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変身ヒーローと魔界の覇権

魔王ヴィルギールの能力

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 白い羽と共に降り立つ。
 その姿は確かに幻想的で威厳に溢れたものだった。
「俺があいつと戦っている間に逃げてくれ」
「アキラさん……いえ、わかりました」
 何か言いたそうにしていたが、マーシャは言葉を飲み込んでただ頷いた。
 車から降りて、天使と対峙する。
『気をつけてください。背後からは魔王の魔力も近づいています』
 計算されたかのような挟み撃ち。
 確か、シャトラスの話だとヴィルギールは天使と手を組んでいる。
 それが本当だったと証明された。
 魔王がここへ来る前に、こいつには消えてもらわなければならない。
「お前は人間だな?」
 無表情のまま天使が聞く。
「だとしたら、何だ?」
「なぜ、その魔族を助ける。人間にとって魔族は敵のはずだ」
「それはこっちのセリフだ。お前こそ天使ならなぜ魔王と手を組んでいる」
「私たちはこの世界の秩序を守るもの。魔族は悪として存在し、人間と戦わなければならない。人間と戦わぬ魔族は欠陥品だ。排除しなければならない」
 そこまで言うと、呪文を唱え始めて構えを取った。
「光の神と聖なる神の名において、我が命ずる。天をも貫く浄化の光。ホーリーランス」
 その手に光の槍が現れる。
「変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』
 俺と天使はまるでシンクロしているかのように同時に地面を蹴った。
 マテリアルソードで斬りつける。
 天使は両手で持ったホーリーランスで俺の斬撃をいなした。
 そして、一歩踏み込みながら斬り上げる。
 俺は上体を反らして躱した。
『チャージアタックスリー、レイストームスラッシュ!』
 上体を起こすと同時に剣を袈裟懸けに振り下ろす。
 セットされた技が発動していくつもの斬撃が天使を捉えた――かに見えたが、バックステップで躱していた。
 光の槍で受け止めてくれていれば、槍ごと体を斬り裂いていた。
 これまでにも天使とは戦ってきたが、こいつもやはり姿は同じだが、戦い方はまるで違う。
 今までの戦い方で倒せるとは思えなかった。
 天使は光の槍を消滅させた。
 そして、翼を使って空へ飛び上がる。
「何だ? 諦めるのか?」
「光の神と聖なる神の名において、我が命ずる。降り注ぐは浄化の光。ホーリーレイ」
 天使の両手から無数のレーザーが飛んできた。
 一定の方向は定まっているものの、正確に俺を狙って放った魔法じゃない。
 雨のように降り注ぐレーザーは地面に穴を空け、木々を貫き、車と俺にも襲いかかってきた。
「変身!」
 威力がどれくらいなのか判断できなかったので、すぐにキャノンギアを展開させる。
 マシンガンのような音が聞こえてきた。
 それは、車を覆う淡い光に天使の魔法がぶつかった音だった。
 マーシャが防御魔法を使って防いでいる。
 さすがに俺まで助ける余裕はなさそうだが、その必要はなかった。
 キャノンギアのアーマーは天使の魔法では傷一つ付かない。
『バスターキャノンを形成します』
 遠距離戦ならこっちも出来る。
「お返しだ」
『チャージショットスリー、ショットガンバレット!』
 砲身の先でエネルギーが爆発する。
 拡散して広がるエネルギーの弾丸は、空中にいる天使に逃げ場を与えなかった。
 弾丸の嵐が過ぎ去った後、そこには翼も服もボロボロに撃ち抜かれた天使の姿があった。
「今の内に逃げろ!」
 俺の声は車内にもしっかり届いたようで、車は土煙を上げながら一本道を駆けていく。
 だが、俺の注意はまだ天使に向いていた。
 ネムスギアが天使のあらゆるデータを数値化して映し出している。
 魔力はそれほど落ちていない。
 呼吸も体温も平常値を示している。
 そして、傷ついたはずの体はみるみる元の姿へ戻っていった。
 さすがに服だけは撃ち抜かれたままだったが。
 やはり完全に天使の行動を止めるには必殺技で攻撃するしかないってことか。
「光の神と聖なる神の名において、我が命ずる。流れ星のきらめきのごとく撃ち抜け。シューティングブラスター!」
 天使の両手から放たれた光の塊が向かってくる。
 その光に込められた魔力から破壊力の高さが予測できた。
