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十二ケンタ危篤

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十二ケンタ危篤

 ケンタと京子が打合せをしていた「それじゃあ、そういうことで京子ちゃん頼むね。 
それと話があるんだけどまだ時間ある?」

「なに? 結婚の申込なら順番待ちだよ。 ケンタは四番目になるけどなに?」

「僕もさ、旅に出ようかと考えてるんだよね一年ぐらい」  

「で、なにやるの?」

「沖縄辺りに住んでみようかなって思うんだ」

「なぜ、沖縄なの?」 

「沖縄で誰かが待ってそうな感じがするんだ。 人生に関係する人がね」

「なに? それってケンタの嫁さんてこと?」 

「まだ解らない。嫁さんなのか? 魂の兄弟なのか? なんのか?」

「じゃあ、会う為だけに沖縄へ?」  

「そうとも云える」 

「ふ~ん。解ったけど必ず戻ってね。 約束だよ」

三ヶ月後ケンタは那覇市の隣町浦添市にいた。 
十二月の街は師走の忙しい時期に入りどこの家庭もせわしなく動き廻っていた。  
そんな年の瀬の23日の事だった。  仕事中に京子の携帯が鳴った。 京子の母親だった。

「京子、聞いた? ケンタくんのこと」 

「……? イヤ、なに?」 

「ケンタくんが那覇市内でトラブルに巻き込まれ、拳銃で撃たれて意識不明の重体なんだって」  

一瞬頭が真っ白になった「ごめん、母さんもう一度」 

「詳しくは解らないけど、どうも那覇の酒場で口論になり、地元の不良っぽい青年三人に絡まれ、
ピストルで撃たれたらしいの。 それ以上のことは知らないけど」 

「母さん連絡ありがとう。 取り合えあえず電話切るね……」 

京子はテーブルに伏した。 

それを見ていたマチコママがは事の重大性を察し「京子ちゃんなにがあったの?」  

京子は目を赤く潤ませながら「ケンタが那覇で青年三人に絡まれ、ピストルで撃たれ重体らしいの……」

ママの顔が青ざめた。 

京子が「ママ、ケンタが重体だっていうから会のメンバー全員に指令を出しましょ。 
ケンタはまだ逝くのは早いはずなの。 
だからケンタの意識に繋がりこの世界に止まるように語りかけたいの…… ママどう?」 

「うん、京子ちゃんよく思いついたわね。 そうよね。 それがいい……」

一斉に伝言が関係者八十人に伝わった。

『ケンタ重体。一人でも多くケンタにパワーを送ってほしい。 意識が戻るまで続けて欲しい。 手
空きの人は事務所に来て欲しい!緊急を要す』
 
「ママ、メメちゃん、ナベくん。 私、このまま沖縄に飛ぶ。 後の事はお願い……」

京子はそのまま飛行機に乗った。 どこをどう乗り継いで、今どこを飛んでいるのかのか
自分でも定かでない。  

飛行機の中で突然「京子ちゃん、ケンタだけど」ケンタの意識が京子の意識
にコンタクトをとってきた。
  
「ケンタ? ケンタなの? 大丈夫?」 

「身体の機能がダメみたい」

「私より先に逝ちゃあ駄目! 承知しない! 絶対ダメだから!」

「どうかな……? 今度は自信ない」

「なにいってるの。 今、飛行機の中。 あと1時間位で着く。 
私の持ってるエネルギーとシリパの会、九十名のエネルギー、
直接ケンタの肉体に送る。絶対回復させる……」

京子はママにメールした

「ケンタが語りかけてきた。 肉体が今ひとつ良くないみたい。 
今から二時間後の十六時ちょうどに、ケンタの肉体が回復するよう全員同時に
パワーを私に送って下さい。 
そして私がそのパワーを集約し、一気にケンタに照射します。 
みんなのパワーを私に送って。 出来れば……強制してほしい。 
ママお願いケンタを助けて……」  

