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余命 2

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 帝都トウキョウ。

 すっかり洋装の婦人が増えてきたこの場所で、彼女は今も朱赤の着物を着ていた。

 手を引かれている成匡はすっかり歩くのが上手になっていた。失敗して転げ落ちていたあの日が嘘のようだ。

「かかさまは、ここが好き?」

 私の知らぬ間に言葉も達者になっている。

 初音はすっかり健康になった、ふっくらとした頬を緩めて成匡を見つめる。

「あぁ、毎日来るからそう思ったのね。成匡は賢いなぁ」

 初音はあいかわらず少女のようだ。いたずらを見とがめられた子どものように、ぺろりと舌を出して困ったように眉をさげる。

「この場所は大好きだけど……大嫌い」

 いつか雪為と来た日のことを思い出しているのだろう。ふっと初音は苦笑を漏らす。

「好きも嫌いもわからなかった私が、ずいぶん人間らしくなったよね」

 ありとあらゆる人間らしい感情を、初音は雪為から教えてもらった。

 今、彼女の心を占めるのは……未練。これもまた、人間らしい感情のひとつだ。

「馬鹿よねぇ。新しい命姫が見つからなければ……もう一度、彼が迎えに来てくれるんじゃないかって心のどこかで期待してる」

 不思議そうに目を丸くして、成匡は母親を見あげる。

 初音は自分を恥じるような顔で、ゆるゆると首を横に振った。

 再会を願う気持ちは、雪為の衰弱を期待しているのと同じこと。

「ダメね。好きな人の幸せをちゃんと願えないなんて」

 幸せを知ってしまったから、寂しさを感じる。未練がつのる。

 この苦しみすらも、彼から贈られたギフトなのだと初音はぎゅっと胸をつかむ。

 彼女は地面に膝をつき、愛する息子を優しく抱き締めた。

 成匡は父親似だ。

 私は一瞬、目の前で初音と雪為が抱き合っているのではないかと錯覚した。

「あなたのお父さまは罪作りよ。愛なんて、知らないままでいたら……こんなに苦しく思うこともなかったのに。あぁ、でも、それでも……」

 出会ったことに後悔はない、二度と会えなくてもずっとあなたを――。

 彼女らしい、まっすぐな想いが伝わってくるようだった。

 私はついと彼女の前まで歩み出る。

「え?」

 私の姿をみとめた初音は、目を丸くして驚いた。

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