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8「ピリカと覚者花子」
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8「ピリカと覚者花子」
店を辞めたピリカは授業のない時など暇をもてあましていた。
ホステスで稼いだお金は手つかずで百万円ほど。 この際、本州旅行でも行こうかな……?
そうだ!その前に久しぶりに倶知安に帰省してモモやミミと子供達に会いに行こうっと。
「モモ、ただいま~~」
「ピリカ姉ちゃん久しぶり~ 話し相手がいなくて私、寂しかった~」
モモは大きくしっぽを振ってよろこんだ。
「話し相手…… ミミいるでしょう。 ミミはどうしたの?」
「子供たちを私に預けていつもどこかいってる。 ピリカからもなんかいってよ~」
「うん、わかった。 で、チビちゃん達はどこ?」
「私の小屋の中で寝てる。 もうすっかり大人だよ」
小屋を覗くと二匹の猫が重なっていた。
「お~い、ただいま~生きてるかい?」
ユメが「あっ、ピリカねぇちゃんだ」
「はいユメちゃんただいま」
「おっ! ピリおかえり」
「はい、ミロただいま。 っていうかおまえねぇ、ピリカって最後までいいなさいね。 なんでピリだけなの?まったく」
「べ~ べ~」
「なにそれ、お前はミミ似だね……その態度の悪さ」
ピリカは玄関を開け「お母さんただいま~」
「お帰りピリカ」
「ミロちゃんが私に向ってべ~べ~だって、あの態度の悪さはミミゆずりね」
母親は大爆笑していった「ミロはどこかミミに似てると思ったらやっぱりねぇ……フフ」
「久々に会ったっていうのにモモとユメはちゃんとお帰りって出迎えてくれたのよ。 でもミロは私をピリっていうのピリよ…… 私、誰にもピリなんて中途半端にいわれたことないよ。
おまけに、ピリカって言いなさいったら、べ~べ~だって」
母親はしばらく笑っていた。
「ピリカねえちゃんお帰り~」
「おっ、ミミただいま。 あんた、しばらく見ない間に老けたね、もうお婆ちゃんだね」
「ピリカねえちゃんあんたもね」
「なに! ミミこっちおいで。 ミロのことでいいたいこともあるし」
「ミャ! べ~」ミミは出て行った。
「やっぱりミロは母親似だ。 品が悪る……」
「ところで、お父さんは今日帰り遅いの?」
「普通どおりだと思うけどなんかあった?」
「うん夏休みを利用して旅に行こうかなって思って」
「そんなお金、どこにあるのよ?」
「ペットショップのアルバイトしてたの、たまに頼まれてね。 で、少し貯まったからそれを使おうかなって思ってるっけど」
ピリカは母親に嘘をいってしまった。
「自分のお金で行くんならかまわないんじゃない。 ひとりで行くのかい?」
「うん、ひとりでゆっくり東京・横浜・京都・大阪・神戸なんてどうかなって思ってるの」
「夏に暑いところ行くなんて」
「学生のまとまった休みはやっぱり夏なのよ」
「お母さんは賛成よ。 学生のうちにやりたいこと大いにやりなさいな」
そして、父親からも許可をもらった。 夕食後リビングにミミ親子が遊びに来た。
「ミミ、ニャン吉はこないの?」
「別れた」即答だった。
「なんで?」
「わたし他に好きな猫出来たから」
「お前もやるねぇ、で、ニャン吉は納得してるのかい?」
「ミミをしつこく追い回す」
「誰が?」
「ニャン吉が」
「それはまだミミが好きだって事でしょ?」
「だって、ニャン太郎の方がいいもん」
「か~、お前ねぇ子供もいるんだから、もう落ち着いたらどう? 今度はニャン太郎かい」
「べ~べ~」ミミは罰悪そうに出かけた。
「なんだ、あいつはまったくもう。 ユメとミロおいで面白いことして遊ぼう」
「わ~い。ピリカ大好き」
「よ~し、遊ぼうね」
三人はじゃれ合った。 裏のベランダから猫の声がした。
「ユメとミロ、だれか鳴いてない?」
「お父さんだ!」ミロが言った。
「ユメ、ニャン吉に一緒に遊ぼうっていってきなよ」
「でもお母さんが」
「ミミがどうかしたの?」
「ニャン吉お父さんと会ったら駄目って」
