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ハットオル家の人々2

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「で、この人は誰なの?」

小さな天使がエイミを指差しながら、アルにたずねた。

「そうだね。とりあえず紹介しようか」

アルがひとりずつ、名前を紹介していく。

「この烏みたいな子は新しい女中で、あれ? 名前なんだっけ?」
「エイミです」
「だって。ゾフィー婆やの代役として、掃除とか雑務とか色々やってもらう予定」
「よろしくお願いします」

エイミはぺこりと頭を下げた。

「長女のリーズは15歳。この城のことは、とりあえず彼女に聞くといいよ」
「長男のナット、14歳。やや早めの反抗期に突入中さ」
「次女のアンジェラ、5歳。たいそうワガママで、僕も手をやいてる」
「末っ子の三つ子はマクシム、シェリン、レオルドだ」

「わ~賑やかでいいですね! 私のうちも兄弟がたくさんで、とても賑やかでした」
「私達は血の繋がりはないけど。あ、もちろん三つ子は除いてね」

リーズが言う。

「あ、そうなのですか?」
「うん。私達はみんな孤児だったの。私は十年前のゴゥト王国との戦争で親を亡くした。三つ子は昨年の飢饉でね」

「ジーク様は領内の孤児を引き取って養子にしているんだ。だから、兄弟はこれからも増えていくだろうね」

アルが誇らしげに説明する。

エイミは尊敬の眼差しを、ジークに向けた。

「ノービルドの領主様が、こんなにご立派な方だとは、ちっとも知りませんでした。噂とは大違いですね」

照れくさいのか、黙りこくってしまったジークにかわり、アルが答える。

「そうだね。ジーク様は女嫌いだから、わざわざ攫ってきたりしないよ。戦争以外の場面で人を殺したこともないし、なんなら虫を殺すのもためらってるくらいだね」
「雇われた女性がみ~んな出ていってしまうのは事実だけど、それはアルがいじめるからだしね」

リーズがつけ加える。

「人聞きの悪いことを……僕は相応の能力の人間を雇いたいだけさ」

「あの、なんで噂を訂正しないのですか? うちの村では、公爵様はとても酷い人だって、みんな信じ込んてますよ」

だからこそ、エイミがここに送りこまれたのだ。残虐公爵でなければ、エイミよりも美しくて、賢い娘を送っただろうに。

「噂は好きに流させておけ」

ジークは短く言ったが、エイミは訳がわからなかった。領主が優しく立派な人物だとわかれば、領民はみんな喜ぶのではないだろうか。

エイミの怪訝そうな顔で察したのか、ジークは言葉を続けた。

「我がノービルド領は、南北に細長く、三カ国と国境を接している。いまは比較的情勢が安定しているが、いつまた攻め込まれて、戦いになるとも限らない。だから、ノービルドを守る俺は、極悪非道だと広く伝わっていたほうが都合が良いのだ」
「な、なるほど! そうなんですね、私みたいな庶民には考えが及ばない深い理由があったのですね」

エイミは感銘を受けたが、それを見ていたアルは首をすくめて、ため息をついた。

「なんだか格好いいこと言ってますけど、そんなの建前で、本音はただただ人付き合いが苦手なだけですよね」
「アル。余計なことは言わなくていい」

(……まだわからないことも多いけど、とりあえずなぶり殺しにされることはなさそうだわ)

エイミは賑やかなハットオル家の人々を前にして、ふふっと笑ってしまった。

ついていないこと続きの人生だったけど、今回ばかりは、ものすご~くついていたのかも知れない。
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