Pino

當宮秀樹

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Pino

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 北海道は大雪山系の山岳地帯。 この世に生を受けて十一歳まで麓の町モイレ町で育った
女の子名前はピノ。 彼女の数奇な生き方をちょっと覗いてみましょう。  

  ピノの11歳の誕生日の目前家族に悲惨な事件は起きた。 
ピノを学校へ迎えに父親の運転で弟と母親を乗せて向かっていた。 赤信号で停車中の父親の車に
前方からダンプカーが信号を無視して追突し、車ごとダンプの下敷きになり三人とも一瞬のうちに
この世を去ったのだった。 

ピノはひとり残され叔母の家に預けられたが極度のいじめにあい、いつもひとりで
山遊びをするのが彼女にとって唯一安らぎの時間。  

裏山でリスや狐や野鳥を観察するのがピノの日課となっていた。

 そんなある日いつものように裏山でピノが遊んでいると、叔母の息子のヒデタカが薪をいきなり
ピノめがけ投げつけた。 そんないじめの行為は日常の事でピノはもう平気だったが、たまたま
その時は側でリスがドングリを啄んでいた。 ヒデタカはそのリスめがけて投げたのだった。 

その事に気が付きとっさに薪とリスの間にピノは分け入った。
 薪はピノの頭を直撃しピノは意識がとおのきその場に倒れ込んでしまった。  
その様子を見たヒデタカはさすがにまずいと思い、ピノをそのまま放置し逃げ帰ってしまった。 
 
空には月が昇り山はひんやりと冷え込んでいた。 辺りはすっかり暗くなり取り残されたピノも
少しもうろうとしたが意識を取り戻し周りを見渡した瞬間驚いた!

そこには狐や野ウサギ、リスやテンといった野生の動物達がピノの様態を案じているかの様に
ピノを中心に輪を作っていた。 

次の瞬間、一匹のリスがピノの側に寄って来た。 

ピノの視線と目があった瞬間ピノになにかを語りかける様な仕草をした。 

「君、大丈夫……?」 

ピノにはリスの言葉が理解出来た。 

「頭が痛いの……」ピノは返答した。  

リスは「私はあなたに助けられたリスです、さっきはどうもありがとう…… 
本当に感謝してます」 

「……あ、はい」そう答えた瞬間ピノはまた気が遠くなった。

ピノはそのまま数日間気を失っていた。 

目が覚めたのは東の空から太陽が昇って間もない頃。 
ピノの身体は毛皮に包まれているような柔らかくほんのり暖かい感触があった。 

ピノは倒れてから三日経ってから気が付いたのだった。 まだ幼いピノにとって
自分に何が起きたのか把握出来ていなかった。 

「気が付いた! 良かった!」  

「もう大丈夫!」 

「良かった! 良かった!」

ピノの周りがざわついていた。 

あの時のリスが「もう大丈夫。 元気になって良かった!」  

ピノは突然飛び起きた

「あっ?」

ピノを包んでいたのは身の丈2メートルはあるヒグマだった。 

熊は「驚かないで! 私はあなたの味方だからね…… 驚かなくていいの」

その他にも沢山の動物達がピノの周りに群がっていた。 

「人間さん、まずは水をお飲み」鹿とリスが何かを差し出した。 

それはフキの葉を数枚重ねた器に水が入っていた。 ピノはいっきに飲み干した。 
次にリスや狐などの小動物が次々と木の芽や山菜・木の実などを運んできて
ピノの周りに置いていった。 

「ありがとう」ピノはお礼を言った。

ピノは「みんな、どうしたの?」 

「私達はこの山に住む仲間。 君がいつもあの人間にいじめられているのをず~っと
見ていたんだ。 今回リスさんがあの人間にやられそうになったのを君に助けてもらったから…… 
この森の仲間が君にお礼したくて集まったんだ」

