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変身ヒーローと異世界の戦争 後編

魔族ミュウとの決着

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 ファイトギアフォームの使用時間はすでに二分を超えていた。
 変身を解除したら、戦うことは出来ない。
 ミュウの魔力がさらに増大していたが、関係ない。
 このまま一気に片を付ける。
「闇の神の名において、我が命ずる! 闇の力をその身に纏い、破壊する力を与えよ! ダーククロースアーマー!」
 ミュウの全身を闇が覆った。
 それは今までよりも色濃く禍々しいエネルギーに満ちている気がした。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
 右の拳にエネルギーが集まり、赤く輝く。
 俺は一気に間合いを詰めて正面から拳を真っ直ぐ突き出した。
 ミュウの目は、俺の動きをはっきりと見ている。
 拳はミュウの顔に向かっていたが、闇を纏った左手が現れて受け止める。
 その衝撃で、ミュウの体は少しだけ後ろに下がっただけだった。
 今度はミュウが床を蹴って突っ込んできた。
 ダーククロースアーマーの魔法は、その効果が消費する魔力に比例するとヨミが証明してくれた。
 だが、今のミュウでも俺が見切れないほどの攻撃ではない。
 素早さはケルベロスの方が上だ。
 爆発的に足に魔力を集中されたら、あるいは俺の速度に追いつけるかも知れないが、避けられないほどではなかった。
「……ずっと、気になっているのよ」
 攻撃を仕掛けながらミュウがつぶやいた。
 俺も『メテオライトブロー』で応戦するが、やはり受け止められてほんの少し動きを止めるくらいしか効果はない。
 必殺技で一気に倒すしかないが、あれは唯一流れの中で使える攻撃ではない。
 ほんの少しでも隙を作れれば。
「あんたって、その姿の時は攻撃を避けるばかりで、絶対に受け止めたりしないわよね」
「受け止める必要がないからな。今のお前の攻撃でさえ、俺に当てることは不可能だ」
「そうね。それはわかってるわ」
 ミュウがくしゃりと笑う。
 その笑みが今までのような小馬鹿にした笑いと違い、異様に不気味な雰囲気を醸し出していた。
「試してみたくなるわね。避けられない攻撃をしたら、どうなるのか?」
「避けられない? それだけ魔力が増えても、まだ俺に見切られているのにか?」
 やはり、ヨミのように魔力を一気に使うつもりか。
 それならそれで構わない。
 その攻撃を躱したら、カウンターで必殺技を決める。
「火の神と闇の神の名において、我が命ずる!」
 だが、ミュウは俺の予想に反して動きを止めてダーククロースアーマーを解除して別の魔法を唱え始めた。
 どんな魔法を使うつもりか知らないが、絶好のチャンス。
『スペシャルチャージアタック、スターライトストライク!』
 必殺技を拳にセットし、そのまま突っ込む。
 魔法は使わせない。
 このまま体を貫く。
「地獄の業火よ! 我が魂と共に!」
「アキラ! 逃げてください!」
『彰! 逃げて!』
 AIよりも先に警告したヨミの言葉に俺は反応した。
