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10シバとアグニ

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10シバとアグニ

 アグニは活動拠点を原宿に移しその界わい複数の店舗に自作の絵を置いてもらい、
その売上で生計を立てていた。 

アグニの絵は沖縄の海を連想させるような明るい海の絵が多く見ているだけで癒されると
高い評価を得ていた。 

原宿に集まる若い層に人気が集中していたが、最近はアーティスト風の人間が作品を購入する者も多くいた。 

感性を大事にする人はアグニの作品に魅力を感じ、年齢や性別問わず購入する人も多い。 

アグニは新作を持ってお得意さんの雑貨店にいた。

「こんにちは」 

「おう・・・アグニ君、君の絵は評判良いね。ここに飾った3点の絵はすぐに売れてしまったよ。
次回入荷したら連絡欲しいってお客さんまでいるんだよ・・・良かったね」

「はい、ありがとうございます。店長さんのおかげです・・・
感謝しております。これからもよろしくお願いいたします」 

「なに、僕は君の絵が好きだから店に置いてるだけ、頑張って良い作品を作って。アグニ君の作品展開催したり、画廊に置いてもらえるように頑張ってよね・・・君が有名になったら僕もうれしいよ・・・」 

「はい、ありがとうございます」 

「これが3点の売上げね、はい」手数料を引いた代金を店長は
支払った。 

アグニの絵は販売金額の30%を店側に支払い、残りはアグニの収入という取り決めで置かせてもらていた。 

原宿という土地柄ファッション目当ての客の多い中で絵を売るという事は思ったより楽ではなかった。 

そんな中で自分の絵にリピターがあると云う事はアグニにとって大きな喜びのひとつであった。 

そしてアグニの最近の構想の中に、フウキから聞いている日本の
近未来の姿や潜在意識の表現や秘めた可能性、心の奥深い表現
みたいなものを絵で表してみたいと考えていた。 

絵のことでは摩耶とも連絡を取合いながら話し合う機会が多くなった。
沖縄から上京し個性的な人間の多さに心躍らせていた。 

そう、アグニは人間ウォッチングがすっかり日課になってしまった。暇なときは原宿・渋谷・銀座・
六本木や巣鴨にスケッチブックを片手に出かけていた。 

沖縄では風景画を中心に書いていたが、フウキとの出会いから
人物の奥深さに触れ表現の自由さを学んだ。 

御茶ノ水駅前のカフェ・フォルテッシモでアグニとシバは待ち合わせていた。 

シバは執筆中の小説の大筋を聞かせ、その本の表紙と挿絵を
アグニに依頼していた。

一通り仕事の話しを終えるとシバが「ところでアグニ君最近、
変化は無いのかい?」 

「変化って・・・?」 

「意識変化のことだよ」 

「SANGAの仲間と会ってる時は色々なビジョンが視えるけど僕だけでいると何の変化も感じられません」 

「そっか、僕は時間が早く感じられて仕方がないよ」

「あっ!それは僕も感じます。最初は東京は刺激が多く沖縄は
のんびりだから、その違いかなって思ってたけど、普段家で絵を
描いてる以外でもとても早く感じます」 

「これにはどうも事情があるらしいよ・・・」 

アグニは目を丸くした「どういう事ですか?」

「だんだんと今の時間の観念が崩れ始めるらしい。先日、フウキ君からこれからの地球の在り方を聞い
たんだけど・・・この地球はどうもパラレルの地球に分裂するらしい。

今までの在り方を良しとするタイプと、アセンションする新しいタイプ。この二つに地球は移行するらしい。 

新しいタイプはバージョンアップされていて神に近人間みたい。 

今までは思った事が形になるのに一定の時間を要していたものが、その世界は即形になるので、
思いと現象が一体って事みたい・・・つまり時間軸がない世界だよ」

「嘘偽りのない世界か?・・・理想の世の中ですね」 

「そうなんだよ。地球は過去に6回そういう事があって、今度で7回目らしいよ。でも、これが最後らしい、
その後は無いって聞いたよ。7が完成で完結なんだってさ・・・」

「そうなんだあ。今の地球社会の在り方って偽りだと思ってないけど・・・
すると・・・今のままで良しとする人間はどうなるのかな?」 

「このまま欲望のみがデフォルメされて、争いや戦争のネガティブな想念の地球に移行するらしい。
今の地球に近いらしいけどもっと個人主義っていうか協調性が無い世界みたい。