「なんで? ユメのお父さんでしょ。 それに、なんで会ってはいけないの?」
「ピリカねえちゃんから、ミミお母さんに言ってくれますか?」
「いいよ。 ミロちゃんミミ呼んできてちょうだい」
「なんで私なの?」ミロは返答した。
「あんた、ニャン吉父さんに会いたくないの?」
「別に……」
「あっそう…… でも、なんで?」
「母さんが過去を振り返るなっていったもん」
「なんか意味違うと思うけど……」
「ミロちゃん、大事な話するね、ミミ母さんの言うことなんでも真に受けたら駄目だよ。 わからない時はモモにも相談しなさい」
「だってお母さん、モモの話し聞かなくていいって……」
「そんなことありません」
「だって、モモはしょせん鎖に繋がれた犬なんでしょ?」
「あんた、そんな言葉誰に教わったの?」
「お母さんいってた」
ピリカの頭は混乱してきた「あの馬鹿猫ミミ……」
そして一週間後、ピリカは東京渋谷にいた。
「さすが東京、すべてがが札幌とは桁違いね」
都内を数日かけ自由気ままに歩いた。 その日はハンバーグショップで朝食を済ませ、下北沢から井の頭・吉祥寺に行こうと計画した。 下北沢を見学してから井の頭公園駅で下車し、のんびり公園を散策した。 多くの鳥が飛び交っていた。 たまに鳥と会話してみたくなったピリカは、そっとスズメの群れに話しかけた。
「スズメさん達、何やってるの?」
スズメの集団は突然、人間に話しかけられ警戒した。 小鳥の中でもスズメは非常に警戒心が強い。
その中の一羽が「あんた動物と話し出来るの?」
「はい。 私はピリカ」
「私はピー」
「この公園に住んでるの?」
「そう」
「いい公園だよね」
「そうですか? わたし他の公園知りませんから」
「そっか、ここは大きい池があって最高よ」
「そうですか?」
「ところでここは鷹とかトンビはいないの?」
「いますよ。 たくさん」
「やっぱりね、私の住んでる北の街では、ミミズクという大きいフクロウとか大ワシもいるの。
ウサギやリスなどの小動物なら捕まえて飛んでいくんだよ」
「ここにも白鳥という大きな鳥がいる」
次の瞬間、スズメの集団は一斉に飛び立った。 猫の気配を感じたからだった。
猫が「あんた誰?」と声をかけてきた。
「私、ピリカ」
「あんたは花子の仲間か?」
「いえ、私は花子さんって人は知りません。 わたしは北の方から遊びに来ました。 で、その花子さんって猫さんと話せるんですか?」
「僕はチョビ。 花子もピリカさんみたいに話せる」
ピリカは花子にどこか親近感をおぼえた。
「その人とどんな話しをしますか?」
「わかりません、ミャ」
「じゃぁ、質問変えます。 その花子さんはどこにいますか?」
「花子ミャ?」
「もう一度いいます。 花子さんはどこにいますか?」
「花子そこに居るミャ」
「えっ?」
ピリカは後ろを振り返った。 そこにはピリカと似たような年格好の女性が笑顔で立っていた。
ピリカが「こんにちは」
花子も笑顔で「こんにちは。 お久しぶり」
「えっ?初めましてですけど……」
笑みを浮かべながら花子はもう一度言った「お久しぶり」
同じ返答にピリカはつぎの言葉が出てこなかった。
「そのうちわかります」
「はぁ?」ピリカは内心、面倒くさいのに会ってしまった…… その時は思った。
「あなたは何処から来たの?」
「札幌ですけど」
「何しに?」
「関東ひとり旅です」
「そう、楽しんで下さいなじゃあ」立ち去ろうと背を向けた。
「あっ、あのう~ チョビちゃんが花子さんは猫と話が出来るっていってましたけど」
「ええ、あなたと同じ」
「あっ、私は二十一歳です。 花子さんはお幾つですか?」
「う~ん、たぶん二十五か六だと思う。 ごめんね私って年齢に興味ないから」
「花子さん、面白いですね……」
「そうですか?」
「この公園いいところですね。一緒に散歩しませんか?」
「いいけど」ぼくとつとした返事だった。
「あなた、東京は何度も?」
「高校の修学旅行でディズニーランドに来ました。 今回が三度目です」
「観光?」
「はい。 明日から横浜、鎌倉に行こうと思ってます」