 あと一歩で拳が届くところだったが、その場で床を蹴る。
「ダークソウルフレア!」
 ミュウの体が黒い炎に包まれたかと思った次の瞬間爆発した。
 俺はウェンリーが空けた天井の穴から外に出る。
 しかし、爆発の炎は俺たちのいた部屋を吹き飛ばしてさらに外に逃れた俺をも巻き込もうとしていた。
「変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』
 それは、考えて出てきた言葉ではなかった。
 とっさにそうするべきだと、俺の本能か、あるいはAIが判断したのか。
 爆発に巻き込まれたときには、すでにソードギアフォームに変身していた。
 そのまま王宮の庭まで吹き飛ばされた。
 爆発の衝撃と、地面に叩きつけられた衝撃。
 どちらも痛みはあったが、動けないほどではない。
 俺は立ち上がってAIのセンサーでヨミたちの反応を探した。
 王宮の一角からは大きな煙が上がっていて、壁も屋根も吹き飛んでいる。
 俺たちがミュウやウェンリーと戦っていた部屋だったのだろうが、もはや庭からでも丸見えだった。
 煙の中から、人影が四つ現れた。
 センサーで確かめるまでもない。
 ヨミたちだ。ミュウにエサにされようとしていた少女も無事のようだった。
「ゲホッゲホッ……」
「あ、アキラ!」
 俺の姿を確認して、ヨミが駆け寄ってくる。
「よかった、無事だったんですね」
「ああ。それから、ありがとう助かった」
 あの時、AIの警告では間に合わなかったかも知れない。
 一秒に満たないほどの差だったが、ヨミの声が俺を救ったことは間違いなかった。
「いえ。何やら不穏な魔力を感じたので」
「……知ってる魔法じゃなかったのか」
「私の魔法の知識はエリーネさんから教わったものだけですから。エリーネさんの知らない魔法は私にもわかりませんよ」
「それじゃあ、俺に警告したのはヨミの勘だったってことか?」
「きっと、愛のなせる技なのですよ」
 ああ、やぶ蛇だった。
 話題を変えよう。
「ヨミもよく助かったな」
「……私たちは、エリーネさんの防御魔法と、キャロラインさんのマントが守ってくれました」
 ほんの少しだけ無視したことに不満な顔を見せたが、ヨミは微笑んでキャリーたちを見ていた。
「そうなのか?」
 エリーネと少女を庇うようにマントを掛けてキャリーもようやく俺たちのところへ来た。
「……このマントはね、王家に伝わる特注品なのよ。あれだけの爆発に巻き込まれても、煙で汚れただけでしょ」
「確かに」
『彰、まだ安心するのは早いようですよ』
 煙の中からさらにもう一人庭に美少女が現れた。
「自爆魔法じゃなかったんだな。ミュウ」
 俺の呼んだ名前に反応し、ヨミやキャリーたちは表情を引き締めた。
「当たり前でしょ。あんたを殺しても自分が死んだら意味がないじゃない」
「同じ手は、もう通用しないぜ」
「そうかしら。その割には逃げるしかなかったみたいだけど」
「今のは不意打ちだったからな。それでも、エリーネの防御魔法で防げるなら対策は立てられる」
「ねえ、どうしてその姿に変わったの?」
 その質問には答えられなかった。
 そして、それがミュウの狙いだと言うことも理解できた。
