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番外編 故郷へ2

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「ゾーイ! 元気そうね」
「おぅ、元気だぞ」

 別人のような態度の村長と違い、彼は以前とまったく変わらない。それはエイミにとって嬉しいことだった。
 が、ふたりの様子を見ていた村長がゾーイを厳しく叱責した。
 
 彼はゾーイに死ぬほど甘かったはずだ。ゾーイがどれほどお馬鹿をしても怒鳴りつけるなんてことは、エイミの知る限りでは一度もなかった。そんな彼が、ゾーイの頭を無理やり押さえつけ叩頭させている。

「ゾーイ、このバカ息子が! エイミ様になんて口をきいているんだ! さっさと跪け」
「い、いてぇ」
「ほら、お前らもだぞ!」

 今度は、エイミの登場に呆然と立ち尽くすばかりだった村人達にも怒声をあげた。

 彼らは村長の声で、はじかれたように動き出した。慌ててその場に跪き、ジークとエイミにこうべを垂れる。

「ほんとに、ほんとにエイミだわ」
「結婚? あの子が?」
「ゾーイの夢じゃなかったの?」

 そんなささやき声がエイミの耳にも届いた。

(そりゃあ、驚くよね。きっとみんな、私は死んだものと思ってたはずだもの)

 エイミ自身だって、この村を出る時には死を覚悟していたのだから。
 領主様の隣に立ち、村のみんなに跪かれているなんてシチュエーションは、エイミ自身もまったく想像していなかったことだ。

「村長もみなも顔をあげてくれ。急にたずねてくたのはこちらのほうだ。そんなにかしこまる必要はない」

 ジークはそう言って彼なりの精一杯の笑顔を向けたが、村人達はより一層恐縮し身体を小さくするばかりだ。

「あっ」

 村人達の群れのなかから家族の姿を見つけて、エイミは思わず声をあげた。父と母と、兄弟達だった。

「家族か?」
「はい」

 ジークに問われ、小さく頷いた。ジークはゆっくりと村人達のほうへと歩み寄る。そして、エイミの家族の前で足を止めた。

「ご挨拶が遅れて申し訳ない。エイミと結婚させてもらった。生涯をかけて彼女を大切にするから、どうかお許し願いたい」

 そう言って、彼はエイミの家族に頭を下げた。貴族、それも公爵が平民に頭を下げるなど、まずありえないことだ。
 エイミの両親は目を見開き、口をパクパクさせている。言葉は出ないようで、ジークに向かってこくこくと何度も頷いて見せた。

 ジークはエイミに笑いかける。

「俺がいては気兼ねするだろう。少し離れているから、ゆっくり話をするといい」

 そう言って、ジークは村長とともにどこかへ行ってしまった。
 ジークの姿が見えなくなると、家族は一斉に喋り出した。

「お姉ちゃん、本当に結婚したの? 領主様と?」
「すごーい! 玉の輿だね!」
「しかも領主様、噂と全然違う……ワイルドでかっこいいじゃない!」

 無邪気に驚き、はしゃいでいるのは、妹のミアとアイリーンだ。ふたりとも元気そうだし、エイミが村を出た時よりずいぶんと成長し、可愛らしさに磨きがかかっていた。

「俺の娘が公爵夫人……そんなことって……」

 父親は事態がのみこめず、いまだ呆然としている。彼は昔から気が小さかった。エイミはちらりと母親の様子をうかがう。驚きと興奮からか、彼女はぷるぷると身体を震わせていた。

「す、すごいじゃない! エイミってば」

 感極まったようにそう叫ぶと、母親はエイミを強く抱きしめた。

「公爵夫人よ、侯爵夫人! 村長の妹なんて目じゃないくらいの玉の輿! あぁ、エイミは自慢の娘だわ」

 自慢の娘なんて言われるのも初めてなら、母親に抱きしめられたことも記憶にある限り初めてのことだった。

「今夜は泊まっていくんでしょう?」
「あっ…ううん、宿は視察先の街のほうで用意されてて」
「え~久しぶりなんだから、泊まっていきなさいよ。エイミも領主様も!」

 エイミの村には宿などないから、宿泊は考えていなかったのだが……。

「ごめんなさい。私の家族が強引に引き止めてしまって……しかもこんな狭い家に……」
「いや。歓迎してもらえて、嬉しい。俺のほうこそ、でかい図体で申し訳ないな」

 結局、エイミの実家にふたり揃って泊まることになった。エイミの実家は村の中でも貧しいほうで、ジークのような身分の人間が過ごす環境ではないのだが、彼は快く受け入れてくれた。

「ジーク様がここにいるなんて……すごく不思議な感じです」
「エイミはこの家で育ったんだな」

 家族はもう眠ってしまっている。ふたりは小声で、夜更けまでお喋りを続けていた。












 


 

 
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