 避けても辺り一帯が吹き飛ぶ。
『スペシャルチャージショット、マキシマムエナジーバスター!』
 とっさだったからエネルギーの調整をせずに、砲弾全てをつぎ込んだ。
 放射状に放たれたエネルギーの勢いに、俺の体が押されて後ろに下がる。
 天使の魔法と俺の必殺技がぶつかり合うと思ったら、光の塊を吹き飛ばしてそのまま天使を俺の必殺技が飲み込んだ。
 雲まで貫いたエネルギーの通り道に、形を残すものは何も存在しない。
 天使は消滅の瞬間すら俺の目に映ることはなく消し飛んでいた。
 エネルギーを使い果たしたバスターキャノンはその形を維持できなくなり、強制的に武装解除される。
『彰、少し遅かったようです』
「……天使を倒せるというのは、本当らしいな」
 AIの警告に注意を払う間もなく、背後から聞こえてきた声に振り返る。
 そこには魔王と魔物たちが集まっていた。
「しかし、時間稼ぎにはなったか」
 ヴィルギールという名の魔王が一歩前に進む。
 マスクの下で頬に冷や汗が流れる。
 ヴィルギールの魔力は、他の魔王に比べるとそこまで高くはない。
 それでも魔王であることに変わりはない。
 キャノンギアではもう戦えないし、ソードギアとファイトギアだけで何とかなるとも思えない。
 魔王が相手だからか不気味な雰囲気は拭えなかった。
「お前は何者だ? 天使を倒せる人間など見たこともない」
 その質問に、首をかしげそうになった。
 シャトラスから俺の話を聞いていない。
 あいつが俺やフェラルドを裏切っているのなら、それくらいのことはすでに伝えていてもおかしくないはずだ。
 一体、何を考えているのか……。
「そっちこそ、魔王が天使と仲良くやってるとは思わなかったぞ」
「はっ! 仲良くだと? あいつらは俺の目的のために利用しているに過ぎない。ま、天使どもはどうやら世界の混乱を求めているようだから、あいつらにとっても俺は利用価値があるんだろうが」
 吐き捨てるようにそう言う。
「お前の目的は人間を滅ぼすことか?」
「それ以外に魔王や魔族の存在価値があると思うか?」
「お互いに緩衝せずに別々の大陸で平和なまま生きていけば良い。魔族も人間も争い合うためだけに存在しているわけじゃないだろう」
「ハハハハハハッ! そんなことができるわけないだろう。俺は人間が憎い。なぜ憎いのかはわからないが、俺の心に平穏を取り戻すには、人間を滅ぼすしかない!」
 悪意の塊のような声だった。
 ある意味、これがこの世界における本当の魔王であり、魔族の考え方なのかも知れないと妙に納得してしまうほどの想いだった。
 原因不明の憎しみ。それは、もはや本能と変わらないのでは。
 少なくとも、この魔王だけは説得できないと悟った。
「わかった。これ以上お前と話すことに意味はないってことだけは」
「フッ……人間ごときが天使を倒しただけで粋がるなよ。あいつらには俺たちの攻撃が効かないってだけで、魔力は俺の方が上だ」
 わざわざ言われなくてもわかっている。
 だから、こいつを倒すには――。
「融合変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ハイパーユニオンギアフォーム、展開します』
 紫色のアーマに上半身が包まれた時には、すでにヴィルギールの正面に距離を詰めていた。
『チャージアタックスリー、イラプションアッパー!』
 ヴィルギールと目が合う。
 その瞳は驚愕の色に染まっていた。
 口を開きかけた瞬間、顎をしたから殴りつける。
「ガッ!」
 強制的に口を閉じさせたから、短い喘ぎ声だけが聞こえてきた。
 体の芯を捉えたかのような手応えが手に伝わり、そのまま空へヴィルギールを打ち上げる。
 このまま一気に勝負を付ける。
 腰を落として一気に跳び上がった。
 ヴィルギールは白目を剥いてきりもみしながら空を舞っていた。
 俺はそれよりもさらに高く跳んでいて、
『オーバーチャージブレイク、ファイナルストライク!』
 強く握った右の拳にエネルギーが集まって、まるで光るボクシンググローブのように拳を包み込んでいた。
 自由落下しながら拳を振り下ろすと、まるでそこにロケットのエンジンがあるかのように後方にエネルギーを放射させながら地上に向かっていく。
 その途中でヴィルギールの体を捉え――。
 そのままさらに勢いを付けて地面に激突した。
 拳のエネルギーが爆発を起こし、土砂を巻き上げる。周囲の木々は薙ぎ倒されたり、根っこから吹き飛ばされた。