「楽しい旅になるといいね」
二人が公園を歩いていると「ハナちゃん、こんにちわ」数人から声を掛けられた。
「花子さん、有名人ですね……」
「有名人というよりも変人という方が的確なの」
「花子さんおもしろい。 お仕事、聞いてもいいですか?」
「駅の向こう側で夜になったら椅子とテーブルを置いて座ってるの」
「座ってなにやってるんですか?」
「人と会話してる。 ピリカさんあなたは?」
「あっ、私は大学三年。 獣医学科です」
「今のあなたに最適な学科ね」
「花子さんは椅子とテーブルを置いてどんな話しをなさってるんですか?」
「夜になったら、そこの吉祥寺のサンロードというアーケードの下で、色んな話しをしてお金を頂いてる」
「占い師みたいなことすか?」
「占いというよりも通訳」
「なんの?」
「ガイド……」
「えっ! わたしもガイドと話し出来ます」
「私は相談者のガイドの話しを通訳してる」
「面白いですね。 私は相手のガイドとは一度しか話したことありません」
一瞬ピリカの脳裏にFさんとのやり取りが浮かんだ。
「意識の問題よ」
「……? つまりどういう事ですか?」
「私は人との会話を楽しむという意識で座ってるの。 人と会話をするということは相手と同調しようとすること。 あなたは動物と同じ事してるでしょ」
「あっ、私が動物にしてることを人間にっていうことですね」
「そう、人間だったり、ガイドだったり動物だったり、そういうこと。 難しく考えないで人は自分に制限を付けるからそれ以上にはならないし、なれない。 自分勝手なかたちを作ってそこから出ようとしない」
「何で、そのことに気が付いたんですか?」
「私の場合は心身脱落を経験し、その時にみえたの」
「みえた?」
「そう、気が付いたということ」
「気が付いた……? なんに?」
「全てに」
「全て……?」
「気付きは人それぞれだから、形や定義は無い。 あなたのしていることもそう」
ピリカはわかったような、わからないような不思議な感じがした。 その表情を見て花子は笑みを浮かべていた。
「今夜、食事でもしない?」花子から誘うという行為はめずらしいこと。
「吉祥寺駅のサンロードの前で六時にどう?」
「六時ですね。 わかりました」
二人は花子の馴染みの「居酒屋 とりあえずビール」の暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ! 花さんいらっしゃい」
「ここのモツ煮は美味しいよ」
「はい、私もモツ煮にします」
食べ始めてからピリカは、今まで疑問だった沢山の質問を投げかけた。 その全ての質問に対し花子は適切に答えた。
「なんで花子さんはそんなに詳しいのですか?」
「考えてないから。 わたしニュートラルなの」
「意味が……?」
「ある時、壁を越えたの」
「公園でも壁っていってましたけど、どうやったら超えられますか?」
「いい、本当は壁なんて存在しない。 壁にみえるのは全てイリュージョン。 幻影なの。 私はホームレスしてる時に気が付いたのね…… カモメを眺めていて」
ピリカは目をまるくして「花子さんホームレスしていたのですか?」
「学校を卒業してやりたいこと無かったからね」
「プッ! おもしろい超うけるんですけど」
「そう? 受けてもらえてよかったフフ」
花子と別れ渋谷のホテルに戻ったピリカは今日の事を振り返った。 東京って花子さんみたいな人が普通にいるのかな? よどみなく言葉が出てくるよね、どんな頭の構造してるのかな?
その時、ルーの意識が入ってきた「悟り」えっ、やっぱり悟りってあるんだ…… ピリカは悟りへの興味より花子のクリアーな爽快さに心打たれた。 ピリカの質問に対し即答だった。 考えるというより的確な答えが勝手に湧き出るという感じ。 しかもピリカにも理解できる内容と話し方で会話してくれた。 これって、ルーに近いものがある……
……悟りか?……
店を辞めたピリカは授業のない時など暇をもてあましていた。
ホステスで稼いだお金は手つかずで百万円ほど。 この際、本州旅行でも行こうかな……?
