上 下
8 / 9

8「アカシックマスター貞司」

しおりを挟む
8「アカシックマスター貞司」

 僕は貞司、スナックを経営してます。元ホストでした。常連さんには、その時のお客さんが多く今でも、
長い付き合いさせてもらってます。

このスナックの売りは、ずばりアカシックカード占いです。僕のアカシックカード占いは  
当たると評判なんです。

アカシックとは、異次元のデーターバンクでこの地球が始まってから終わりまでの全ての情報。
当然総ての人間の情報が詰まってる霊界(宇宙)の図書館のような場所。
そのアカシックレコードにカードで繋がり、そこにある個人情報を相談者に伝えるという方法。

スナック経営は僕の趣味でやってます。一度飲みにきて下さい、絶対損はさせません。

あっ、肝心なこと忘れてました。店の名前は「アーバン」よ・ろ・し・く。


 「明美さんいらっしゃい、今日も美しいねその指輪」

「指輪かい・・・誉めるところもっと他にないの?」明美が返した。

「顔はいつも綺麗だから今更誉めないよ・・・」

「言うことが相変らずホストくさいのね」

「そうかい・・・」

「今日はタロットお願いしたいの好い?」

「お任せあれ、ところで何を視たらいい?・・・」

「私、転職しようかどうか悩んでるの、その仕事って
看護師なの当然看護士の資格は持ってる。

今の仕事はアパレル関係なんだけど、先のこと考えると不安もあるの・・・
転職の時期かどうか視て欲しい」

「なるほど、明美さんは看護師の資格持ってたんだ・・面白いね」

貞司はカードを並べた。

「はい、看護師は、ある意味明美さんの天職と出てるよ、逆になんでアパレルやってるの?」

「親への反発なの、子供の頃から親の引いたレールに乗っかってきたの、その事への反発だったのね」

「なるほど、でもカードには人の世話を示す暗示が
出てるよ。他にはっと?チョット待ってね・・・」

違うカードをめくった。

「そこには人生を左右する人か出来事があるかもね」

もう一枚カードをめくった。

「うん、これは人ね。ずばり出会いだと思うよ」

「えっ、出会い解った。マスターありがとう勇気が出た」

「はい、頑張って。いい出会いがありますように」

これがスナック・アーバンの売りだった。


「いらっしゃいませ」

「マスター久しぶり」

常連の横井茂夫が赤い顔してやってきた。

「横井さん今日は結構飲んでますね?」

「うん今日はやけに酔いの廻りが早いよ・・・
ヘネシーロック・ダブルで・・・」

「ハイ、お待ち下さい」

配膳室の脇には客から見えないスペースあって
客に言ってないカードが常備されていた。

客の様子に異変を感じた時にはそこでカードをひくのだった。カードはウェルネスの
逆パターンが示された。意味は、不満と病気の暗示を示していた。

「どうぞ、ヘネシーロック・ダブルです」

「ありがとう」

「ところで横井さんはなんのお仕事されてるんですか?」

横井は仕事の話しを語ったことが無かった。

「なんだと思う?そのカードで当てたらマスターの
好きな物ご馳走するよ」

「そこまでは解らないと思いますよ・・・
でも興味あるからやってみますね・・・
当たったら正直に言って下さいよ」

そう言いながら貞司はカードを手にした。

「う~~と、建築に関係する仕事で美を表わす・・・
表具・塗装・左官???」

一瞬横井の指と爪の間に小さな赤色が見えた。

「解った・・・ペンキ・・・塗装やさんですか?」

「うそっ!マスターそこまで解るのかい?」

「いや、最後の塗装は、横井さんの指のペンキらしい
赤い色を見たんですよ、僕はそこまで読めませんよ・・・」

「いや、でも数ある職業から塗装屋を言い当てたのは
本物だよ・・・立派。マスター好きな物飲んでよ」

「はい、じゃあビール頂きます」

二人は乾杯した。

「体調はどうなんですか?以前より少し痩せたような
感じがしますけど?」

「食欲が無いだけだよ」

