するこの世界のエンディングだ」
「そんなことは認めない! この世界は俺のための世界だ!!」
 光晴が刀を握り構える。
「お前たちも一緒に戦え! もう一度魔族と魔王を滅ぼす!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
 七つの声が重なる。
「くっ! あいつらは――」
 表情を強張らせて身構えたのは、シャトラスだった。
 確か、あの決戦で光晴の取り巻きたちに殺されたはずだ。
 その時のことを思い出したのか。
 世界の理を理解していなかったはずだが、俺が復活させたからその記憶も残ってしまったということか。
「ああ、安心しろ。あの女たちは本来この世界のキャラクターじゃない。借り物のキャラクターが俺の仲間に負けるわけないだろ。そこで高みの見物でも決めてろよ」
「……む、婿殿も戦わないんですか?」
「俺の相手はあいつだけだ」
 女たちの後ろから駆けてくる光晴を見た。
「ヨミ、アスル。女たちを頼んでいいか?」
「はい」
「任せてくれ」
 ヨミがダーククロースアーマーの魔法を使って闇の全身スーツを身に纏う。
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 妙な視線を送ってしまいそうになったので、アスルを見た。
「はあああぁぁぁ!!」
 光と闇の力がアスルの全身を駆け巡り、両手から溢れ出る。
 ヨミとアスル、光晴の取り巻きたちとの戦闘は戦いと呼べるものではなかった。
「技が、使えない!?」
 露出の多すぎるくノ一姿の女が声を上げる。
 他の女たちも似たようなものだった。
 自分の能力が発揮できず戸惑っている。
「隙だらけです!」
 ヨミ必殺の回し蹴りがくノ一姿の女を一蹴する。
 彼女は声を上げることもなく、天使のように光となって消えていった。
「え……」
 その様子を見て、ヨミとアスルも一瞬驚いて動きを止めた。
「この人たちは、人間じゃなかったんですか?」
 女たちと向かい合いながら、ヨミが聞く。
「いいや、一応人間だけど、この世界の人間じゃない」
「では、アキラと同じく異世界の人間――」
「それも違う。この体――大地彰やそこにいる大地未来と同じ。他の物語のキャラクターたちだ」
「……よくわかりません」
「わからない方が良い。詳しく説明も出来ないしな」
「くそっ! なんで戦わないんだ! お前らは俺のためにこの世界に想像してやったんだぞ!」
 光晴が焦っているのが見て取れた。
 まだわかっていないらしい。
 今度は俺が、あいつに全てを教えてあげなければならないのかも知れないな。
 きっと、受け入れないだろうが、無理矢理でも認めさせる。
「無駄だ。そのヒロインたちはもうこの世界では活躍できない。そういうのは二次創作の作品でやれよ」
 俺が認めない限り、他の作品のヒロインである彼女たちがその力をこの世界で表現することは許されない。
 これを発表している場では、二次創作は基本的に認められていない。
 必殺技の名前なんて叫ぼうものなら、たちまち禁則時候に触れてしまう。
「お前……さっきからなんなんだよ! 偉そうに上から目線でものを言いやがって! この世界は俺の世界だ! 作者である俺が気持ちよく活躍するための世界で、俺が何をどう思い描こうと俺の勝手だ!!」
「……やっと、認めたな。お前がこの世界を書いた神――作者だって」
「ああ、そうだ。だったらなんだって言うんだ」
「この世界をどうやって書いたのか、思い出したか?」
「……それは……」
 光晴が口をつぐんで下を向いてしまった。
 俺はマーシャに近づき、彼女が持ってきてしまった同人誌を受け取る。
 あの町は、きっと光晴の心の中を表現した町だったのだ。
 探せば他にも中身が描かれた作品が見つかると思う。
「この同人誌に見覚えはないか?」
 光晴はこちらを向こうともしない。
「ネムスを題材にした二次創作でタイトルは“ネムスの続きを描いてみた”だ」
「し、知らない」
「お前が認める認めないに関わらず、、この世界には俺の物語も生きているんだよ。盗作って形ではあったが」
「盗作なんてしてない!」
「いや、だからそれはもういいんだ。この同人誌がこの世界にあるってことは、お前の書いた世界に俺の物語がちゃんと残ってるってことだ。お前は心の底ではそれを認めている。だからこそ、俺にもこの世界で物語が書けるんだ」