そうだ!その前に久しぶりに倶知安に帰省してモモやミミと子供達に会いに行こうっと。
「モモ、ただいま~~」
「ピリカ姉ちゃん久しぶり~ 話し相手がいなくて私、寂しかった~」
モモは大きくしっぽを振ってよろこんだ。
「話し相手…… ミミいるでしょう。 ミミはどうしたの?」
「子供たちを私に預けていつもどこかいってる。 ピリカからもなんかいってよ~」
「うん、わかった。 で、チビちゃん達はどこ?」
「私の小屋の中で寝てる。 もうすっかり大人だよ」
小屋を覗くと二匹の猫が重なっていた。
「お~い、ただいま~生きてるかい?」
ユメが「あっ、ピリカねぇちゃんだ」
「はいユメちゃんただいま」
「おっ! ピリおかえり」
「はい、ミロただいま。 っていうかおまえねぇ、ピリカって最後までいいなさいね。 なんでピリだけなの?まったく」
「べ~ べ~」
「なにそれ、お前はミミ似だね……その態度の悪さ」
ピリカは玄関を開け「お母さんただいま~」
「お帰りピリカ」
「ミロちゃんが私に向ってべ~べ~だって、あの態度の悪さはミミゆずりね」
母親は大爆笑していった「ミロはどこかミミに似てると思ったらやっぱりねぇ……フフ」
「久々に会ったっていうのにモモとユメはちゃんとお帰りって出迎えてくれたのよ。 でもミロは私をピリっていうのピリよ…… 私、誰にもピリなんて中途半端にいわれたことないよ。
おまけに、ピリカって言いなさいったら、べ~べ~だって」
母親はしばらく笑っていた。
「ピリカねえちゃんお帰り~」
「おっ、ミミただいま。 あんた、しばらく見ない間に老けたね、もうお婆ちゃんだね」
「ピリカねえちゃんあんたもね」
「なに! ミミこっちおいで。 ミロのことでいいたいこともあるし」
「ミャ! べ~」ミミは出て行った。
「やっぱりミロは母親似だ。 品が悪る……」
「ところで、お父さんは今日帰り遅いの?」
「普通どおりだと思うけどなんかあった?」
「うん夏休みを利用して旅に行こうかなって思って」
「そんなお金、どこにあるのよ?」
「ペットショップのアルバイトしてたの、たまに頼まれてね。 で、少し貯まったからそれを使おうかなって思ってるっけど」
ピリカは母親に嘘をいってしまった。
「自分のお金で行くんならかまわないんじゃない。 ひとりで行くのかい?」
「うん、ひとりでゆっくり東京・横浜・京都・大阪・神戸なんてどうかなって思ってるの」
「夏に暑いところ行くなんて」
「学生のまとまった休みはやっぱり夏なのよ」
「お母さんは賛成よ。 学生のうちにやりたいこと大いにやりなさいな」
そして、父親からも許可をもらった。 夕食後リビングにミミ親子が遊びに来た。
「ミミ、ニャン吉はこないの?」
「別れた」即答だった。
「なんで?」
「わたし他に好きな猫出来たから」
「お前もやるねぇ、で、ニャン吉は納得してるのかい?」
「ミミをしつこく追い回す」
「誰が?」
「ニャン吉が」
「それはまだミミが好きだって事でしょ?」
「だって、ニャン太郎の方がいいもん」
「か~、お前ねぇ子供もいるんだから、もう落ち着いたらどう? 今度はニャン太郎かい」
「べ~べ~」ミミは罰悪そうに出かけた。
「なんだ、あいつはまったくもう。 ユメとミロおいで面白いことして遊ぼう」
「わ~い。ピリカ大好き」
「よ~し、遊ぼうね」
三人はじゃれ合った。 裏のベランダから猫の声がした。
「ユメとミロ、だれか鳴いてない?」
「お父さんだ!」ミロが言った。
「ユメ、ニャン吉に一緒に遊ぼうっていってきなよ」
「でもお母さんが」
「ミミがどうかしたの?」
「ニャン吉お父さんと会ったら駄目って」
「なんで? ユメのお父さんでしょ。 それに、なんで会ってはいけないの?」
「ピリカねえちゃんから、ミミお母さんに言ってくれますか?」
「いいよ。 ミロちゃんミミ呼んできてちょうだい」
「なんで私なの?」ミロは返答した。
「あんた、ニャン吉父さんに会いたくないの?」