「そうですか塗装やさんは体力使うから、
気をつけて下さいよ」

「ありがとう・・・マスター・・・
もう知ってるね?」

「えっ、なんの事ですか?」

「身体のこと・・・この俺の」

「さぁ~なんのことか解りませんけど」

「まっいいさ、今言ったこと忘れて」

二人に沈黙が走った。

ドアの開く音がした。

「いらっしゃいませ」

ホステスのANNAだった。

「ANNAちゃん今日は早いね」

「今日のお客がイヤな奴でさ、そいつ、まだ帰りそうもないから先にこっちが帰ってきたの」

「それはそれは」

貞司は氷の入ったグラスを出しバーボンを注いだ。

「ハイ、どうぞ」

「ねぇ、マスターは苦手な客が相手の場合はどう
してるの?」

「黙って話しを聞いてるだけだね」

「なんで?」

「なんでって言われても・・・ここに来るお客はお
金を出して酒を飲むと同時に雰囲気や会話を楽しみに
来られるよね。

ただの酒好きなら自分の家が一番安いわけだし。
飲みに出るって言うことは接待は別かも知れないけど、今言ったそれ以外のものがあると思うから・・・

折角うちに来てくれるからには最低限のおもてなしは
必要かなって思うんだけど。

僕はそれ以上の難しいこと考えたこと無いけど」

ANNAが「確かにそうだけど・・・でも苦手な客いるんだよね」

「当然いると思うけど、高い金出して来るわけだからね・・・もし客を選ぶんだったらこの商売辞めた方が・・・」

横で黙って聞いていた横井が口を開いた。

「僕は客の立場だけど・・・僕の場合はほとんど仕事の付き合いで飲みに出てるんだ。
仕事といことは会社の大事な経費だよね。

僕は塗装屋だからペンキの一塗り一塗りで稼いだ
大切な金でもあるんだ。だから経費は一滴の血とも
言えるよ。

姿形は違うけどさ、自分の大事な血を飲んでるかも
しれない。ANNAさん気悪くしたらゴメンね!」


「いえ、生意気言ってごめんなさい。私、勘違いしてたようです。
私の立場ばっかり考えてました。明日から出直します・・・馬鹿なこと言ってごめんなさい」

三人は笑いながら飲み明かした。

「マスター今日は楽しい酒だった。ANNAさんも
明日からガンバって!」

「横井さんも今度当店においで下さい、お待ちしてます。今日はありがとうございました。
『経費は一滴の血』この言葉ドキッとしました」

その後、横井茂夫は来店することはなかった。


数ヶ月後、店にANNAがやってきた。

「マスターお久しぶり・・」

「いらっしゃい、いつもので?」

バーボンで乾杯した。

「マスター、あのペンキ屋の横井さんその後ここに
来てないの?」

「僕も人づてなんだけど、体調良くないらしいよ」

「あん時は楽しかった」ANNAは呟いた。


それから数年が過ぎた。

貞司はアカシックカードを使わなくても自由にアカシックレコードを視ることが出来るまで上達していた。

それに伴い客の半数が相談事の客だった。

ホスト時代からの常連ヒデミが言った「マスターさあ、最近やたら相談事多くない?なんかこの店の
客層変わったよね」

「そうなんだよね、僕がアカシック占いをした
せいなんだよ。今更辞めたって言えないし」

「だったら日中何処か小さい店借りて、
そっちで占い専門にやったら?」

「わかるけど、こっちの身体がもたないよ」

「この店が夜9時オープンの2時閉店で5時間でしょ。9時か10時に起床・・・
11時から5時頃まで占い出来るじゃない」

「そうなると、なんか働きどうしみたいだね・・・」貞司は呟いた。

「夜の仕事は助っ人頼んだら?ホスト時代の友人いないの?出来れば若くていい男なんてどう!」

「うん、考えてみるよ。アドバイスありがとうね」

まもなくして貞司は商業ビルオーナーの客から、
ビルの一角にスペースを借り日中の6時間を
アカシック相談として営業し、夜は知り合いの
元ホストのトミーに手伝ってもらった。

     END
しおりを挟む

処理中です...