「やっぱりね。確かめたかったのよ。もう一つの赤い姿は攻撃とスピードは優れているわ。でも、あの程度の魔法ですら逃げなきゃならないほど防御力が低いってことね」
『どうやら、私の性能をテストされたようですね』
 さっきの魔法。威力は検証できてるだろ。
『ええ』
 ソードギアフォームなら受け止められるか?
『先ほどの魔法が全力でなかったとしましょう。今のミュウの魔力から計算すると、全力で同じ魔法を使われた場合、この王宮の辺りは跡形もなく吹き飛びます。ソードギアフォームで耐えられるか、ギリギリの所でしょう』
 それなら、十分だ。
「ア、アキラ。あいつの言ってること、本当なの?」
「気にするな。このまま戦えばいいってことだ」
「待って、私はまだ戦えるわ」
「強がりはよせ。この町に来てからキャリーはずっと戦い通しだ。もう魔力もほとんど残ってないだろ」
「魔力のないアキラにそんなことがわかるの?」
 センサーで調べる必要すらない。
 魔力を回復させるようなアイテムは持っていなかった。
「俺を困らせるな。こっちも守りながら戦うってのはもう難しい」
「……わかったわよ。でも、一つだけ力を貸してあげられるわ」
「何だ?」
 キャリーはヨミとエリーネと少女を見回した。
「一回だけ、威力はだいぶ落ちるけど複合戦略魔法が撃てる」
「何!? どうやって?」
「みんなの魔力を私に貸して欲しいの」
 キャリーの説明によると、複合戦略魔法というのは本来複数の人間が同時に魔法を使うことで発動する魔法らしい。
 それを難なく使えるキャリーは一体何なのかという疑問はこの際置いておくとして、つまりはヨミとキャリーと少女が三つの神の力を引き出せれば、キャリーは残り四つの神の力を引き出せばいい。
 もちろん、ヨミの魔力は残り少ないしエリーネも同じ。少女もエサにされかかっていたから一般的な人よりは魔力は高いが、エリーネの全力にも及ばない。そして、主導的に魔法を行使するキャリーだって魔力は少なくなっている。だから、本来の威力にはほど遠いらしい。
「全員の息を合わせなければならないわ。だから、魔法の発動までに少し時間がかかるのよ」
「わかった。その間の時間稼ぎくらいは請け負う。すぐに始めてくれ」
 複合戦略魔法の威力は俺たちがよくわかっている。
 たとえ十分の一でも、いやもっと低くてもミュウが使った魔法よりも数倍威力は高い。
 俺はマテリアルソードを握り、ミュウに向かって行く。
 斬りつけようとした瞬間、ミュウが笑ったかと思ったら、
「ダークソウルフレア!」
 目の前が爆発した。
 俺はとっさに剣を横にさせてガードする。
 衝撃はあるが、ソードギアフォームの鎧を傷つけるほどではない。
 だが、煙の中から闇を纏った腕が伸びてきて、俺は殴り飛ばされた。
 地面を転がりながらもミュウの姿をセンサーで捉える。
 跳び上がって俺を踏みつけるつもりか。
『チャージアタックワン、クレセントスラッシュ!』
 空中に斬撃で弧を描く。
 カウンターで斬りつけたと思ったが、すでにミュウはダーククロースアーマーを解除させていた。
 そして、再びミュウが爆発し、俺の技を相殺させてから降りてくる。
 その時にはすでに闇を纏っている。
 魔法の切り替えが速い。