「別に……」
「あっそう…… でも、なんで?」
「母さんが過去を振り返るなっていったもん」
「なんか意味違うと思うけど……」
「ミロちゃん、大事な話するね、ミミ母さんの言うことなんでも真に受けたら駄目だよ。 わからない時はモモにも相談しなさい」
「だってお母さん、モモの話し聞かなくていいって……」
「そんなことありません」
「だって、モモはしょせん鎖に繋がれた犬なんでしょ?」
「あんた、そんな言葉誰に教わったの?」
「お母さんいってた」
ピリカの頭は混乱してきた「あの馬鹿猫ミミ……」
そして一週間後、ピリカは東京渋谷にいた。
「さすが東京、すべてがが札幌とは桁違いね」
都内を数日かけ自由気ままに歩いた。 その日はハンバーグショップで朝食を済ませ、下北沢から井の頭・吉祥寺に行こうと計画した。 下北沢を見学してから井の頭公園駅で下車し、のんびり公園を散策した。 多くの鳥が飛び交っていた。 たまに鳥と会話してみたくなったピリカは、そっとスズメの群れに話しかけた。
「スズメさん達、何やってるの?」
スズメの集団は突然、人間に話しかけられ警戒した。 小鳥の中でもスズメは非常に警戒心が強い。
その中の一羽が「あんた動物と話し出来るの?」
「はい。 私はピリカ」
「私はピー」
「この公園に住んでるの?」
「そう」
「いい公園だよね」
「そうですか? わたし他の公園知りませんから」
「そっか、ここは大きい池があって最高よ」
「そうですか?」
「ところでここは鷹とかトンビはいないの?」
「いますよ。 たくさん」
「やっぱりね、私の住んでる北の街では、ミミズクという大きいフクロウとか大ワシもいるの。
ウサギやリスなどの小動物なら捕まえて飛んでいくんだよ」
「ここにも白鳥という大きな鳥がいる」
次の瞬間、スズメの集団は一斉に飛び立った。 猫の気配を感じたからだった。
猫が「あんた誰?」と声をかけてきた。
「私、ピリカ」
「あんたは花子の仲間か?」
「いえ、私は花子さんって人は知りません。 わたしは北の方から遊びに来ました。 で、その花子さんって猫さんと話せるんですか?」
「僕はチョビ。 花子もピリカさんみたいに話せる」
ピリカは花子にどこか親近感をおぼえた。
「その人とどんな話しをしますか?」
「わかりません、ミャ」
「じゃぁ、質問変えます。 その花子さんはどこにいますか?」
「花子ミャ?」
「もう一度いいます。 花子さんはどこにいますか?」
「花子そこに居るミャ」
「えっ?」
ピリカは後ろを振り返った。 そこにはピリカと似たような年格好の女性が笑顔で立っていた。
ピリカが「こんにちは」
花子も笑顔で「こんにちは。 お久しぶり」
「えっ?初めましてですけど……」
笑みを浮かべながら花子はもう一度言った「お久しぶり」
同じ返答にピリカはつぎの言葉が出てこなかった。
「そのうちわかります」
「はぁ?」ピリカは内心、面倒くさいのに会ってしまった…… その時は思った。
「あなたは何処から来たの?」
「札幌ですけど」
「何しに?」
「関東ひとり旅です」
「そう、楽しんで下さいなじゃあ」立ち去ろうと背を向けた。
「あっ、あのう~ チョビちゃんが花子さんは猫と話が出来るっていってましたけど」
「ええ、あなたと同じ」
「あっ、私は二十一歳です。 花子さんはお幾つですか?」
「う~ん、たぶん二十五か六だと思う。 ごめんね私って年齢に興味ないから」
「花子さん、面白いですね……」
「そうですか?」
「この公園いいところですね。一緒に散歩しませんか?」
「いいけど」ぼくとつとした返事だった。
「あなた、東京は何度も?」
「高校の修学旅行でディズニーランドに来ました。 今回が三度目です」
「観光?」
「はい。 明日から横浜、鎌倉に行こうと思ってます」
「楽しい旅になるといいね」
二人が公園を歩いていると「ハナちゃん、こんにちわ」数人から声を掛けられた。
