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十一パラ職

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十一パラ職

  京子が帰郷してからひと月が経過した。 札幌での生活リズムを取り戻した京子だったが何かいまひとつ
空虚感を感じていた。  旅に出る前と後ではなにかが違っていた。 
その事を考え部屋で伏せる日も多くなった。 

そうだ、ケンタだ! こういう時は彼に合うのが良策。  ケンタをミルキーコーヒーに呼び出し
ひととおり説明した。  

「うん、それは燃え尽き症候群だね。 この数年、僕達は目まぐるしく動いてきた。 
特に京子ちゃんは長い旅もしてセキロウさんの死とも向き合った。 いつも何かを作りそれを達成し、
それを繰り返してきた。 ここに来てそれが無くなったから空虚を味わったのさ、
京子ちゃんは魂が男性的だから常に変化を好むのさ」  

「なるほど、さすがケンタくん。 私のことよく視てるね。 私のこと好きなんじゃないの?」 

「京子ちゃん殴っていいか……?」

京子はそれから次の目標を模索した。 ひとりで夜の狸小路を京子はぶらついた。ここも、
なんにも変わらない。 そう思いながら狸小路二丁目にさしかかった。 
相変わらずミュージシャンや宝石細工、絵、など知った顔が集まっていた。 中には顔見知りもいた。 

そんなひとりの男にに声をかけた「おう、元気だった?」 

「シリパさん、狸に帰ってきたんですか?」 

「いや、今日は散歩だよ」 

「そっすか、お元気そうで」 

「お前もな」 

「ハイ」

まるでヤクザの頭と舎弟みたいな挨拶だった。 おや、京子は眼を疑った?
 
私が歩いている、え?

なに?

どうして?

京子は追いかけた「ねえ、チョット待って、チョット待ってよ、ねえあんた。あんただよっ!」

創成川を抜け二条市場の辺りで見失った。 

なんだよまったく。 辺りを見渡しても人影は無い。 すると後ろから突然ボブマーレーのような
髪をした男がす~と現れた。

「すみませんけど、こっちに私とそっくりな顔した女がこなかったですか?」 

男は笑みを浮かべて「僕は君で君は僕なんだよ」

この男は、なに訳のわからないこと……! あっ、次の瞬間これどっかで聞いた台詞! 
京子は思わず叫んだ「ガンジさん?」 

「そう僕ガンジ」

「ケンタくんって知ってますよね」

「うん知ってる」

「私ケンタくんの同級生で京子といいます。 ケンタくんからガンジさんの話し聞いてます。 初めまして」  

「うん、僕もケンタから、君のこと頼まれたから会いにきたよ」 

「えっ? いつケンタくんと会われたんですか?」 

「さっきだよ」

「……?」 

「ふふ、あっちの世界ではよく会ってるのさ彼とは。 さっきまで一緒で、君のこと頼まれたのさ。 
こっちの世界の彼とは何年も会ってないけどね……」  

「そういう意味か……」京子は納得した。

ガンジが「なるほど、燃え尽きか……」  

ガンジは優しい眼差しで言葉を続けた「京子くん君はアイヌのシャーマンの想い出が強く残ってるようだ。 
楽しい一生を過したんだね」 

「あっ解った……!」京子は最後までガンジの話しを聞かないうちに何かをさとった。 

「ふふ……そういうことさ。 じゃあね京子くん。 いい顔してるよ」 

「あっ、ありがとうございます。ガンジさんもステキよ!」

京子は胸の仕えが落ちた。 あのガンジっていう人は神様みたいだ。 生き神様ってことばピッタリ。 
ケンタが影響受ける訳だ。 凄いのがいるもんだね。
この札幌でもあんな人がいるんだね。 そうだ、ケンタに電話しておこうっと。 