「……まさか、お前もこの世界の作者だと言うつもりか?」
「光晴に巻き込まれただけだけどな」
「俺の世界に、他の作者は必要ない!! 消えろっ!!」
 刀の柄に手をかけたまま走ってくる。
 よくよく考えれば、あいつの技も漫画やゲームで見覚えがあった。
 光晴の姿が揺らめいたと思ったら、目の前に出現した。
 居合抜きのように刀を鞘から放つ。
「いい加減、目を覚ませ。お前はもう死んでるんだ」
 光晴の刀が俺に触れるより先に、俺の拳が光晴の顔を捉えた。
 腕を振り抜くと、光晴は顔面を地面に打ちつける。
 光晴はうつ伏せに倒れたままピクリとも動かない。
「お前にこの世界の物語の続きは書けない。お前自身がこの世界に引きこもることを望んだことも一つの要因ではあると思うが、この世界を書き残した世界でお前は自殺した。だから、どうやっても続きを書くことは出来ないんだよ」
「ゲホッ……カハッ……」
 光晴が四つん這いになった。丁度、顔の下辺りに血と白い欠片が落ちる。
 思いきり殴ったから歯が折れたのかも知れないな。
 ま、この世界で俺たちがどんなに肉体に怪我を負っても意味はないけど。
 そもそも、光晴はもう生きていない。
「……どうして、邪魔をするんだ……?」
 光晴は血と涙でぐちゃぐちゃの顔をこちらに向けた。
「現実の世界は何一つ俺の思い通りにはならなかった。あの世界はあの世界の作者たちが自分たちの思い通りに活躍している。だったら、俺だって同じように自分の書いた世界で好き勝手に活躍したって良いはずだろ」
「……そうだな。こうして世界の理を知ってみると、確かに俺たちの世界も誰かの物語の世界なのかも知れない。その中では俺もお前もきっとサブキャラにすらなれないただのモブキャラかも知れない。でも、お前はそこから解放されたかったんだろ。だから、命を捨てた。この世界も、お前のワガママに付き合うのが嫌になったんじゃないか?」
 俺の言葉に、光晴はただ体を震わせるだけだった。
 光晴の取り巻きの女たちが、次々と光の粒となってこの世界から消えていく。
「……一つだけ、勘違いをしているよ」
 光晴は仰向けになって手足を投げ出した。
 大の字を描いたまま言葉を続ける。
「あんたを呼んだのは、俺自身だ」
「え?」
「どんなに活躍しても、賞賛されても、全て自分の思うがままに動くキャラクターたちだって俺はわかっている。それじゃ、退屈すぎたんだ。だからといって、手に入れた快楽を手放すことも出来なかった。あんたの世界で俺の体は死んでいるが、この世界では俺の心が死んでいくようだった」
 この世界の理に捕らわれていたのは、この世界の命だけでなく、作者である光晴自身も取り込まれようとしていたってことか。
「……あんたの書いた物語は、今までにない展開で久しぶりに面白かった。だけど、礼は言わないぜ。この物語では、俺こそが最後の敵だからな」
 光晴は腕で血と涙を拭って刀を握った。
「どうしても決着を付けるのか?」
 光晴が自分のことを認めたなら、それで終わりだと思っていた。
「俺が死んだことを認識しなければ、エンディングは書けないだろ」
 その言葉の通り、世界は止まったままだった。
「――変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』
 マテリアルソードが俺の手に現れる。
 両手で柄を握って光晴を正面に見据えると、俺の手にヨミが手を重ねた。
 マテリアルソードに魔力が注ぎ込まれる。
 そんな“設定”はなかったはずだが、マテリアルソードが計測不能のエネルギーを放出した。
「あの、ミツハルさん。あなたにとって私は取るに足らないキャラの一人だったのかも知れませんが、お陰でアキラ――いえ、悟郎さんと出会えました。だから、生んでくれてありがとうございます」
 光晴は泣いているような笑っているような複雑な表情をさせたが、一瞬で顔を歪ませる。
「お前はただのモブキャラだ! アイレーリスの王国騎士団に殺されるだけの存在に感謝される筋合いはない! まとめて死ね」
 光晴が刀を振るう。
 俺とヨミは一緒にマテリアルソードを掲げ――。
『スーパーチャージアタック! ファイナルエーテルスラッシュ!』
 世界の全てを断ち切るほどの剣が光晴を飲み込んだ――。
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