京子の悲痛な叫びの文面だった。 ママがメメにそのメールを見せた。 
ママもメメも泣いた。 事務所に集まった会員さん三十五人も神妙な面持ちになった。 
各々が二時間後に備えて瞑想していた。

そして十六時十分前。

ママが口を開いた「さあ、皆さん時間。 ケンタくんを救うためパワーを京子ちゃんに
集中して送ってちょうだい。 京子ちゃんが直接ケンタくんの身体にそのパワーを届けるから。 
私からもお願いします。 ケンタくんを救ってちょうだい……お願い力を貸して! 始め!」

無言の一時間が過ぎた頃、突然薄暗くしていた部屋にどこからか光が入ってきた。

会員のひとりが「もしかして今のケンタさんでは? 意識が戻ったのかな?」静寂が途切れた。  

ほぼ同時に京子からママに電話が入った。

「今、ケンタが息を引き取りました……みんな、どうもありがとう。 
これからケンタの魂を見送るから、私の携帯は繋がらないの…… 
みんなによろしくお礼を言ってください……」涙声で会話は途切れがちだった。
 
メメが「みなさん、ケンタくんが残念ながら永眠されました」

ママが「みなさんご苦労様でした。 忙しいところ突然ありがとうございました。 
後のことは追ってメールで知らせます」 

会員のひとりが「マチコママ、シリパの会での見送りだとかしませんか?」 

「ごめん、今、私も何も考えられないの。 あとで連絡します」


余市のケンタ家族はまだ病院に到着していなかった。 京子はケンタと二人霊安室にいた。 

『京子ちゃん……京子ちゃん……』

ケンタの意識が京子に話しかけてきた。

「なによ! 勝手に逝って……」

『まだ逝ってない。 みんなのパワーのおかげで肉体が復活しそうだ。 
足の親指と人差し指の付け根を触ってみて』 

京子はケンタの白くなった足に指を当てた。

なんと! 親指と人差し指の間に微かだが脈が確認された。 京子は看護師を呼んで脈をとらせた。 

「先生を呼んできます」そういいながら急いで部屋を出て行った。 

ケンタの身体は処置室に戻された。 その時、ケンタの母親と妹がちょうど駆けつけた。 

「あら、京子ちゃんも来てくれてたの? ありがとうね、すみません」 

京子は事の次第を話した。 処置室の前で沈黙は続いた。  
その間に京子はマチコママに経緯を話した。 
会員さんには期待を持たさずに結果を見て伝えることにした。
 
医者が「とりあえず肉体の死は無くなった。 
あとは意識を取り戻したらひと安心です。 奇跡です」

京子は思った。 ケンタはどこほっつき歩いてるんだ? 探してみよう。
……すぐにケンタの意識をを見つけた。

「何やってるの?早く戻れば・・・」
 
「ゴメンゴメン、この世界が居心地良くてつい」

「ばっかじゃないの! お母さんも妹のユカちゃんもすごく心配してるのよ」 

「京子ちゃんも一緒にこの世界を観てみない?」 

「マジなの……? うん、行く」 

突然付き添っていた京子が倒れたので病室は大騒ぎになっていた。  
二人は別世界で呑気にデートをしていた。 
程なくして二人の意識が同時に回復した。

「マチコママ、連絡遅れてごめんなさい。 ケンタ復活しました! 
しっかり意識をとりもどし、お母さんと妹さんが今ケンタと話をしています。 
会のみんなにケンタの復活を伝えて下さい」

ケンタは二週間後、札幌に戻り事の次第を話して聞かせた。

「今回は僕のせいで皆さんにご足労願い、大変申し訳ありませんでした。 
みなさんのパワーのおかげで戻ってまいりました」

ママが「ケンタくん、京子ちゃんたら連絡があった時大変だったのよ。 
親が死んでも京子ちゃんのあんな顔お目にかかれないと思う。 
電話の横で私までビックリしたわよ。 ねぇ、京子ちゃん」 

「私、何の事か解りませけど~」          

それから数ヶ月後、ケンタと京子は婚約を発表した。



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