「ケンタ、今ガンジさんと会ったよ。 ありがとうね。 ケンタくん愛してるよ。 じゃあまたね!」

また一方的に喋って一方的に切った。 

「なんなんだ…… いつものことか…… 戻ったと解釈しよう。 ま、いっか」 


京子が、会に顔を出した。 水を得た魚のようで昨日とは格段に違っていた。  

京子は電話で「ケンタくんまた話があるの。 チョット聞いててくれる?」 

ケンタ顔を見るなり京子は「私に毎週一日だけこの会を使わせて欲しいのよ」 

「……? どういうこと?」 

「専門講習したいの。 例えばパラレルの自分の仕事をこっちの世界で実現させるの。 
つまり今の自分がやってみたい仕事は、パラレルの自分が既にやってることが多いでしょ。 
その自分と重なるのよ。 その技術は当然こちらの自分は短時間で習得出来やすいのね、自分の事だから。 
つまりパラレルを利用した職業訓練。 どう思う?」  

「面白い、京子ちゃん。 その発想は凄い。 なるほどね…… 早速三人には僕から説明する。 
京子ちゃんは実践プログラムを組んでよ。 さっそく実行しよう」

毎週火曜日はパラ職の日という名で開催することになった。 講師は京子とケンタが受け持つことになった。 
 やがて、このパラ職が人気の講習となり本来のシリパの会の趣旨とは違う意味で噂が広がった。  
このパラ職は最低知識と体験が必修とされるため、門外不出の受講生専門のプログラムとなっていた。


 そんなある時ひとりの男が入ってきた。

「あのう、パラ職の噂を聞いて来たんですけど……」 

メメが応対した。 数分後その男性の声がした。

「解りました失礼します」  

その時、後ろから京子の声がした。 

「チョット待って」

スタッフルームから京子が出て来た。

青年の顔を確認しながら「あんた、最近沖縄の国際通りを歩いてなかった?」

「え……? あっはい」 

「どうりで私、あなたの声を覚えてるのよ。 で、今日はなに?」  

「パラ職の件で来ました」 

「そっか、時間あるならチョット話していかない?」  

「ハイ!」  

京子は受講室に招き入れた。  

「田舎は?」

「東京は葛飾です」 

「そうですか、葛飾の小さい矢沢永吉さんね! 小さい永吉さんはなんで札幌に?」 

「急に北海道に来たくなって昨日沖縄を出てその足で札幌入りしました」  

「就職? 観光?」

「解りません。とにかく札幌に来たかったのです」  

「なんでここに?」  

「コーヒー飲んでたら隣の席の人がパラ職の話をしてて興味持ったから、その人達に教えてもらい
訪問しました」 

「小さい矢沢永吉さんは異次元空間にトリップした経験あるでしょ」 

「はい! なんで解るんですか?」 

「だからすぐパラ職に食らいついたのよ。 せっかく遠くから金かけて札幌に来たんだからパラ職の
コツだけ教えるね。 受講費は二百四十円です」 

「二百四十円……?」 

「そう、タダっていう訳にいかないのよ。 私とここにいるメメちゃんの缶コーヒー分」 

「はあ、ありがとうございます」

「じゃあいいかい? この石持って」黒い石を手渡した。 

「はい!」  

「コツその一、自分のやりたい職業を心に思う。 

その二、別世界でその職業をしている自分を探す。 

その三、その自分に重なり技術を身につける。 

そして最大のコツはその技術ををぶち壊すこと。
 
それ以上になるためには、そこで止まってられないの。 だから粉砕するの。そしてそれ以上を目指すの。 
これは一回2回では無理だから何度か習慣づけするのがポイント。 
内容によって習得時間は変わるけど自分の思いつくことはパラレルの自分がやってることだから
習得しやすいのよ。 それがコツ。  小さい矢沢永吉さんは自分でトリップ出来るんだからあとは訓練。 
自宅に戻っても続けてね、あなたは必ず出来ます」  

「ありがとうございました」

「はい、受講費は二百四十円です機会があったらまたお会いしましょう」  

男はシリパの会をあとにした。

「ゴメンね、メメちゃん勝手して。 彼ね、那覇の国際通りで私が座ってた時、本当に眼があったのよ。 
その時、彼のガイドが私に話しかけるように依頼してきたのね。 
だから私から彼にどうですか? って声掛けたのね。 でも、私を無視して行ちゃったのよ。 
彼は結局、札幌まで来るようになったみたい、金と時間をかけて。 そういう訳だったのよ」  

「ガイドの話しは聞くべきね!」
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