 数十匹の動物の姿がそこにあった。 

そこには熊や狸、狐など肉食の動物も鹿などの草食系の動物もみんな一緒にいた。 

「私はピノです。 私を救ってくれて本当にありがとう。 それと、ここは私の家から
どのくらい離れているの?」 

熊が「ここは人が全く来ない山の中。 私の背中に乗せて一日ほど山奥に入った所。 
しばらくここにいなよ……」     
 
「ありがとう。 でも私、食べ物とか取ってこれないから…… 
それに叔母さんに叱られてしまうもん」 

「大丈夫だよ。 君達が食べてるような動物の肉は無いけど魚と野菜と木の実は沢山ある。 
ここにいなよ」狸が言った。

  ピノは身体がまだ思うように動かないし動物達としばらく暮す事にした。
 
山の生活は夜明けと同時に始まり夜更け後に眠りにつく。  
食事は一日一食で完全菜食。 水は身体が欲するままに飲む。 

自然の中で生活するというのは自然に従う事が基本となる。 雨が降れば何日も洞穴で
過ごす事もある。 ピノにとって一番の楽しみは渡り鳥や地方から来た鳥達との会話だった。 

その地方や土地の変わった動物や自然の話を聞くのが楽しみだった。 
中でもお気に入りはアイヌ民族と動物達の共存と交流の話しや、森の妖精達と動物との
交流の話しだった。
 
昔はアイヌ民族と動物はお互いのテルトリーが決まっていて、境界線を越える事は希。 
それが日本人が南から入ってきて境界の収拾がつかなくなった話や、
動物は普通に妖精達と会話をし、今も交流が当たり前のようになされているなど、
おとぎ話しのような話もたくさん聞かされた。 

ピノが基本的に思ったことは、妖精も動物も自然もすべての動植物は調和を保つことを
原則としており、調和が乱れることや乱されることを極端に嫌いそして恐れた。

肉食動物と草食動物の間には制約があり食用の為の捕食は双方合意のもとでなされていた。 
無意味な殺生は存在しなかった。 捕食される側も合意がなされていた。

ピノはキツネにその事で質問したことがあった。

「じゃあ、何で捕食される側は逃げるの?」 

キツネは「生命体としての本能なんだ。 解ってはいても死は怖いのさ」 

「ふ~ん」 
  
そんな山の暮らしも五年が過ぎようとした。

ピノの目に登山者の二人が目に映った。 久々の人間であった。 自然界には実在しない色遣いの
服装とリュックを久々に見た。 ピノになんともいえない懐かしさが頭を蘇ってきた。 
  
「ねえリスさん。 あれはなに……?」 

リスは答えた「あれは敵。  私達の仲間を見たらすぐ殺そうとするの…絶対音をたてたり
見つかってはいけないのよ……」 

リスは説明するもピノは心のどこかで懐かしさを拭えなかった。 
ピノはリスの制止を聞かず人間のあとを追った。 

登山者の二人は倒木の上で一息ついていた。

ピノが様子を伺っていたら足下の木を踏んでしまい音をたててしまった。 
 二人は熊かと警戒しながら音の方を振り返った。 

そこには丸裸で髪の長い少女の姿があった。

二人は一瞬目を疑った。 

「誰だ?」ひとりが声を掛けた。 

ピノは即走り去っていった。

下山した二人は警察に通報し見たままを説明した。 
その二日後には二十名ほどの救助隊が結成され山に捜索に入ってきた。

 捜索が入って二日目に大きいなブナの木の下にあった洞穴から、
十歳前後の少女のものと見られる白骨体が発見された。 
死因に頭部損傷の疑いがあり司法解剖に回された。
  
死因は頭蓋骨陥没によるものと判明され、被害者のDNA鑑定の結果行方不明の
ピノと断定された。 

殺人事件と見なされた。 

関係者の事情聴取によりヒデタカの傷害による殺人と死体遺棄が伝えられた。
  
後日関係者に発見現場の状況報告と写真が送付された。 
ピノの白骨死体の周りにはクルミやドングリなどさまざまな木の実と動物の毛や鳥の羽毛が
散乱していた。
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