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8「亡き母からのメール」

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8「亡き母からのメール」

  Sizuが実家に戻って一ヶ月が過ぎた。 
Hisaeは仕事に追われ寝る暇も無くがむしゃらに働いた。 
チャネリング小説という分野を確立したおかげで依頼や問い合わせが多く
仕事に追われる毎日が続いた。

「あ~Sizuの奴がいたおかげで、結構助かってたんだな…… 
なんで帰したんだろう? トホホ、あれはあれで楽しかった」

最近のHisaeはSizuのことでひとり呟くことが多くなった。

チョット、エバに電話してみよっと。

「もし~、エバかい、Sizuからなんか言ってこない?」

「なんにも言ってこないけどどうして? 気になるなら自分で電話してみたらいいジャン」

「なんで私がSizuに電話しなきゃいけないのよ」

「そうよね、で、何にか用?」

「何かって?」

「用事あるから私に電話くれたんでしょ?」

「あ、いや、もういいのゴメン……」

姉さん、Sizuが帰ったもんだから淋しんだ。 わかりやすいババァだ。 
顔に似ず可愛いかも…… エバは即Sizuに電話した。

「Sizu。 エバだけど今日辺り店に遊びに来ないかい? 
えっHisae姉さんなにやってるって? わたし知らないわよ自分で電話してみたら?」

電話を切ったエバはあの二人どうなってるの? 
姉さんはめんどくせえけど、Sizuは可愛い…… 
エバの計らいで同時にオネエの髭で顔を合わせることになった。 二人には当然内緒で。

「いらっしゃいませ~。 姉さん久しぶりね生きてたの?」

「当たり前でしょ! 私を誰だと思ってるの、たく!」

「なんかイライラしてる?」

「なんもしてねぇよカタチチのエバが」

「やだ!なにそれ、喧嘩売ってる~」

「売ってねえし早く、いいちこ飲ませろ」

「Hisae姉さん怖い~」

「うっせ、早く持ってこい」

その時ドアが開いた。

エバが「いらっしゃいませ~ Sizuちゃんようこそ。 
このオバサンの横の席は怖いからこっちに座りなさい」

Hisaeが「エバ。 おまえうるさっ」

Sizuは「わ~い、姉さんだ。 ちゃんと食べてるの? 夜寝てる?」

「うん、寝てる…… ていうかお前は私の保護者か?」

 全員笑いにこけた。

「家に帰ってなにやってる?」

「うん、ハローワーク行ったり。 ネットで求人見てるよ」

「そっか。 働いてみたい会社は無いのか? っていうか何がしたい?」

「姉さんみたいな仕事したい」

「そっか!」急にHisaeの顔が明るくなった。

「お前にあのパソコンあげるからあんたの自宅で私の仕事手伝いなよ。 
どう? 給料は歩合制で?」

「やりたい。 また姉さんと仕事したいもん」

「わかった、じゃあ明日PC持ってお前の家に行くから。 
お父さんお母さんにも挨拶するよ。 それでどう?」

Sizuはさっそく親に報告すると言い喜んでエバの店を出ていった。

「エバ、あんた企んだろ。 私達を会わせるように」

「ぐうぜんで~す」

「馬鹿野郎Sizuがひとりでオカマバーに来るか。 ありがとうねエバ」

「ぐうぜん~で~す」


翌日パソコンを抱えたHisaeがSizuの家を訪問し話しはまとまった。 
Hisaeも元気を取り戻し仕事に励んだ。 そんな矢先一通のメールが届いた。

「前略 Hisae様 私は四十歳普通の主婦です。 主人は公務員で娘ひとりの三人家族。 
十年前に下の娘が六歳で他界しております。 
この度、Hisaeさんにお願いがあってメールいたしました。 
娘が旅立った先の霊界での生活を小説にしてもらえないでしょうか? 
向こうの世界でどんな生活をしているのか知りたいのです。 
依頼料は百万円の用意があります。 是非ご検討願えないものでしょうか。 山岸杏奈」 