 俺自身にも衝撃がかかるほどの一撃だった。
 マスクの外の映像は土煙のせいでよく見えないが、センサーが感知しているヴィルギールの魔力はほとんど消えていた。
 俺はそこから飛び退る。
 そこでようやくこの必殺技の破壊力が客観的に窺えた。
 地面に叩きつけたヴィルギールを中心とした巨大な穴が出来ていた。
 深さも半径も百メートル以上ある。
『これでも、彰は無意識的に力をセーブしていましたけど』
「そうなのか?」
『合体必殺技は威力が高いということを心の奥では理解しているものと思われます。彰の……いえ、本来のあなたの心が周囲を巻き込むほどの力を振るうことに躊躇いがあるのでしょう』
 その言葉に余り説得力は感じられなかった。
 すでにこの辺りの土地には甚大な被害を与えている気がするが……。
「ヴィ、ヴィルギール様!」
 穴の縁にヴィルギールが連れてきた魔物たちが並ぶ。
 そこから呼びかけているが、ピクリとも動かない。
 しかし、クリスタルになっていないと言うことは、まだ生きているってことだ。
 魔力は高くなくても体は丈夫だと言うことか。
 もちろん、このチャンスを逃すつもりはない。
 俺が穴の底に降りようとしたら、魔物たちが魔法を撃ってきた。
 炎や雷や風の魔法。
 正直言って、避けても喰らっても何ら影響はない。
 せいぜい鬱陶しいくらいだ。
「おい、一応言っておくが、俺の邪魔をするならお前らもああなることだけは忘れるなよ」
 何だか、言い回しが悪者のようだが、魔物たちは歯がみしてこちらを見ているだけだった。
 今度こそトドメを刺そうとヴィルギールを見たら、そこへ魔物が落ちてきた。
 穴の縁から足を踏み外したのかと思ってそちらを見ると、魔物たちが次々と倒れていく。
「何だ?」
『これは、まさか……』
 見る見るうちに魔物の魔力は消失し、クリスタルだけがそこに残る。
 そして、ネムスギアのセンサーが魔王の復活を表していた。
 穴の底で立ち上がったヴィルギールの体には傷一つない。
 魔力も回復していた。
「……保険のつもりだったが、奴らを連れてきて正解だったな」
 そう言って浮かび上がった。
 穴から脱出したヴィルギールは俺に不敵な笑みを向ける。
「エサとして吸収するために、魔物たちを連れてきたのか?」
「当然だ。魔王や天使を倒したお前を相手にあの雑魚どもが役に立つとは最初から思っていない」
 胸くその悪い魔王だ。
 あいつらは一応この魔王のことを心配していたのに。
「しかし、まさか勇者でもない人間がここまでの力を持っているとは思わなかった。今までの俺では勝てなかっただろうな……」
 負けを認めている割に、ヴィルギールにはなぜか余裕があった。
「今までの? これからのお前にも勝ち目はない。この場で決着を付けてやるからな」
「それはどうだろう。お前に、魔王二人分の力が倒せるかな?」
 そう言って懐から何かを取り出した。
 ヴィルギールの右手には六角形のシンプルなクリスタルが握られていた。
 あれは、どこかで見覚えのある……。
『魔王のクリスタル!?』
 AIがすぐに答えを教えてくれた。
 そうだ。
 あれは伝説の剣に封印されていた魔王のクリスタル。
 俺は朧気にしか覚えていないが、ネムスギアが倒したのだから、その形状はデータとして記録されている。
 どうして魔王のクリスタルをこいつが持っているのか。
 そして、それをどうするつもりなのか。
 疑問をぶつける前に、ヴィルギールは行動に出た。
 クリスタルを胸に突き刺す。
「な……」
「ぐおおおおおお!!」
 二人の魔王の魔力がぶつかり合い、ヴィルギールは胸から血を噴き出していた。
「俺の糧となれ! 生前は貴様の方が強かったが、生きている俺と死んでいるお前の力では越えられない壁がある! 大人しく受け入れろ!」
 ヴィルギールの禍々しい魔力に、クリスタルが染まっていく。
 そのままヴィルギールの胸の中へクリスタルが入っていった。
 すると、ヴィルギールの魔力が膨れ上がる。
 元々がそれほど魔力が高かったわけではなかったから、魔王二人分ほどではないが、ヨミやフェラルドを超えている。
「ハァ……ハァ……さあ、ここからが本番だ。始めよう」
 ヴィルギールは腰を落とし右拳を握り、左手をこちらに向けて構えを取った。
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