「花子さん、有名人ですね……」
「有名人というよりも変人という方が的確なの」
「花子さんおもしろい。 お仕事、聞いてもいいですか?」
「駅の向こう側で夜になったら椅子とテーブルを置いて座ってるの」
「座ってなにやってるんですか?」
「人と会話してる。 ピリカさんあなたは?」
「あっ、私は大学三年。 獣医学科です」
「今のあなたに最適な学科ね」
「花子さんは椅子とテーブルを置いてどんな話しをなさってるんですか?」
「夜になったら、そこの吉祥寺のサンロードというアーケードの下で、色んな話しをしてお金を頂いてる」
「占い師みたいなことすか?」
「占いというよりも通訳」
「なんの?」
「ガイド……」
「えっ! わたしもガイドと話し出来ます」
「私は相談者のガイドの話しを通訳してる」
「面白いですね。 私は相手のガイドとは一度しか話したことありません」
一瞬ピリカの脳裏にFさんとのやり取りが浮かんだ。
「意識の問題よ」
「……? つまりどういう事ですか?」
「私は人との会話を楽しむという意識で座ってるの。 人と会話をするということは相手と同調しようとすること。 あなたは動物と同じ事してるでしょ」
「あっ、私が動物にしてることを人間にっていうことですね」
「そう、人間だったり、ガイドだったり動物だったり、そういうこと。 難しく考えないで人は自分に制限を付けるからそれ以上にはならないし、なれない。 自分勝手なかたちを作ってそこから出ようとしない」
「何で、そのことに気が付いたんですか?」
「私の場合は心身脱落を経験し、その時にみえたの」
「みえた?」
「そう、気が付いたということ」
「気が付いた……? なんに?」
「全てに」
「全て……?」
「気付きは人それぞれだから、形や定義は無い。 あなたのしていることもそう」
ピリカはわかったような、わからないような不思議な感じがした。 その表情を見て花子は笑みを浮かべていた。
「今夜、食事でもしない?」花子から誘うという行為はめずらしいこと。
「吉祥寺駅のサンロードの前で六時にどう?」
「六時ですね。 わかりました」
二人は花子の馴染みの「居酒屋 とりあえずビール」の暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ! 花さんいらっしゃい」
「ここのモツ煮は美味しいよ」
「はい、私もモツ煮にします」
食べ始めてからピリカは、今まで疑問だった沢山の質問を投げかけた。 その全ての質問に対し花子は適切に答えた。
「なんで花子さんはそんなに詳しいのですか?」
「考えてないから。 わたしニュートラルなの」
「意味が……?」
「ある時、壁を越えたの」
「公園でも壁っていってましたけど、どうやったら超えられますか?」
「いい、本当は壁なんて存在しない。 壁にみえるのは全てイリュージョン。 幻影なの。 私はホームレスしてる時に気が付いたのね…… カモメを眺めていて」
ピリカは目をまるくして「花子さんホームレスしていたのですか?」
「学校を卒業してやりたいこと無かったからね」
「プッ! おもしろい超うけるんですけど」
「そう? 受けてもらえてよかったフフ」
花子と別れ渋谷のホテルに戻ったピリカは今日の事を振り返った。 東京って花子さんみたいな人が普通にいるのかな? よどみなく言葉が出てくるよね、どんな頭の構造してるのかな?
その時、ルーの意識が入ってきた「悟り」えっ、やっぱり悟りってあるんだ…… ピリカは悟りへの興味より花子のクリアーな爽快さに心打たれた。 ピリカの質問に対し即答だった。 考えるというより的確な答えが勝手に湧き出るという感じ。 しかもピリカにも理解できる内容と話し方で会話してくれた。 これって、ルーに近いものがある……
……悟りか?……
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