この手の小説を請負うのは難しいのよね。Hisaeは躊躇した。

「メール拝見いたしました。 残念ですがこの仕事はお受けすること出来ません。 
申し訳ありません。 Hisae」

またメールがあった。

「どうしてでしょうか? お聞かせ下さい。 山岸杏奈」

「霊界のことは私には解らないからです。 失礼します。 Hisae」

そして数日が経過しまた山岸からメールが届いた。

「先日は大変失礼しました。 今度は違う形で申込みいたします。 
他界した娘を主人公とした小説でお願いいたします。 
娘は大学を卒業し高校の先生という道を選びました。
生徒から評判の良い教師一筋の一生です。 
子供は女の子二人で、孫も二人おり、何処にでもいる普通の女教師として描いて下さい。 山岸杏奈」

Hisaeは首を傾げた。当たり前すぎというか文面から伝わるバイブレーションが
どうも気になる……どうしようか? 
この感覚はHisaeが以前何処かで味わった記憶がある。 
言葉で表現できない。 確実に経験した感覚だった。

「なんだろう? しっくりこないそうだ……」

メールを返信した。

「イメージを作りたいので娘さんの写真を添付して下さい。 Hisae」

返信がきた「娘が死去して数年後に火災に遭い、思いで以外手元にはなにも残っていません。 山岸杏奈」

「そうきたか……」

「大変申し訳ありませんがイメージが湧きません。 私の手法は依頼者からの
バイブレーションを文章に創作してまとめます。 今回はそれが感じられません。 
イメージが湧かない仕事は執筆することが出来ません。 すみません。 Hisae」

後日、またメールが届いていた。

「初めまして、私は山岸アズミと申します。 
杏奈という名前でHisae様とメールのやり取りがあったと思いますが、
杏奈は他界した母の名前です。 私には事情が解りません。 
なぜ私のPCであなたに誰がメールしたのか皆目見当がつきません。 
文面を見るとHisae様は、何か物書きを職業にしてるかたと見受けられます。 
失礼とは思いますが簡単で結構です。 事情を聞くわけにいきませんか? 
悪戯なら返信の必要ありません。 山岸」

「なにこれ? やっぱり……」

Hisaeはあの違和感の原因が何となく把握できた。 事の経緯を山岸アズミにメールした。

また返信があった。

「Hisae様 私のかってで恐縮ですが、母とメールのやり取りを続けてもらえないでしょうか? 
当然代金はお支払いいたします。 他界した母が今何を考えているのか知りたい気もします。 
姉とも相談した結果、Hisae様にお願いしてみようという事になりました。 
小説は適当でかまいません。 母とHisaeさんのメールのやり取りに興味があるからです。 
是非願いいたします。 私達の希望を叶えて下さい。
山岸アズミ・姉ムツミ」

「……乗りかかった船。 書いてみるか」

Hisaeはキーボードに手を置いた。

「山岸杏奈様この小説を書くにあたり多数質問があります。 
質問に返答いただけるのでしたら執筆したいと思います。 Hisae」

「Hisae様 ありがとうございました。 さっそく質問にお答えしたいと思います。
どうぞお聞き下さいませ。
 山岸杏奈」 

「質問1、お二人のお子さんの産まれてからの思い出に残るエピソードをお聞かせ下さい。Hisae」

「Hisae様 長女ムツミは小さい頃から気の利く子でした。 
あの子がまだ三歳の頃、私が風邪で高熱を出して寝ておりましたら、
オムツをしたよちよち歩きのムツミは私のそんな姿をみて、
なにを思ったのかあの子は、自分で冷蔵庫のフリーザーを開けてアイス枕を取出し、
私の枕元に持ってきたことがありました。

アズミは活発な子です。 いつも姉のあとをついて遊んでおりました。 
でも、目をそらすと何処か違うところに勝手に行ってしまうのでムツミに叱られては泣いておりました」