「風の名において、我らが命ずる」

 それはエリーネの呪文だった。
 俺は剣でミュウのパンチやキックをいなしながら、カウンターを狙う。
 だが、やはりあの爆発させる魔法が邪魔をする。

「天の神の名において、我らが命ずる」

 それは少女の呪文だった。
 俺はキャリーたちから距離を取るように動いた。
 魔法の邪魔をさせるわけにも、気付かれるわけにもいかない。

「闇の神の名において、我らが命ずる」

 それはヨミの呪文だった。
 心配そうにこちらを見ている。
 そんな暇があったら魔法に集中しろと、目で訴える。

「そして、地の神と火の神と光の神と雷の神の名において、我らが命ずる!」

 誤算だった。
 純粋なエネルギーが空に集まる。
 それらはまるで新しい太陽を形作るかのよう。
 そして、それだけのエネルギーと魔力に気付かないはずはない。

「な、何なの? まさか!」
 そりゃ、当然気付くよな。
 俺はミュウの前に立ち塞がる。
「悪いが、ここは通せないな」
「あなたも巻き込まれて死ぬわよ」
「お前を逃がすよりマシだ」

「神々の力よ、その理を紐解き、世界に終わりと始まりを与え給え! ヘル・ヘヴン・カタストロフィ!!」

 二つ目の太陽の大きさは、以前見たものより遙かに小さい。
 バスケットボールの二倍くらいか。
 その代わり、落下速度は速かった。
「アキラ! 信じてるからね!」
 キャリーが叫ぶ。
「クソがっ!」
 ミュウが逃げようと俺に背を向けて走り出した。
 隙だらけの背中を追いかけて斬りつけようとしたら、またあの爆発に阻まれた。
 俺は吹き飛ばされたが、ミュウも必然的に動きが止まる。
「行けえええええ!!」
 見ながら使うと、ある程度落下場所を操れるらしい。
 小さな太陽が俺とミュウの間に落ちた。
 光が目の前で爆発する瞬間、俺の体を何かが優しく包んだ。
 音は聞こえない。
 爆発の衝撃で、センサー関係も一時的に動作していないのか、辺りの様子がまったくわからない。
 だが、痛みも特に感じなかった。
 温かい何かに抱かれている。
 俺の手を握ってきた。
 よくわからないが、俺も握り返す。
 たったそれだけのことなのに、心が落ち着いた。
 誰かがそばにいるということが、そんなに安心するものなのかと思った。
「だ、誰……だ?」
 声を出しても、それが届くわけはなかった。
 俺もよく聞こえないのだから。
「もう、大丈夫ですよ」
 だから、聞き覚えのある声が返ってきたことで、俺の意識は覚醒した。
 まだ目の前は真っ暗だった。
 俺とヨミは爆心地のそばにいたから、辺りが煙で見えないのかと思った。
 その予想が外れていたことはすぐに確認できた。
 ヨミはマントを翻して、身に纏う。
 俺の視界はたったそれだけで一気に開かれた。
「……ヨミさん。エリーネちゃんの防御魔法から抜け出したときはどうなることかとヒヤヒヤしたんですけど」
「すみません。勝手に借りちゃいました」
 キャリーがエリーネと少女を伴って俺たちのところへ来た。
「このマント、ホントに丈夫なんだな」
「まあ、それ以上に魔法の威力が低かったってことよ。まだ生きているみたいだし」
 キャリーが指した方向を見ると、どうやっているのかわからないが、ミュウが片足で立ち上がっていた。
 俺よりもミュウの方が爆心地に近かったのか。
 左足は膝から先がなくなっていた。右腕は肩から手の先まで焼けただれている。
 魔族は魔物のように体を再生できないのか。
 それとも、もうそうするだけの魔力も残っていないのかも知れないな。
「……ね、ねぇ。……私、反省、したわ……」
 ミュウがジリジリと距離を取る。
「待ちなさい! 逃がすわけないでしょ!」
 キャリーが追いかけようと走り出した瞬間、ミュウは片足で地面を蹴ってキャリーに飛びかかろうとした。
「魔力の高いお前の魂を喰らえば――」
「まだそんな力が!?」
 驚いて、キャリーが足を止める。
『スペシャルチャージアタック、ファイナルスラッシュ!』
「キャリー! しゃがめ!」
 俺の言葉通りにキャリーは頭を押さえてその場で低い姿勢を取った。
 エネルギーを放出させて太さと長さが数倍になったマテリアルソードの刀身を横に薙ぎ払う。
 キャリーの頭越しに、ミュウの体は胴体から真っ二つになった。
『どうやら、今度はエネルギーの制御に成功したようですね』
「お陰様でな」
 ミュウの下半身が消えていく。
 魔族も、魔物と同じ最期を迎えると言うことか。
「ク……ククク……アハハハハッ……」
「何が面白い?」
「にん、げん、ごときに……勝てないまま、では……あいつには、勝てるわけ、なかったのね」
「そう言えば、お前の言うあいつってのは誰だ?」
「私は、魔王の……器じゃ、無かった……」
 俺の疑問に答える気はないようだ。
 それならこれ以上話すこともない。
「で、でも……アキラ。あんたでも、あいつには、勝てない」
 黙ってミュウの体が消えていくのを見届けてやろうと思ったら、目が合った。
「そいつがお前の敵を討つってことか?」
「フフフッ……あいつは、私の、敵よ。でも、あんたたちもきっと、殺される。アハハハハハハ……」
 ミュウの笑い声は体が完全に消滅するまで続いた。
 そして、黒く輝くクリスタルだけが残った。
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