当然、自然界にも反映されるから地震や考えられない自然災害が当たり前に起こるらしい・・・」 

「地獄絵図みたいですね」

「大変な世の中になるらしい」シバが囁いた。

シバの話しは続いた「それでエレボスは最後の悪あがきを企んで、
自分たちの世界に引き込もうと奮闘してるらしい。

天界のサンガの影響を受けた魂との駆引きが水面下で繰り広げられていると云う事。
で、最終的には新しいひとつの世界に移行し、その世界は時間差が無い世界で、原因と結果が
同時にあるから表と裏も同時に存在するんだ。 

なによりも大きく違うのは、人はみな神に近くなるという事。 分離から合一というわけらしい」

「・・・でも、現在はそんなに変わったと思わないけどシバさんはどう思われます?」 

「表面ズラは大きく変わってないけど、目に見えないところで何かが大きく変わったと実感してるんだ。 

さっきの時間差が短くなったのと、今まで眠っていた事がだんだん表面に出て来てる感じがする。
個人的にも、天の岩戸が開いてアマテラスが出て来たっていう感じだよ」 

「?・・・すいません、具体的に?」 

「うん、僕の知り合いでクニオっていう友人がいるんだけど、
ごく普通のサラリーマンでそいつが急に歌を作り始めたんだ。 作詞作曲してるんだよ。

一日で2曲っていうペースでもう38曲になったって云ってたよ。どんな感じ?って質問したら
『曲が勝手に湧いてくる』って云ってたよ。 

クニオは子供時代から音楽は聞きはするけど楽器や、それらしい事やってなかったんだぜ、
それだけじゃないよ。

もう一人の友人はヒデミツっていう男なんだけど、こいつは高校の教師なんだけど、いきなり株相場に手を
出し始めたんだ。  

それがテレビの株式相場をたまたま見ていて、この会社の株が値上がりするって閃いたらしい。
そしたら現実になった。

そんな事が何回か続いたので去年の夏に支給されたボーナスから
30万円で2社の株を買ったらしい。 

それが3ヶ月後には52万円に跳ね上がったらしいよ。 

そいつも真面目で株や相場をやるようなタイプじゃないし、実際、
株相場に興味なんか無かったっていうんだ。それで2人にはある共通点があるんだよ。何だと思う?」 

「共通点???・・・解りません」 

「2人とも、ある日突然閃いたという共通点があるんだ。面白いと思わない? 

それでフウキ君に聞いたら2人は前世でその仕事に携わってて今になって潜在していた能力が表面に出て
来たって云ってたよ。 

これからは潜在意識も表面意識もひとつになるからその証しかもしれない。たぶん、
この2人は氷山の一角で、もっと沢山の人が同じような経験してると思うよ。

そしてフウキ君が云うように、これからの地球は表裏一体になるんだと思う」 

「面白い・・・表裏一体か?・・・」

「ところで話し変わるけど、エレボスの影は見えてない・・・?」 

「僕は絵だけの表現でしかも原宿だけだから全然そんな障害めいた事は無いですけど・・・」 

「そっか、僕のほうはやたら原稿のチェックが多いんだ。思想や社会風刺めいた事を書くと途端に
チェックが入れられるよ。 

こっちは、めげないで違う言い回しを使ったりして誤魔化すけど、
着実にエレボスの影響だと解るよ。

こっちにはSANGAが付いてるから心強いけど・・ハハハ」 

2人はこれから起こるSANGAへの妨害を全く予想していなかった。
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