こうして母杏奈の文面は長々とつづられていた。

家族への愛情に満ちたその文面から、生前の母としての思いが痛いほど感じられた。

「質問2、将来理想とする山岸家の夢をお聞かせ下さい。 Hisae」

「Hisae様 ムツミもアズも人並みで充分です。 家族が皆健康で明るく
いつも笑いの絶えない家庭であることが私の願いです。 
そして二人の子の笑顔が私の最大の望みです。 杏奈」

Hisaeは文面を見ていて心うたれ、熱いものが頬を伝わっていた。 
我が子を思う母の愛情が痛いほど心に伝わる文章だった。

数時間後、ムツミとアズミからメールが届いた。

「Hisae様 私達姉妹はHisaeさんのおかげで改めて家族を思う母の愛情を感じております。 
二人で涙しました。 最後に、私達から母親にメッセージを伝えて下さい。

『お母さん、ムツミもアズミも幸せにしてます。 これからも私達家族仲良く生きていきますから、
お母さんも天国から視ていてください。 こちらのことは心配しないでね。
産んでくれてありがとう。大好きなお母さんへ。 ムツミ』

『お母さん、生前は心配ばかりかけてごめんね。 私は思い立ったらなにも考えずに行動してしまう
癖があるの、いつもお母さんには迷惑をかけてしまいましたね。 私の目標はお母さんのような
母になること。 私の生涯で最大級の感謝を送ります。 お母さんありがとう。
今度また産まれる時はお母さんの子供に産んで下さい。 そちらの世界で又会いましょうお母さん。 
アズミ』

その後、杏奈からのメールが途絶えた。

「Hisae様 先日は誠にありがとうございました。 母は昨年病死しました。 
死後も私達のことを気遣っていたことに私達は感謝と同時に母の愛に泣きました。
そして、Hisaeさんの仕事のすばらしさに感謝しております。 
ただ、母のメールには父親のことがひと言も書かれておらず不思議でなりません。 
このようなケース場合、何か事情があるのでしょうか? 
心あたりがあったら教えてくれませんでしょうか?
アズミ」

「アズミ様 私のところに来たメールは、全てそちらのPCからのもので、それ以外の文面はありません。 
確かにお父さんの事は、何も書かれておりません。 私も理解できません。 あしからずHisae」

どうしたことかね?なんで父親が出てこないんだろう? 
恨みか何かあるんだろうかね?ま、私には無関係だけど。


それから数ヶ月、HisaeとSizuは忙しい日々が続いた。

Hisaeが「Sizu久しぶりに焼き肉食いに行こうかどう?」

「焼き肉行きたいです」

「了解、じゃあいつもの春光園で六時に待ち合わせ。 それと今日はオネェの髭でも行こうか。
だから、私の家に泊まるってお母さんに言ってから来な」

「乾杯~」Sizuは満面の笑み。

「Sizu何か良いことあったのかい?」

「無いです」

この頃のSizuはビールが飲めるようになっていた。 憧れのHisaeと
乾杯したいが一心で父親にビールを飲めるように手ほどきを受けていた。

エバが「にしてもなんで笑ってるの?」

「なんでも無いのだ」

「ドカボン親父は禁止したろ」

「ごめんなさい」

二人は焼き鳥を抱えてエバの店に行った。

エバは「久しぶり~姉さんとSizuちゃん。おゲンコしてた?」

Hisaeが「お前ね、古い言葉使うなよ。 Sizuなんのことかわからんだろうが」

「そうよね、Sizu元気だった?」

「元気です。 エバ姉さんは?」

「ホイ、私も元気だホイと」

「キャ、ハハハ……」Sizuは喜んだ。

「Sizuこんな馬鹿ほっときな。 馬鹿が移るよ……」

「馬鹿って移りますか?」Sizuは真剣だった。

「当然移るさ……そのうち片乳だけ大きくなるよ」

「キャ・ハハハ……」

エバは「Sizuちゃん言葉の遊びまで解るんだ。 
もう、健常者と同じだね、凄いよSizuちゃん」

Hisaeは笑顔で頷いた。
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